「在庫管理や売上分析に時間がかかるばかりで、次の一手が見えてこない」
「優先すべき商品や顧客が曖昧で、場当たり的な施策に終始している」
こうした悩みを抱える方は現場にも多いのではないでしょうか。
その解決策としておすすめなのが、ABC分析と呼ばれるフレームワークです。
ABC分析とは、限られたリソースを成果に直結する重要な要素に集中させるための手法で、在庫管理や商品戦略、顧客分析など、さまざまな業務に応用できるのが特長です。
本記事では、ABC分析の基本から実務での活用方法、業種別の具体例一覧、実践時の注意点までを幅広く紹介します。
目次
ABC分析とは
ABC分析は、売上や利益などの指標に基づき、対象をA・B・Cの3ランクに分類し、優先順位を明確にするデータ分析方法です。もともと在庫管理で使われていましたが、現在では営業、マーケティング、カスタマーサクセスなど幅広い分野に活用されています。
特長は、対象が多くても重要な要素を効率的に抽出できる点にあります。たとえば、売上貢献度の高い商品をAランクとすることで、リソースを成果の出やすい領域に集中できます。
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パレート分析との違い
パレート分析は、成果の大部分が一部の要素に集中するという法則に基づいた手法です。売上の80%が20%の商品で構成されているといった傾向を、パレート図を使って視覚的に把握できます。
一方、ABC分析はこの構成比をもとに、項目をA・B・Cにグループ分けし、具体的な施策に落とし込むための手法です。パレート分析が傾向の把握に重きを置くのに対し、ABC分析は戦略立案が目的です。
実務では、まずパレート図で全体構成を確認して、その後ABC分析でランク分けし、それぞれに適した対応策を設計する流れが一般的です。
▼パレート分析についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
パレートの法則とは? マーケティング活用のポイントを解説
ABC分析のメリット
ABC分析のメリットを整理します。
重要な対象を一目で特定できる
ABC分析を活用すれば、重要な対象に優先的に対応する判断が可能になります。
たとえば、売上データをABCランクに分けた結果、Aランク商品が全体の7〜8割を占める場合、そこに集中するだけで大きな成果が期待できます。一方、Cランクは影響が小さいため、後回しや自動化の対象とするのが合理的です。
このように、ABC分析を使えば、商品や顧客などの重要度を可視化でき、意思決定のスピードと精度が向上します。
リソースの最適化ができる
ABC分析は、限られたリソースを最適に配分するための有効な指針です。
たとえば顧客を分類し、売上や利益の高いA顧客に営業を集中すれば、成果が見込めます。C顧客にはチャットボット機能やFAQツールを活用し、自動化で効率化を図ります。
商品や在庫も同様で、Aランクには広告や在庫を集中、Bランクは調整対応、Cランクは廃番や縮小の検討対象とするなど、アクションを明確に分けられます。
このようにABC分析は、一律対応から脱却し、成果の出る領域へリソースを集中させる実践的な手法です。
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ROIの向上
ABC分析は、リソースを効果の高い対象に集中させることで、ROI(投資対効果)の向上に直結します。すべてに均等に投資するのではなく、Aランクに施策を絞ることで、同じコストでも成果を高めやすくなるわけです。
一例をあげると、Aランク商品には広告やメルマガを集中投下し、Bランクは調整対応、Cランクは情報提供にとどめるなど、施策に優先度をつけることで無駄なコストを削減できます。
営業やカスタマーサクセスでも、A顧客には訪問や個別対応、B顧客には定期メールやウェビナー、C顧客にはセルフサーブ対応といった段階的な支援で、満足度と効率の両立が可能です。
▼ROIについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ROIとは?ROASとの違いや計算式をわかりやすく解説!
