ポジショニングマップは、市場における自社製品やサービスが競合他社と比較してどのような位置にいるのかを可視化し、競争優位性を確立するための戦略的なツールです。この手法を用いることで、消費者の購買決定要因(KBF)を把握し、未開拓の領域や競合が手薄なポジションを見つけ出すことが可能になります。
ポジショニングマップは、一般的に縦軸と横軸からなる2次元のグラフ上に、市場のプレイヤー(自社製品、競合製品、潜在顧客層など)をプロットして作成されます。これにより、市場全体の構造や各プレイヤー間の関係性を一目で理解できるようになり、効果的なマーケティング戦略の立案に役立ちます。
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ポジショニングマップとは?
ポジショニングマップとは、マーケティング戦略において、競合他社との差別化を図り、競争優位性のある独自ポジションを確立するために用いられる強力な分析ツールです。市場における自社の商品やサービス、あるいは競合の商品やサービスが、消費者の認識の中でどのような位置づけにあるのかを、縦軸と横軸からなる2次元の座標空間上に視覚的に表現します。
この2次元マップにより、市場全体の構造、各プレイヤーの関係性、そして自社が置かれている状況を一目で直感的に把握することが可能になります。例えば、ビール市場におけるポジショニングマップを考えると、縦軸に「苦味」と「爽やかさ」、横軸に「コク」と「キレ」を設定することができます。このマップ上で、アサヒビールが「爽やかでキレがある」という、当時まだ手薄だった領域に自社製品を戦略的に配置したことで、消費者のニーズを捉え、爆発的なヒットにつながった事例は有名です。このように、ポジショニングマップは、消費者の購買意思決定に影響を与える要因を軸として設定することで、効果的なマーケティング戦略の立案に不可欠な洞察を提供してくれるのです。
ポジショニングマップの作り方
ポジショニングマップを作成するプロセスは、以下の2つの主要なステップで構成されます。このプロセスを丁寧に進めることで、市場における自社製品やサービスの最適な立ち位置を明確にし、競合との差別化戦略を具体化することが可能になります。
1.ポジショニングマップの軸を選定する
ポジショニングマップの最も重要な要素は、その「軸」です。この軸が、市場をどのように切り取り、どのような顧客視点を重視するかを決定づけます。軸の選定は、自社製品やサービスが顧客のどのようなニーズに応え、どのような価値を提供しているのか、あるいは提供すべきなのかを深く理解することから始まります。
軸の選定にあたっては、以下の点を考慮することが推奨されます。
- 購買決定要因(KBF: Key Buying Factor)の特定: 顧客が商品やサービスを選ぶ際に、最も重視する要素(例:価格、品質、機能、ブランドイメージ、利便性など)を洗い出します。これらのKBFの中から、市場において最も競争力に影響を与える、あるいは差別化のポイントとなり得る2つの要素を選定します。
- 市場における顧客の認識: 顧客が各製品やサービスをどのように認識しているのか、どのような基準で比較検討しているのかを理解します。
- 競合との差別化可能性: 選定した軸において、競合製品やサービスがどのように位置づけられているか、そして自社がどのような領域で優位性を築ける可能性があるかを検討します。
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2.選定した軸を縦軸、および横軸として、自社および競合の商品をプロットする
軸が決定したら、次にその軸を縦軸と横軸とする2次元の座標平面上に、自社製品・サービスだけでなく、主要な競合製品・サービスもプロットしていきます。
このプロット作業においては、以下の点に注意が必要です。
- 客観的な評価: 顧客の認識や市場調査データに基づき、できる限り客観的に各製品・サービスの位置を決定します。自社にとって都合の良い評価にならないよう、注意深く分析することが重要です。
- 相対的な位置関係の把握: 各製品・サービスが、選定した2つの軸において、互いにどのような位置関係にあるのかを明確に把握します。これにより、市場全体の構造や、各プレイヤーの立ち位置を視覚的に理解することができます。
- 空白領域の発見: 競合がまだ十分にポジショニングしていない、あるいは全く存在しない「空白領域」がないかを探します。この空白領域こそが、自社が新たな競争優位性を確立できる可能性のある、最も魅力的なポジションとなり得ます。
ポジショニングマップは、どのような軸を選定するかによって、市場の捉え方や導き出される結論が大きく変わります。そのため、自社のマーケティング戦略の目的に合致する、最も効果的な軸の組み合わせを見つけることが、マップ作成の鍵となります。
ポジショニングマップを作成する際の軸のとり方
