本記事では、小売・メーカー双方の売上を最大化する鍵として注目される「リテールメディア」について、その本質的な価値から掘り下げていきます。なぜ今リテールメディアが必須の戦略なのか、その理由を結論から示し、具体的な構築・運用ステップ、国内外の成功事例、そして今後の展望までを網羅的に解説。この記事を読めば、リテールメディアの全体像と、事業成長に繋げるための実践的な知見がわかります。
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目次
リテールメディアが売上を最大化する理由
この章では、リテールメディアがなぜ今、多くの企業のマーケターや広告担当者から熱い視線を集めているのか、その本質的な価値と売上を最大化するメカニズムについて掘り下げて解説します。株式会社CARTA HOLDINGSの調査によれば、国内のリテールメディア市場は2028年には約1兆845億円規模にまで拡大する(CARTA HOLDINGS、リテールメディア広告市場調査を実施)と予測されており、その重要性は増すばかりです。リテールメディアは、単なる広告の新しい形ではなく、小売企業、メーカー・ブランド、そして顧客の三者すべてに大きなメリットをもたらすエコシステムなのです。
小売企業の新たな収益源としてのリテールメディア
リテールメディアは、小売企業にとって、従来の「商品を販売する」という収益モデルに加わる、強力な新しい収益の柱となります。 具体的には、自社が運営するECサイトや公式アプリ、店舗内に設置したデジタルサイネージなどを「広告媒体」として、メーカーやブランドに広告枠を販売することで、広告収入を得るビジネスモデルです。 日経クロストレンドの報道によると、セブン‐イレブン・ジャパンは2022年にリテールメディア事業を本格化させ、広告出稿額がわずか3年で20倍以上に成長。同社は事業の将来性を見込み、2025年9月にはリテールメディア推進部を経営直下の組織へと格上げし、店舗のデジタルサイネージ設置も積極的に進めています(日経クロストレンド、セブンのリテールメディアは3年で出稿20倍超 経営直下の成長戦略に迫る)。
このように、これまで顧客との接点としてのみ機能していた場所が、メディアとしての価値を持つことで、新たなマネタイズポイントに変わります。これは、利益率の確保に課題を抱えることの多い小売業界にとって、極めて大きなインパクトを持つ戦略と言えるでしょう。
メーカー・ブランドの広告効果を最大化
広告主であるメーカーやブランドにとって、リテールメディアは広告投資対効果(ROI)を劇的に高める可能性を秘めています。なぜなら、リテールメディアは「購買の意思決定が行われる場所」に極めて近い、あるいはその瞬間に直接アプローチできるからです。 従来のテレビCMやWeb広告とリテールメディアの主な違いを以下に示します。
| 比較項目 | 従来型広告(マス広告など) | リテールメディア広告 |
|---|---|---|
| ターゲティング精度 | 属性や興味関心に基づくが、不特定多数へのリーチが中心 | 実際の購買履歴(1stパーティデータ)に基づき、極めて高い精度 |
| 広告接触の場所 | 自宅(テレビ)、移動中(スマートフォン)など購買行動から離れた場所 | ECサイト、アプリ、実店舗内など購買行動の直前・最中 |
| 効果測定 | 購買への直接的な影響を測ることが難しい | 広告接触者の購買データを基に、売上への貢献度を明確に測定可能 |
例えば、ECサイトで特定の商品をカートに入れた顧客に対し、関連商品の広告を表示したり、店舗の飲料コーナーのサイネージで新商品のプロモーション動画を放映したりすることで、顧客の「ついで買い」や「買い忘れ防止」を促し、直接的な売上向上に貢献します。これにより、広告費の無駄を削減し、より効率的なマーケティング活動が実現します。
顧客データを活用したパーソナライズ戦略