【部門別】ABC分析の活用シーン
ABC分析は在庫管理でよく使われますが、以下のように様々な部門で使えます。
部門 | 活用例 | 期待効果 |
営業 | 顧客別売上のABC分析 | 上位顧客との関係強化・効率化 |
マーケ | LP・コンテンツ・事例のABC分析 | 高ROI施策への集中・改善効率化 |
EC運営 | 商品別売上・在庫のABC分析 | 売れる商品の強化・在庫最適化 |
経営 | サービス別収益ABC分析 | 不採算事業の撤退判断 |
カスタマーサクセス | クレーム件数や継続率のABC分析 | ハイリスク対応顧客の先回り管理 |
採用・人事 | 応募経路や媒体のABC分析 | 効率的な母集団形成と媒体選定 |
ここでは、代表的な活用シーンを見ていきましょう。
商品別売上分析
売上分析で全商品を一律に扱うと、施策の精度と効率が下がります。ABC分析を導入すれば、売上や利益に貢献する主力商品(Aランク)を特定し、戦略的にリソースを集中できます。
Aランクには広告や接客強化、棚割りの優遇などで販売を促進。Cランクはプロモーション対象から外す、廃番を検討するなどの対応で、在庫回転率の向上や倉庫効率化が期待できます。
商品点数が多く、売れ筋の変動が大きいアパレルやEC業態では、無駄のない商品戦略を組む上で特に有効です。
顧客別収益分析
顧客の収益性やLTV(顧客生涯価値)に基づいて分類すれば、営業やカスタマーサクセスの対応を最適化できます。
たとえば、Aランク顧客には専任担当による個別支援、Bランクにはウェビナーや共通資料、CランクにはチャットボットやFAQシステムなどのテックベースで効率的な対応が可能です。
また、解約率の高い層を把握すれば、早期に対策を講じることもできます。収益性とサポート効率を両立するうえで、ABC分析は有効な手法です。
▼LTV(ライフタイムバリュー)についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
LTV(ライフタイムバリュー)とは?算出方法や最大化するポイント
在庫管理
ABC分析は、在庫管理で広く使われる代表的な手法です。売上や出荷頻度に応じて品目を分類することで、保管コストや欠品リスクを抑えることができます。
A品目は在庫を厚めに確保し、B品目は動向を見て調整、C品目は都度発注や削減を進めることで、スペースや棚卸しも効率化されます。
とくに品目が多く管理負荷の高い物流倉庫や製造業では、ABC分析による重点管理が業務効率を大きく向上させます。
コールセンターの問い合わせ分析
問い合わせ対応でもABC分析は有効です。過去の問い合わせを件数順に分類すれば、改善の優先順位が明確になります。
Aカテゴリは件数・影響が大きいため、FAQやチャットボットによる自動対応の利用を整備。Bカテゴリは標準化、Cカテゴリは個別対応にとどめるか、削除の検討も可能です。
これにより、問い合わせ削減、対応時間の短縮、業務負荷の平準化といった効果が期待できます。
ABC分析のやり方・手順
それでは実際に、ABC分析の手順を見ていきましょう。
ステップ | 内容 | 補足 |
ステップ1 | 分析対象と軸を決める | 商品:売上、粗利、回転率顧客:LTV、平均購買単価、契約継続率施策:CV数、CVR、CPA、ROI |
ステップ2 | 指標を降順に並べる | 高い順に並べ、構成比・累積比算出の準備をする |
ステップ3 | 構成比と累積比を計算 | 構成比:各数値 ÷ 全体合計累積比:構成比を順に加算 |
ステップ4 | A/B/Cランクに分類 | A:上位70%までB:70%超〜90%C:90%超 |
ステップ5 | ランク別に戦略を立案 | A:重点施策投入B:効率対応+育成C:自動化・撤退など |
ステップ1:分析対象と軸を決める
最初にすべきは、分析対象と使用する指標を明確に定めることです。対象が曖昧なままでは、分類しても実行に結びつかず、分析が形骸化してしまいます。
分析対象 | 主な指標例 |
商品 | 売上 粗利 回転率 |
顧客分析 | LTV(顧客生涯価値) 平均購買単価 契約継続率 |
マーケティング施策 | CV数 CVR CPA ROI |
軸の選定は、業務の目的やKPIとの整合性が不可欠です。
粗利率より売上規模を優先すべき局面もあれば、利益を重視して高収益商品に注力すべき段階もあります。自社の状況や意思決定の基準に応じて、指標を適切に選ぶことが重要です。
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ステップ2:数値を降順で並べる
ここでは、商品や顧客などの項目を、指標の値が高い順に並べ替えます。これは構成比や累積比を算出し、A・B・Cランクに分類する準備段階です。
たとえば商品別売上を使う場合、全商品の売上をリスト化し、高い順に並べます。ExcelやGoogleスプレッドシートを使えば、Z→Aの降順ソートで簡単に並び替えが可能です。
このとき重要なのが、データにヌケや重複がないかを確認することです。数値の誤りや漏れがあると、結果が歪み、誤った判断につながります。
関連記事:Googleスプレッドシートとは?機能や使い方、マーケティングでの活用法を解説します!
