アーキテクチャは、IT業界でよく使用される言葉です。近年、IT業界以外の業界でも使われるようになりました。しかし、アーキテクチャという単語の意味や役割を深く理解できていない方も多いのではないでしょうか。そこで今回の記事では、アーキテクチャの概念や、各業界での役割と設計プロセスを解説します。
目次
アーキテクチャとは?基本的な定義と概念
ここでは、アーキテクチャの語源や歴史を確認していきましょう。また、一般的な定義についても解説します。
アーキテクチャの語源と歴史
アーキテクチャは、建築学に関する意味を複数持ちます。例えば「建築学」「建築様式」「構造」「構成」です。他にも「構築する」という意味もあります。この構築するという意味からIT業界に派生し、ハードウェアやソフトウェア、システムといった設計概念を指すようになりました。
語源は、古代ギリシャ語の「アルキテクトン(arkhitekton)」です。これは「archi-(主)」と「tekton(職人)」の組み合わせで「大工」や「設計者」を意味します。ラテン語やフランス語を経て、英語の「アーキテクチャ(architecture)」に変化しました。
アーキテクチャの一般的な定義
IT業界においては「システムフレームワーク」や「構造設計」といった意味を持ちます。ハードウェアやソフトウェア、システムなど開発の現場で欠かせない概念です。システムの全体的な構造や設計方法を指し、システムがどのように連携して動作するかを定義します。また、昨今ではアーキテクチャがさまざまなシーンで活用されるようになり、ビジネスアーキテクチャという単語も生まれました。このビジネスアーキテクチャは、企業活動の「全体設計図」の意味合いで使われます。経営理念や組織構造、業務プロセスまで一貫して整理・構造化することを言います。
業界ごとのアーキテクチャの意味
アーキテクチャは、業界によって異なる言葉として使用されています。ここからは、業界ごとの意味を見ていきましょう。
IT業界
IT業界では「構成する」という意味から派生して、システムの設計や構築といった意味で使われています。1964年にIBMがSystem/360を発表し、その中でアーキテクチャという単語が使用されたことでIT業界に広がっていきました。現在では、さまざまなメーカーが自社システムの設計や構造を説明する際に使用しています。
建築業界
もともと建築業界の用語のため、一般的に使用されている単語です。「建築学」や「建築術」といった建築関連の学問や技術を学び、人が住みやすい家をはじめとした建築物を建造するために活用されています。芸術性や居住性を重要視しており、安全かつ美しい建築物を建造することが建築業界のアーキテクチャです。
自動車業界
自動車業界でも広く使用されており、設計や設計思想といった意味で用いられます。昨今の自動車は、電子制御による運転のサポートが可能となったことで、車線維持システムや車間距離制御システムなど、さまざまなシステムが搭載されています。これらのシステムを効率的に制御するため、電子制御装置のアーキテクチャが重要視されるようになりました。
IT分野でのアーキテクチャの役割
IT分野におけるアーキテクチャは、ソフトウェアやシステムの構造を設計する単純なものではなく、システム稼働時のパフォーマンスに影響するため重要な役割を担っています。ソフトウェアやシステムの稼働を安定させ、長期的な成長を考慮するうえでアーキテクチャは欠かせません。
安定的な運用を見越したシステム設計における基盤
システムの運用を安定させるためには、アーキテクチャの適切な設計が必須です。アーキテクチャが適切に設定されていることでシステムの保守性が向上し、新機能の追加や障害発生時の対応が容易になります。
ビジネス戦略と整合性をもって設計に落とし込む
ビジネス戦略を考える際、企業成長に伴うユーザー数の増加も考えなければなりません。さらに、ユーザー数の増加は企業が扱うデータ量の増加も伴うため、システムには拡張性が求められます。ユーザー数やデータ量が増加したとしても柔軟に対応できる構造が構築されていれば、システムを拡張する場合でも容易に対応できるでしょう。このような状況に対応できるものには、クラウドアーキテクチャが挙げられます。
異なるシステムやアプリを連携し全体最適をはかる
異なるシステムやアプリを連携し全体最適をはかるためのアーキテクチャの役割は、各システム間の情報共有と機能統合を円滑に行うための共通基盤を提供することにあります。具体的には、後述するネットワークアーキテクチャでデータの経路や各サーバー・デバイスの接続方法などを設定すると、効率的なITリソースの活用が可能です。
また、業務全体の流れを客観化し、問題の解消や重複機能を排除することで業務効率アップに期待できます。
IT分野でのアーキテクチャの種類
IT分野のアーキテクチャには、さまざまな種類があります。これらのアーキテクチャは異なる領域を担っており、目的も異なりますが、システムの基盤を支えるために欠かせない設計です。ここからは、IT分野における代表的なアーキテクチャの種類や役割を解説します。
ソフトウェアアーキテクチャ
ソフトウェアの設計スタイルや構築方法を指すものです。IT業界では、システム開発における設計概念として広く利用されています。具体的には、将来の技術や市場を考慮しながら、ソフトウェアに必要な機能要件や性能、構成要素のバランスを設計するために作成されます。その他にも、コスト面の課題やシステムの保守性なども考慮が必要です。
