カスタマーエクスペリエンスとは、物質的・金銭的以外のものも含めた顧客が体験する価値のことです。単に商品やサービスそのものの物質的な価値や価格といった金銭的価値にとどまらず、顧客が商品・サービスに触れるすべてのプロセスにおいて体験する、あらゆる価値の総体を指します。
今回は、カスタマーエクスペリエンスとは何か、カスタマーエクスペリエンスの管理を導入する方法、およびBtoBにおいてカスタマーエクスペリエンスを向上させるポイントについて見てきましょう。
人事・経営層のキーパーソンへのリーチが課題ですか?
BtoBリード獲得・マーケティングならProFutureにお任せ!
目次
カスタマーエクスペリエンスとは?
カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience, CX)とは、顧客が商品やサービスに触れるすべての接点において、知覚し、体験する総合的な価値のことです。単に製品やサービスの機能や価格といった物質的・金銭的な価値だけでなく、それに付随するあらゆる感情や感覚、記憶を含みます。
顧客が自社の商品やサービスを認知し、興味を持ち、比較検討し、購入し、利用し、そして購入後もサポートを受けるといった一連のプロセス全体を通して、顧客がどのように感じ、何を思い、どのような行動をとるか、そのすべてがカスタマーエクスペリエンスを構成します。
●カスタマーエクスペリエンスとは物質的・金銭的以外のものも含めた顧客が体験する価値のこと
カスタマーエクスペリエンスとは、「顧客が体験する価値」のことです。
顧客が体験する価値として、商品やサービス自体の物質的な価値、およびその価格や得られる収益などの金銭的な価値があります。
しかしカスタマーエクスペリエンスの場合には、物質的・金銭的なもの以外のすべての価値が含まれます。顧客が商品やサービスに接するあらゆるタッチポイントにおける、感情、感覚、記憶、そしてそれらに基づく総合的な満足度や印象を指します。
カスタマーエクスペリエンスは、自社の商品やサービスを顧客が購入する前の販促から、購入の検討、実際の購入、および購入後のサポートに至るまで、すべての段階でのさまざまな顧客の体験を意味しています。顧客ジャーニー全体を通して、一貫性のあるポジティブな体験を提供することが、企業にとって極めて重要となります。
カスタマーエクスペリエンスの管理とは、顧客の期待通りの、あるいは期待を上回るカスタマーエクスペリエンスを提供することにより、顧客の満足度やロイヤルティ、支持を向上させる取り組みを意味します。これにより、企業は競合他社との差別化を図り、長期的な顧客関係を構築することが可能になります。
●カスタマーエクスペリエンスの種類
カスタマーエクスペリエンスは、顧客が製品やサービス、ブランドと関わる中で得る多岐にわたる価値を指し、具体的には以下の5つの側面から捉えることができます。これらの要素を理解し、それぞれの体験を意図的に設計・管理することが、顧客満足度を高め、企業へのエンゲージメントを深める鍵となります。
- SENSE(感覚的価値):
これは、人間の五感、すなわち視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に訴えかける価値です。例えば、店舗における洗練された内装デザイン、心地よいBGM、魅力的な香り、商品の質感などがこれに該当します。ECサイトであれば、ウェブサイトのUI/UXデザインの美しさや操作性も感覚的価値の一部と言えるでしょう。 - FEEL(情緒的価値):
顧客の感情や気分に訴えかける価値です。店舗でのスタッフの親切丁寧な接客、共感を示してくれる姿勢、あるいはブランドストーリーに触れることで生まれる感動などが、情緒的価値を高めます。顧客が「心地よい」「嬉しい」「安心できる」といった感情を抱くような体験が重視されます。 - THINK(創造的・認知的価値):
顧客の知的好奇心や知性を刺激する価値です。革新的なテクノロジーが搭載された製品を体験することによる驚きや、サービスを通じて得られる新しい知識、問題解決の糸口など、顧客の思考に影響を与える体験がこれにあたります。イノベーションの体験も、この価値に繋がります。 - ACT(肉体的およびライフスタイルの変化への価値):
製品やサービスを利用することで、顧客の身体的な利便性が向上したり、日常生活やライフスタイルがより快適になったりする価値です。例えば、スマートホームデバイスによる家事の効率化、フィットネスアプリによる健康習慣の定着などが挙げられます。行動変容を促すような価値提供も含まれます。 - RELATE(帰属意識に対する価値):
顧客が特定のコミュニティやグループに属していると感じることで得られる価値です。ブランドのファンコミュニティへの参加、共通の趣味を持つ人々との交流、あるいはブランドへの共感を通じて形成される一体感などがこれにあたります。顧客がブランドの「仲間」であると感じる体験が重要となります。
●カスタマーエクスペリエンスは重要な差別化要因
