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エレコムが「おひとりさま調理家電」に参入、その地道マーケティングの舞台裏とは?

2024.3.15
読了まで約 6

エレコムといえば、多くのオフィスワーカーがコンピューター周辺機器やアクセサリーなどのメーカーであると答えるだろう。 1986年創業のエレコムの成長は、かつてはパソコンの普及と歩を一にしていた。現在は、スマートフォン向けのアクセサリーが主軸製品だ。

エレコムが販売している製品数は実に約2万点にもおよぶ。年間に2300点もの製品を新規開発することで、コンピューター周辺機器のトップメーカーとしての地位を築き上げている。とにかく多くの製品を生み出すことがエレコムの特徴である。

それに加えて、積極的な買収によって、その業態を広げている。自社工場をもたない、いわゆる「ファブレス」メーカーとして知られていたエレコムだが、2004年にはパソコン周辺機器の開発・製造を行っているロジテックを丸紅グループから買収。2017年には船井電機からDXアンテナ を買い取った。最近では、業務用ヘアドライヤーなどを製造・販売するテスコムを買収するなど工場を持つメーカーとして、事業の幅を広げてきた。

事業領域の幅を広げる中で、エレコムは調理家電にも挑んでいる。2022年、「LiFERE(リフィーレ)」ブランドでおひとりさま用の調理家電に参入したのだ。

なぜエレコムが今、おひとりさま用の調理家電に取り組むのか。2018年に始まったこのプロジェクトでリーダー役を務めたデザイナーの佐伯綾子氏に話を聞いてみたところ、MarkeTrunkの読者であるマーケターにも役立つような、今どきのプロダクトマーケティングのヒントがたくさんあった。その内容を紹介していきたい。

IHホットプレートからスタート

LiFEREブランドで展開されている製品は”少数精鋭”だ。エレコムほどの規模の企業であれば、おひとりさまがまとめ買いをしてくれるように多くのラインナップを一気に揃えても良さそうなものだが、まずはIHホットプレート「HOT DISH」のみ。2022年6月、応援購入サービス「Makuake」を活用してのデビューだった。

画像:IHホットプレート「HOT DISH」を活用した調理例。陶器のような白いお皿が食卓に馴染む
IHホットプレート「HOT DISH」を活用した調理例。陶器のような白いお皿が食卓に馴染む

「HOT DISH」は陶器のような丸いお皿そのままがホットプレートになっている。この製品の最大の特徴は、IHヒーターとお皿ホットプレートの部分が分離されていること。コンパクトなおひとりさまサイズなので、焼きながら食事をしたり、仕上がった料理をそのまま食卓に出しても違和感のないデザインである。火傷への注意が必要だが、熱々のまま食べることができる。

「小型ホットプレートとしては、カラフルでおしゃれなデザインのBruno(ブルーノ)さんが流行っていますよね。Brunoさんはホームパーティーに使うようなイメージだと思います。この良さは認めつつも、デザイン的に存在感がありすぎるので、ちょっと普段は使えない。プロジェクトのメンバーは、開発をしていたときにみんな1人暮らしだったので、もっとシンプルで普段使いできるようなものを作りたかったんです」

存在感たっぷりで、ホームパーティーのようなハレの時に使う「Bruno」は小型ホットプレートにおける王者である。その存在を認めたうえで、真正面からぶつかることがない様な立ち位置に普段使いの「LiFERE」を対峙させた。マーケティングの基本中の基本である製品のポジショニングを明確に行っているわけだ。

調理家電は幅広い。コーヒーメーカー、炊飯器、トースター、オーブン、湯沸かしケトル、フードプロセッサーなどさまざまな製品がある。エレコムは多品種展開に強みを持つ企業であり、いきなりこうしたラインナップを揃えれば量販店の売り場作りには強みを発揮するだろう。

しかし、まずは小型ホットプレートだけでスタートした。この点にも狙いがあった。「作り手としては1人暮らしの若い女性をイメージして開発しているものの、実際に購入する人がどういう人かはわからない。新しいジャンルへの挑戦であり、まずはテストマーケティングのように1つ製品を販売することでお客さんの反応をみてみたいと考えました」。

「HOT DISH」を発売した2022年は、長引くコロナ禍の真っ只中。外食を控えて自宅で食事をすることが定着した時期だ。そんな時期、どのような人が購入するのか。予断は許さなかった。

