【特別インタビュー】日本におけるBtoBマーケティングの成功とABM(アカウント ベースド マーケティング) 後編

 

前編ではABMについて語っていただいた。

後半はマーケティングとはそもそも何なのか。実はマーケティングにはこれといった正確な定義はない、と庭山氏は言う。そんなあやふやで不明確なマーケティングを制するにはどうすればいいのか。ヒントを述べてもらった。

 

なぜマーケティングは難しいのか?

では、なぜマーケティングは難しいのか。その理由は、前編でも述べた“ビジネスチャンスはそもそも常にオープンではない”といったことが関係する。

「例えば、『うちは営業支援ツール(SFA)なんか導入しないです。社長も専務もSFA嫌いだから』という会社があったとします。
ところが社長がある日、同業者の集まりに行きライバル会社に『最近どうよ?』と聞いたら、『いやもう伸びちゃって、伸びちゃって。今期の決算大変だよ。節税対策しなきゃ』なんて言っているのです。
思わず『なんでそんなにいいの?』と聞いたら、『実は前々期末にSFAを入れてね。パイプラインで案件管理したら、やっぱり諸々で漏れているところがあったんで。そこに的確に指示を出したら、とれるんだよ』と言うのです。
社長は帰社して慌てて社員に『わが社はなんでSFAを入れないんだ。お前らどういうアンテナを張っているんだ』と言います。
その瞬間から社員みんな、インターネットでSFAを検索する、セミナーを見つけて申し込む、デモを見る、資料を取り寄せるといった大騒ぎが起きるのです。このように、ビジネスチャンスの発芽は突然です。今のマーケティングのトレンドの一つがカスタマージャーニーですが、多くのお客様はジャーニーしません。企業のニーズは、私たちの描いたジャーニーマップ通り歩いてくれるほうが稀で、ある日突然発芽するのです。そのチャンスを取りこぼさないようにするのがマーケティングなのです」

 

突発的に見えて実は“育成”されているビジネスチャンス

庭山氏は続ける。

「ジャーニーマップを書いても、実態はあまりジャーニーしません。だから、ジャーニーを全く無視するわけではありませんが、突然の発芽も見逃さない仕組み作りをする必要があるのです。お客様の社内の奥深くで発芽したチャンスを見逃さないで感知して、ビジネスチャンスが閉じるまでにリーチできる仕組みを構築する。これが重要で大変なのです。

でも、これらも突発的には見えますが、本当は育成なんですよ。

例えば花粉症ってあるじゃないですか? 杉林に生まれて初めて連れて行かれた人が深呼吸したからって花粉症にはなりません。
ずっと吸い続けて、その蓄積が閾値(しきいち)を超えた瞬間、花粉症になるのです。ナーチャリングもそうです。ずっと自分たちのソリューションを事例で紹介し続ける。そのときに誰かが困る。『参ったな、どうすりゃいいんだ。社長怒ってるよ』となったときに『あれ? このシチュエーションって何か前にメールで見たな?』とパソコンを検索する。『これだ!解決事例ってあるぞ』とクリックしていく。『これ今のうちに似てるじゃん。どうやって解決したの?』『これかこれか。この道具って何?』とクリックしていくと、『この製品か!!!』という、この行動を理解することにより、ビジネスチャンスが分かるのです。このようなお客様の動きを見逃さないためにはどうすればいいのか、そこを私は設計します」

 

日本のダウンロードメディアが役に立っていない理由

ナーチャリングの一つとしてダウンロードメディアがあるが、日本のダウンロードメディアはほとんど受注につながっていないと庭山氏は語る。その理由は何か。

「日本でも多くのダウンロードメディアが出てきましたが、あまりうまく行っていないのが実情です。
おそらく取り組まれている企業も多いかと思いますが、今のままでは良くないと思っています。
理由はリピート率が悪すぎること。物珍しさから皆さん1回は使ってくれますが、継続利用には繋がりにくく案件化率が悪いのです。