ステップ3:各項目の構成比と累積比を計算
構成比は、各項目の数値が全体に占める割合です。たとえば、ある商品の売上が全体の10%であれば、構成比は10%。Excelでは、各項目の数値を合計で割ることで求められます。
累積比は、構成比を上から順に加算していく値で、上位項目が全体に占める割合を示します。これにより、上位数件で何割を構成しているかが一目で分かります。
この累積比が、A・B・Cランクの境界を設定する指標となります。
ステップ4:ランクをA/B/Cに分類
ここがABC分析の中核となる工程であり、今後のアクション設計に直結するため、明確な基準に基づく分類が欠かせません。
一般的な分類基準は次のとおりです。
● Aランク:累積比率が上位70%まで
● Bランク:70%超〜90%まで
● Cランク:90%超
この基準はあくまで目安ですが、汎用性が高く多くの現場で活用されています。
たとえば売上金額で分類した場合、Aランクの商品が全体の7〜8割を占めていれば、そこにマーケティング資源を集中させる戦略が導けます。
B・Cランクは即時の対応が不要な領域とみなし、優先度を下げることで業務の効率化にもつながります。
ステップ5:ランクごとに戦略を立てる
ABC分析の価値は、分類結果をもとに実行可能な戦略を立てて初めて発揮されます。各ランクに応じた具体的な対応を設計し、業務に落とし込むことが重要です。
ランク | 対応方針 | 具体施策例 |
Aランク | 成果を最大化するため重点施策を投入 | 専任担当・個別訪問(営業) 広告・パーソナライズ(マーケ) 在庫強化(在庫管理) |
Bランク | 効率的に対応しAランクを目指す | 定期セミナーテンプレート 資料簡易フォロー |
Cランク | 撤退・自動化・最小運用を検討 | 自動返信設定対象外リスト化 リソース配分見直し |
ABC分析をする上での注意点
ABC分析の注意点を見ていきましょう。
適切な指標を選ぶ
基準にする指標を誤ると、分析結果と経営判断がかみ合わず、意思決定を誤るリスクがあります。
たとえば商品別に売上金額だけを基準とした場合、粗利が低い商品がAランクに入ってしまい、利益に貢献しない商材へリソースを集中させる恐れがあります。
顧客分析でも、取引額や購入回数だけで分類すると、利益率や将来的な成長性を見落とすことがあります。LTV、継続率、受注確度などの関連指標も含めて評価すれば、より実態に即したランク付けが可能です。
ABC分析の精度を高めるには、短期的な数値にとどまらず、中長期の事業価値を見据えた指標の選定が欠かせません。
定量だけで判断しない
ABC分析は数値に基づく手法ですが、数字だけで判断すると本質的な価値を見誤る恐れがあります。たとえば、売上が少ないためにCランクとされた新規顧客の中に、将来高いLTVを持つ可能性のある顧客が含まれていることもあります。
また、現時点で売上は小さくても、紹介や口コミで他の顧客を呼び込むといった間接的な価値は、数値だけでは把握できません。こうした場合は、定性的な情報を踏まえた柔軟な判断が必要です。
短期の成果に偏らず、将来性や戦略上の重要性も加味し、分類結果を補正・再評価する視点が欠かせません。
ランク付けで満足して終わらない
ABC分析でよくある失敗は、分類だけで満足し、具体的なアクションにつなげられないことです。
Aランクに対し、どんな施策を講じるのか、どのチャネルを使い、どれだけコストをかけるのかといった実行計画がなければ、分析の効果は限定的です。
Cランクも同様で、放置するのか、定期対応にとどめるのか、廃止するのかといった方針を事前に定めておく必要があります。対応が曖昧なままでは、現場は動けません。
分類の先にある戦略設計まで実行してこそ、実務で活きる分析になります。
ABC分析でよくある質問
最後にABC分析でよくある質問に回答します。
ABC分析とは?
ABC分析は、売上や利益などの数値をもとに対象をA・B・Cの3段階に作成し、重点的な管理や施策を行うための分析手法です。
ABC分析のAの割合は?
一般的には、累積構成比で上位70%までに該当する項目がAランクとされます。Bは70〜90%、Cは90%以上が目安です。
ABC分析とパレート分析の違いは?
パレート分析は重要項目の傾向を可視化する手法で、ABC分析はその傾向をもとにランク分けして行動に落とし込むための手法です。前者が傾向の把握、後者が戦略設計に活用されます。
ABC分析と重点分析の違いは?
重点分析は複数の評価軸を総合的に加味して対象を評価するのに対し、ABC分析は特定の数値指標に基づいて単軸で分類を行います。
まとめ:ABC分析でリソースの最適化を図ろう
ABC分析は、膨大な情報から重要な要素を見極め、限られたリソースを最も効果的な領域に集中させる実践的なフレームワークです。分類だけでなく、戦略や運用に活用することで、業務効率や売上、ROIを最大化できます。
特にBtoB企業では、誰に何をどう届けるかの選別が欠かせません。ABC分析は判断軸を数値で構造化し、現場で使える意思決定の基盤を提供します。
重要顧客や高収益商品にリソースを集中させるには、チャネルの精度も重要です。BtoBリード獲得に強いHRプロのような専門メディアを活用すれば、Aランク対象への的確なアプローチが可能になります。
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