数年前、「コア・コンピタンス」という言葉がニュースやビジネス関連の書籍で盛んに使われた時期がありました。競争の激しいビジネスの現場では、常に他社に勝る戦略や自社の強みを持つことが求められます。自社と同様に他社も常に成長しており、昨日の「強み」は、決して明日の「強み」ではありません。自社の強みであるコア・コンピタンスも自社を取り巻く環境の変化に合わせ、定期的に見直していく必要があります。本記事では、コア・コンピタンスを見極め、自社の事業に反映させていく方法について紹介していきます。
コア・コンピタンスは、一言で言えば「他社との差別化」ポイントのことです。しかし、その見極めは容易ではありません。他社に真似されにくい、顧客に高い付加価値をもたらし、かつ幅広い分野に展開できる自社の能力こそが、真のコア・コンピタンスとなり得ます。この競争優位性を明確にすることは、変化の激しい現代市場において、顧客が常に自社を選び続けるための戦略の根幹となります。そのためには、自社のリソースやスキルを深く理解し、市場のニーズと照らし合わせながら、持続的な優位性を築くための「自社の強み」を戦略的に特定することが不可欠なのです。
関連記事:コアコンピタンスとは?意味や具体例を解説
コア・コンピタンスの概要
コア・コンピタンスの見極め、見直しについてご紹介する前に、もう一度コア・コンピタンスについて概要を確認しておきましょう。
コア・コンピタンス(Core Competence)とは、事業において競合他社に比べて強みを発揮できる能力(経営手法や経営資源)、または顧客にとって他社よりも魅力的な商品や技術、スキルのことを指します。この自社の強みという概念は、経営学者のゲイリー・ハメルと元ミシガン大学教授のC・K・プラハラードが、1990年に「ハーバード・ビジネス・レビュー誌」に寄稿した論文で提唱し、広まりました。
両氏はコア・コンピタンスを、以下の3つの観点から定義しています。
- 顧客に高い付加価値をもたらす自社の能力:顧客が商品やサービスに対して感じる価値を、競合よりも高く提供できる力。
- 競合他社に真似されにくい自社の能力:模倣が困難であり、独自の優位性を保てるスキルやノウハウ。
- 幅広い分野に展開できる自社の能力:特定の事業領域に留まらず、様々な事業や市場に応用可能な基盤となる力。
●コア・コンピタンスの例
ハーバード・ビジネス・レビュー誌では、自動車産業の例としてホンダの「エンジン技術」やボルボの「安全技術」が挙げられていましたが、この自社の強みは製造業に限りません。例えば、味の素の持つ「アミノ酸に関わる技術力」や、富士フイルムがフィルム製造技術を応用して培った「精密加工技術」なども、企業が持つコア・コンピタンスの代表例と言えるでしょう。これは、他社との差別化を図る上で非常に重要な要素です。
コア・コンピタンスを見極める理由
コア・コンピタンスの例として大企業の製造技術などを挙げましたが、自社の強みは製造技術だけではありません。コア・コンピタンスを平易な言葉で言い換えると、「他社との差別化」ともいえるでしょう。たとえば他社に比べて、圧倒的にサービスの質が良い、価格では負けない、品揃えでは負けない等も立派な差別化です。常に大きく変化し競争の激しい市場では、自社のポジションは常に変動します。顧客がいつ他社と自社を比較しても、常に自社を選ぶように対策しなければなりません。それこそが、自社の強み、すなわちコア・コンピタンスを見極める理由といえるでしょう。 競合優位性を確立し、持続的な成長を遂げるためには、自社の核となる能力を深く理解し、それを戦略的に活用することが不可欠です。 事業継続のためにも、自社のユニークな価値を明確にすることは、市場における優位性を保ち続けるための鍵となります。
コア・コンピタンスを見極めるには?
自社の強みであるコア・コンピタンスや、他社との差別化ポイントを簡単に見極めることは容易ではありません。そこで、様々な可能性について検討するために、プロジェクトチームを発足させ、多様な意見を収集・整理し、その後の差別化推進に繋げることが効果的です。ただし、自社内でプロジェクトチームを組む際には、メンバー構成に工夫が必要です。
メンバー構成の工夫
- 職位や社歴に偏らない構成
社長の肝いりで行われるプロジェクトも多いですが、可能であれば、職位の高い方や社歴の長い方はオブザーバーとして参加いただくのが望ましいでしょう。長年の経験からくる「これまで通りで良い」「この技術は市場で求められているはずだ」といった思い込みや、強い発言力によって、プロジェクトの方向性が限定されてしまう可能性があります。変化の激しい事業環境に対応するため、現在の市場動向に敏感な人材を多くメンバーに加えることが成功の鍵となります。 - 顧客接点を持つ人材の参画
事業企画部門などが主導する場合でも、現場の営業部門など、顧客と直接接する機会のある人材をメンバーに加えることが重要です。コア・コンピタンスの定義には「顧客に高い付加価値をもたらす自社の能力」という側面があります。顧客にとって何が「高い付加価値」なのかは、直接顧客の声を聞いている担当者でなければ正確に把握できません。 - 外部協力の活用
予算が必要になりますが、外部のコンサルティング会社などに協力を仰ぐことも有効な手段です。
- 客観的な視点: 内部の人間よりも、企業の外部環境を俯瞰的に、より冷静に観察・分析することができます。正確な判断のためには、客観的な分析が不可欠です。
- 分析後の支援: プロジェクトの結果、自社の強みが見当たらない、あるいは弱いと判断された場合、コンサルティング会社は他社との協業や新たな戦略立案の支援を行うことができます。
プロジェクトではまず、「顧客が何を求めているか?」そして「市場で付加価値を生むものは何か?」という視点から議論を深めるべきです。これらの要件を自社で満たすものがなければ、一から新たに創造するか、外部から調達するという選択肢になります。一から差別化ポイントを生み出すには時間がかかる可能性が高く、必ずしも成功するとは限りません。
このような場合、コンサルティング会社を通じて、協業できそうな企業とのコンタクトも視野に入れることができます。自社の弱みを補完したり、自社の強みをさらに強化したりするために、積極的に他企業との協業を検討することは、新たな可能性を切り拓く上で有効です。外部の協力を得ることは、自社にはない知見やリソースを獲得する機会でもあります。
情報収集と分析には十分な時間をかけ、結果が出たら迅速に実行に移すことが、プロジェクトを成功に導く秘訣です。自社の隠れた強みを見つけ出し、それを磨き上げるためには、多角的な視点と、市場の変化に柔軟に対応する姿勢が求められます。
まとめ
自社の持続的な競争優位性を確立するためには、自社の強み、本質を見極めることが不可欠です。そのためには、まず過去の成功体験や既存のやり方に固執せず、「一度否定する勇気」を持つことが重要となります。そして、自社の強みを定義づける上で最も重要なのは、「顧客の目線」で物事を捉え、顧客にどのような価値を提供できているのかを深く理解することです。
また、自社内だけで議論を深めるのではなく、「外部の意見を積極的に取り入れる」ことも、新たな視点や客観的な分析を得るために有効です。外部のコンサルタントや提携企業との協業は、自社にない知見をもたらし、「自社の強み」をより明確にする手助けとなります。
「自社の強み」を見極めるための調査と検討は、時間をかけて「じっくりと」行う必要があります。しかし、一度、自社のコア・コンピタンスが明確になったら、その強みを事業戦略に落とし込み、「素早く動く」ことが成功への鍵となります。このプロセスを通じて、競合他社に負けない、独自のポジションを確立していくことができるでしょう。

