この記事では、近年注目を集める「人的資本経営」と「広報」を掛け合わせ、開示された人的資本データをBtoBのリード獲得に活かす具体的な手法について解説します。単なる情報開示に留まらず、有価証券報告書などのデータをマーケティング素材へ変換し、企業の信頼性を高めて新規案件に繋げるための広報施策の重要性や、国内の成功事例、実践時の注意点までをわかりやすくご紹介していきます。
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目次
人的資本経営×広報がBtoBリード獲得において重要視される理由
この章では、近年急速に関心が高まっている「人的資本経営」の基本的な概念から紐解き、次に「広報」との掛け合わせがBtoBマーケティングにおけるリード獲得の強力な武器になる理由、そしてこの取り組みがなぜ企業のLTV(顧客生涯価値)最大化に直結するのかについて、BtoBマーケターの皆様に向けてわかりやすく解説していきます。
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人的資本経営とは
人的資本経営とは、人材を「管理すべきコスト」として捉えるのではなく、企業の価値を中長期的に高めるための「資本(投資対象)」として捉え、その価値を最大限に引き出す経営手法のことです。経済産業省が公表している「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」でも、持続的な企業価値向上のために不可欠な要素として位置づけられています。
従来の財務情報(売上や利益など)だけでなく、従業員の育成状況、多様性(ダイバーシティ)、エンゲージメントといった「非財務情報」を定量化し、社内外に開示することが求められています。これにより、投資家だけでなく、取引先や顧客に対しても、企業の持続可能性や信頼性を示す重要な指標となっています。
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人的資本経営×広報の掛け合わせが注目される背景
では、なぜこの人的資本経営が、BtoB企業のマーケティングやリード獲得において注目されているのでしょうか。その背景には、BtoB購買プロセスの変化と、決裁権を持つ「経営層・役員層」へのアプローチの難しさがあります。
【2026年 BtoBマーケティング103社調査】9割が「決裁者アプローチとROI」に課題。大量獲得を脱却する新基準
従来型Web集客の頭打ちで問われる「リード質」。予算は「増加」でも手応えは「減退」する、BtoBマーケティングの異変 マーケトランク編集部(ProFuture株式会社)は、2026…
多くのBtoBマーケターが、リードは獲得できているものの、「商談化率や受注率が低い」「全社導入に至らず、LTV(顧客生涯価値)が伸び悩んでいる」という課題を抱えています。その原因は、意思決定権を持つ経営層や役員に対して、自社サービスを導入する「企業としての信頼性や持続可能性」を訴求できていない点にあります。
人的資本経営のデータを広報活動(PR)を通じて戦略的に発信することで、企業の「信頼の裏付け」を可視化できます。これにより、現場の担当者だけでなく、経営層に対しても「この企業は組織として健全であり、長期的なパートナーとして信頼できる」という強力なメッセージを届けることが可能になるのです。
広報活動が人的資本データの価値を最大化する理由
人的資本データは、単に有価証券報告書や自社サイトのIRページに掲載しておくだけでは、その価値を十分に発揮できません。広報活動と連携させることで、初めてマーケティング素材としての価値が最大化されます。その具体的な理由は以下の3点に整理できます。
1. 専門的で難解なデータを「顧客に刺さるストーリー」に変換できるため
人的資本データは数値や専門用語が多く、そのままでは顧客(特にマーケティングのターゲット)に響きにくい性質を持っています。広報のスキルを活用することで、「なぜその取り組みを行っているのか」「それによって顧客にどのような価値を提供できるのか」というストーリーに昇華させ、ターゲットの共感を呼ぶコンテンツへと変換できます。
2. 第三者メディアを通じた「客観的な信頼性」を獲得できるため
自社で「優れた人材が揃っています」とアピールするよりも、広報活動を通じてメディアに取り上げられることで、客観的な信頼性を獲得し、競合他社との圧倒的な差別化を図ることができます。メディア掲載実績は、商談時の強力な営業ツール(社会的証明)としても機能します。
3. 企業の「持続可能性(サステナビリティ)」を証明し、LTV向上に寄与するため
