マーケティングの現場で、顧客理解を深めるために欠かせないのが「ニーズ」という概念です。しかし、似たような言葉に「ウォンツ」も存在し、両者の違いを明確に理解していないと、効果的なマーケティング戦略を立案することが難しくなります。本記事では、マーケティングにおける「ニーズ」の正確な意味と、ウォンツとの決定的な違い、さらにニーズの種類について分かりやすく解説します。ニーズを深く理解し、顧客の潜在的な欲求まで見抜くことが、ビジネス成功の鍵となります。
ニーズとウォンツの意味
それではそれぞれの言葉の意味と両者の違いについて解説します。
●ニーズとは「顧客の需要」
ニーズ(Needs)とは、「需要」「欲求」「必要」を意味する英単語です。「○○したい」「○○でありたい」という顧客の欲求を表します。この段階では、顧客自身もまだその欲求を満たすための具体的な方法や手段については明確に認識しておらず、漠然とした「必要性」や「願望」として存在しています。そのため、顧客は欲求を満たせる商品やサービスを広く探している状態と言えるでしょう。このような顧客の根本的な欲求を捉えることが、マーケティングの第一歩となります。
●ウォンツは「ニーズよりも具体的な顧客の欲求」
ウォンツ(Wants)は「望む」「欲する」を意味する単語です。ニーズと似たような意味合いがありますが、ウォンツの場合はユーザーが欲求を満たる方法を把握していて、「○○が欲しい」というように具体的な商品やサービスを欲しがっている状態です。例えば、喉が渇いた(ニーズ)という状態から、具体的な飲み物である「水が欲しい」「コーラが欲しい」といった具体的な欲求に変化するのがウォンツです。
●ニーズとウォンツの違い
ニーズもウォンツも顧客が「何かを欲している」という点では共通しています。違いは「自分の欲求を満たせる手段が明らかになっているか?なっていないか?」です。
例えば、「もっと早く移動したい」「もっと遠くまで移動したい」という欲求は、顧客の「ニーズ」に該当します。この段階では、その移動手段が自動車なのか、新幹線なのか、飛行機なのか、あるいは別の革新的なテクノロジーなのか、顧客自身もまだ特定していません。単に「移動の効率を上げたい」「移動の制約をなくしたい」という願望があるのみです。
一方、「車が欲しい」という欲求は、「ウォンツ」に分類されます。これは、顧客が「早く・遠くまで移動できる手段」として自動車という具体的な製品を認識しており、その自動車という手段を欲している状態だからです。さらに、「トヨタのクラウンが欲しい」「ホンダのN-BOXが欲しい」といったように、特定の車種やブランド名を挙げて欲しがる場合も、より具体的なウォンツと言えるでしょう。このように、ニーズはより抽象的な欲求であり、ウォンツはそれを満たすための具体的な対象を指すのです。マーケティングにおいては、このニーズとウォンツの関係性を理解することが、顧客の購買行動を理解する上で不可欠となります。
関連記事
・マーケティングとは?基礎から重要ポイントまで初心者にも分かりやすく解説
顕在ニーズと潜在ニーズ
ニーズはさらに、顧客が「○○したい」という欲求として明確に自覚している「顕在ニーズ」と、自分自身もまだ気づいていない、あるいは意識していない「潜在ニーズ」の2種類に分類されます。「早く移動したい」という欲求は、その手段を具体的に模索する段階にあるため、顕在ニーズの代表例と言えるでしょう。
一方、潜在ニーズは、顧客自身が普段あまり意識していないものの、実は行動の根底にある欲求です。例えば、自動車を欲しがっている顧客は、「早く移動したい」という顕在ニーズを持っていると同時に、その背景には「仕事や日々の生活をより効率化したい」「移動時間を短縮して、その分他の活動に時間を充てたい」「移動による身体的な疲労を軽減したい」といった潜在ニーズが隠れていると考えられます。これらの潜在ニーズが、やがて顕在ニーズへと表面化し、さらに具体的な解決策であるウォンツへと発展していくのです。マーケティングにおいては、この潜在ニーズをいかに引き出し、顧客のウォンツへと繋げていくかが重要な鍵となります。顧客がまだ言葉にできていない欲求を理解することが、新しい商品やサービスの開発、効果的なマーケティング戦略の立案に不可欠です。
関連記事
・【図解つき】潜在顧客とは?課題発生時に“第一想起”されるマーケ支援会社直伝のリード枯渇を防ぐ開拓手法
・潜在顧客の開拓につながる、行動データに基づいたWebマーケティングとは
ニーズを探って購買に結びつける
ユーザーに商品・サービスを買ってもらうためには、顧客が抱えるニーズを満たせる手段があることを具体的に提示し、潜在的なニーズを顕在化させ、ウォンツへと結びつけることが不可欠です。仮に、「早く移動したい」というニーズを持っている人が、自動車という便利な移動手段の存在を知らないとしましょう。この状況で、「徒歩で1時間かかる所へ車なら10分で行けますよ」「好きなときに行きたい場所へ自由に移動できますよ」「長距離の移動も、歩く必要がないから体が疲れにくいですよ」といったように、自動車がどのようにその人のニーズを解決できるのかを具体的に説明し、そのメリットを伝えることで、ユーザーは自動車が自身の抱える問題を解決する最適な手段であると認識するようになります。これにより、「車が欲しい」という具体的なウォンツへと変化し、購買へと繋がりやすくなるのです。このプロセスは、顧客の深層心理にあるニーズを的確に捉え、それを満たす商品やサービスを提案することによって、自社の商品を効果的に販売するための王道と言えるでしょう。マーケティング戦略においては、顧客のニーズを深く理解し、それを満たすソリューションを提示することが、最終的な購買行動を促進する鍵となります。
関連記事
・KBF(重要購買決定要因)とは!KSFとの関係もあわせて解説!