安価な製品の大量生産が可能となり、商品の物質的・金銭的価値だけでは勝負することが難しくなっている現代において、カスタマーエクスペリエンス(CX)は、企業が競合他社と差別化を図る上で極めて重要な要因となっています。単に機能や価格で選ばれる時代は終わりを迎え、顧客の感情や体験に訴えかけるCXが、ブランドの競争優位性を確立するための鍵となります。顧客の心理や感覚に響く効果的なCX戦略を展開することで、市場における独自のポジションを築き、長期的な成功へと繋げることが可能です。
●カスタマーエクスペリエンス向上のメリット
カスタマーエクスペリエンスを向上させることは、顧客との長期的な良好な関係構築に不可欠であり、具体的なメリットは多岐にわたります。まず、ブランドに対する好感度が高まり、顧客は企業やその製品・サービスに対してポジティブな印象を抱くようになります。
次に、顧客ロイヤルティが高まり、
リピーターを獲得することができます。これは、単に商品を購入するだけでなく、企業との体験全体に価値を見出す顧客が増えることを意味します。リピーターの増加は、安定した収益基盤の構築に寄与します。
さらに、満足度の高い顧客体験は、口コミによる波及効果が期待できます。SNSや友人・知人への情報共有が活発な現代において、ポジティブな口コミは新規顧客獲得の強力な推進力となります。
最後に、優れたカスタマーエクスペリエンスは、ブランドの乗り換えリスクを低減します。競合他社が類似の製品やサービスを提供していたとしても、顧客は価格以外の付加価値、すなわち企業との良好な関係性や心地よい体験を重視するため、容易に競合へ流れることを避けることができます。このように、カスタマーエクスペリエンスの向上は、企業の持続的な成長に不可欠な要素と言えるでしょう。
カスタマーエクスペリエンスの管理を導入する方法
カスタマーエクスペリエンス(CX)の管理を効果的に導入するためには、戦略的なアプローチが不可欠です。まず、企業としてどのような顧客体験を提供し、どのような価値を生み出したいのかを明確にするミッションステートメントの作成が重要となります。このステートメントは、組織全体に一貫したCXへの意識を浸透させ、社員一人ひとりが顧客中心の行動をとるための羅針盤となります。
次に、ターゲットとする顧客層を深く理解するために、顧客プロファイル(ペルソナ)の作成と維持が求められます。単なるデモグラフィック情報(年齢、性別など)に留まらず、顧客の行動履歴、購買パターン、嗜好、利用するチャネル(ソーシャルメディア、ウェブサイト、アプリなど)、さらには位置情報といった多角的なデータを収集・分析し、継続的に更新していくことが、顧客のニーズや期待を正確に把握する鍵となります。
そして、CXの向上に向けた取り組みの効果を測定し、改善につなげるためには、具体的な数値目標の設定が不可欠です。CXは目に見えにくい価値であるため、NPS(Net Promoter Score)やCSAT(Customer Satisfaction Score)といった指標を用いて定量化し、達成すべき目標を設定します。施策実行後には、これらの目標に対する達成度を分析し、その有効性を評価することで、継続的な改善サイクルを回していくことが可能になります。
さらに、CXの管理は、顧客エンゲージメントの強化と密接に関連しています。顧客との良好な関係を築き、維持していくためには、個々の顧客に合わせたパーソナライズされたコミュニケーションや、期待を超える付加価値の提供が重要となります。これらの施策は、顧客ロイヤルティの向上に直接的に貢献し、結果として事業全体の成長を促進します。
●ミッションステートメントを作成する
カスタマーエクスペリエンスの管理を導入するにあたっては、「企業としてどのような取り組みを行い、どのような価値を生み出すのか」を明確に表現したミッションステートメントを作成することが大切です。これは、単なるスローガンではなく、企業が顧客に対して提供したい体験の核となる考え方を示します。このミッションステートメントは、社員一人ひとりに深く浸透させることにより、企業全体が一丸となって価値を高めていくことを可能とします。社員が共通の目標意識を持つことで、顧客とのあらゆる接点において、一貫性のある高品質な体験を提供できるようになります。また、この明確な指針は、顧客が商品・サービスを利用するきっかけにもつながり、企業への信頼感を醸成する一因となります。顧客中心の企業文化を醸成する上で、ミッションステートメントはCX向上のための重要な羅針盤となるでしょう。
●顧客プロファイルを作成する
優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するためには、顧客を深く理解することが求められます。顧客を深く理解するためには、しっかりとした顧客プロファイルを作成し、それを継続的に維持・管理していくことが重要です。顧客プロファイルは、年齢や性別などのデモグラフィック属性だけではなく、ソーシャルメディアの活動、視聴履歴、位置情報など、取得できる限りのデータを統合して作成することがポイントです。これらの詳細な情報は、顧客一人ひとりのニーズや行動パターンを正確に把握し、パーソナライズされたカスタマージャーニーの設計に役立ちます。顧客プロファイルを継続的に更新し、最新の状態に保つことで、顧客の変化する期待に応え、より精度の高いアプローチが可能となります。
