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なぜ人は「不格好な主人公」に惹かれるのか?プロセスエコノミーとストーリーテリングによる「応援されるブランド」の作り方

2026.1.13
読了まで約 8

「完成品」よりも、その「製造過程」が価値を持つ、「プロセスエコノミー」という考え方を掘り下げて紹介します。

なぜ現代において、人々は完璧なものより不完全な物語に惹かれ、作り手を「応援」したくなるのでしょうか?その核心にある心理を解き明かし、ストーリーテリング(情報やメッセージを物語仕立てで伝える手法)を用いてファンとの強い絆を築く「応援されるブランド」の作り方を、具体的な手法から国内の成功事例まで交えて解説していきます。

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はじめに:プロセスエコノミーとは何か

現代のマーケティングにおいて注目度を増している「プロセスエコノミー」という概念の基本から掘り下げ、なぜ今この考え方が重要なのかを、企業のマーケターや広告担当者の皆様にもわかりやすく解説していきます。

プロセスエコノミーとは、製品やサービスといった完成された「アウトプット」そのものだけでなく、それらが完成に至るまでの「プロセス(過程)」に価値を見出し、収益化する経済圏の考え方です。

この概念は、IT批評家である尾原和啓氏の著書『プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる』によって広く知られるようになりました。

完成品より過程が価値を持つ時代

従来、ビジネスの価値は完成した製品やサービスの品質、つまり「アウトプット」によって測られるのが一般的でした。これを「アウトプットエコノミー」と呼びます。

しかし、プロセスエコノミーでは、開発の裏側にある試行錯誤、作り手の想いや哲学といった「過程」そのものが、顧客の共感や応援を呼び、新たな価値を生み出す源泉となります。 両者の違いは以下の表のように整理できます。

項目 アウトプットエコノミー(従来型) プロセスエコノミー(現代型)
価値の源泉 完成した製品・サービスの機能や品質 開発過程、ストーリー、作り手の想い
主な訴求点 スペック、価格、利便性 共感、応援、世界観、参加意識
顧客との関係 消費者・利用者 ファン・共創者・応援者
収益化のタイミング 製品・サービスの販売時 開発プロセス中および販売時

なぜ今プロセスエコノミーが注目されるのか

では、なぜ現代において、これほどまでにプロセスエコノミーが重要視されるようになったのでしょうか。その背景には、主に2つの大きな社会変化があります。

SNSの普及による個人の発信力向上

InstagramやYouTube、TikTokといったSNSの普及は、企業や個人が情報発信を行うハードルを劇的に下げました。 これにより、誰もがメディアとなり、製品開発の裏側やプロジェクトの進捗、時には失敗談さえもリアルタイムで発信できるようになったのです。 この双方向のコミュニケーションは、顧客の参加意識を高め、プロセスそのものを魅力的なコンテンツへと昇華させました。

たとえばSNSの「BeReal」(ビーリアル)では、写真撮影の直前を記録する『BTS機能』が人気を博しています。これは、完璧な一枚(アウトプット)よりも、その裏側にある不格好でリアルな数秒間(プロセス)にこそ、今の若年層は価値を感じていることの証左と言えるでしょう。

モノのコモディティ化と価値観の変化

技術が成熟し、あらゆる製品やサービスが高品質になった現代では、機能やスペックだけで他社と差別化を図ることが極めて困難になりました。 いわゆる「モノのコモディティ化」です。

このような状況下で、消費者は単なる「モノの所有」から、その背景にあるストーリーや作り手の想いへの「共感」に価値を見出すようになっています。 「何を買うか」だけでなく「誰から、なぜ買うか」が、購買を決定づける重要な要素となっているのです。

人はなぜ不完全な物語に惹きつけられるのか

人がなぜ完成されたものよりも、不完全で発展途上の物語に心を動かされるのか、その心理的なメカニズムを解き明かします。完璧な製品やサービスを提示するだけでなく、そこに至るまでの「過程」を見せることが、いかに顧客の心を掴むのか。その理由を掘り下げ、B2Bマーケティングにおける実践のヒントを探ります。

完璧ではない主人公やチームを応援したくなる心理

人は、不利な状況にありながらも懸命に努力する存在に対し、思わず肩入れしたくなる心理を持っています。これは「アンダードッグ効果」と呼ばれ、日本語の判官贔屓(ほうがんびいき)にも通じる感情です。

判官贔屓の典型といえば、主君のかたきを討つ『忠臣蔵』や、非業の死を遂げた源義経の存在などがよく知られています。フィクションの世界では、落ち目のボクサーが現役チャンピオンに挑む『ロッキー』、弱小バスケ部が全国制覇を目指す『スラムダンク』なども典型といえるでしょう。