データアーキテクチャ
データ収集から流通までの流れを構築するうえで欠かせないアーキテクチャです。昨今、ビッグデータの取り扱いが増加し、データの保存や管理といったデータ処理をいかに効率的に行えるかが企業成長の鍵といえます。ビッグデータに含まれるさまざまな情報を整理・分類してアーキテクチャを構築することは、データの一貫性や信頼性を確保するために重要な要素です。
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ネットワークアーキテクチャ
企業が使用するネットワーク環境内のデータの流れを最適化するためのアーキテクチャです。データの流れを最適化することで効率的なデータ通信が可能となり、ネットワーク全体でスムーズなやり取りが可能になります。また、安全性を確保した通信環境の確保にはサーバーや通信ルートの設計が重要です。
エンタープライズアーキテクチャ
企業の全体像の書き出しを行い、企業の成長と効率的な運営を支援するためのアーキテクチャです。具体的には、企業活動において重要な業務プロセスやデータ構造を分析・最適化することで、業務の効率化やデジタル戦略の推進が可能になります。新しいシステムを導入する際には、データ連携を円滑に行うことができ、システム導入の効果を最大限に引き出す役割を担っています。
CPUアーキテクチャ
名前の通りCPUの設計構造を指すアーキテクチャです。x86アーキテクチャやARMアーキテクチャが代表的ですが、それぞれの用途や性能は異なります。前者は主にパソコンやサーバーで採用され、高い処理性能を誇る一方、ARMアーキテクチャよりも多くの電力が必要です。後者は主にスマートフォンなどのモバイル端末で採用されており、省電力かつ効率的な処理が可能です。
アーキテクチャの設計プロセス
アーキテクチャの設計プロセスでは、要件定義を行ってから設計を開始します。また、アーキテクチャが完成した段階で設計プロセスの完了とはなりません。評価とフィードバックを実施し、システムの拡張性や運用・保守性を確認する必要があります。ここからは、システムアーキテクチャの設計プロセスを解説します。
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要件定義と設計の流れ
はじめに、ユーザーがどのような機能をシステムに求めているのか聞き取りを行います。ユーザーがシステムを利用して、実行したいタスクや実装したい機能などを具体的に聞き取ることが重要です。ユーザーからの聞き取りを基に要件定義を行います。この要件定義があいまいだと設計や実装といったのちの工程で大きな問題が発生する恐れがあるため注意しましょう。
要件定義の完了後、設計を開始します。設計段階では、ユーザーインターフェースやデータベースといったシステムを構成する主要コンポーネントを定義します。この時、主要コンポーネントに役割と機能を定義し、コンポーネント間の通信方法や依存関係なども考慮して設計しましょう。コンポーネントがどのような役割を果たすのか理解しておくことで、システム構造を理解しやすくなります。
評価基準とフィードバックの重要性
システムアーキテクチャの設計完了後、評価基準に基づいたプロトタイプを作成します。プロトタイプとは、最終的なシステムを構築する前に、システム全体の構成や機能などを検証するために作成される試作品のことです。このプロトタイプによって、システムの基本的な機能が正常に機能するかを確認します。他にも、インターフェースやコンポーネント間の通信などを確認し、設計の問題点の洗い出しと修正を行うことが目的です。また、システムアーキテクチャのプロトタイプから性能や信頼性、拡張性などを確認し、フィードバックを行います。これらの非機能要件を評価・フィードバックして修正することでシステムの品質とユーザー満足度の向上が可能になるため、設計プロセスで重要な工程といえるでしょう。
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アーキテクチャの評価と改善
ここからは、パフォーマンス評価をする際に確認すべき項目と改善策を提案・実施する際の心構えを解説します。
パフォーマンス評価の方法
新システム導入や既存システム更新には、適切なアーキテクチャ設計が必要です。
アーキテクチャのパフォーマンスを評価する際に考慮すべきポイントを以下で紹介します。
・システムの目的および要件に適合しているかどうか
役割や機能が明確であれば、アーキテクチャ設計が適切に行いやすくなります。大量データ処理が必要な場合は、処理能力や拡張性に優れたアーキテクチャが望ましいでしょう。
・既存のシステムやインフラとの連携性能
導入するシステムのアーキテクチャが、既存のシステムやインフラと接続できるか確認することも重要です。連携が不十分だと運用に支障をきたし、改修やコスト増加の原因となります。例えば、オンプレミスのシステムがある場合、クラウドサービスとの連携方法を検討し、インフラ全体を確認する必要があります。
・コストとリソースの管理状況
