MA導入やナーチャリング設計、営業との連携、データ活用など、BtoBマーケティングを取り巻く手法やツールは年々充実してきました。かつては一部の先進企業だけが取り組んでいた施策も、今では多くの企業が当たり前のように実行しています。
一方で、こうした環境整備が進んだにもかかわらず、マーケティング成果に対する不安や手応えのなさを感じている企業は少なくありません。施策は増えているのに、売上や受注との距離感が縮まらない。このギャップに悩む声は、業界を問わず広く聞かれます。
この背景にあるのは、施策そのものの成否ではなく、それらを成立させる前提が曖昧なまま運用されていることです。市場の選び方、顧客の意思決定構造、提供価値の位置づけ、成果の捉え方。こうした前提が整理されていなければ、施策が増えるほど全体は複雑化していきます。
本稿では、BtoBマーケの成果を左右する要因を「前提条件の設計」という視点から捉え直し、施策を機能させるための考え方を整理していきます。
著者プロフィール:大村 康雄 (おおむら やすお)
人事・経営層のキーパーソンへのリーチが課題ですか?
BtoBリード獲得・マーケティングならProFutureにお任せ!
目次
「やるべき施策」は一通り実行しているはずなのに…
MAを導入し、ナーチャリングのシナリオを設計し、営業とも定例で連携している。数字も可視化され、レポートも定期的に共有されている。それでも、「なぜか商談につながらない」「結局、受注は営業次第になってしまう」と感じる現場は少なくありません。
このような状況では、「もう少し精度を上げれば改善するのではないか」「コンテンツが足りないのではないか」と、施策の微調整に意識が向きがちです。しかし、施策を積み重ねても成果が変わらない場合、問題は運用レベルではなく、もっと手前にある可能性があります。
例えば、誰を想定してコンテンツを作っているのか、どの意思決定段階で使われる情報なのかが整理されていないまま施策が走っているケースです。その結果、個々の施策は成立していても、顧客の意思決定プロセス全体を前に進める設計になっていません。
つまり、「やるべきこと」は揃っているのに成果が出ない状態とは、施策が不足しているのではなく、前提条件が噛み合っていない状態だと言えます。次章では、そのズレがどこで生まれているのかを具体的に整理していきます。
BtoBマーケが失敗する“3つの前提条件ミス”
MAやナーチャリングを実施しても成果が出ない企業には、共通した構造的なつまずきがあります。ここでは、BtoBマーケが失敗に陥りやすい3つの前提条件ミスを整理します。
1.市場や顧客の意思決定構造を誤って捉えている
BtoBの購買は、複数人が関与し、予算や稟議、導入リスクなど多くの制約を伴います。しかし、「リードを育成すれば商談になる」と意思決定を単純に捉えがちなケースが多くあります。
その結果、コンテンツや資料は増えても、それぞれの情報がどのような部署の・どのような担当者の・どんな課題に役立つのか、あるいは検討のどの局面で活用できるのかがデザインされていません。そのため、せっかくの施策が「点」に留まり、顧客の意思決定フローという「線」に沿って効果を発揮できないのです。
2.提供価値が顧客の判断軸と噛み合っていない
企業は自社の機能や強みを訴求しますが、顧客が知りたいのは、それが自社の解決したい課題にどう影響するかです。「業務効率化」「属人化解消」といった言葉も、導入した効果がどの部署のどんな担当者の評価を高めるのか、あるいはどの担当者が普段抱えているどんなリスクを下げるのかまで翻訳されていなければ、判断材料になりません。
このズレがあると、MAツール上で評価が高まっても、営業段階で話が進まなくなります。
3.営業・マーケティング・経営で成果の定義が揃っていない
マーケはリード数、営業は受注確度、経営は売上や利益を見るなど、指標の違い自体は問題ではありません。しかし、そのズレが共有されていないと、マーケは成果を出しているつもりでも、営業からは「決まらない商談」と評価され、連携が形骸化します。
この状態では、数値を見てもそれぞれが噛み合っていないため、その後の展開が読めず、データが意思決定に活かされません。
これらに共通するのは、「何をするか」の前に、受注を増やしていくという最終ゴールに向けてそれぞれの部署がどのような役割を担うのかが整理されていないことです。
次章では、成果を出す企業が施策以前にどのような前提条件を設計しているのかを整理していきます。
関連リンク:KPI・KGIの違い~目標達成に欠かせない2大項目の活用を考える
成果が出る企業が最初に設計している“前提条件”
