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STP分析の次はどうする?ペルソナ設定とマーケティングミックス
STP分析によって「どの市場(セグメント)で、誰をターゲットに、どのような立ち位置で勝負するか」という事業の骨格が定まったら、次はその戦略を具体的なアクションに落とし込む段階に進みます。STP分析がマーケティング戦略の「What(何を)」を決めるものだとすれば、これから解説する「ペルソナ設定」と「マーケティングミックス」は「How(どのように)」を具体化する重要な戦術です。この2つのステップを着実に実行することで、STP分析で描いた戦略が絵に描いた餅で終わるのを防ぎ、成果につながる施策を展開できます。
より具体的な顧客像を描くペルソナ設定
STP分析のターゲティングで定めたターゲット層を、さらに深掘りして一人の具体的な人物像にまで落とし込んだものが「ペルソナ」です。ターゲットが「30代・都内在住・IT企業勤務の女性」といった属性の「集団」を指すのに対し、ペルソナは氏名、年齢、職業、家族構成、趣味、価値観、ライフスタイル、抱えている悩みまで詳細に設定した「個人」を指します。
なぜ、ここまで具体的に人物像を描く必要があるのでしょうか。それは、関係者全員が顧客に対する共通認識を持つためです。ペルソナを設定することで、商品開発、マーケティング、営業など、部門を横断して「この人のために」という一貫した視点で意思決定ができるようになります。これにより、施策のブレがなくなり、より顧客の心に響くアプローチが可能になるのです。
ペルソナを作成する際は、以下のような項目を設定していきます。
- 基本情報:氏名、年齢、性別、居住地、最終学歴、職業、役職、年収、家族構成
- ライフスタイル:1日の過ごし方、休日の過ごし方、趣味、価値観、よく利用するSNSやWebサイト
- 性格・価値観:物事の考え方、情報収集への積極性、購買決定のプロセス
- 目標と課題:仕事やプライベートで達成したいこと、抱えている悩みや不満
- 自社製品/サービスとの関わり:製品を知ったきっかけ、利用シーン、購入の決め手、利用後の感想
重要なのは、ペルソナを憶測や理想で作るのではなく、実際のデータに基づいて作成することです。既存顧客へのインタビューやアンケート調査、アクセス解析データ、営業担当者へのヒアリングなどを通じて、リアルな顧客像を浮かび上がらせましょう。
関連記事:ペルソナとは?必要な理由と作り方のコツ
具体的な施策に落とし込むマーケティングミックス(4P)
ペルソナ設定で顧客像が明確になったら、次はそのペルソナに「何を」「いくらで」「どこで」「どのように」届けるかを具体的に決めていきます。この時に役立つフレームワークが「マーケティングミックス(4P)」です。4Pとは、以下の4つの要素の頭文字を取ったもので、これらを組み合わせることで一貫性のあるマーケティング施策を立案します。
4つの「P」はそれぞれ独立しているわけではなく、相互に深く関連し合っています。STP分析で定めたポジショニングと、設定したペルソナの人物像に整合性が取れるように、4つのPを慎重に組み合わせていくことが成功の鍵となります。
要素 | 概要 | 検討する具体例 |
---|---|---|
Product(製品・サービス) | 顧客のニーズを満たす製品やサービスそのもの。 | 品質、機能、デザイン、ブランド名、パッケージ、保証、アフターサービスなど |
Price(価格) | 製品やサービスの価格設定。企業の利益と顧客が感じる価値のバランスが重要。 | 定価、割引、支払方法、与信取引など |
Place(流通・チャネル) | 顧客に製品やサービスを届けるための経路や場所。顧客との接点。 | 店舗、ECサイト、代理店、営業担当者、物流、在庫管理など |
Promotion(販促・プロモーション) | 製品やサービスの認知度を高め、購買を促すためのコミュニケーション活動。 | 広告(テレビ、Web)、SNSマーケティング、PR(プレスリリース)、セールスプロモーション(キャンペーン、イベント)など |
