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トリニティの星川哲視社長

【前編】iPhone用保護ガラスで首位、トリニティが明かす「大企業に勝つマーケティング」の全貌

2023.12.28
読了まで約 6

新しいスマートフォンを購入する際、多くの人が同時に購入するのが、スマートフォンの前面ガラスを保護するフィルムだ。この保護フィルムのうち、高機能ガラスで作られた商品分野で首位級のシェアを誇るのが埼玉県新座市に本社を置くトリニティ株式会社だ。トリニティは従業員23人の小さな会社。しかし、その実力は高く、2023年4月期の年商40億円、税引前当期利益3.3億円を稼ぐ。小粒ながら隠れた優良企業だ。

スマートフォンの前面ガラスを保護するだけの商品だが、その対象になるスマートフォンは年間3000万台(国内2022年実績)も販売されている。昨今は主流の素材が柔らかいPET素材から強化ガラスへと変わっている。端末価格の高価格化もあって、本体保護にも高い強度を求められる。そのため、1000〜2000円台と値の張る保護ガラスが飛ぶように売れている。

トリニティはiPhoneシリーズ向け保護ガラスでは国内トップ。そしてAndroid端末向けも、シャープ「AQUOS」、ソニー「Xperia」、グーグル「Pixel」といった有名ブランド端末向け製品で首位級の強さを発揮している。

なぜトリニティが、このジャンルにおいてエレコムなどの大手と肩を並べられるようになったのか。なぜヨドバシカメラ、ドンキホーテのような量販店で良い売り場を確保できているのか。もちろん商品そのものの魅力を高めるため、こだわったモノづくりをしていることは間違いないが、そこにはコンパクトな会社ならではのマーケティング戦略があった。

小さなスタートアップが大企業に勝つために、何をするべきか。そして何をしてはいけないのか。トリニティの成功の軌跡には、マーケティングのヒントが数多く詰まっている。

起業当初は輸入商社だった

創業者の星川哲視社長は、好きだった音楽の世界に関わりたいと考え、プロ用音響機材の輸入商社に就職。プロダクトマーケティング担当として働いていた。音楽用にMacを愛用していた星川は、自然とアップル関連製品にのめりこんでいく。当時、ライバルを圧倒して快進撃を始めていた携帯音楽プレーヤー「iPod」と出会ったことで、さらにアップルブランドへの想いを強くしていた。

ところが、この商社がアップル関連製品を取り扱う部門を閉鎖するという経営判断をした。星川は、輸入していたアップル関連製品の海外メーカーに強い共感を持っていたこともあり、勤務先が取り扱いを中止するアップル関連製品ブランドの代理店契約を引き継ぐ形で2006年に独立。トリニティを起業した。起業時のメンバーは星川を含めて3人。商社時代からの同僚で、設立当初は自社製品、自社ブランドを持たない純粋な輸入商社だった。

自分自身が好きで日本での取り扱い継続を望んだブランド「BlueLounge」の商品は独立後も順調に販売を伸ばしていく。展示会に通いながら、自分好みのものを見つけて商品のカタログ数を増やし経営は安定し始めた。しかし、自分が欲しいと思う商品を必ず見つけられるわけではない。

資金的な余裕が生まれてくると、世の中にある商品を仕入れて売るだけでなく、自分が欲しいものを作ろうと思うようになった。そこで2008年にスタートしたのが、自社ブランドの「Simplism(シンプリズム)」だった。

2008年といえば、2001年に登場したiPodが大躍進を続けているタイミング。ソニーをはじめとするライバルを薙ぎ倒し、北米ではCDの売り上げが急速に減少するとともにiTunes Music Store(当時:その後のiTunes Store)からの楽曲ダウンロード販売が急伸していた。長く閉じられていた日本市場においても、2006年から音楽配信が開始されており、まさに音楽のダウンロード革命が進行していた。

そんな伸び盛りのアップル製品向けのアクセサリーとして、iPod nano(第2世代)向けのケースを開発。これが自社開発製品の第一号だった。星川は次のように振り返る。