リテールメディアの根幹を支えるのが、小売企業が保有する膨大かつ質の高い顧客データ(1stパーティデータ)です。 これには、会員IDに紐づく購買履歴、ECサイトやアプリでの行動履歴、デモグラフィック情報などが含まれます。これらのデータを活用することで、顧客一人ひとりのニーズや嗜好に合わせた、きめ細やかなパーソナライズ戦略を展開できます。 例えば、「特定ブランドの化粧水を購入した顧客に、同ブランドの乳液の割引クーポンをアプリで配信する」「過去にアレルギー対応食品を購入した顧客に、新発売の関連商品情報をメールで知らせる」といった施策が可能になります。
このようなパーソナライズされたアプローチは、顧客にとって「自分ごと化」された有益な情報として受け取られやすく、顧客体験(CX)を大きく向上させます。結果として、顧客ロイヤルティが高まり、長期的な関係性を構築することで、LTV(顧客生涯価値)の最大化へとつながっていくのです。
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リテールメディア構築と運用のステップ
この章では、リテールメディアを成功に導くための具体的な構築と運用のステップについて、4つのフェーズに分けて詳しく解説していきます。新たな収益源を確立し、メーカーやブランドとの強固なパートナーシップを築くためには、計画的かつ段階的なアプローチが不可欠です。
戦略立案と目標設定
リテールメディア構築の第一歩は、「何のためにメディアを構築するのか」という目的を明確に定義することです。 新たな広告収益の確立、メーカー協賛による販促効果の向上、あるいは顧客データ活用の深化など、自社のビジネスゴールと直結した戦略を立てる必要があります。 最終的な目標であるKGI(重要目標達成指標)と、それを達成するための中間指標であるKPI(重要業績評価指標)を具体的に設定しましょう。 例えば、KGIを「リテールメディア事業による年間売上高1億円」と設定した場合、KPIには以下のような指標が考えられます。
- 広告売上・収益額
- MAU(月間アクティブユーザー数)
- 広告枠の販売率・稼働率
- CVR(コンバージョン率)
- ROAS(広告費用対効果)
これらの目標は、「SMARTの法則」(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)に沿って、具体的で測定可能なものにすることが成功の鍵となります。
関連記事:KPIの意味とは?初心者にもわかる徹底解説と設定事例
必要なテクノロジーとパートナー選定
戦略を実現するためには、適切なテクノロジー基盤と、それを支えるパートナーの選定が極めて重要です。リテールメディアは、顧客データ(ファーストパーティデータ)を活用して精度の高いターゲティング広告を配信する仕組みであり、その中核には様々な技術が介在します。
自社で全てのシステムを開発する「インハウス」か、専門知識を持つ外部パートナーと協業するかは、企業の規模やリソース、目指すスピード感によって判断が分かれます。パートナーを選定する際は、以下の比較表のような多角的な視点で評価することが推奨されます。
| 評価項目 | 確認すべきポイント |
|---|---|
| 実績と専門性 | リテールメディアの構築・運用実績は豊富か。自社の業界(スーパーマーケット、ドラッグストアなど)に関する知見はあるか。 |
| 技術力と提供機能 | 安定した広告配信サーバーを提供しているか。AIによるセグメント作成やクリエイティブ最適化など、高度な機能を有しているか。 |
| データ活用基盤 | CDP(顧客データ基盤)の構築やID-POSデータとの連携に対応できるか。 |
| サポート体制 | 広告主の開拓支援や、導入後の運用改善コンサルティングなど、手厚いサポートが期待できるか。 |
コンテンツ企画と広告運用
リテールメディアの価値は、単なる広告枠の提供だけでは決まりません。消費者が魅力を感じ、能動的にアクセスしてくれるような質の高いコンテンツが不可欠です。例えば、ECサイトやアプリ内で特集記事やレシピ、商品の使い方動画などを提供し、そこに自然な形で広告を組み込むことで、顧客体験を損なうことなく広告効果を最大化できます。 広告メニューとしては、ECサイトのトップページバナーや検索連動型広告、アプリのプッシュ通知、店舗のデジタルサイネージ広告など、オンラインとオフラインを連携させた多様な選択肢が考えられます。 運用フェーズでは、これらの広告枠をメーカーやブランドに対して販売し、キャンペーンの企画から実行までを共同で進めていきます。