MAツールの導入やナーチャリングをして成果を出している企業は、施策に着手する前に「前提条件」を丁寧に設計しています。彼らが重視しているのは、施策の数やツールの新しさではなく、「どの土俵で、どのように勝つのか」という全体構造です。
まず行っているのが、【仮説に基づいた市場の選び方と勝ち方の定義】です。
価格帯や導入リスク、競合状況によって、有効なマーケティング手法は異なります。
成果を出す企業は、「この市場では、どのような差別化ポイントを押し出し、どのように顧客に認知されれば受注に近づくのか」という仮説を持ったうえで施策を設計しています。仮説を持つことでうまくいかないときにどのポイントを修正すべきかが見えてきます。
次に、【顧客の意思決定プロセスを具体化】しています。
誰が課題を認識し、誰がリスクを懸念し、誰が最終判断を下すのかを整理し、それぞれに必要な情報を適切なタイミングで提供します。これにより、ナーチャリングを通じて社内意思決定を円滑にするサポートを行います。
また、【提供価値を「顧客が社内で説明できる言葉」に翻訳】している点も特徴です。
導入効果がどの指標に影響し、誰の評価に関わるのかまで整理すると、営業段階でも話が進みやすくなります。
さらに、【営業・マーケ・経営で、成果の定義と判断軸を共有】することで、データが意思決定に活かされます。前提条件が整っているからこそ、施策は成果に結びつくのです。
“前提条件”を見直すための実務ステップ
前提条件の重要性を理解しても、「では、何から手を付ければいいのか」が分からなければ、実務は前に進みません。
ここでは、BtoBマーケの現場で実行しやすい3つのステップに分けて、前提条件を見直す方法を整理します。
1.市場適合の検証
最初に行うべきは、市場と施策の適合性を見直すことです。
この施策は、本当にその業界や価格帯、商材特性に合っているのかを問い直します。
例えば、基幹システムといった検討期間が長く、稟議プロセスが複雑な商材に対して、期間限定のキャンペーンを打ち出すなど、短期的な行動変容を前提としたナーチャリングを設計しても、成果は出にくくなります。
まずは、ターゲット市場における購買プロセスや制約条件を整理し、「この市場では何がボトルネックになりやすいのか」を明確にすることが重要です。
2.価値の翻訳
次に取り組むべきは、自社の提供価値を顧客の意思決定に使われる言葉へと翻訳することです。
スペックや機能の説明で終わっている箇所があれば、その結果、どのようなメリットがあるのかまでを記載、表現すること。また、「業務効率が下がります」ではなく、「〇〇に関する業務が平均〇〇時間削減された実績があります」など、客観的な表現で伝わるようにすると、より効果が出ます。
3.判断設計
最後に必要なのが、マーケティング施策で収集されたデータを見て、次の行動を決める「判断の仕組み」を設計することです。数値を可視化しても、「どの状態になれば改善されたと判断するのか」「どの指標が変われば施策を修正するのか」が定まっていなければ、効率化は進みません。
商談設定数が増えても成約数が増えていない場合は、何かしらのエラーが発生していると認識する。特に施策を打っていないのに改善された数値があれば、現場レベルでの改善が行われた可能性が高いので、何が起こったのか必ず解明するなど、営業・マーケ・経営で判断基準をすり合わせ、共通の判断軸を持つことで、データは報告用の数字ではなく、意思決定や今後のアイディアの材料として機能します。
これら3つのステップは、特別なツールや大規模な改革を必要としません。重要なのは、施策を追加する前に立ち止まり、「この前提は正しいのか」を問い直すことです。つまり、それぞれの部署や施策の全体設計を注視していくことが、BtoBマーケの成果を安定させる最短ルートになります。
まとめ
MA導入やナーチャリング、営業連携など、BtoBマーケティングの施策は年々高度化しています。しかし、やるべき施策を増やすことが、そのまま成果につながるわけではありません。成果が出ない原因の多くは、施策の不足ではなく、それらが機能するための「前提条件」が正しく設計されていない点にあります。
市場や顧客の意思決定構造、提供価値の翻訳、部門間で共有された成果の定義。これらが曖昧なままでは、MAやナーチャリングは単なる作業になり、現場の負荷だけが増えていきます。重要なのは、それぞれの部署が「何をするか」を考える前に、他部署との連携を鑑みた上で各種施策全体として前提条件に合致しているかを見直すことです。
BtoBマーケの成否を分けるのは、施策の巧拙ではありません。
戦う土俵を正しく設計し、その上で施策を積み重ねていくことこそが、成果を安定して生み出すための本質的なアプローチです。