例えば、「高品質なオーガニックコスメ」というポジショニング(Positioning)で、「健康や環境への意識が高い30代女性」というペルソナを設定したとします。この場合、4Pは以下のように一貫性を持たせることが考えられます。
- Product:無農薬原料にこだわった高品質な製品。環境に配慮したシンプルなパッケージ。
- Price:高品質を維持できる、やや高めの価格設定。安易な値引きは行わない。
- Place:ブランドイメージに合う百貨店やコスメ専門店、公式オンラインストアで販売。
- Promotion:ライフスタイル系の雑誌やWebメディアへの掲載、インフルエンサーによるSNSでの発信。
このように、STP分析からペルソナ、4Pまでが一気通貫していることが、ターゲット マーケティングを成功させる上で極めて重要です。この一連の流れを意識することで、戦略と戦術が連動し、マーケティング活動の効果を最大化することができるでしょう。
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・4Pとは?マーケティングミックスとも呼ばれる戦略を解説
・マーケティングミックス(4P)とは?マーケティング実行戦略の基本を学ぶ
国内企業の成功事例から学ぶターゲット マーケティング
ここでは、優れたターゲット マーケティングによって大きな成功を収めた国内企業の事例を3つご紹介します。自社の戦略を考える上で、これらの企業のSTP分析の進め方やポジショニングの考え方は非常に参考になるはずです。
事例1 スターバックス コーヒー ジャパン
スターバックスは、単にコーヒーを売るのではなく、「サードプレイス(Third Place)」という新しい価値を提供することで、独自のポジションを築き上げた代表的な企業です。家庭(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない、自分らしくくつろげる「第3の場所」を求める顧客層をターゲットに設定しました。
従来の喫茶店やセルフサービス式のコーヒーショップとは一線を画し、「豊かなコーヒー体験」を軸に据えたのです。高品質なコーヒーはもちろんのこと、洗練された店内デザイン、心地よいBGM、フレンドリーな接客など、空間全体でブランドの世界観を演出し、顧客の心を掴みました。
要素 | 内容 |
---|---|
セグメンテーション(市場細分化) | コーヒー市場を価格志向、品質志向、利便性志向、空間価値志向などで細分化。特に、都市部に住み、可処分所得が比較的高く、豊かなライフスタイルを求める層に注目。 |
ターゲティング(ターゲット市場の選定) | 高品質なコーヒーと快適な空間で過ごす時間に価値を感じる、20代〜40代のビジネスパーソンや学生、主婦などをメインターゲットに設定。 |
ポジショニング(自社の立ち位置の明確化) | 「高品質なコーヒーと、洗練されたサードプレイスを提供するプレミアムカフェ」。単なる飲食店ではなく、豊かな時間と空間を提供するライフスタイルブランドとしての地位を確立。 |
この明確なターゲット マーケティングにより、スターバックスは価格競争に巻き込まれることなく、高いブランドロイヤルティを持つ熱心なファンを獲得し続けています。
事例2 株式会社ワークマン
作業服の専門店であったワークマンは、ターゲット マーケティングによって新たな市場を切り拓き、驚異的な成長を遂げました。同社の成功の鍵は、既存の資産(プロ品質の製品)を活かしつつ、新たなターゲット層を発見したことにあります。
もともとは建設現場などで働くプロの職人をターゲットとしていましたが、その製品が持つ「高機能性」と「低価格」という強みに着目。この強みが、アウトドアやスポーツ、バイクツーリングなどを楽しむ一般消費者にも響くのではないかと考えました。そこで、プロ向け市場で培ったノウハウを一般向けに展開する新業態「ワークマンプラス」を立ち上げ、これまで手薄だった「高機能・低価格」というアウトドアウェアの空白市場を開拓したのです。
要素 | 内容 |
---|---|
セグメンテーション(市場細分化) | アパレル市場を、従来の「プロ(職人)向け」と、機能性を求める「一般消費者向け(アウトドア、スポーツなど)」に細分化。 |