関連記事:デジタルサイネージ広告とは?BtoBリード獲得に最適化する方法を解説
効果測定と改善サイクル
リテールメディアは「構築して終わり」ではありません。PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回し続け、継続的に改善していくことが事業成長の鍵を握ります。 広告配信後は、クリック率(CTR)、コンバージョン率(CVR)、顧客単価(AOV)などの指標を詳細に分析します。 例えば、「どの広告クリエイティブが最もクリックされたか」「どの顧客セグメントからの購入が多かったか」といったデータを基に、ABテストを実施し、ターゲティングや広告内容の最適化を図ります。マツモトキヨシの事例では、広告配信後に実際に店舗で購入したユーザーの割合を分析し、メーカーが値下げに頼らない販促施策を講じる一助となっています。 このようなデータに基づいた改善活動を通じて、広告主であるメーカーへの提供価値を高め、強固な信頼関係を築くことができます。
リテールメディアの具体的な施策と活用例
この章では、リテールメディアを実際にビジネスで活用していくための具体的な施策を、オンラインとオフラインの両面から掘り下げていきます。ECサイトから実店舗のデジタルサイネージ、そしてポストCookie時代を見据えたデータ活用法まで、マーケターが明日から実践できるアイデアをわかりやすく解説していきます。
ECサイト内広告の最適化
リテールメディアの主戦場の一つが、小売企業自身が運営するECサイトです。代表的な施策には、特定の商品を検索結果やカテゴリページの上位に表示させる「スポンサードプロダクト広告」や、トップページなどに掲載する「ディスプレイ広告」があります。これらの広告枠は、単にアクセスを集めるだけでなく、小売企業が保有する精緻な購買データを活用することで、顧客の興味関心に合わせた極めて関連性の高い広告表示を可能にします。例えば、過去に特定ブランドのドッグフードを購入した顧客に対し、同ブランドの新商品や関連性の高いペット用品の広告を提示するといった、コンバージョンに直結するアプローチが実現できます。
関連記事:ディスプレイ広告の種類は?リスティング広告との違いや基礎知識をご紹介
アプリを活用したパーソナルレコメンデーション
多くの小売企業が提供する公式スマートフォンアプリは、顧客とのダイレクトなコミュニケーションを可能にする強力なチャネルです。購買履歴や閲覧履歴、位置情報といったデータを基に、個々の顧客に最適化された情報を提供します。具体的には、新商品の入荷を知らせるプッシュ通知、誕生日や記念日に合わせた特別クーポンの配信、「あなたへのおすすめ」といったレコメンド機能などが挙げられます。これらの施策は、顧客一人ひとりに「自分のことを理解してくれている」という特別な体験を提供し、顧客エンゲージメントを深化させ、結果としてLTV(顧客生涯価値)の向上に大きく貢献します。
関連記事:レコメンドとは?導入のメリットや仕組みを分かりやすく解説
店舗デジタルサイネージと連動したプロモーション
オフライン、すなわち実店舗におけるリテールメディアの代表格がデジタルサイネージです。 デジタルサイネージの強みは、時間帯や天候、客層に応じて表示コンテンツを動的に変更できる点にあります。例えば、朝の通勤時間帯にはコーヒーとパンの広告を、昼時には弁当の広告を、雨の日には傘の広告を流すといった柔軟な運用が可能です。さらに、アプリで配信したクーポンと連動させ、来店を促すといったオンラインとオフラインを融合させたOMO(Online Merges with Offline)戦略の中核として機能させることで、一貫性のある強力な顧客体験を創出します。
関連記事:OMOとは(Online Merges with Offline)?O2Oやオムニチャネルとの違いも解説します!