ポジショニングマップを作成する際の軸の選定は、戦略の成否を左右する重要なプロセスです。どのような軸を設定するかによって、市場における自社製品や競合製品の相対的な位置づけが大きく変化するため、慎重な検討が求められます。一般的に、軸のとり方としては以下の4つのアプローチが考えられます。
- 商品の仕様や機能にもとづく軸: これは、製品が持つ具体的な特性や性能、技術的な優位性などを軸とする方法です。例えば、コンピュータであれば「処理速度」や「ストレージ容量」、自動車であれば「最高速度」や「燃費性能」、あるいは「デザイン性」や「耐久性」などが該当します。このアプローチは、専門的な知識を持つ顧客層や、技術的な差別化が明確な製品群において有効です。製品の技術的な優位性を直接的に表現できるため、ターゲット顧客の理解を得やすいというメリットがあります。
- 商品が満たすニーズや提供するベネフィットにもとづく軸: 製品そのものの仕様ではなく、顧客がその製品を利用することで得られる満足感や、解決される課題、享受できる恩恵(ベネフィット)に焦点を当てる方法です。例えば、「利便性」と「創造性」、「安全性」と「エンターテイメント性」といった、より顧客の心理や感情に訴えかける軸を設定します。この方法は、製品の機能が複雑であったり、顧客が仕様を直接理解しにくかったりする場合に、製品の価値をより分かりやすく、感覚的に伝えるのに適しています。
- 使われる機会や用途にもとづく軸: 製品がどのような状況や場面で、あるいはどのような目的で利用されるかに着目して軸を設定します。例えば、時間軸で「日常使い」と「特別な機会」、「場所」で「アウトドア」と「インドア」、「利用シーン」で「ビジネス」と「プライベート」などが考えられます。この軸設定は、製品が持つ多面的な利用価値を可視化し、特定の利用シーンにおける競合との差別化を図る際に有効です。
- 競合製品にもとづく軸: 競合製品の特性や、顧客が競合製品に対して抱いているイメージや評価を軸に設定する方法です。例えば、「高品質」と「低価格」、「伝統的」と「革新的」、「シンプル」と「高機能」といった、競合との比較において明確な違いを打ち出せる要素を選びます。このアプローチは、市場における既存のポジショニングを理解し、競合がまだ手薄な領域や、自社が優位に立てる領域を見つけ出すための強力な手段となります。特に、競合との明確な差別化ポイントを打ち出したい場合に、効果を発揮します。
1.商品の仕様や機能にもとづく軸
ポジショニングマップの軸として、まず最も直接的に考えられるのは、商品の物理的な仕様や機能そのものを採用する方法です。例えば、コンピューターであれば、その処理速度、搭載されているハードディスクの容量、あるいはメモリサイズなどが該当します。自動車であれば、最高速度、乗車定員、燃費性能、あるいはエンジンの排気量などが、仕様や機能に基づく軸となり得ます。
このように、商品の仕様や機能に直接結びつく要素を軸とすることは、専門的な知識を持つ顧客層をターゲットとする場合に特に有効です。彼らは製品の技術的な詳細を理解し、それらを比較検討することに慣れているため、こうした軸設定が製品の差別化ポイントを明確に伝える助けとなります。例えば、高性能カメラであれば「解像度」や「手ぶれ補正性能」、家電製品であれば「省エネ性能」や「多機能性」などが考えられます。これらの具体的な数値を軸とすることで、顧客は自らのニーズに合致する製品を、より精密に位置づけることができるようになります。
2.商品が満たすニーズや提供するベネフィットにもとづく軸
商品の仕様や機能そのものではなく、商品が顧客に対して満たすニーズや、提供するベネフィット(恩恵)にもとづいて軸をとることもできます。ニーズやベネフィットは、仕様や機能に比べれば感覚的となります。そのために商品のポジショニングをより一般的な表現で、定性的に訴求しようと思う場合にこれらを軸とするとよいでしょう。例えば、ある飲料が「リフレッシュしたい」というニーズに応えるのか、「リラックスしたい」というニーズに応えるのか、といった軸を設定することが考えられます。また、商品が提供するベネフィットとして、「健康増進」なのか「美容効果」なのか、といった切り口も有効です。このように、顧客が商品に求める価値や、商品を利用することで得られる体験に焦点を当てることで、より顧客視点に立ったポジショニングマップを作成することが可能になります。これにより、顧客が共感しやすい、あるいは潜在的なニーズを喚起するような独自ポジションを見つけ出すことができるでしょう。
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3.使われる機会や用途にもとづく軸
