インサイドセールス(以下、IS)を導入する企業が増えています。テレアポやメールによるアプローチを通じてアポイントを獲得し、営業部門に商談をつなぐ。この分業モデルは営業効率を高める手段として広く認知されるようになりました。
しかし、IS部門を設けたにもかかわらず「アポは取れているのに受注が伸びない」という悩みを抱える企業は少なくありません。
当社でもBtoB企業の営業支援に携わるなかで、こうした相談を受ける機会が増えています。多くの場合、問題はIS担当者の能力ではなく、KPI設計と部門間連携の仕組みにあります。
本記事では、ISがアポ獲得数を追うだけでは成果につながらない構造的な理由を整理したうえで、有効商談率と受注額を高めるためのKPI設計と営業連携の考え方について解説します。
著者プロフィール:大村 康雄 (おおむら やすお)
関連リンク
・【超基本〜実践テク】アポイントとは?テレアポ・営業・マーケターも知っておきたい基本とマナー、取り方、メール例文
・KPIの意味とは?初心者にもわかる徹底解説と設定事例
人事・経営層のキーパーソンへのリーチが課題ですか?
BtoBリード獲得・マーケティングならProFutureにお任せ!
目次
インサイドセールスが陥る「アポ獲得数至上主義」の罠
IS部門のKPIとして「アポ獲得数」を設定している企業は非常に多く見られます。指標としてわかりやすく、活動量も測りやすいためです。しかし、この指標だけを追うことで、営業組織全体にさまざまな弊害が生まれることがあります。
アポ数だけを追うことによる弊害
アポ獲得数が最重要KPIになると、「とにかくアポを取る」ことが目的化しやすくなります。顧客の検討段階や課題の深さにかかわらず、少しでも可能性があれば商談を設定してしまうケースが増えるのです。
営業担当者のもとには「話を聞いてみたいだけ」「まだ情報収集段階」といった温度感の低い商談が混在するようになり、商談対応の負荷ばかりが増えていきます。
営業との認識のズレ
こうした状況が続くと、IS部門と営業部門の間に認識のズレが生まれます。IS側は「毎月のアポ目標を達成している」と感じている一方で、営業側は「商談にならないアポばかりが増えている」と不満を募らせていく。この対立構造が放置されると、部門間の信頼関係が損なわれ、連携がさらに弱まるという悪循環に陥ります。
「量」と「質」のバランス
もちろん、ISにおいてアプローチの量を確保すること自体は重要です。量がなければ成果の母数が生まれません。しかし、量を追いかけた結果として商談の質が低下し、営業の工数が無駄に消費されているのであれば、組織全体の営業効率はむしろ下がっています。
このように、アポ獲得数を唯一の指標としてしまうと、ISは活動量に見合った成果を生めない部門になりやすいのです。では、なぜこのような構造が生まれてしまうのでしょうか。
関連リンク:法人マーケ・営業なら知っておきたい「商談と商談化率」の基本&MQLから「確度の高い商談」を生む方法
原因:目標のズレと「質の定義」の欠如
ISが量に偏る背景には、組織設計に起因する3つの構造的な問題があります。
① ISと営業でゴールが異なる
最も根本的な原因は、IS部門と営業部門の最終目標が分断されていることです。ISのゴールが「アポ獲得数」、営業のゴールが「受注額」と設定されている場合、両者の行動は自然と別方向を向きます。ISはアポ数の最大化を目指し、営業は受注確度の高い案件に集中したい。この目標設計の時点で、セクション1で述べた認識のズレが構造的に内包されているのです。
② 有効商談の定義がない
次に多い問題が、「どのような状態の商談を営業に渡すべきか」という基準が存在しないことです。「アポが取れたら営業に渡す」というルールだけでは、商談の質にばらつきが出るのは当然です。
当社の経験上、IS部門から営業に渡される商談のうち、営業が「有効な商談」と感じている割合が半分に満たないケースも珍しくありません。「有効商談とは何か」の共通定義がないことが、量と質の乖離を生む最大の要因です。
③ 商談結果のフィードバックがない
さらに、ISが渡した商談がその後どうなったか――受注に至ったのか、失注したのか、そもそも商談にすらならなかったのか。この結果情報がIS側に戻ってこない企業が多く見られます。フィードバックがなければ、ISはアポの質を改善する手がかりを持てず、同じパターンのアポを出し続けることになります。
このように、目標の分断、有効商談の定義不在、フィードバック不足の3つが重なることで、ISが成果に結びつかない構造が固定化してしまうのです。
関連記事
・リード獲得だけでは成果にならない|商談化率を変える「初動対応」の設計とは?【エッジコネクション代表 大村氏連載 第8回】
・案件化率アップの秘訣!営業支援会社が実践する“商談を前進させる”ヒアリング術【エッジコネクション代表 大村氏連載 第2回】