サードパーティCookie規制後のリテールメディア
近年、プライバシー保護の観点からサードパーティCookieの利用が段階的に規制されており、従来のWeb広告手法は大きな転換期を迎えています。このような状況下で、リテールメディアの価値は飛躍的に高まっています。なぜなら、リテールメディアは顧客の同意を得て合法的に収集した、信頼性の高いファーストパーティデータ(購買履歴や会員情報)を基盤としているからです。Cookieに依存することなく、精度の高いターゲティングと効果測定が可能なため、「ポストCookie時代の切り札」として注目されています。
| 項目 | 従来のリターゲティング広告 | リテールメディア広告 |
|---|---|---|
| 主要データ | サードパーティCookieによるWeb閲覧履歴 | ファーストパーティデータ(購買履歴、会員情報など) |
| ターゲティング精度 | 推定に基づく興味関心 | 実際の購買行動に基づく高精度なターゲティング |
| 効果測定 | オンライン上でのクリックやコンバージョンが中心 | オンライン広告から実店舗での購買まで(ID-POS連携)を計測可能 |
国内外の先進的なリテールメディア成功事例
この章では、国内外で注目されているリテールメディアの具体的な成功事例を掘り下げていきます。小売大手から中小企業まで、各社がどのようにリテールメディアを活用して成果を上げているのか、また、そこから得られる教訓は何かを詳しく解説します。
小売大手のリテールメディア戦略
豊富な顧客データと広範な顧客接点を持つ小売大手は、リテールメディアにおいて圧倒的な強みを発揮します。オンラインとオフラインを融合させ、顧客一人ひとりに最適化された購買体験を提供することで、広告収益と顧客満足度の両方を高めることに成功しています。
国内事例:セブン-イレブン・ジャパン
上述したように、国内コンビニエンスストア最大手のセブン-イレブン・ジャパンは、2022年にリテールメディア事業へ本格参入し、著しい成果を上げています。 2025年9月には「リテールメディア推進部」を経営直下の組織へと格上げし、事業を加速させています。特筆すべきは、広告出稿金額が3年で20倍以上に成長したという点です。この成功を支えているのが、全国の店舗網を活かしたデジタルサイネージです。2025年11月末までには、全店舗の約6分の1にあたる3500店舗への設置を計画しており、来店客への効果的なリーチを可能にしています。
海外事例:ウォルマート
世界最大のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートは、「Walmart Connect」というリテールメディア事業で広告収入を年率20〜30%台で成長させ、2024年度にはグローバルで44億ドル規模に達したと報じられています。 「Walmart Connect」の強みは、オンライン(ECサイト・アプリ)とオフライン(実店舗)を横断した膨大な顧客の購買データを活用できる点にあります。 これにより、広告主は極めて精度の高いターゲティング広告を配信でき、顧客は自身のニーズに合った商品を適切なタイミングで知ることができます。 さらに、TikTokやRokuといった外部プラットフォームとの連携も進めており、顧客接点を自社メディア以外にも拡大し続けています。
| 企業名 | リテールメディア名 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| セブン-イレブン・ジャパン | (公式名称なし) | 全国の店舗網を活かしたデジタルサイネージとアプリの連携。購買データに基づいた1to1のコミュニケーションを重視。 |
| ウォルマート | Walmart Connect | ECサイトと実店舗のデータを統合したオムニチャネル戦略。精度の高いターゲティング広告と外部プラットフォーム連携が強み。 |
| イオン | Aeon Ad(イオンアド) | Google Cloud上にデータ分析基盤を構築し、『イオンお買物アプリ』で得られるデータを活用したメーカーとの共同販促プラットフォームとして展開。 |
