ホームページやECサイトを構築して事業展開を検討する際、構築方法は実に多様です。ASP(Application Service Provider)は広義ではあるものの、ホームページやECサイトを構築する手法の1つだと捉えれば問題ありません。
本記事では、ASPの概要やサービスの代表例を解説するとともに、ASPの特徴を説明します。また、ASPとSaaSなど、その他のサービスとの違いに関しても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
ASP(Application Service Provider)とは?
ASP(Application Service Provider)とは、ソフトウェアや、ソフトウェアが稼働する環境をインターネット経由で提供する事業者のことを指します。また、事業者が提供するサービス自体をASPと呼んだり、インターネット上で提供されているサービスそのものをASPと呼んだりすることもあります。
ASPの特徴として、ユーザーはインターネットを通じてソフトウェアやサービスにアクセスし、必要な機能を利用することができます。これにより、ユーザー側でソフトウェアをインストールしたり、サーバーを用意したりする必要がなくなります。
ECサービスを展開する際は、ASPサービスを利用してのECサイトの構築を「ASPカート」と呼ぶケースも多くあります。ASPカートの例としては、BASEやSTORES、Shopifyなどが挙げられます。これらのサービスを利用することで、比較的容易にオンラインショップを開設することができます。
なお、ASPという略語は他の意味でも使用されることがあるため、注意が必要です。例えば、「Affiliate Service Provider」は広告主と発信者をつなぐアフィリエイト広告の仕組みを提供する事業者を指す言葉であり、本記事で説明しているASPとは全く別のものです。同様に、「Active Server Pages」はWebページを作成する技術の1つを指すため、Application Service Providerとは無関係です。
ASPを利用することで、企業は自社でシステムを開発・運用する場合と比べて、初期投資やランニングコストを抑えることができるというメリットがあります。また、専門的な知識がなくても高度なサービスを利用できる点も、ASPの大きな特徴と言えるでしょう。
関連記事:
・Shopify(ショッピファイ)とは?ECサイトでShopifyが選ばれる理由を解説!
・Shopify(ショッピファイ)とは?料金プランや手数料・事例など、概要を解説します!
・ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)とは?特徴や基礎を解説します
ASP(Application Service Provider)サービスの代表例
先ほど、ASP(Application Service Provider)の概要を解説しました。ここでは、ASPサービスの代表例を紹介します。ASPは様々な分野で活用されており、以下のようなサービスが代表的です。
・Webメール(Gmailなど)
・クラウドサービス(Dropboxなど)
・財務会計システム
・家計簿アプリ
・社内SNS
・在庫管理システム
・グループウェア
・給与計算ソフトウェア
・CRM(顧客関係管理)システム
・プロジェクト管理ツール
上記のとおり、ASPは非常に幅広いシーンで使われていることがわかります。特に、財務会計や在庫管理、システム給与計算などは、企業の業務効率化に直結するものです。
これらのASPサービスは、人の手を多く必要としないものばかりであるため、デジタルマーケティングやDXの時代に必要不可欠になるとされています。多くの企業が、業務プロセスの効率化や生産性向上を目指して、ASPサービスを積極的に導入しています。
ASPを利用することで、企業は自社でシステムを開発・運用する必要がなくなり、コアビジネスに集中できるというメリットがあります。さらに、最新の技術や機能を常に利用できるため、競争力の維持・向上にも貢献します。
ASP(Application Service Provider)の特徴
ここからは、ASP(Application Service Provider)の特徴を6つ紹介します。。ASPは、インターネットを通じてソフトウェアやサービスを提供する事業形態であり、以下のような特徴があります。
・ イニシャルコストを削減できる
・ ランニングコストを削減できる
・ 自社がバージョンアップを行う必要がない
・ バックアップを任せられる
・ カスタマイズが難しい
・ 共同利用のためリスクも考えられる
これらの特徴は、企業がASPを導入する際の重要な検討ポイントとなります。特に、コスト面での利点が大きいことがASPの魅力の一つです。また、システム管理の負担軽減や最新のサービスを利用できるメリットもあります。一方で、カスタマイズの制限やデータセキュリティに関する懸念点もあるため、導入を検討する際はこれらの特徴を十分に理解し、自社のニーズに合致するかどうかを慎重に評価することが重要です。
それぞれの特徴について、順番に詳しく見ていきましょう。
