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生成AI出現以降のB2Bマーケティング手法はどう変わる?B2Bマーケの第一人者が解説

2023.12.27
読了まで約 6

日本市場にChatGPTが登場してから1年が経過し、企業の中では生成AIがさまざまな形で活用されるようになった。文章、イラスト、画像、広告の生成、自動応答などの事例が多く見られる。そんな中、B2Bマーケティングにおいて、生成AIはどのように活用され、発展しているのだろうか。

B2Bマーケティング専業で30年以上にわたり500社以上の支援を行ってきたシンフォニーマーケティングの庭山一郎氏に、世界と日本のB2Bマーケティングにおいて生成AIがもたらした変革と影響について伺った。

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インタビュイー:シンフォニーマーケティング株式会社 庭山一郎氏
インタビュアー:東洋経済新報社 編集局次長 山田俊浩氏

15年遅れの日本のB2Bマーケティング

山田 今回は、生成AI時代のB2Bマーケティングのトレンドについて、お伺いしたいと思います。

2022年11月に生成AIのChatGPTが一般公開されたことを機に、多くの日本企業が一度は飛びつき、少し流行りはしたものの、今は落ち着いてしまっていると感じます。一方、米国ではすでに50%以上の企業で、ChatGPTなどの生成AIを活用しているという調査結果があります。生成AI時代において、B2Bマーケティングはどう変わっていくと考えられるでしょうか。

庭山 生成AIの話をする前に、そもそも日本ではB2Bマーケティングが欧米から大体15年遅れている、というお話をさせてください。

マーケティング・オートメーション(MA)がアメリカで普及し始めたのは2000年のことです。その後、日本でEloqua(エロクア)、Marketo(マルケト)、HubSpot(ハブスポット)などのMAシステムが発売されたのが2014年です。

山田 アメリカと日本のMAの普及には約15年のタイムラグがあるのですね。

庭山 分野によってはもっと遅れていて、販売代理店をどう管理するかという「パートナーリレーションシップマネージメント(PRM)」に至っては、言葉も定義も知らない人の方が多く、日本ではその概念自体があまり普及していません。そのぐらい周回遅れなのです。

山田 周回遅れ!深刻ですね。

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世界のB2Bマーケティング市場には生成AI製品が1万以上も存在

庭山 生成AIに関しても同じことが言えます。日本では2023年に入ってChatGPT3.5を使い、凄いと騒ぎ始めました。

今年、私は当社の副社長と手分けして、アメリカとヨーロッパで開かれた5つのマーケティング・カンファレンスに参加しました。アリゾナで開催されたカンファレンスでは「今、マーケティング・システム開発を行っているベンダーでAIを取り込んでいない会社はゼロ、取り込んでいる会社は100%です。さらに、ChatGPTのバージョン4です」という発表がありました。

山田 GPT-4の登場でようやく注目した日本とは全然状況が違う。

庭山 欧米ではテスト段階ではなくシステムに実装して、かなりコアな仕事をさせています。生成AIが行う領域は凄まじく拡大しているのです。

山田 日本で生成AIが普及してちょうど1年、というのもChatGPTがWeb版で一般公開されて1年ということで、世界では企業向けに2017年ごろから公開されています。世界各国ではその頃から取り組んでいたということでしょうか。

庭山 そうです。できるところからどんどんAI化されてきていますし、アメリカの場合はツールの進化が凄まじいのです。私の友人でもあるスコット・ブリンカー(Scott Brinker)氏が、世界中のマーケティング・テクノロジーの製品を1枚にまとめた「MartechMap」(カオスマップ)を作っているのですが、2012年に350製品だったのが、2023年には11,000を超える製品数になっています。

参考リンク
Martechmap(2023年最新版PDF)
Martechmapの変遷(jpg:2011年から2023年まで)

山田 (「MartechMap」を見ながら)一つ一つが製品ロゴ。もはやマップというよりもロゴの一覧に見えます。

庭山 こういう激しい戦いのなかで、競合が使っているAIや生成AIを自社製品に取り入れないなんていうことはあり得ない。マーケティング・ツールが先進的なAIを実装しているのは、当たり前なのです。

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生成AIの活用はクリエイティブ分野から

山田 欧米では、マーケティング・ツールが生成AIによって目覚ましい進化をしていることがよくわかりました。そうしたツールのなかで、生成AIは、主にどのような役割を果たしているのですか。