| Amazon | Amazon Ads | 世界最大級のECプラットフォームを基盤に検索キーワードや閲覧・購買履歴といった膨大なファーストパーティデータを活用して広告配信を行う広告サービスであり、市場を代表するプレイヤー。 |
中小企業におけるリテールメディアの導入例
大規模な投資が難しい中小企業であっても、リテールメディアを導入し、成果を上げることは可能です。大手とは異なるアプローチで、独自の価値を提供することが成功の鍵となります。
プラットフォーム活用型
自社で大規模なメディアを構築するのではなく、Amazonや楽天市場といった巨大なECマーケットプレイスが提供する広告サービスを活用する手法です。これらのプラットフォームは、既に多くの利用者を抱えており、洗練された広告配信システムを備えています。中小企業は、スポンサープロダクト広告などを活用することで、少ない投資で自社製品の認知度を高め、購買意欲の高い顧客層に直接アプローチすることが可能です。
自社アプリ・CRM連携型
地域密着型のスーパーや専門店など、特定の顧客基盤を持つ中小企業に適した手法です。自社の公式アプリやCRM(顧客関係管理)ツールを通じて、顧客の購買履歴に基づいたクーポンを配布したり、限定セール情報を通知したりします。顧客一人ひとりに寄り添ったパーソナルなコミュニケーションを深めることで、顧客ロイヤルティとLTV(顧客生涯価値)の向上に繋がります。
失敗から学ぶリテールメディアの教訓
リテールメディアは大きな可能性を秘める一方で、導入や運用を誤ると期待した成果が得られないケースもあります。成功事例だけでなく、失敗から得られる教訓を学ぶことも重要です。
教訓1:顧客体験の軽視
収益化を急ぐあまり、アプリやECサイトに広告を過剰に表示してしまうと、顧客の利便性を損ない、ブランドイメージの低下を招きます。広告の表示頻度や場所、内容が顧客にとって有益であるかを常に検証し、広告収益と快適な購買体験のバランスを最適化する視点が不可欠です。
教訓2:不十分なデータ活用基盤
購買データを収集しているだけで、それを分析・活用するための体制やツールが整っていなければ、リテールメディアの価値は半減します。ただ広告枠を設けるだけでなく、「誰に」「何を」「いつ」見せるかというパーソナライズ戦略を実行するためのデータ基盤の構築が成功の前提となります。
リテールメディアの課題と今後の展望
急速な市場拡大を続けるリテールメディアですが、その成長を持続可能なものとするためには、いくつかの重要な課題と向き合う必要があります。この章では、リテールメディアが直面する主要な課題を整理し、テクノロジーの進化がもたらす今後の展望について詳しく解説します。
データガバナンスと倫理的利用
リテールメディアの根幹をなすのは、購買履歴や行動履歴といった顧客データです。しかし、その活用は常にプライバシー保護と表裏一体の関係にあります。サードパーティCookieの規制強化を背景にファーストパーティデータの価値が高まる一方で、生活者は自らのデータがどのように利用されるかについて、より敏感になっています。 ひとたびデータの取り扱いを誤れば、顧客の信頼を失い、深刻なブランドイメージの毀損につながりかねません。
そのため、小売事業者と広告主であるメーカーには、改正個人情報保護法などの法規制を遵守することはもちろん、それ以上に高い倫理観に基づいたデータガバナンス体制の構築が求められます。 データの収集目的や利用範囲を明確に顧客へ開示し、いつでもデータ提供を停止(オプトアウト)できる選択肢を用意するなど、徹底した透明性の確保と顧客主権の尊重が、これからのリテールメディアにおける信頼の基盤となるでしょう。
関連記事:オプトアウトの意味を解説!マーケティングお作法とは
競合との差別化と独自の価値提供