・時代によって変わる購買行動プロセス。初期から最新まで7つをご紹介
ウォンツや顕在ニーズから潜在ニーズを探って商品を売る
さらに高度なテクニックとして、すでに顧客が抱えるウォンツや顕在ニーズから、その背後にある潜在ニーズを見つけ出し、新たな商品やサービスにつなげるという手法があります。これは、顧客自身も気づいていない欲求を掘り起こし、新たな価値を提供することで、購買意欲を刺激する強力なアプローチとなります。
たとえば、取引先の経営者が「今度、営業用に車を買おうと思っているんだ」と話したとしましょう。この発言は、すでに「車が欲しい」という具体的なウォンツ、あるいは「移動手段を確保したい」という顕在ニーズを示しています。ここで重要なのは、単に車の販売を提案するのではなく、「なぜ車が欲しいのか?」という理由を深掘りすることです。
例えば、その経営者が「外回りの移動時間を短縮して、営業活動の効率化を図りたい」と考えているとします。この場合、車という移動手段の提供だけでなく、潜在ニーズとして「業務効率化」が挙げられます。このニーズに対し、例えば、営業活動の効率化に役立つCRMシステムや、移動時間を有効活用できるモバイルワークツールといった、別の顕在ニーズやウォンツに昇華させられるような、より広範なソリューションを提案できる可能性があります。
また、「ほかの地方へも営業に行って、新規開拓と売上をアップしたい」という理由であれば、これも「事業拡大」という潜在ニーズが隠れています。この潜在ニーズを満たすために、ホームページ作成やインターネット広告といった、営業活動を直接的に支援できるようなサービスが有効かもしれません。このように、顧客がすでに持っているウォンツや顕在ニーズから潜在ニーズを引き出し、それを満たす別の顕在ニーズやウォンツに発展させることで、自社の商品やサービスへのアプローチが非常に効果的になるのです。これは、顧客の課題解決に深く寄り添い、より本質的な欲求に応えるためのマーケティング戦略と言えるでしょう。
このように、すでにユーザーが持っているウォンツや顕在ニーズから潜在ニーズを引き出し、別の顕在ニーズやウォンツに昇華させて自社の商品やサービスをアプローチするのも非常に効果的です。
関連記事
・ペルソナ設定で知っておきたい意味やメリット/注意すべきポイントとは?活用法も解説
まとめ
・ニーズとは、顧客が「○○したい」「○○でありたい」といった欲求や必要性を抱えている状態を指しますが、その欲求を満たす具体的な手段はまだ明確になっていない場合が多いです。
・ウォンツは、顧客が自身の欲求を満たすための具体的な手段を理解しており、「○○が欲しい」というように特定の商品やサービスを求めている状態です。
・ニーズはさらに、顧客自身が欲求を明確に認識している「顕在ニーズ」と、まだ自覚していない、あるいは表面化していない「潜在ニーズ」に分類されます。
・マーケティングにおいては、顧客のニーズを理解し、それを満たす具体的な手段(商品やサービス)を提示することで、ウォンツへと転換させ、購買行動を促進することが重要です。
・さらに、顧客の顕在ニーズやウォンツの裏にある潜在ニーズを深く掘り下げることで、新たな価値提案や、より顧客の心に響くアプローチが可能となり、購買へと繋げることができます。