イニシャルコストを削減できる
通常、ECサイトなどのサイトを制作する際は、どれだけ費用を抑えても数十万円程度のイニシャルコストが必要です。加えて、予算的なイニシャルコストと合わせて、開発期間という時間的なコストも要します。
一方で、ASP(Application Service Provider)を使ってECサイトを制作する場合、イニシャルコストは数万円程度に抑えられます。既存のテンプレートなどを利用すれば開発期間も1週間程度で済むため、すぐに事業を展開できるメリットがあります。
イニシャルコストを抑えてインターネットサービスを展開したい場合は、ASPを最優先に検討すると良いでしょう。特に、小規模な事業者や新規参入を考えている企業にとって、ASPの活用は非常に魅力的な選択肢となります。
関連記事:市場規模が拡大する「Electronic Commerce(EC)」とは?注目のビジネスモデルD2Cについても解説
ランニングコストを削減できる
次に、ASPの場合はランニングコストを削減できる特徴があります。利用できる機能こそ制限されているものの、運営に必要な基本的機能はすべて揃っていると言っても過言ではありません。
通常、自社で開発したECサイトや会計システムを利用する場合、毎月のサーバー代やシステム費用だけで数万円〜10万円以上の費用が発生するケースが多々見られます。ASPを使えば、これらのランニングコストを大きく抑えることが可能なのです。
特に、ASP(Application Service Provider)を活用することで、システムの保守や管理にかかる人件費も削減できます。自社でシステムを運用する場合と比較して、ASPを利用すれば専門的な知識を持つIT人材を雇用する必要がなくなり、結果としてさらなるコスト削減につながります。
自社がバージョンアップを行う必要がない
プランによって異なるケースがあるものの、ASPは自社でバージョンアップを行う必要がありません。そのため、セキュリティ面に関しても安心であり、バージョンアップを行うコストも削減できます。
特に、自社に知見のない状態でバージョンアップを行ってしまうと、セキュリティにおいて大きな不安が残ります。その点、バージョンアップをすべて任せられるASPに依頼すれば、自社は本質的な運用のみに注力することが可能です。
さらに、ASPを利用することで、最新のソフトウェアや機能を常に利用できるというメリットもあります。ASP事業者が定期的にシステムの更新や機能の追加を行うため、ユーザー企業は常に最新の環境で業務を行うことができます。これにより、業務効率の向上や競争力の維持にもつながります。
バックアップを任せられる
次に、ASPはバックアップを任せられるケースが多いことも特徴です。バックアップとは、システムやサイト上におけるデータを管理し、必要に応じてデータを復元したり、情報を更新したりする業務のことを指します。多くのASPサービスでは、このバックアップ機能が標準で提供されています。
バックアップはセキュリティ対策の一環であり、上述したバージョンアップと合わせて非常に重要な業務の1つです。バックアップに時間がかかったり、知見のない担当者がバックアップをしたりすると、最悪の場合はデータそのものが破損してしまうリスクがあります。また、不適切なバックアップ管理は、情報漏洩やデータ損失につながる可能性もあります。
その点、ASPはバックアップも任せられるので、上記のようなリスクを軽減できることがメリットです。ASPを利用することで、専門知識を持つ事業者によって定期的かつ確実にバックアップが実施され、データの安全性が確保されます。これにより、ユーザー企業は本来の業務に集中することができ、業務効率の向上にもつながります。
カスタマイズが難しい
ASPには様々なメリットがあるものの、自社でカスタマイズを行うのは難しいです。なぜなら、ASP側であらかじめ用意されているテンプレートを使うケースが大半であり、カスタマイズの制限が設けられていることもあるためです。
したがって、同様のASPを使っているサービスと近しいデザインになってしまうケースも多くなっています。また、機能の拡張性も強いとは言えず、自社が欲しい機能が搭載されていないことも考えられます。特に、ECサイトの構築に使用されるASPカートでは、独自性を出すことが困難な場合があります。
上記のデメリットをできる限り軽減するためにも、事前に複数のASPを比較検討し、最も自社が求めている機能を搭載したASPを選ぶことを推奨します。また、カスタマイズの可能性や拡張性についても、ASP提供元に確認しておくことが重要です。
共同利用のためリスクも考えられる
ASP(Application Service Provider)が低コストで利用できる背景には、複数のユーザー(企業)が同一のサーバーを共有していることがあります。ASP側が各ユーザーに個別のサーバーを用意する必要がないため、管理コストを抑えられているのです。
しかし、この共同利用という特性から、セキュリティ面でのリスクも存在します。同じサーバー上で他社のデータと隣り合わせになるため、企業の機密情報や個人情報が意図せず流出してしまう可能性があります。また、ASP事業者自体が経営難に陥ってサービスが終了したり、最悪の場合倒産したりすると、自社のデータが失われてしまうリスクも考えられます。