BtoBのツールやサービスを全社導入する際、決裁者は「このベンダーは数年後も安定してサービスを提供し続けられるか」を厳しくチェックします。人的資本の開示は、サービスを支える「人」や「組織」が健全に成長している証拠となるため、長期的な契約(LTVの最大化)を後押しする決定打となります。
人的資本データと広報、そしてマーケティングが連携することで、従来の「機能や価格の訴求」から脱却し、「企業としての信頼性」を軸にした高単価・高確度のリード獲得が実現します。以下に、従来のマーケティングと人的資本経営×広報を掛け合わせたマーケティングの違いをまとめました。
| 比較項目 | 従来のBtoBマーケティング | 人的資本経営×広報を活用したマーケティング |
|---|---|---|
| 主な訴求内容 | サービスの機能、価格、部分的な導入実績 | 企業の信頼性、組織の健全性、長期的な支援体制 |
| ターゲット層 | 現場の担当者、実務リーダー層 | 経営層、役員、意思決定権を持つ部門長 |
| リードの質と商談化率 | 数は集まるが、決裁権がなく商談化率が低い傾向 | 信頼を起点とするため、商談化率・受注率が高い |
| 目指せる成果 | 部分導入、短期的な契約 | 全社導入、LTV(顧客生涯価値)の最大化 |
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人的資本データをBtoBリード獲得の武器にする具体的な広報施策
この章では、人的資本データをBtoBマーケティングに活かし、決裁者層のリード獲得やLTV(顧客生涯価値)の向上につなげるための具体的な4つの広報施策について、わかりやすく解説していきます。

有価証券報告書や統合報告書をマーケティング素材に変換する
多くの企業が情報開示のために作成している有価証券報告書や統合報告書ですが、これらはIR(投資家向け広報)活動だけでなく、BtoBマーケティングにおける強力な武器になります。特に、自社製品やサービス(SaaSやオフィス環境改善ツールなど)が、顧客企業の「人的資本経営の推進(エンゲージメント向上や業務効率化など)」にどう貢献できるかをロジカルに証明する素材として再編集することが重要です。
IRデータをマーケティング用コンテンツへ変換するステップ
ただ報告書をそのまま送るだけでは、マーケティングのリード獲得にはつながりません。以下の表のように、IR視点のデータをマーケティング視点へと翻訳し、お役立ち資料(ホワイトペーパー)や特設Webページへと落とし込んでいく必要があります。
| IR開示におけるデータ項目 | マーケティング素材としての切り口 | ターゲット(決裁者)への訴求効果 |
|---|---|---|
| 女性管理職比率・多様性(ダイバーシティ) | 多様な人材が活躍できる「柔軟な働き方を支えるITインフラ」の導入効果事例 | 組織の多様性と生産性向上を両立したい経営層の共感獲得 |
| 従業員エンゲージメント・離職率 | 業務効率化ツール導入による「ノンコア業務の削減とエンゲージメント変化」の相関データ | 離職防止やエンゲージメント向上を課題とする人事責任者へのアプローチ |
| 人材育成・リスキリング投資額 | 自社ツールを活用した「教育コストの削減とスキル習得スピードの向上」の実証データ | 人材開発への投資対効果(ROI)を重視する役員層への説得力強化 |
自社の独自データを活用した調査レポートやホワイトペーパーの作成
BtoBマーケティングにおいて、ホワイトペーパーは定番のリード獲得施策ですが、一般的なノウハウだけでは他社との差別化が難しく、担当者クラスのダウンロードにとどまりがちです。そこで、自社が保有する人的資本に関連する独自データ(一次データ)を分析した調査レポートを作成します。
例えば、自社のSaaSツールやオフィス環境サービスを導入した企業の「従業員の労働時間削減推移」や「社内コミュニケーションの活性化度合い」を数値化し、人的資本開示の推奨項目に沿った形でレポート化します。これにより、「自社の人的資本開示をどう進めればよいか」と悩む他社の経営企画部門や人事責任者といった、全社導入の決裁権を持つハイレイヤー層のリードをピンポイントで獲得できるようになります。
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オウンドメディアやSNSを活用したストーリーテリング発信
データという「数字」を並べるだけでは、ターゲットの感情を動かすことはできません。数字の背景にある「人」や「組織」の変化を、オウンドメディアやSNS(特にビジネス層が多く利用するLinkedInやFacebook)、noteなどを通じてストーリーとして発信していくことが大切です。