「他社が作った良いものを探して仕入れ販売をしていたが、欲しいものがすべて揃うわけではない。そこで自分たちが欲しい、そしてアップルファンならきっと欲しがるだろうと思うものを、直接、生産地である中国企業へ委託生産することにしました」

当時、国内の多くの周辺機器、アクセサリーメーカーは、日本の端末メーカー向けを軸に商品開発をしており、アップル製品のユーザーニーズに焦点を当てて、オリジナルの製品を作り込むことに取り組む企業は多くなかった。そうした中でアップルにフォーカスしたアクセサリーを企画、開発、販売したことがソフトバンクの目に留まった。

2008年、日本で初めてのiPhoneであるiPhone 3GSが国内発表された際、ソフトバンク・孫正義社長(当時)が催したiPhone発売の発表会でサードパーティー製アクセサリーが紹介される際に、星川もステージに登壇。ポリカーボネート製の保護ケースについてプレゼンテーションする機会を得た。

画像:008年、ソフトバンクのiPhone3GS発表会に登壇
2008年、ソフトバンクのiPhone3GS発表会に登壇

そのチャンスが得られたのは、丸みを帯びたiPhone 3GSにふさわしい、「自分が欲しいもの」を作ったからこそ。典型的なプロダクトアウト型のモノづくりが、最初期のiPhone黎明期にマッチしたからだった。

「貼るピタUltra」でユーザー体験を改善

保護ケースの次に力を入れたのが、保護ガラスだった。なぜここに目をつけたのだろうか。

「スマートフォンの保護ケースに力を入れていた弊社が、保護ガラスに注目したのは、私自身がそれまでの柔らかい保護フィルムに不満を抱えていたから。iPhoneをはじめスマートフォンは、表示される画面に直接タッチして操作するため、ガラスの触感や指紋のつきにくさなどは使い心地に大きく影響します。一方でその大切なディスプレイ面を保護するフィルムはPET素材だと傷付きやすく、また指の滑りが悪いなど操作感を損ねていた。そこで、自分自身が欲しかった、ガラス素材にフッ素素材などを用いたiPhone本体と同等レベルのマルチコーティング高機能保護ガラスを開発したのです」

保護フィルムの素材を単にガラスにしただけではない。ユーザー体験も改善した。保護フィルムをきれいに貼るには、ガラス面をクリーニングし、ゴミが付いていない状態で空気を入れずに貼り付けねばならない。位置合わせも重要で、画面の額縁が極めて小さい現代のスマートフォンで正確に保護フィルムを貼るのは至難の業だ。星川はここにこだわった。

「もし位置がズレているからと貼り直すと、その時点でゴミが混入するなどで理想的な仕上がりにならないことも多い。そこで簡単に誰でもきれいに貼れるための仕掛けを考案。商品に盛り込んでいきました」

毎年のように工夫を重ねる。これに他のアクセサリーメーカーも追随してきた。しかし、現在の「貼るピタUltra」では、ついにパッケージの箱にiPhoneを入れ、複数回、手順に従ってフィルムを引き抜くだけで綺麗にピッタリ理想的な位置にガラスを貼れるまでに。この機能があるのは現在もトリニティだけ。ライバルは追随できていない。

画像:それぞれの機種に対応したガラス製保護フィルムをきめ細かくラインナップしている
それぞれの機種に対応したガラス製保護フィルムをきめ細かくラインナップしている

消費者に寄り添ったきめ細かな製品開発は小規模メーカーならではだが、それだけでシェア1位を確保しているわけではない。星川は、販売店が望む売り場構成にフィットした商品開発を行う、高度なマーケットイン戦略も実践した。

「販売店ごとに商品開発を行うのではなく、1つの商品を全ての店に大量販売したほうが効率的。ただこのやり方ではエレコムさんのような大手と正面から激突して、体力勝負になってしまう。そこで正面からの戦いを避けて、売り場に最適化しきめ細かい商品開発をすることで独自のポジショニングを得るようにしました。はじめはニッチだったが、売り場の支持を得られたことで、このやり方のほうが販売量も多くなり、トップシェアを獲得できるようになったのです」