結果としてどうだったのか。「あまり想定していませんでしたが、ご高齢の方も購入してくださいました。また、お子さんが独立してご夫婦2人で暮らしているような方にとってちょうどいいサイズだったようです。これは意外でしたが、ニーズがわかったことで、その後の製品展開に生かすことができました」。

仮説段階で多くのラインナップを揃えるのはリスクが高い。まずはエースといえるような自信のある製品を1つ出して、その反応をしっかりチェックしたうえで方向感を修正し、その後の製品展開に活かしていく。この点もプロダクトマーケティングの基本をしっかり踏まえた展開といえるだろう。

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おひとりさま調理家電は、2人にもちょうどいい

”おひとりさま調理家電”と呼ばれることが多いのだが、実際には少食の2人が十分に満足できる量をカバーできる。ターゲットは独身世帯がメインではあるものの、既に子供たちが自立し、2人で暮らしている老夫婦も視野に入ってきた。ではどのようにデザインをするべきか。ここで、これまでエレコム製品をデザインしてきた経験が生きてきたという。

「エレコムでは非常に多くの製品点数を毎年のように更新しています。それぞれの製品は対象となるユーザの特性に合わせて細かくデザインを作り分けているのですが、シニア向けに特化したデザインの製品を作ってしまうと、 全く売れないという失敗を何度かしてきました」

例えばカメラ向けのアクセサリーでの経験。手軽にカメラを持ち歩くためのアクセサリーとしてシニア向けに使いやすいデザインのカメラケースを作ったのだが、これが全く売れなかった。シニアであっても、若い人たちと同じようにワクワクとした前向きな楽しい気持ちで旅行や散歩を楽しみながら、その中でカメラを使いたい。”年寄り向け”のデザインは忌避されるのだ。

「そこでLiFEREでは若い単身の生活者がメイン。だけれども老夫婦も意識する、という発想でデザインしています」

デザインしたのは、見た目だけではない。 IHヒーターはデジタルボタンによって操作する製品が多いが、アナログボリュームのようなシンプルな操作で直感的に温度調整をできるようにしている。本格的なIH方式にこだわったのも、見た目だけではなく、調理家電として汎用性が高く優れたものを欲しがる若い単身の生活者に納得してもらうためだった。

流通現場からは様々な学びもあったという。 エレコムとしては新しいジャンルへの挑戦だが、エレコムが付き合っている量販店は多くの場合、白物家電も扱っている。量販店としても、それまでのメーカーとは異なるキャラクターを持つエレコムへの期待は高い。一緒に売り場を作っていく上で、いろいろな要望が出てくる。「次の製品を考える上で参考になるので、ひとつひとつ丁寧に作っていきたいです」。

「HOT DISH」に続いて、小型の深鍋とIHヒーターがセットになったおひとりさま電気鍋、コンビニなどで買ってきた惣菜を美味しく温め直し、油も落としてくれるコンベクションオーブンなど、 一人暮らし、あるいは子供たちが育った後の夫婦生活をサポートする シンプルかつ性能の高い製品ラインナップが広がった。いずれも価格帯は実売で2万円を切っており、買い求めやすい。

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「デザイン課」から生まれた新ブランド

「LiFERE」を特徴付けているのは、「デザイン課」が立ち上げた製品ということだ。

1986年の創業以来、初となるデザイン専門部署が2018年に発足。ここから「LiFERE」が生まれた。「健康志向の高まりや忙しい日常の中で、手軽に美味しい食事を楽しみたいと考える消費者ニーズに応える質の高い調理家電をデザインするためにこのブランドを立ち上げたのです」。

エレコムは細かなニーズに対処する機能重視型のものづくりが中心。「ハードメーカーなのにデザイン専門の部署がないなんて驚きですよね。なぜそれまでデザイン部門がなかったのだろう?と不思議に思う方もいると思います。 これまで何度かデザインを中心としたものづくりをする部署を作ったこともありました。いろいろと試行錯誤を行う時期がありました」。

多くの製品が毎年のように生まれてくるエレコムだが、社員数は700 人を少し超えるくらいの規模。 少ない人数で多くの製品を作っているため、縦割りでそれぞれの製品ジャンルに特化したチームが開発した方が効率がよかった。つまりデザイナーを集めるのではなく、各製品チームに分散していた方がよかったわけである。