面積でみると海外に比べて日本は狭いので、『この製品のことをもっと知りたい』『この製品の説明やデモが見たい』となった時にその会社にコンタクトすればおそらく営業が飛んでくるでしょう。ではなぜそれをしないで、メディアから資料をダウンロードするのかというと、まだ営業に会いたくないからなのです。この製品には興味がある、でもまだ営業には会いたくない。そのような心理状態のときにホワイトペーパーをダウンロードするんです。ところがツールを購入した会社は、原価がかかっているし早くペイしないといけないから、まだ営業に会いたくない人にもガンガン営業をかけてしまう。その結果、迷惑がられる。現場も『なんだよ、ホットだって言うから来てみたら、めちゃくちゃコールドじゃないか』ということになっているんです。嫌われたら一巻の終わりでしょ。嫌われたってことが分かった瞬間に、自社の営業に怒鳴りこまれます。『お前ら何してくれたんだ、お前らが営業の足を引っ張った!』。これがダウンロードメディアがうまくいっていない理由なのです。」

 

マーケティングはコミュニケーションをデザインするための要素

ではダウンロードメディアをより活用するにはどうすれば良いのか。そのヒントとして庭山氏はマーケティングの根本について語る。

「私が30年以上マーケティング業務を飽きずに続けてこられたのは、マーケティングとは大きく言ったら“科学”と“感性”なんです。このバランスが心地よかったから36年も継続できているのだと思います」

庭山氏が語るようにマーケティングとは決して科学や統計、テクノロジーだけを使えば良いものではない。マーケティング活動で売り上げを上げるには、最終的には人対人の要素、いわゆる“感性”がものをいうのである。顧客データベースを起点にターゲットに最適化したコンテンツで長期的にナーチャリングし、ニーズが発芽するまでつかず離れずの関係を維持しながらコミュニケーションを続けていく。そこまですることができなければ、たとえ最新のMAツールを導入したとしても売り上げをアップさせることは難しいだろう。

庭山氏はこう言う。

「要はコミュニケーションデザインなんです。コミュニケーションをどうデザインするかということ。そこにBtoBの独特の事情や現在の最新のテクノロジー、個人情報に関する法律などいろんな要素を入れて設計するという技が必要なんです」

 

目的やフェーズによってセミナー方法も異なる

マーケティングは“科学”と“感性”を組み合わせたものだと庭山氏は語る。そして、それはダウンロードメディアだけの話だけではない。別の事例についても庭山氏は話してくれた。

「例えば、セミナーもそうです。マーケティングのプロセスの中でセミナーは3段階あります。まずリードジェネレーションに使う場合、数は多ければ多いほどいいです。ちょっとキャラクターのエッジのかかった人を講師に迎えてできる限り多く集めます。そして集めた名刺に対してコミュニケーションを開始する。これがリードジェネレーションの戦略です。

ナーチャリングの場合、マックスで40人程度です。それ以上多いと質問もできないし、落ち着きません。この段階では、あまりしつこくフォローすべきではありません。顧客心理としては、まだ40対1の関係性でいたい。1対1で聞く前に、40対1で情報をとりたいというニーズだからです。

営業のスタートのフェーズでは、ラウンドテーブルの形態がよいでしょう。飲み物もお出しして、セミナーの内容は質疑応答を中心にする。時間の半分以上はディスカッションもしくは質疑応答等にあてるのです。人数は多くて15人。1社から2~3人来るから10人来たって3社です。でもそれでいいんです。その後はもう1to1でしょう。

本来、セミナー企画は目的やフェーズによって使い分ける必要があります。しかし、社内にマーケティングナレッジがないと、どうしていいか分からず、集客も売り上げにつなげることも上手くいかないんです」

 