具体的には、自社のサービスを導入して「残業時間が削減された結果、従業員がリスキリングに時間を割けるようになったプロセス」や、「オフィス環境の改善によって部門間コラボレーションが生まれ、新規事業が立ち上がったドキュメンタリー」などを記事化します。「人的資本への投資が、どのように企業の成長(売上やイノベーション)につながるのか」というストーリーを届けることで、単なるツール導入の提案ではなく、企業の未来をつくるパートナーとしての認知を確立し、商談化率の向上に寄与します。
関連記事:LinkedIn(リンクトイン)とLinkedInラーニングの使い方:採用・転職・広報活動だけじゃないビジネス活用術とは
人的資本をテーマにした共催セミナーの企画と開催
自社単独での発信に限界を感じる場合は、人的資本経営のコンサルティング会社や、人事評価システムを提供する他社SaaSベンダーなどと共同でオンラインセミナー(ウェビナー)を企画・開催するのが非常に効果的です。
例えば、「【経営層向け】人的資本開示を形骸化させない!エンゲージメント向上と業務効率化を両立する組織変革のロードマップ」といったテーマを設定します。自社のサービスが直接的な解決策になる前段階の「組織課題」をテーマにすることで、潜在的な課題を抱える大手企業の役員クラスや人事部長クラスを誘引できます。セミナー後のアンケートや個別相談会を通じて、全社導入を見据えた確度の高いリード(商談候補)を効率的に獲得していくことができます。
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人的資本経営×広報の連携でリード獲得に成功した国内企業の事例
人的資本データの開示は、単なる法令遵守やコーポレートガバナンスへの対応にとどまりません。広報活動と巧みに連携させることで、BtoBマーケティングにおける強力な武器となり、信頼性の高いリード獲得や商談化率の向上に直結します。ここでは、実際に人的資本データをフックにした広報施策を展開し、新規問い合わせや案件獲得に成功した国内企業の事例をご紹介します。
独自の人材育成データを公開して問い合わせを増やしたIT企業の事例
ピアボーナスサービスや組織風土改革のコンサルティングを展開するUnipos株式会社は、自社の強みである組織開発の知見と人的資本データを組み合わせた広報活動により、質の高いBtoBリードを獲得した代表的な事例です。
同社は、代表取締役社長CEOの田中弦氏が国内数千社の有価証券報告書や統合報告書を読み込み、人的資本の開示状況を独自に分析しました。そのリサーチ結果をもとに構築した「人的資本経営フレームワーク」を、2023年10月に発表。自社オウンドメディアやSNS、プレスリリースを通じて無償公開したのです。
単なるサービス紹介ではなく、「人的資本開示に悩む企業を救う」という専門的な一次情報の発信に徹したことで、メディア露出が急増。同社が開催するセミナーには累計1万人以上が参加しました。経営層や人事責任者といった「決裁権を持つ層」へリーチし、優良リードの獲得に成功。プライム上場企業を中心とした全社導入などの大型案件の獲得につながっています。
| 企業名 | 課題 | 人的資本×広報の取り組み | マーケティング成果 |
|---|---|---|---|
| Unipos株式会社 | 決裁権を持つ経営層や人事責任者へのアプローチ不足 | 数千社の開示データを分析した独自フレームワークをオウンドメディアやプレスリリースで無償公開 | 関連セミナーへの累計参加者1万人突破、商談化率の高い優良リードの獲得 |
なお、2026年3月には、改訂版の「人的資本経営フレームワーク2026(田中弦モデル)」が発表されています。
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人的資本データを活用した広報活動における注意点
人的資本データをフックにした広報活動は、企業の信頼性を高め、決裁権を持つ経営層からのリードを獲得するための強力な武器になります。しかし、その強力さゆえに、取り扱いを誤ると企業のブランドイメージを大きく損ねる諸刃の剣にもなり得ます。特に、現場からのリードは獲得できているものの商談化率や受注率の低さに悩むBtoBマーケターや、LTV(顧客生涯価値)を高めるために全社導入を狙うITツール・SaaSベンダーにとって、発信するデータの信頼性は商談の成否を分ける極めて重要な要素です。この章では、人的資本データをマーケティングや広報に活用する際に絶対に避けるべき2つの注意点について、わかりやすく解説していきます。
実態と乖離した誇大表現によるレピュテーションリスクの回避
BtoBマーケティングにおいて、自社を魅力的に見せたいあまりに、データを実態よりも良く見せようとする誘惑に駆られることがあるかもしれません。しかし、人的資本データにおいて実態と乖離した誇大表現を行うことは、企業の社会的信用を失墜させる致命的なレピュテーションリスクにつながります。