そのため、ASPを利用する際は、これらのリスクを十分に理解し、許容できるかどうかを慎重に検討することが重要です。特に、取り扱うデータの重要性や機密性が高い場合は、より厳格なセキュリティ対策を持つASPを選択したり、場合によっては自社でシステムを構築したりすることも検討する必要があるでしょう。
ASP(Application Service Provider)とその他の違い
ここまで、ASP(Application Service Provider)の特徴などを解説してきました。ここからは、ASPと以下3つの違いを解説します。
・ SaaS(Software as a Service)
・ ISP(Internet Service Provider)
・ Cloud(クラウド)
それぞれ順番に見ていきましょう。ASPとこれらのサービスや技術との違いを理解することで、ASPの位置づけや役割がより明確になります。また、これらの違いを把握することで、自社のニーズに最適なソリューションを選択する際の判断材料となります。ASPは多くの企業にとって、コスト効率の良いサービス提供方法として注目されています。
SaaS(Software as a Service)との違い
SaaS(Software as a Service)とは、クラウド上で提供されているソフトウェアのことです。意味合いとしてはASPと大きな違いはなく、同様のものとして捉えても問題ありません。実際、多くの場合ASPとSaaSは互換性のある概念として扱われています。
しかし、ベンダーによってはSaaSを別物として捉えているケースもあるので注意が必要です。たとえば、ASPをサービスの提供事業者として捉え、SaaSをソフトウェアそのものとして捉えているケースです。また、ASPが特定のアプリケーションを提供するのに対し、SaaSはより広範囲なソフトウェアサービスを指す場合もあります。
上記のように、ケースに応じて捉え方が異なることもあるので、事前にどのような捉え方をしているのかを確認すると認識の乖離がなくなるでしょう。ASP(Application Service Provider)とSaaSの違いを理解することで、より適切なサービス選択が可能になります。
ISP(Internet Service Provider)との違い
ISP(Internet Service Provider)とは、インターネット接続を可能にするサービスを提供している事業者のことです。具体例としては、OCN、BIGLOBEなどが挙げられます。
ISPはインターネット接続を可能にする事業者であり、ASPはインターネットを利用して、サービスを提供する事業者やソフトウェアのことを指します。したがって、ASPはISPを利用しなければ提供できないとも言えるでしょう。
ASP(Application Service Provider)とISPの関係性を理解することは重要です。ASPがソフトウェアやサービスを提供するためには、ユーザーがインターネットに接続できる環境が必要不可欠です。そのため、ISPはASPが機能するための基盤となる重要な役割を果たしています。つまり、ISPがインターネットへの「入口」を提供し、ASPはその「入口」を通じてユーザーにサービスを届けるという構図になっています。
Cloud(クラウド)との違い
Cloud(クラウド)とは、インターネットを経由して提供するサービスの仕組みのことを指します。そのため、ASPやSaaSはクラウド上で成り立っているサービスと捉えることができます。たとえば、ファイルの共有サービスである「Dropbox」はクラウドの代表例です。ASP(Application Service Provider)とクラウドの関係性を理解することで、インターネットを介したサービス提供の全体像がより明確になります。クラウドは幅広い概念であり、ASPはその中の一形態として位置付けられるといえるでしょう。
まとめ
本記事では、ASP(Application Service Provider)について解説をしてきました。ASPはGメールや財務会計のシーン、ECサイトのショッピングカートなど、インターネット上の様々なサービスで使われています。多くの企業がASPを活用し、業務効率化やコスト削減を実現しています。
ASPの主な特徴として、イニシャルコスト・ランニングコストともに抑えることができ、自社がバージョンアップを行う必要がないため、管理の手間も省けます。また、バックアップを任せられるなど、セキュリティ面でも安心感があります。
一方で、カスタマイズの難しさや共同利用によるリスクなど、デメリットも存在します。これらを十分に理解したうえで、ASPの導入を検討することが重要です。
業務効率化を検討していたり、コストを抑えてECサイトなどを制作したりしたい場合は、ASPの活用を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。適切なASPを選択することで、ビジネスの成長と競争力の向上につながる可能性があります。