庭山 B2Bマーケティングには、大きく分けて「データマネジメント」と「コンテンツマネジメント」の2つの領域があります。

データマネジメントは企業や個人情報の整理、分析を行います。コンテンツマネジメントは、自社の製品/サービスを訴求するためのWebコンテンツの作成、配信するメールを作成し、どのターゲットにどのコンテンツを届けるのか、を考える作業です。

私たちは当初、AIはデータマネジメントの方に活用されると考えていたのですが、やはり個人情報管理の観点から難しさがある。それで今、生成AIが組み込まれているのは、主にコンテンツマネジメントの方です。

山田 そうすると、マーケティングの中でクリエイティブと呼ばれる仕事が、生成AIで行われるようになる。

庭山 そうです。今まで人がやっていた仕事で、なくなるものが結構出てくると思います。アメリカではWebのHTMLコーディング、HTMLメールなど、文章を書く仕事は、ほとんど生成AIがやっています。写真を選ぶ、レイアウトする、というのもそうです。

山田 人は最後のチェックをするだけになるわけですね。そうしたアメリカの生成AIは、日本にも入ってきているのですか。

庭山 先日、日本で開催されたSalesforce(セールスフォース)やAdobe(アドビ)のイベントも生成AI一色でした。翻訳の精度が上がってきているので、日本でも使えるようになっています。

山田 AI活用自体は以前からありましたが、生成AIによってできることの次元が従来とは違ってきている、ということですね。

庭山 そうです。生成AIを使わないという選択肢は無い、と言っていいでしょう。

関連リンク:画像生成AIとは?イラストが生成される仕組みとおすすめサービス7選

生成AIの有効活用にはマーケティングの確立と身の丈にあったツール選定が必須

山田 日本の企業において、生成AIを搭載したマーケティング・ツールを使う上ではどんな課題がありますか。

庭山 日本の企業で、マーケティングオートメーションを導入している企業は2万社あると言われています。ところが、そのほとんどがMAでメール配信をしているだけ。そこが、そもそも大問題なのです。

ツールベンダーは、マーケティングの道具の操作方法は教えてくれるけど、マーケティングそのものを教えてくれるわけではない。だからまず、B2Bマーケターは道具を使いこなすために、マーケティングの基礎をしっかり学ぶことが第一です。次に重要なのは、自社の身の丈に合ったツールを選ぶことです。

2000年に世界で最初のMAツールとして登場したEloqua(エロクア)がエンタープライズ(大企業)向け、2007年にできたMarketo(マルケト)がミッドマーケット(中規模企業)向け、同時期に登場したHubSpot(ハブスポット)がスタートアップやSOHO向けです。このヒエラルキーは今でもアメリカでは変わっていません。

ところが日本では2014年にこの3つのMAが同時に上陸したので、混乱が起こりました。大企業がHubSpotを入れたり、中小企業が頑張ってEloquaを買ったり。MAを選ぶナレッジの無い買い手が多く、営業されるがままに導入してしまった企業が多かったのです。

山田 最適なMAを選ぶには、どうしたらいいのでしょう。

庭山 ツールを選ぶ絶対的なセオリーは、「3S (スリーエス)」。Strategy(戦略)、Structure(組織)、System(社内制度)です。

まず戦略をつくり、それを実現するために必要にして十分な質と量をもった組織を作ることです。そうすると、ツールで何をするのか、誰が使うかの要件定義が揃って、ツールを正しく選べるようになります。日本の企業は、戦略なしに最初にツールを入れてしまう。組織も作らない。だからMAも活用できないのです。

山田 マーケティングの基本をしっかり学んで、戦略と組織を作って取り組むことが大事なのですね。組織でツールを活用する力を育てるために、安価で簡単に使える生成AI搭載ツールを使って、まず体験してみる、というのはどうでしょうか。

庭山 それも良いですね。今はCloudで初期投資なしで導入できますし、ライトなものを使ってナレッジをためて、自分達のノウハウが溜まってきたら身の丈に合うものにリプレースするというのが正しくて、実際にそういうことが起きています。

山田 ベンダーロックイン(1社のベンダーに拘束されてしまう)になりそうですが。

庭山 大丈夫です。マーケティング・ツールは勘定系と違って、比較的容易に他の製品に乗り変えられます。リプレースで諦めないといけないものはWebログだけで、個人情報などはCSVなどで入れ替えができますから。