2022年のFIFAワールドカップでは、優勝経験を持つ強豪ドイツとスペインに対し、サッカー日本代表チームが立て続けに逆転勝利を収めたことが「ジャイアントキリング」として話題になり、多くの日本人が熱狂しました。

このような心理は、B2Bの領域でも強力に作用します。

例えば、巨大な競合企業に挑むスタートアップの挑戦や、前例のない課題解決に試行錯誤する開発チームの姿は、顧客にとって単なる取引相手以上の存在として映ります。

NHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX』でもこのようなコンテンツは鉄板の人気でした。顧客は、その「完璧ではない」姿に自社の抱える課題や挑戦を重ね合わせ、感情移入します。きれいにパッケージされた成功事例よりも、泥臭い試行錯誤の過程こそが、顧客の「自分ごと化」を促し、強い応援の気持ちを引き出すのです。

心理的効果 具体的な内容 B2Bマーケティングへの応用例
アンダードッグ効果 不利な状況や弱さを持つ対象を応援したくなる心理 後発サービスとして、業界の常識や大手競合に挑戦するストーリーを発信する
自己投影・感情移入 相手の姿に自分を重ね合わせ、自分事として捉えること サービス開発における失敗談や、顧客からの厳しいフィードバックにどう向き合ったかを公開する
人間味・親近感 完璧ではない姿を見せることで生まれる、身近な存在としての感覚 経営者や開発担当者の顔や個性を出し、人間的な想いや葛藤を語るコンテンツを配信する

プロセスを共有することで生まれる共感と一体感

プロセスの共有は、顧客との接触回数を自然に増やし、親近感を醸成します。これは、繰り返し接触することで対象への好感度が高まるザイオンス効果(単純接触効果)によるものです。 日々の開発進捗、社内での議論、小さな改善といった断片的な情報発信も、継続することで顧客の心にブランドを刻み込んでいきます。

さらに重要なのが、「自己開示の返報性」という心理です。 ブランド側が先に自らの内側(プロセス、悩み、失敗)をオープンにすることで、顧客も心を開きやすくなります。「自分たちの声を聞いてくれる」「一緒に創り上げている」という感覚は、顧客を単なる製品の利用者から、ブランドの未来を共に創る「共創パートナー」へと変えていきます。

この「共創」のプロセスを通じて、顧客はブランドの物語に当事者として参加し、製品やサービスに対して深い愛着と一体感を持つようになります。 これこそが、単なる機能的価値を超えた「応援されるブランド」が持つ、強固なファンベースの源泉なのです。

関連記事:なぜあなたの顧客は離れるのか?「ファンベース」が解決するリピート率向上術

ストーリーテリングで実践するプロセスエコノミー

ストーリーテリングで実践するプロセスエコノミー

B2Bマーケティングにおいて、プロセスエコノミーをどのように実践していくのか、その具体的な手法を「ストーリーテリング」という切り口から解説します。機能や価格といった合理的な価値だけでは差別化が困難な現代において、顧客の感情に訴えかけ、共感を通じて長期的な信頼関係を築く「物語」の力が、SaaSやITツールといったB2B商材にこそ求められています。

参考リンク:ストーリーテリングとは?意味、やり方、ビジネスでの活用事例を紹介 | ミライイ|HRインスティテュート オウンドメディア

あなたのブランドの「物語」を見つける

すべてのブランドには、語られるべき独自の物語があります。その物語を発見することは、ストーリーテリングの第一歩です。単なる製品紹介ではなく、企業の存在意義や価値観を伝えることで、顧客は単なる取引相手ではなく、同じ未来を目指すパートナーとして貴社を認識するようになります。

物語の源泉は、自社の歴史や文化の中に眠っています。例えば、「なぜこの事業を始めたのか」「どのような社会課題を解決したいという想いがあったのか」「顧客と共にどのような未来を創造したいのか」といった問いへの答えが、ブランドストーリーの核となります。これらを創業者の情熱、開発チームの理念、そして顧客への約束として言語化し、一貫したメッセージとして発信していくことが重要です。

過程を魅力的に見せる情報発信のコツ

ブランドの物語を見つけたら、次はその物語を構成する「プロセス」を魅力的に発信していく段階に移ります。完成されたアウトプットだけを見せるのではなく、そこに至るまでの過程を共有することで、人間味や信頼感が醸成され、顧客の共感を呼び起こします。