20歳のときに出会ったセオドア・レビットがマーケティングを学ぶキッカケに

マーケティング業界歴36年を誇る庭山氏。そんな庭山氏がそもそもマーケティングに興味を持ったキッカケは何だったのだろうか。

「マーケティングに出会ったのは20歳のとき。大学の図書館で、たまたまセオドア・レビットの本と出会って面白いなぁと思いました。本を読み始めてからおそらく3日ぐらいで、これだ!と思いましたね。多分一生これを生業(なりわい)として生きていくことになるだろうと思ったのです。以来36年間一度も飽きていません。そんな夢中になれるものと出会えて、本当に幸せだと思います。

大学生のときは、マーケティング研究会というサークルを作って代表になったり、ずっと自己流でマーケティングの研究を行っていました。大学の授業もありましたが、当時のマーケティングは統計学から入るのでつまらなかったんですね。本で読んで夢中になったマーケティングと、受講したマーケティングの授業にはギャップがあったのです。自分の愛したマーケティングはこれではない。結局自分で勉強しようと考えました。

 卒業後は2社のマーケティング会社でコンサルタントとして働き、28歳の時に起業しました。以来、ずっとマーケティングのキャリアです」

 

責任を負わないコンサル会社から、泥臭いことまでする業務請負会社へ

庭山氏のマーケティング人生は続く。

「1990年の設立後、96、97年くらいまではマーケティングコンサルティングのみでした。しかし、コンサルタントというのは結果責任を負ってはなりません。なぜならば、コンサルティングプロジェクトの結果というのは、100%お客様の理解力と実行力に依存する。だからコンサルタントというのはあくまでもアドバイスをする、分析をするという立場で、結果にコミットなどすべきではないというのが、いわゆる昔のコンサル教育だったのです。でも、それでは目の前の問題は解決されず、お客様はずっと困ったまま。私たちは適切なアドバイスをして、お客様は『そうですよね』と言うけれど上手くできない。問題は解決していないけれども、コンサルした分、私たちはひたすらお金をいただく。

本来、私たちが『問題を解決してくれないなんて、あんたヤブ医者だね』と言われなきゃならないのに、なぜか日本では『本当に申し訳ない。うちの社員が馬鹿ばっかりで』と言われる。そんな日々に対して、『これはいかんな』というフラストレーションがずっとあって。1997年くらいに全社員集めて、『もうコンサルはやめる。コンサルから業務請負に変わる。これ以上このストレスには耐えられない。アウトソーサーになる』と宣言したんです。すると、社員のほとんどは辞めました。コンサルタントになりたい人間は、そんな泥臭いことしたがらないからです。

 結局ニーズがあったので、業務請負を発注してくれるお客様限定でコンサルは継続したのですが、メニューからは外して、お客様のコンテンツマネジメント・アナリティクス、MAの運用などを全部自分たちで行う会社に1997年以降は変わりました」

 

BtoCというのはプロでも理解できないことが起こる世界

コンサルから業務請負以外の大きな変化はBtoB専業としたこと。

「それまでは、BtoB、BtoCの両方に対応していました。
コンサルタントとして何らかのエッジを立てないといけないと思っており、私が一番得意というか、好きだったのが管理も含めて顧客データをどう活用するかだったのです。
データベースという新しいテクノロジーを活用して、顧客データを管理し、そして顧客により大きなベネフィットを与えるようなマーケティングをしないとダメだと思いました。

当時はBtoB、BtoCの両者に対応していましたが、実はBtoCのほうは、あまりにもエモーショナルなので、成功しても失敗しても、その理由がよく分からないというのが実態なんです。

例えば、コカ・コーラはなぜ売れているのか説明できますか? 
36年もマーケティングをしている私でも実はできないんです。だってコカ・コーラがなくなって困る人って、関連業者しかいないじゃないですか。
美味しいからかもしれませんが、本当にコカ・コーラがほかの飲料水より突出して美味しいのかは誰にも分からない。
レシピだって公開されていないのに、実際は世界中で売れまくっている。そういう説明できないことが起きるのがBtoCの世界なんです」