・営業成果が伸びない企業に共通する「失注理由の放置」とは?~受注率を高める営業改善の進め方~【エッジコネクション代表 大村氏連載 第9回】
解決策:「有効商談」から逆算するKPI設計と営業連携
この構造を変えるには、ISの評価軸そのものを再設計する必要があります。
ポイントは3つです。
① 最終目標を「創出パイプライン額」に変える
まず見直すべきは、IS部門の最終目標(KGI)です。アポ獲得数ではなく、「ISが生み出した商談の見込み金額合計(創出パイプライン額)」を最終指標に据えます。これにより、ISの活動と受注額が直接つながり、「数を出せばいい」という意識から「受注につながる案件を生み出す」という意識への転換が促されます。
当社でも営業支援の現場では、商談から成約までの流れを「収益経路」として定義し、各段階の転換率を可視化しています。ISが創出した商談がどの段階まで進んだかを追跡できる仕組みがあれば、アポの価値が数字として見えるようになります。
関連リンク:パイプラインの種類とは?セールスとマーケティング活動に重要な管理方法と手順を解説
② 商談の質を測る中間KPIを設ける
KGIを変えるだけでなく、日々の活動を導く中間KPIの設計も欠かせません。
たとえば、以下のような指標です。
- ターゲット含有率(アプローチ先のうちターゲット条件に合致する企業の割合)
- 決裁者到達率(商談設定時に決裁者もしくは決裁ルートを把握できている割合)
- ヒアリング完了率(課題・予算・時期感など所定の項目を確認できた割合)
これらは原因②で触れた「有効商談の定義」を数値化したものです。
定義を決めるだけでなく、KPIとして運用に落とし込むことで、IS担当者は「営業が次のステップに進みやすい状態をつくる」ことを日々意識できるようになります。
③ 引き渡し基準と対応基準を双方で合意する
KPIの再設計と合わせて取り組むべきなのが、ISと営業の間の連携ルール設計です。
具体的には、「この条件を満たしたリードを営業にパスする」という引き渡し基準と、「営業は受け取ったリードに対して何営業日以内に初回接触を行う」という対応基準を、双方で合意しておきます。
このように、最終目標の変更、中間KPIの設計、連携ルールの策定を組み合わせることで、ISの評価軸は「どれだけアポを取ったか」から「どれだけ受注に貢献したか」へと転換していきます。
ISを「売上を生む部門」へ変革する
KPIと連携ルールを見直すことで、ISの組織内での位置づけは大きく変わります。
コストセンターからプロフィットセンターへ
ISを「費用を生む部門」ではなく「売上を生む部門」として位置づけるには、ISの活動と受注額の関係を組織内で可視化する必要があります。ISが創出した商談の受注率や受注金額をトラッキングし、定期的に共有する仕組みがあれば、IS部門の貢献度が明確になり、経営としての投資判断もしやすくなります。
改善サイクルを回す仕組みをつくる
KPIや連携ルールは一度設計して終わりではありません。重要なのは、原因③として挙げた「フィードバックの有無」を仕組みで解消することです。
当社でも営業支援の現場では、ISから渡した商談の結果を定期的に振り返り、引き渡し基準や中間KPIの妥当性を検証し直しています。
この改善サイクルが回ることで、ISは「どのような条件のアポが受注につながりやすいのか」を自ら学習し、商談の精度を高めていくことができます。
現場で見られる変化
当社がクライアント企業の営業支援を行うなかで、ISのKPIをアポ獲得数から有効商談ベースに切り替えた結果、アポの総数自体は減少したものの、営業が「商談になる」と感じるアポの割合が大幅に増え、結果として受注額が伸びたケースがあります。アポ数が減ることに対して当初は不安の声もありましたが、営業側の商談対応の質が上がり、1件あたりの受注単価も改善されました。
このように、ISの評価軸を変えることは、IS部門だけでなく営業組織全体の成果向上につながります。
まとめ
ISの役割は「アポを取ること」ではなく、「営業が受注に集中できる商談をつくること」にあります。しかし、アポ獲得数をKPIとして設定している限り、ISの活動と受注成果はつながりにくくなります。
成果を出している企業では、ISのKPI設計を以下のように再構築しています。
- KGIをアポ数から「創出パイプライン額」に変更する
- ターゲット含有率や決裁者到達率など、商談の質を測る中間KPIを設ける
- ISと営業の間で引き渡し基準と対応基準を合意する
- 商談結果のフィードバックを仕組み化し、改善サイクルを回す
これは大がかりなシステム導入を必要とするものではなく、「有効商談とは何か」を定義し、ISと営業が共通の基準を持つところから始められるものです。
ISを「アポを量産する部門」から「売上を生む部門」へ変革するために、まずはKPI設計の見直しから取り組んでみてはいかがでしょうか。