販売店が望む顧客層に合わせて商品開発

具体的には、各販売店の売り場ごとの要求にあわせたラインナップを揃える超多品種戦略を採用している。

例えば驚安で知られる都市型量販店のドンキホーテ。ドンキホーテは、圧縮陳列のため、同じ特徴の商品を複数ブランド置くようなことはしない。同じような商品を複数置いて顧客が迷ってしまうのを避けて、顧客が求める要素を組み合わせて棚割りの段階から求める商品の特徴を決めている。

トリニティは想定する顧客ニーズごとに異なるパッケージデザインや仕様を用意し、高品位と言われる主要ガラスメーカーのブランドをすべて取り揃えることで、ドンキホーテが望む顧客ニーズをすべてドンキ専用商品だけで埋める。

さらには、その棚割りごとの訴求ポイントなどをまとめたPOPもトリニティ側で提案し、売り場作りから協業する。「パッケージデザインやキャッチコピーも、ドンキホーテでいかにも売られているようなものにしている」(星川)。販売の現場から支持を得ることで、二人三脚で売り上げを伸ばしていった。

同様の商品作り、売り場作りはヨドバシカメラ、ビックカメラ、上新電機など、7つの主要取引先となる流通ごとに、担当営業が間に入って毎年掘り下げていくという。

例えばヨドバシカメラは「日本ブランド」にこだわり、日本のガラスメーカーが作る強化ガラスに特化したパッケージデザインや機能性を提案している。

どうしてきめ細かく対応できるのか

顧客のことは、販売店の現場社員が一番よく知っている。販売店には個性があり、それぞれ独自の販売戦略を練っている。ある販売店はインバウンド需要を想定して日本製にこだわる、別の販売店はパッケージデザインを工夫して女性向けの販売に力を入れる、といった具合だ。販売戦略は定期的に刷新され、それに合わせて売り場が作られていく。

スマートフォンのアクセサリーは基本的に、同じものを大量に作る方が収益性が高い。大手メーカーになるほど大量に同じものを販売したい。しかし同じ仕様の製品しかないということは、販売店サイドからみれば売り場の差別化をできないということでもある。

この隙間部分に、トリニティは独自の地位を得ることに成功した。

商品ごとのロットは小さくなるが、それでも流通が力を入れたいと考えているシナリオに合わせた商品開発を行うことで売り場に切り込んできた。iPhoneが新製品を発表すると、そこから派生して700から800もの製品を作っている。在庫管理が難しいのではないか、との疑問が思い浮かぶのだが、星川は次のように説明する。

「量販店の場合は採用を決めてもらえれば全店舗向けに一定の数量を適正な価格で卸売できるわけです。売れ行き動向をみながらきめ細かく補充をしていくので在庫レベルを抑えることも可能。競合他社の決算を見ると、うちの5倍以上も在庫を持っているところがある。超多品種であっても工夫すれば在庫を抑えられる、ということでしょう」

星川は「地元愛が強く」、会社を六本木など都心に移すことに興味はない。株式上場も考えていない。会社の規模を大きくすることにも興味はないという。東武東上線志木駅からほど近い住宅街にある本社で、邪念のない経営に専心してきたことも、iPhone用保護ガラスで首位を獲得した背景要因といえるだろう。

ここで話が終わると真面目な会社の地味な成功物語だが、話はまだ続く。星川は「Simplism」で稼ぎながら、次の展開を狙っているのだ。後編(「マーケットイン」で稼ぐトリニティが「プロダクトアウト」の製品開発を大切にする納得理由)では、今後の戦略について紹介しよう。(敬称略)

編集者

山田俊浩(やまだ としひろ)

東洋経済新報社 編集局次長
2020年10月から現職。2014年5月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。就任時には月間3000万PVだった東洋経済オンラインを月間2億PVを超える大手新聞社に匹敵する大型ニュースサイトへと引き上げた。2019年1月から2020年9月までは週刊東洋経済編集長。著書に『稀代の勝負師 孫正義の将来』(東洋経済新報社)がある。また不定期でAbemaTV の『ABEMA Prime』(アベプラ)にコメンテーターとして出演中。趣味はオーボエ演奏で都民交響楽団に所属。

執筆者

本田 雅一(ほんだ まさかず)

ITジャーナリスト
IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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