「でも、やはりデザイナーとしてはデザインの力がより発揮される製品開発を進めていきたいという思いがあります。過去にもそうしたチャレンジはあったのですが10人ぐらいの規模でした。10人もいるとそれなりの規模の組織なので、成果を出さなければ評価されない。そこで人数を絞り込み、ごく少人数でデザイン課を編成しました。人数が少なければ長い目で見てもらえるのではないかと」

この目論見は見事に当たった。経験豊富なベテランのデザイナーが少数精鋭でデザイン部門に所属したことで、各部署との関係性においても、デザイン部門の方から積極的にアプローチして、製品の提案や改善の方向性などについて話ができるようになった。エレコムとして初めてデザインの専門部門が定着した。

話が前後するが、まずは存続可能なチームを作る。そこで1つ小さくてもいいので、それなりに評価をされる製品を1つ生み出す。そして製品数を増やしていく。そんな形で丁寧に育ってきたのが、「LiFERE」である。

ファンコミュニティを育成できるか

マーケティングの次の課題もみえている。まずは積極的にファンコミュニティーを作っていく必要がありそうだ。

この記事を書いている筆者が気に入っている炊飯器は、本格的なIHヒーターによる炊飯器でありながら1合炊き、という他に競合のないコンパクトなモデルである。

従来の炊飯器で、1合以下のお米を炊こうとすると水位が低くなってしまうため、対流せずおいしくご飯が炊けない。 そこで縦型のコンパクトなサイズにすることで、1合でも深い釜形状を実現しているのが特徴だ。

他にはないユニークな製品だけに、ユーザーはメーカーが意図していない新しい使い方を発信することもある。

「1合炊きの炊飯器は、ごく少量をとても美味しく炊き上げることができるため、毎日異なるレシピの炊き込みご飯を食べるなどの提案を行っていました。その中でユーザーは普段ならばとても食べられないような、贅沢な高級カニ缶を使ったカニご飯を1合炊きで作ってみたり、コンビニ食材をうまく生かして、日替わりの味を楽しんだり、おひとりさま調理器ならではの楽しさを探索してくれています」

こうしたレシピをX(旧ツイッター)やインスタグラムなどで、利用者(ファン)が活発に発信するようになれば、ファンコミュニティーが広がっていく。SNSを活用したマーケティングの王道といえるだろう。「Xのアカウントではレシピなどの紹介も始めている。おすすめの料理法などユーザーからの投稿もあるので、うまくファンコミュニティーを立ち上げていければ、と考えています」。

画像:1合だけ炊くことができる小型IH炊飯器
1合だけ炊くことができる小型IH炊飯器

この先は、料理研究家に協力を求めるなどしてレシピの幅を広げるような道も考えられる。食品メーカーとコラボして1合用の炊き込みご飯の素を取り揃えていくことも選択肢になるだろう。

手探りでの新分野進出ではあるが、しっかりマーケティングの基本を押さえているようにみえる。ただ不安もある。「LiFERE」というブランド名を、どう読めばいいのかがわからない。Xのアカウント名が「エレコムの調理家電(「LiFERE」と書いて「リフィーレ」と読みます)」となっているくらいであり、直感で読めないのは辛い。ファッションの世界では「COMME des GARCONS」のように、難読であってもヒットしているブランドがいくらでもあるが、これは高齢者もターゲットとした調理家電だ。

小型ホットプレートで人気の「Bruno」は”ブルーノ”と読みやすい。今からでは難しいかもしれないが、もっとわかりやすいブランド名に切り替えれば、大ブレイクにつながるかもしれない。

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編集者

山田俊浩(やまだ としひろ)

東洋経済新報社 編集局次長
2020年10月から現職。2014年5月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。就任時には月間3000万PVだった東洋経済オンラインを月間2億PVを超える大手新聞社に匹敵する大型ニュースサイトへと引き上げた。2019年1月から2020年9月までは週刊東洋経済編集長。著書に『稀代の勝負師 孫正義の将来』(東洋経済新報社)がある。また不定期でAbemaTV の『ABEMA Prime』(アベプラ)にコメンテーターとして出演中。趣味はオーボエ演奏で都民交響楽団に所属。

執筆者

本田 雅一(ほんだ まさかず)

ITジャーナリスト
IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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