商品がどのような機会や用途で利用されるかに着目して、ポジショニングマップの軸を設定することも有効な戦略です。例えば、ある商品が「アウトドアシーン」で主に使われるのか、それとも「インドアシーン」で使われるのか、といった対比で軸を設定できます。また、ビジネスシーンにおいては、「人事部門」向けなのか、「営業部門」向けなのか、といった切り口で軸を設けることも考えられます。このように、具体的な利用シーンやターゲットとする部門を軸とすることで、顧客が自身の状況と照らし合わせやすくなり、商品の価値をより明確に伝えることが可能になります。これにより、競合製品との差別化を図り、自社製品がどのような状況で最も価値を発揮するのかを顧客に理解させることができます。
4.競合製品にもとづく軸
ポジショニングマップを作成する際の戦略として、競合製品の特性やメリットを軸に設定することも有効な手段です。例えば、「高品質でありながら低価格」といった、競合製品と明確に差別化できる要素を軸にすることで、自社のユニークな立ち位置を顧客に分かりやすく提示できます。これにより、競合が容易に参入できない、あるいは模倣しにくい市場での優位性を確立することが期待できます。競合分析を徹底し、彼らの強みや弱みを正確に把握した上で、それらを軸に設定することで、より戦略的なポジショニングマップを作成することが可能になります。
ポジショニングマップを作る際のポイント
ポジショニングマップを作成する上で、効果的な戦略を立てるためにはいくつかの重要なポイントがあります。これらを理解し、実践することで、競合との差別化を図り、市場における自社の強みを明確にすることができます。
1.購買決定要因(KBF)を考慮する
ポジショニングマップを効果的に活用するための第一歩は、軸を設定する際に購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)を徹底的に考慮することです。KBFとは、顧客が商品やサービスを選択する際に、その購入を決定づける最も重要な要素を指します。もし、顧客の購買行動に影響を与えない要素を軸として選んでしまうと、作成したポジショニングマップは、顧客にとっての差別化ポイントを反映しておらず、戦略的な意味をなさなくなってしまいます。したがって、自社の商品やサービスが属する市場におけるKBFを深く理解し、その中でも特に影響力の大きい2つの要因を軸として選定することが、競争優位性のあるポジションを見出す上で極めて重要となります。
2.相関の高い要素を軸として選ばない
ポジショニングマップを作成する際のもう一つの重要なポイントは、互いに相関関係が高い要素を軸として選択することを避けることです。具体例として、「価格」と「品質」の軸が挙げられます。一般的に、品質が高い商品は価格も高くなる傾向があり、この2つの軸でポジショニングマップを作成すると、ほとんどの商品が右肩上がりの直線上にプロットされることになります。このような配置では、実質的に1つの軸しか活用できていないことになり、市場における多様なポジションを把握することが困難になります。ポジショニングマップを最大限に活かすためには、できる限り互いに独立した、あるいは相関の低い2つの軸を選択することが、より詳細で有益な市場分析を可能にします。
3.競合がポジショニングしにくい、空白の領域を探す
ポジショニングマップを作成する究極の目的は、「競合他社との差別化を図り、競争優位性のある独自のポジションを確立すること」にあります。そのため、マップ作成においては、KBFに該当する主要な2つの軸を選定するだけでなく、競合企業が現状ではあまり参入していない、あるいはポジショニングしにくい「空白の領域」が存在するかどうかを意識的に探求することが肝要です。もし、そのような空白領域が、自社にとってはポジショニングが可能であり、かつ顧客のニーズを満たすことができるのであれば、その領域こそが「競争優位性のある独自ポジション」となる可能性が高いのです。
まとめ
ポジショニングマップは、競合との差別化を図り、競争優位性のある独自ポジションを明確にするための強力なマーケティング戦略ツールです。この手法を用いることで、市場における自社製品やサービスの位置づけを、縦軸と横軸で構成される2次元の座標上に視覚的に表現し、市場全体の構造や各プレイヤーの関係性を直感的に理解することが可能になります。
ポジショニングマップを作成する上で最も重要なのは、購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)を深く理解し、それを反映した軸を選定することです。顧客が商品選択において重視する要素こそが、真の差別化ポイントとなり得るためです。また、軸の選定にあたっては、価格と品質のように互いに強い相関を持つ要素を避けることが肝要です。なぜなら、相関の高い軸を選ぶと、事実上1軸しか活用できず、マップの解像度が低下してしまうからです。
最終的な目標は、競合がまだ参入していない、あるいはポジショニングしにくい「空白領域」を見つけ出し、そこに自社のユニークな価値を確立することです。この戦略的なポジショニングにより、競争の激しい市場においても、持続的な競争優位性を築くことができるでしょう。