開発秘話や失敗談をコンテンツにする

とくにSaaSやITツールのような無形商材において、開発の裏側を伝えることは極めて有効な手法です。 例えば、ある機能が実装されるに至った顧客からの具体的なフィードバック、あるいは予期せぬトラブルをチーム一丸となって乗り越えたエピソードなどをコンテンツ化します。成功体験だけでなく、あえて失敗談やそこから得た学びをオープンに語ることで、ブランドへの誠実さや信頼性が高まり、顧客はより強い親近感を抱くようになります。

SNSやライブ配信で臨場感を演出する

SNSやライブ配信は、プロセスの「今」をリアルタイムで共有し、臨場感を演出するための強力なツールです。 テキストや画像だけでなく、動画を用いることで、開発者の熱意やオフィスの雰囲気をダイレクトに伝えられます。

以下のプラットフォームの特性を理解し、発信する情報を使い分けることで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。

プラットフォーム 活用例と期待される効果
note / オウンドメディア 開発秘話や創業ストーリー、代表の想いなど、ブランドの根幹をなす長文コンテンツを発信。世界観や価値観への深い共感を醸成する。
X (旧Twitter) / Facebook 新機能のチラ見せ、開発チームの日常、ウェビナーの告知など、リアルタイム性の高い情報を発信。顧客との気軽なコミュニケーションを促進する。
YouTube / Vimeo 機能デモのライブ配信、開発者インタビュー、導入事例の紹介動画などを配信。製品の具体的な利用イメージと、作り手の「人となり」を伝える。

ファンを巻き込むコミュニティの作り方

プロセスエコノミーの最終的なゴールは、顧客を単なる「利用者」から、ブランドを共に育てる「ファン」へと昇華させることです。 そのために不可欠なのが、ファンを巻き込み、帰属意識や一体感を育むコミュニティの存在です。

B2Bビジネスにおけるコミュニティは、顧客ロイヤルティの向上だけでなく、製品改善のための貴重なフィードバックを得る場としても機能します。例えば、ユーザー限定のオンラインフォーラムを立ち上げたり、新機能のベータテストに招待したり、定期的なユーザー会を開催したりすることで、顧客は「自分たちもブランド作りの一員である」という当事者意識を持つようになります。 このような共創の関係性が、解約率の低下やLTV(顧客生涯価値)の最大化といった、具体的なビジネス成果へとつながっていくのです。

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国内事例に学ぶ「応援されるブランド」の作り方

国内事例に学ぶ「応援されるブランド」の作り方

プロセスエコノミーを巧みに活用し、ファンから熱狂的に「応援されるブランド」を築き上げた国内の先進事例を解説します。エンターテイメントからD2C、クラウドファンディング、そしてVTuberまで、多様な領域における戦略を分析し、B2Bマーケターが自社のビジネスに応用するためのヒントを探っていきます。

キングコング西野亮廣氏のエンタメ戦略

お笑い芸人のキングコング西野亮廣氏は、プロセスエコノミーの概念が広まる以前から、その考え方を実践してきた代表的な人物です。彼の戦略の核心は、作品の「制作過程」そのものを魅力的なエンタメコンテンツとして販売し、ファンを単なる観客ではなく「共犯者」として巻き込む点にあります。

例えば、映画『えんとつ町のプペル』の製作では、脚本の執筆段階からオンラインサロンのメンバーに内容を共有し、意見を募りました。完成までの試行錯誤や困難を包み隠さず見せることで、ファンは作品の誕生を自分事として捉え、公開時には自発的な宣伝活動を行う強力な応援団へと変貌したのです。

この手法は、B2Bにおいても、新サービスの開発ドキュメンタリーや、導入企業の成功に至るまでの裏側ストーリーをコンテンツ化することで、顧客の共感とロイヤリティを醸成する上で大いに参考となります。

D2Cブランドに学ぶファンとの関係構築

メーカーが消費者に直接商品を販売するD2C(Direct to Consumer)モデルは、プロセスエコノミーと非常に高い親和性を持ちます。中間流通を介さないため、顧客と直接的かつ密なコミュニケーションが可能となり、その関係性をブランド価値の源泉とすることができるからです。

成功しているD2Cブランドの多くは、SNSやライブ配信を通じて顧客の声を積極的に収集し、それを商品開発や改善プロセスに反映させることで、顧客に「ブランドを一緒に育てている」という当事者意識を抱かせています。

例えば、小柄な女性向けアパレルブランド「COHINA」は、インスタライブで顧客とリアルタイムに交流しながら、商品のサイズ感やデザインに関するフィードバックを求め、次の製品企画に活かしています。このような双方向の対話は、顧客満足度を高めるだけでなく、熱量の高いファンコミュニティを形成し、ブランドの持続的な成長を支える基盤となります。