「人的資本ウォッシュ」と批判されるリスク
環境配慮を装う「グリーンウォッシュ」と同様に、実態が伴っていないにもかかわらず、見栄えの良い人的資本データだけをアピールする行為は「人的資本ウォッシュ」として厳しく批判される対象となります。例えば、女性管理職比率や研修投資額の高さなどを大々的に広報しているものの、実際には一部の部署に偏っていたり、現場の労働環境が過酷で離職率が高止まりしていたりする場合がこれに該当します。商談が進む中で、顧客企業の担当者や決裁権を持つ役員層にこうした実態とのギャップを察知されれば、「言行不一致の信頼できない企業」と判断され、商談化率や受注率の劇的な低下を招くことになります。
関連記事:レピュテーションリスクとは?企業評判を守るための対策・事例を徹底解説
現場の実態と開示データの整合性の担保
広報やマーケティング部門が発信するメッセージは、常に人事部門や現場の実態と整合していなければなりません。特にSaaSやITツール、オフィス環境サービスなどの全社導入を狙う場合、顧客は自社の組織課題を解決するためのパートナーとしてベンダーを評価します。自社が提供するサービスの価値を証明するために自社の人的資本データを提示するのであれば、そのデータが現場の従業員の実感や実際のエンゲージメントと一致していることが不可欠です。社内コミュニケーションを密にし、データが示す数値の背景にあるストーリーを正確に把握した上で発信することが、レピュテーションリスクを回避する唯一の方法です。
関連記事:EX(従業員体験)の向上が、最強のBtoBコンテンツになる理由
開示データの正確性と継続的なアップデートの重要性
人的資本データは、一度開示して終わりではありません。マーケティング素材として活用し続けるためには、そのデータの正確性と、経年変化を示すための継続的なアップデートが不可欠です。
算出定義の標準化と一貫性の確保
開示するデータは、客観的かつ標準的な定義に基づいて算出されている必要があります。例えば、内閣官房・金融庁・経済産業省が共同で公表している「人的資本可視化指針(改訂版)」などの公的なガイドラインに準拠した形で算出定義を標準化することが推奨されます。データ定義が曖昧であったり、年度によって算出方法がコロコロと変わったりするようでは、マーケティング素材としての信頼性は担保できません。以下の表は、広報活動で活用する主要な人的資本データにおいて、定義の標準化と一貫性を保つためのチェックポイントをまとめたものです。
| 開示項目 | 推奨される算出定義・標準 | マーケティング活用時の注意点 |
|---|---|---|
| 従業員エンゲージメント | 国際的な標準ツールや、学術的に検証された指標(eNPSなど)に基づく測定 | 測定時期や対象範囲(正社員のみか、非正規を含むか)を明記し、恣意的なデータ抽出を避ける。 |
| 人材育成・研修投資額 | 従業員1人あたりの年間研修費用、または総労働時間に占める研修時間の割合 | 単に金額の多寡を示すだけでなく、経営戦略や提供サービス(ITスキル等)の向上にどう直結しているかの文脈を補足する。 |
| 多様性(女性管理職比率等) | 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」等の法定基準に準拠 | 自社の役職定義(課長級以上など)を明確にし、他社や業界平均との客観的な比較を可能にする。 |
定期的な進捗開示による信頼関係の構築
人的資本経営への取り組みは一朝一夕に成果が出るものではありません。そのため、開示するデータは毎年、あるいは定期的にアップデートし、その進捗状況をステークホルダーに示すことが重要です。仮に一時的に数値が悪化したとしても、その原因を分析し、どのような改善策を講じているのかを真摯に開示する姿勢こそが、顧客企業からの長期的な信頼獲得につながります。特に、LTVを高めるために全社導入を狙うBtoBビジネスにおいては、サービス提供側の経営の透明性と持続的な成長への姿勢が、パートナー選定における決定打となります。常に最新かつ正確なデータをアップデートし続けることで、マーケティングにおける説得力を強固なものにしていきましょう。
まとめ
この記事では、人的資本経営と広報を掛け合わせることがなぜBtoBのリード獲得に有効なのか、その理由から具体的な施策、そして実践時の注意点までを詳しく解説してきました。人的資本データの開示は、単なる義務ではなく、企業の信頼性と独自性を伝える強力なマーケティング武器になります。実態に伴った正確な情報発信を継続し、競合との差別化や新規案件の獲得につなげていきましょう。