 

BtoBはマーケティングの設計が良ければ、必ず成果が上がる

「対して、BtoBはすごくスペースフィックな世界です。自分のお金ではなくて会社のお金を使うため、第三者を説得するというプロセスが入ります。いわゆる稟議ですね。そのため、きわめてロジカルなんです。だから、マーケティングの設計が良ければ、必ず良い成果が出ます。それで1997年以降は、BtoBのみに絞ってマーケティング業務を行うことにしました。

 2008年のリーマン・ショック以前の、当社の顧客リストはほぼ外資のIT企業でしたね。当時の日本企業、特に大手企業はマーケティングなんかしていませんでした。

 しかし、リーマン・ショックが起こったことにより、不景気になって。当社はマーケティング会社なので、業績が伸びるのはいつも不景気のときです。景気が良くて物やサービスがバンバン売れているときはマーケティングなんて皆さん始めようと思いませんから」

 

不景気にならないと日本企業はマーケティングを始めない

「これまではずっと系列の中で受注をもらっていたある自動車の部品メーカーがいました。しかし、不景気のあおりを受けて、ある日突然親会社から『もう系列以外に営業に行っていいよ。その代わり私たちもこれまで通りの発注は保障できない。』と言われます。でもその部品メーカーには社員が8000人もいるけど、営業はたったの2人しかいません。マーケティングどころか営業ノウハウもなく戸惑ってしまいます。そんなときに『そういえば2年くらい前に日本の製造業もマーケティング必要ですって言ってた変な奴がいたな』とパッと思い出してくれて、実際、当社に問い合わせしてくださったのがその部品メーカーでした。不景気になって、本当に藁をもすがる思いでなんとかしたいという状況になってはじめてマーケティングへの着手を考える企業が多いのです。

現在、日本の製造業は海外企業に負けることが多いです。製品の仕様や価格、営業リソース、メンテナンスなどどこを比較しても負けていないのにお客様に選ばれていない。『なぜこんなに売り上げが上がらないのか?』。そう考えたときに、自分たちに足りないものは何か。それがマーケティングなのです。

シーメンスやフィリップスなどマーケティングを得意とする海外企業が競合相手になった時に、当社は存在を思い出してもらえるんですね。

また日本の大手企業は、景気が全体的に良くても、苦戦している製品や事業部、地域などがあります。例えば海外のアジアが弱いとか。そういうところをお手伝いすることはありますね。リーマン・ショックがきっかけとなり、マーケティングの重要性が再認識されたと思います」

今回のインタビューではABMとは何なのか。また日本の経済状況に合わせてマーケティングの流れが変化していることが分かった。今後、日本企業のBtoBマーケティングの成功においてABMが大きな可能性をもっていることは間違いない。

日本企業が再躍進するためにも、まずはマーケティングの着手を考え始めてもらいたい。それがきっと御社の成功の近道になることだろう。

庭山 一郎
シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役

1962年生まれ、中央大学卒。1990年9月にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。データベースマーケティングのコンサルティング、インターネット事業など数多くのマーケティングプロジェクトを手がける。1997年よりBtoBにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。製造業、IT、建設業、サービス業、流通業など各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティングサービスを提供している。

年間で100回以上に及ぶセミナー講師や、ノヤン先生として執筆している『マーケティングキャンパス』等、多数のマーケティングメディアの連載をとおして、実践に基づいたマーケティング手法やノウハウを、企業内で奮闘するマーケターに向けて発信している。

日本人材ビジネス協議会(副理事長)
DMA(Direct Marketing Association:米国ダイレクトマーケティング協会:本部 ニューヨーク)会員
IDN(InterDirect Network:インターダイレクトネットワーク:本部 ルーマニア)理事
中央大学大学院ビジネススクール客員教授

Solution / ProFuture のソリューション

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