ターゲティング(ターゲット市場の選定) | 従来のプロ職人に加え、アウトドアやスポーツを楽しむ一般消費者の中でも、特にコストパフォーマンスを重視する層を新たなターゲットとして設定。 |
ポジショニング(自社の立ち位置の明確化) | 「プロが認める品質と機能を、圧倒的な低価格で提供するブランド」。高価格な専門アウトドアブランドと、低価格だが機能性に劣るファストファッションブランドとの間に、独自のポジションを確立。 |
SNSでインフルエンサーが発信したことで人気に火がつき、「#ワークマン女子」という言葉が生まれるなど、当初のターゲットを超えて顧客層が拡大。ターゲットをずらす(ピボットする)ことで大成功を収めた好例と言えるでしょう。
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事例3 JINS(株式会社ジンズホールディングス)
JINSは、メガネ業界の常識を覆すターゲット マーケティングで市場に革命を起こしました。同社は、メガネを「視力矯正器具」から「ファッションアイテム(アイウェア)」へと再定義し、新たな需要を創出することに成功しました。
かつてのメガネは高価で、購入プロセスも複雑なのが当たり前でした。JINSはそこに目をつけ、企画から製造、販売までを一貫して行うSPA(製造小売)モデルを導入。これにより、レンズの追加料金なしという「オールインワンプライス」と、最短30分で受け取れるというスピーディーな提供体制を実現しました。この戦略が、「ファッションとして気軽にメガネを着替えたい」と考える若者層や、「PC作業時の目の疲れを軽減したい」といった特定のニーズを持つ層の心を捉えました。
要素 | 内容 |
---|---|
セグメンテーション(市場細分化) | メガネ市場を、視力矯正の必要性(必要に迫られて買う層)と、ファッション性や機能性(楽しむ・対策するために買う層)で細分化。 |
ターゲティング(ターゲット市場の選定) | 価格を抑え、ファッションとして複数のメガネを所有したいと考える若者層や、ブルーライトカットや花粉対策など、特定の機能性を求める層をターゲットに設定。 |
ポジショニング(自社の立ち位置の明確化) | 「高品質・高機能なアイウェアを、市場最低・最適価格で提供するSPA(製造小売業)ブランド」。従来のメガネ店とは一線を画し、手軽さとファッション性を両立したブランドとしての地位を確立。 |
JINSの成功は、顧客が本当に求めているものは何かを深く洞察し、業界の「当たり前」を疑うことで、新たな市場価値を生み出せることを示しています。
ターゲット マーケティングで失敗しないための注意点
ターゲットマーケティングは、STP分析などのフレームワークを活用することで、効果的に自社の進むべき方向を定めることができる強力な手法です。しかし、そのプロセスで陥りがちな落とし穴も存在します。ここでは、分析を成功に導き、着実に成果を上げるために必ず押さえておきたい3つの注意点を解説します。
注意点1 ターゲットを絞り込みすぎない
ターゲットマーケティングの基本は「選択と集中」ですが、ターゲットを過度に絞り込みすぎると、かえってビジネスチャンスを失う危険性があります。ペルソナを詳細に設定するあまり、市場規模が極端に小さくなってしまうと、十分な売上や利益を確保することが難しくなります。これは「ニッチ」を狙う戦略とは異なり、単に市場として成立しないレベルまで対象を狭めてしまうケースです。
例えば、「東京都港区在住、年収2,000万円以上で、毎週金曜の夜にオーガニックワインを飲む32歳の独身女性」のように極端に設定すると、該当する顧客はごくわずかかもしれません。これでは、どんなに優れた商品やサービスを用意しても、事業としての継続が困難になります。
ターゲティングの段階では、STP分析の評価基準「6R」で触れた「Realistic scale(有効な市場規模)」の観点を常に忘れないようにしましょう。設定したターゲットセグメントが、事業を維持・成長させるために十分な規模を持っているか、冷静に評価することが重要です。もし規模が小さすぎると判断した場合は、セグメントの条件を少し緩和したり、近しい複数のセグメントをターゲットとする「差別型マーケティング」に切り替えたりする柔軟な判断が求められます。