●数値目標を設定する
カスタマーエクスペリエンスは、その性質上、目に見えにくい価値であり、定量的な把握が難しい側面があります。そのため、カスタマーエクスペリエンス向上のための施策が、実際に顧客体験の向上にどれだけ貢献しているのかを正確に評価するためには、具体的な数値目標の設定が不可欠です。例えば、顧客満足度調査のスコア(NPS:Net Promoter ScoreやCSAT:Customer Satisfaction Scoreなど)、リピート率、解約率、顧客単価(LTV:Life Time Value)、あるいは特定チャネルにおける顧客のエンゲージメント率などをKPI(Key Performance Indicator)として設定することが考えられます。
これらのKPIを設定することで、施策の実行前と実行後でどのような変化があったのかを客観的に把握できるようになります。さらに、設定した目標値に対して、実際の成果がどの程度達成されたのかを分析することで、施策の有効性を検証し、必要に応じて改善策を講じることが可能になります。このように、PDCAサイクルを回すための基礎となるのが、明確で測定可能な数値目標の設定なのです。効果測定を正確に行うためには、データ収集の仕組みや分析体制の整備も同時に進めることが重要となります。
BtoBでカスタマーエクスペリエンスを向上させるポイント
BtoBビジネスにおいては、BtoCとは異なるアプローチでカスタマーエクスペリエンス(CX)を向上させることが重要です。BtoBでは、企業間の取引であり、関係性が長期にわたる場合が多いため、より戦略的な視点が求められます。
●「真実の瞬間」を見極める
BtoBでは、顧客との接点がBtoCと比較して格段に多く、商談期間も長期化する傾向があります。この多くの接点の中から、顧客が自社の価値を判断する上で特に重要となる「真実の瞬間(Moment of Truth)」を見極めることが不可欠です。これは、顧客が企業や製品・サービスに対して、ポジティブまたはネガティブな印象を決定づける決定的な瞬間を指します。例えば、顧客サポートにおける、迅速かつ的確な回答が得られたかどうかの問い合わせ対応や、スムーズな返品・交換プロセスなどが挙げられます。また、営業担当者にとっては、顧客企業の経営層との信頼関係構築が、マーケティングにおいては、製品の機能やメリットを的確に伝えられるデモンストレーション動画などが「真実の瞬間」となり得ます。これらの重要な瞬間に、期待を上回る体験を提供することで、顧客の満足度とロイヤルティを大きく向上させることが可能です。
●顧客の主観的評価を重視する
カスタマーエクスペリエンスは、企業側の自己満足で完結するものではありません。本来、顧客が体験を通して「価値があった」「満足した」と感じるかどうかの主観的な評価が最も重要です。企業としては、顧客がどのように感じ、何を重視しているのかを深く理解し、その視点に立った施策を実行する必要があります。自社が提供していると考える価値と、顧客が実際に感じている価値に乖離がないか、常に確認することが成功の鍵となります。
●部分最適の施策に陥らない
カスタマーエクスペリエンスは、個々の部門における顧客満足度(CS)の単純な合計ではありません。顧客は、製品やサービスの購入前から利用、さらにはアフターサービスに至るまでの一連の体験を総合的に評価します。したがって、各部門が個別に「顧客満足度」を向上させる施策を展開しても、それが全体のカスタマーエクスペリエンス向上に直結するとは限りません。むしろ、部門間の連携不足や情報共有の欠如から、顧客体験に断絶が生じてしまうリスクもあります。カスタマーエクスペリエンスの向上を目指すためには、顧客ジャーニー全体を俯瞰し、全体最適の視点に立った施策を立案・実行していくことが極めて重要です。これにより、一貫性のある、そしてより価値の高い顧客体験を提供することが可能となります。
まとめ
カスタマーエクスペリエンス(CX)とは、顧客が商品やサービスに触れるすべての過程で得る、物質的・金銭的価値以外の体験価値のことです。これは、顧客の購入前の認知から購入、そして購入後のサポートに至るまで、あらゆる接点での感情や感覚、思考、行動の変化を含みます。
現代の競争が激化する市場において、カスタマーエクスペリエンスは企業にとって重要な差別化要因となります。優れたCXは、ブランドへの好感度向上、顧客ロイヤルティの強化、ポジティブな口コミの促進、そして顧客離れの防止に繋がります。
CX管理を導入する第一歩として、企業が目指す顧客体験のあり方を明確にしたミッションステートメントの作成が重要です。これにより、組織全体で一丸となって顧客価値の向上に取り組むことができます。
特にBtoBビジネスにおいては、多数の顧客接点の中から、顧客が企業の価値を判断する上で決定的な影響を与える「真実の瞬間(Moment of Truth)」を見極めることがCX向上の鍵となります。また、自社の視点だけでなく、常に顧客の主観的な評価を重視し、部分最適ではなく全体最適の視点で施策を立案・実行していくことが、真のカスタマーエクスペリエンス向上に繋がります。