先述の通り、CARTA HOLDINGSの調査によれば、国内リテールメディア市場は2028年に約1兆845億円規模への成長が予測されるなど、その将来性は非常に大きいものです。 この成長期待から、大手GMS(総合スーパー)やコンビニエンスストア、ドラッグストアなど、多様な小売事業者が続々と市場に参入しており、競争は激化の一途をたどっています。 このような状況下で広告主に選ばれ続けるためには、単に広告枠を提供するだけではない、独自の価値提供による差別化が不可欠です。
差別化のポイントは、以下の表のように多岐にわたります。
| 差別化の軸 | 具体的な取り組み内容 | 広告主(メーカー)への提供価値 |
|---|---|---|
| データの質と独自性 | オンライン(EC・アプリ)とオフライン(店舗)のデータを高度に統合し、顧客の購買行動を360度で可視化する。 | より精緻なターゲティングと、オンライン・オフラインを横断した効果測定(リフト値分析など)が可能になる。 |
| 広告フォーマットと体験価値 | 店舗内のデジタルサイネージとアプリのプッシュ通知を連動させたり、AR(拡張現実)を活用した体験型広告を開発したりする。 | 顧客の購買意欲が高いタイミングで効果的にアプローチでき、ブランドへのエンゲージメントを高めることができる。 |
| 効果測定とレポーティング | 広告接触から実店舗での購買に至るまでの成果をID-POSデータ等で可視化し、ROI(投資対効果)を明確に提示する。 | 広告予算の妥当性を評価しやすくなり、継続的な出稿と改善活動(PDCA)につながる。 |
例えば、セブン-イレブン・ジャパンは、全国の店舗網という強みを活かし、店内のデジタルサイネージ設置を急速に進めるなど、オフラインでの顧客接点を強化しています。
Web3.0時代のリテールメディア
さらに未来を見据えれば、Web3.0の潮流がリテールメディアのあり方を根底から変える可能性を秘めています。Web3.0とは、ブロックチェーン技術などを基盤とした、より分散的でユーザー主権的な次世代のインターネットの概念です。
この文脈におけるリテールメディアの進化として、顧客自身が自分のデータを管理・運用し、許可した企業にのみデータを提供して対価(ポイントや特典など)を得る「データウォレット」のような仕組みが考えられます。 これは、プライバシー懸念を解消すると同時に、顧客と企業との間に、より透明で公正な新しい関係性を築くことにつながります。また、NFT(非代替性トークン)を活用したデジタル会員証や限定商品へのアクセス権の提供、メタバース空間でのバーチャル店舗と連動したプロモーションなど、これまでにない顧客体験の創出も期待されています。 Web3.0技術の社会実装にはまだ時間を要しますが、マーケターは来るべき変化に備え、その動向を注視していく必要があるでしょう。
まとめ
本記事では、小売業界の新たな潮流である「リテールメディア」について、その本質から具体的な構築・運用方法、国内外の成功事例に至るまでを網羅的に解説してきました。リテールメディアが単なる広告枠の販売ではなく、小売企業・メーカー・顧客の三者すべてに価値をもたらす戦略的な取り組みであることが、お分かりいただけたのではないでしょうか。
リテールメディアが売上を最大化する最大の理由は、小売企業が保有する購買データといった顧客データを活用し、極めて精度の高いパーソナライズを実現できる点にあります。これにより、小売企業は新たな収益源を確保し、メーカーは広告効果を最大化できるのです。サードパーティCookieが規制される今後のデジタルマーケティングにおいて、その価値はますます高まっていくでしょう。
ECサイトやアプリ、店舗のデジタルサイネージなどを連携させた施策は、すでにイオンや楽天といった国内企業でも先進的な取り組みが進んでいます。成功の鍵は、明確な戦略のもとでテクノロジーを適切に選定し、効果測定と改善を繰り返す運用体制を構築することにあります。
もちろん、データガバナンスや倫理的な配慮といった課題も存在しますが、これらを乗り越え、顧客との信頼関係を第一に考えることで、リテールメディアは競合との強力な差別化要因となり得ます。この記事を参考に、ぜひ自社のビジネス成長に向けたリテールメディア戦略の第一歩を踏み出してみてください。