山田 さきほど、世界には11,000ものマーケティング・ツール製品があるとおっしゃいましたが、それだけたくさんのツールが実際に使われているのでしょうか。

庭山 アメリカのトップ企業では、使っているツールの数がもの凄く多い。MA製品が多機能化していて、フォームもあるし、生成AIによるチャットボットも実装されている。けれどそれだけでは自社のニーズに見合わないからDrift Automationを使ったり、インテントデータ(顧客・企業が関心を持つものを特定するためのデータ)もLinkedInだけでは心もとないのでZoomInfoやBomboraなどの複数ソリューションを使ったり、というやり方をしています。

最新のテクノロジー情報をキャッチアップして、自分達がやりたいことに対して最適な組み合わせを作ることがすごく大事で、こうした使い方が世界のB2Bマーケティングのトレンドになっているのです。

山田 MAツール自体が進化している上に、さらに他の製品をプラスして活用するのが定番のやり方なのですね。

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生成AIの登場でB2Bマーケターのポジションが向上

山田 生成AIの登場がB2Bマーケティングにもたらしたものとは?

庭山 アメリカでは、マーケティング・オペレーション(MOps モップス)の経験者が、今はテクノロジーをウォッチして、自社がどれを取り入れるかを判断して上にレポートする役目になってきました。社内のポジションもすごく上がっています。ツールの進化が速いので、専門の部隊が見ていないと追いつけない。これは完全に生成AIの影響です。

山田 日本はまったくそのレベルに達していませんね。

庭山 残念ながら、日本では営業活動においてMA自体が成立していない会社がほとんどですし、MAツールの活用もまだまだです。当然、生成AIの活用もできていません。

山田 2023年11月にOpenAIのカンファレンス(DevDay)がありました。アメリカの参加企業は業種も幅広く、上位ポジションの方が出席していたのに対し、日本企業の参加者は、ほとんどいませんでしたね。

庭山 欧米では、ChatGPTをバージョン1から使っていて何世代も経験しているから、自分達がやろうとしていることのアルゴリズムはどこがいいとか、生成AIの使い方がより具体的になっているのです。日本ではまだ、ChatGPTが凄いとか、AIは怖いというレベル。そこから早急に追いついていかなければなりませんね。

山田 現場レベルだけでなく、トップ層の経営レベルがB2Bマーケティングと生成AIに関して知見を持つ必要があることがよくわかりました。では次に、経営とB2Bマーケティングについて、詳しく伺います。

(次回の掲載記事に続く)

庭山一郎氏の過去インタビュー記事
【特別インタビュー】日本におけるBtoBマーケティングの成功とABM(アカウント ベースド マーケティング)前編
【特別インタビュー】日本におけるBtoBマーケティングの成功とABM(アカウント ベースド マーケティング) 後編

画像:著者 庭山一郎氏の本

関連リンク: BtoBマーケティングとは?基礎や戦略の立て方、13の手法、成功事例を解説

プロフィール

庭山 一郎

庭山 一郎(にわやま いちろう)

シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役
中央大学大学院ビジネススクール客員教授

1990年にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。1997年よりB2Bにフォーカスした日本初のマーケティングアウトソーシング事業を開始。製造業、IT、建設業、サービス業、流通業など各産業の大手企業を中心に国内・海外向けのマーケティングサービスを提供している。海外のB2Bマーケティングエージェンシーやツールベンダーとの交流も深く、長年にわたって世界最先端のマーケティングを日本に紹介。ライフワークとして、ブナの植林活動など「森の再生」に取り組む。著書に『BtoBマーケティング偏差値UP』『究極のBtoBマーケティング ABM(アカウントベースドマーケティング)』(ともに日経BP)『ノヤン先生のマーケティング学』(翔泳社)などがある。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

インタビュアー

山田 俊浩(やまだ としひろ)

東洋経済新報社 編集局次長

2020年10月から現職。2014年5月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。就任時には月間3000万PVだった東洋経済オンラインを月間2億PVを超える大手新聞社に匹敵する大型ニュースサイトへと引き上げた。2019年1月から2020年9月までは週刊東洋経済編集長。著書に『稀代の勝負師 孫正義の将来』(東洋経済新報社)がある。また不定期でAbemaTV の『ABEMA Prime』(アベプラ)にコメンテーターとして出演中。趣味はオーボエ演奏で都民交響楽団に所属。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

監修者

古宮 大志(こみや だいし)

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長

大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、クライアントのオウンドメディアの構築・運用支援やマーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。Webマーケティングはもちろん、SEOやデジタル技術の知見など、あらゆる分野に精通し、日々情報のアップデートに邁進している。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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