効率的なアーキテクチャを活用することにより、リソースの消費を抑え、運用コストを最適化できます。クラウドサービスでは、使用量に応じた従量課金制が一般的で、必要な分だけ利用することでコスト管理が容易になります。また、CPUやメモリなどのITリソースが無駄なく活用される設計も重要です。
・柔軟性と拡張性
優れたアーキテクチャを活用することで、ユーザー数やデータ量の増加に対してパフォーマンスを維持することができます。例えば、クラウドベースのアーキテクチャは、リソースを柔軟に調整し、負荷の増加にスケーラブルに対応することが可能です。
改善策の提案と実施
アーキテクチャの設計プロセスでは、最初から完璧なものを設計しようとすることは適切ではないかもしれません。設計プロセスでは、変更に対応できる柔軟性・適応性を意識して設計を進めることが重要です。初期段階で完璧な設計を追求すると、膨大な時間やコストがかかる可能性がある一方で、問題点は減らせるでしょう。しかし、設計プロセスでは途中で機能の追加を求められるなどイレギュラーが発生することが一般的です。したがって、設計プロセスの初期段階では柔軟性と適応性を意識して設計を進め、継続的に改善点の提案・修正を実施することが重要といえるでしょう。
アーキテクチャに関連する職種とスキル
アーキテクチャに関連する職種にITアーキテクトが挙げられます。企業の経営方針に合わせてWebシステムの設計図を作製し、保守性に優れたシステム基盤を構築することが主な業務です。ここからは、ITアーキテクトに必要なスキルと関連する資格を解説します。
必要なスキル
ITアーキテクトに必要なスキルは以下の通りです。
1.アーキテクチャ設計:要件定義の分析、設計指針の定義を行う
2.設計技法:モデリング技法の理解・活用
3.標準化と再利用:開発の標準化を定義し、再利用を行う
4.コンサルティング技法の活用:分析ツールをはじめとした各種ツールの理解・活用
5.知的資産管理と活用:独自ノウハウ管理と活用
6.テクノロジー:IT業界の動向把握
7.インダストリー:関連企業の動向把握
8.プロジェクトマネジメント:開発プロジェクトの総合マネジメントを行う
9.リーダーシップ:他のメンバーを指揮する
10.コミュニケーション:他のメンバーと交流し、情報伝達を行う
11.ネゴシエーション:クライアントと経営層との交渉を行う
関連する資格
経済産業省管轄のIPAではITアーキテクトの専門分野として以下の3つを定めています。
1.アプリケーションアーキテクチャ
2.インテグレーションアーキテクチャ
3.インフラストラクチャアーキテクチャ
また、ITアーキテクトの職種には、スキルや経験に応じて7段階のレベルが設定されています。興味がある方はぜひ参考にしてください。
さらに、ITアーキテクト関連資格としてシステムアーキテクト試験があります。この試験は、自身のアーキテクチャの設計能力や情報システム開発能力を証明できるIPA主催の資格です。
参照:IPA「ITスキル標準(ITSS) 2.ITスキル標準とは -ものさしとしてのスキル標準」
アーキテクチャの未来とトレンド
ここからは、アーキテクチャの未来とソフトウェア開発のトレンドについて解説します。後述するトレンドは、開発現場の課題解決や効率的な開発をサポートする可能性を秘めています。
AIの進化と活用拡大
AIや機械学習を活用した開発は、さまざまな作業を自動化し、開発の効率を向上させます。
具体的には、コードレビューやバグの検出などの作業はAIによって自動化・効率化ができるため、従来よりも開発現場の負担軽減が可能です。負担軽減に伴い、他の作業に時間をかけられるようになり、より創造的なものの作成が可能になるでしょう。
サーバーレスアーキテクチャが主流化
サーバーレスアーキテクチャは、常時稼働する仮想マシン(サーバー)をなるべく使用せずにシステム構築を行うアーキテクチャです。サーバー管理を外部サービス事業者(クラウドプロバイダー)に委任することで、開発現場のインフラ管理業務を省けるようになります。それに伴い、デプロイ(開発したソフトウェアやアプリケーションをサーバー上に配置し、利用できるようにすること)を迅速に行えるようになるため、コスト最適化も可能になるでしょう。
ローコード・ノーコードの普及
従来の開発現場ではプログラミングスキルが必須でした。しかし、ローコード・ノーコードの活用により、プログラミングスキルが不足していてもアプリケーションの開発が可能になります。そのため、多種多様な人材が開発に携わるようになり、開発の民主化が進むでしょう。また、プログラミングスキルがなくても開発に携わることが可能なため、ビジネス担当者が開発現場に参加することも可能です。
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まとめ
今回の記事では、アーキテクチャのIT業界での役割と設計プロセスを解説しました。アーキテクチャは建築業界の用語でしたが、「構築する」という意味から派生してIT業界でも活用されるようになった単語です。IT分野のアーキテクトは、安定したシステムの基盤構築や異なるアプリやシステムの連携などの役割があり、開発現場では欠かせません。また、ソフトウェアアーキテクチャやデータアーキテクチャなど、さまざまな種類があり、それぞれ領域や目的が異なります。しかし、どのアーキテクチャもシステムの基盤を支えるために重要な役割があるため、導入目的に応じた適切な選択が求められます。