注意点2 定期的に見直しを行う
一度STP分析を行ってターゲットを決定したら終わり、ではありません。市場環境や顧客ニーズは常に変化し続けるため、定期的な見直しが不可欠です。かつては有効だったポジショニングも、競合の参入や新技術の登場、消費者の価値観の変化などによって、その優位性が失われることがあります。
例えば、スマートフォンの普及によって消費者の情報収集行動が激変したように、外部環境の変化は自社のマーケティング戦略の前提を覆すほどのインパクトを持つことがあります。「一度決めたから」と固執せず、市場の変化を敏感に察知し、戦略をアップデートしていく姿勢が成功の鍵を握ります。
見直しを行う際は、以下の表のような観点で自社の戦略を再評価することをおすすめします。
見直しの対象 | 確認するデータ・情報の例 | アクションの例 |
---|---|---|
セグメンテーション(市場の前提) | 顧客の年齢構成やライフスタイルの変化、新たなトレンドの発生、関連法規の改正 | 新たなセグメントの発見、既存セグメントの再定義 |
ターゲティング(標的市場) | ターゲット層の売上推移、LTV(顧客生涯価値)の変化、競合がアプローチしている顧客層 | ターゲット市場の変更・追加、優先順位の見直し |
ポジショニング(自社の立ち位置) | 顧客満足度調査、ブランドイメージ調査、競合の新商品・新サービスの動向、SNSでの評判 | 差別化軸の再設定、ブランドメッセージの変更、新たな価値の提供 |
最低でも半期に一度、あるいは年度ごとにSTP分析全体をレビューし、常に最適なマーケティング活動が行えているかを確認するサイクルを仕組みとして構築しましょう。
注意点3 データに基づいた客観的な分析を心がける
ターゲットマーケティングを進める上で最も避けるべきなのが、担当者の「思い込み」や「希望的観測」に基づいて意思決定を行ってしまうことです。「きっとこういう顧客が我々の商品を求めているはずだ」「この市場は今後伸びるに違いない」といった主観的な判断は、市場の実態と大きく乖離し、戦略の失敗に直結するリスクをはらんでいます。
こうした事態を避けるためには、あらゆるプロセスにおいて客観的なデータを根拠とすることが極めて重要です。自社で収集する「一次データ」と、外部機関などが公表している「二次データ」をバランスよく活用し、多角的な視点から分析を行いましょう。
活用できるデータの種類
- 一次データ(自社で直接収集するデータ)
- 顧客アンケート、インタビュー調査
- 自社サイトのアクセス解析データ(Google Analyticsなど)
- 購買データ、顧客情報(CRMシステムなど)
- 営業部門へのヒアリング結果
- SNSアカウントのインサイトデータ
- 二次データ(外部機関などが調査・公表しているデータ)
- 政府の統計調査(例:e-Stat 政府統計の総合窓口が提供する国勢調査や家計調査)
- 業界団体やシンクタンクが発表する調査レポート
- 民間の調査会社が販売する市場データ
- 新聞や業界専門誌の記事
特に、市場全体の規模やトレンドを把握する際には二次データが、具体的な顧客像やニーズを深掘りする際には一次データが役立ちます。これらのデータを組み合わせ、事実(ファクト)に基づいてセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを構築することで、戦略の精度と成功確率を飛躍的に高めることができるのです。
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まとめ
本記事では、ターゲットマーケティングの基本から、STP分析を用いた具体的な始め方までを解説しました。顧客ニーズが多様化する現代において、この手法は費用対効果や顧客満足度を高め、競合との差別化を図るために不可欠です。セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの3ステップで自社の進むべき道を明確にし、効果的なマーケティング戦略を実践しましょう。