関連記事:D2Cとは?なぜ今注目されるのか、市場規模とビジネスモデルを徹底解剖

Makuakeにみる応援購入のメカニズム

「アタラシイものや体験の応援購入サービス」を掲げる「Makuake」は、プロセスエコノミーを体現するプラットフォームです。 Makuakeでは、まだ世に出ていない製品やサービスのアイデア段階からプロジェクトが公開され、その想いやこだわりに共感したユーザーが「応援の気持ちを込めて購入する」という体験を提供しています。

ここでの購入者は単なる消費者ではなく、プロジェクトの実現を願う「サポーター」です。サポーターは、完成品を手に入れるだけでなく、作り手の挑戦を初期段階から見守り、応援するというプロセスそのものに価値を感じています。

この「応援購入」の仕組みは、B2B領域におけるテストマーケティングや、新サービス立ち上げ時の初期コアユーザー獲得にも応用可能です。製品化前のコンセプト段階で潜在顧客の反応を確かめ、共感してくれた企業を巻き込みながらサービスを共創していくアプローチは、市場投入後の成功確率を大きく高めるでしょう。

VTuberに学ぶ新しいファンコミュニティの形

近年、急成長を遂げているVTuber(バーチャルYouTuber)市場も、プロセスエコノミーの観点から学ぶべき点が多くあります。VTuberとファンの関係性は、単なる演者と視聴者の関係を超え、共に物語を創造していくパートナーに近いと言えます。

ファンは、日々のライブ配信を通じてVTuberの成長を見守り、コメントやスーパーチャット(投げ銭)といった形で直接コミュニケーションをとり、活動を応援します。 このインタラクティブな関係性の中で、ファンの応援がVTuberの活動を支え、VTuberの成長物語がファンの熱量をさらに高めるという強力な経済圏が生まれています。

このモデルは、B2B企業が自社のエバンジェリスト(伝道者)や専門家を「顔」として打ち出し、ウェビナーやSNSを通じて顧客と継続的な関係を築き、エンゲージメントの高いコミュニティを形成していく上でのヒントとなるでしょう。

事例 プロセスの対象 主なプラットフォーム ファンの役割 B2Bマーケティングへの応用ヒント
キングコング西野亮廣氏 エンタメ作品の製作過程 オンラインサロン, SNS 共犯者, 支援者 開発ストーリーのコンテンツ化、ベータ版ユーザーの巻き込み
D2Cブランド 商品開発・改善プロセス SNS, 自社ECサイト, ライブコマース 共創者, フィードバック提供者 顧客フィードバックの製品・サービスへの迅速な反映と可視化
Makuake 新製品・新サービスの開発 クラウドファンディングサイト 応援購入者, サポーター 新機能のテストマーケティング、初期導入企業の獲得
VTuber キャラクターの成長・日々の活動 YouTube, SNS 視聴者, 支援者, 共作者 専門家によるコミュニティ形成、エンゲージメントの高いウェビナー運営

B2Bマーケティングでプロセスエコノミーを展開する際の注意点

B2Bにおいてプロセスを開示する場合、「どこまで見せていいのか(機密保持)」と「誠実さのバランス」が課題になります。単に「失敗を見せる」だけでなく、その失敗をどう技術的・組織的に解決したかという「解決プロセス」をセットで見せることで、B2B特有の「合理的な意思決定」にも応えることができるでしょう。

まとめ

人々が不完全な物語に惹かれるのは、その過程に自らを重ね、共感することで強い一体感が生まれるためです。この心理を活かし、ストーリーテリングを通じて開発秘話や想いを発信することが、顧客を熱狂的なファンへと変える鍵となります。あなたも今日から、自社の物語を紡ぎ、「応援されるブランド」作りを始めていきましょう。

監修者

古宮 大志(こみや だいし)

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長

大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、クライアントのオウンドメディアの構築・運用支援やマーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。Webマーケティングはもちろん、SEOやデジタル技術の知見など、あらゆる分野に精通し、日々情報のアップデートに邁進している。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

執筆者

マーケトランク編集部(マーケトランクへんしゅうぶ)

マーケターが知りたい情報や、今、読むべき記事を発信。Webマーケティングの基礎知識から、知っておきたいトレンドニュース、実践に役立つSEO最新事例など詳しく紹介します。 さらに人事・採用分野で注目を集める「採用マーケティング」に関する情報もお届けします。 独自の視点で、読んだ後から使えるマーケティング全般の情報を発信します。

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