この記事では、近年注目を集める「人的資本経営」と「広報」の新たな関係性に着目し、EX(従業員体験)の向上が最強のBtoBコンテンツとなる理由やその効果について解説します。さらに、取引先の信頼を得る具体的な情報発信のステップや、実態と乖離させないための注意点まで網羅的にご紹介します。結論として、EXの発信こそが企業の信頼性と価値を高める最大の武器になることを、分かりやすく解き明かしていきます。
特に、他社の組織変革やEX向上をテクノロジーで支援する「HRテック企業」のマーケターにとって、自社のEX発信は単なるコーポレート広報の枠に留まりません。それは、プロダクトの説得力を何倍にも高め、競合との激しい機能論争から一歩抜け出すための「究極の差別化戦略」となります。 情報過多の市場において、顧客から「この企業となら一緒に組織を変えられる」と指名買いされるためのヒントを、実践的な視点とともに解説します。
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目次
BtoB企業における探求:人的資本経営と広報の新たな関係性
近年、多くのBtoB企業が「人的資本経営」への舵切りを迫られています。これまで人的資本経営といえば、主に上場企業が義務化された情報開示に対応するための「IR(投資家向け広報)」の文脈で語られることが大半でした。しかし、現在のBtoB市場において、人的資本経営は単なる財務・投資家向けの開示項目ではなく、企業の競争力を左右する極めて強力なマーケティング・広報のアセットへと進化を遂げています。
特に、SaaSやITツール、オフィス環境サービスなどを提供するBtoB企業において、競合他社との機能的な差異はコモディティ化しやすくなっています。こうした環境下で、自社が「どのような人材を抱え、どのようにその能力を最大化させているか(=EX:従業員体験の質)を社外へ発信することは、プロダクトの信頼性を裏付ける最大の証拠となります。人的資本経営と広報がタッグを組むことで、従来の「製品スペックの訴求」から「信頼される組織としての訴求」へと、BtoB広報のあり方がドラスティックに変化しているのです。
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これからのBtoB広報に求められる人的資本の開示
これからのBtoB広報において、製品やサービスの優位性だけをアピールする手法は限界を迎えつつあります。顧客であるBtoBの意思決定者や選定担当者が注目しているのは、サービスの品質や価格だけでなく、そのサービスを支える「人」と「組織の持続可能性」です。つまり、自社の従業員がどのような環境で働き、どのようなエンゲージメントを持って顧客に向き合っているかという「人的資本の情報開示」が、広報活動の重要なテーマとなります。
具体的には、社内の人材育成制度や、多様な働き方を支援するワークプレイスの整備、心理的安全性の担保に向けた取り組みなどを、ファクト(実績値)を交えてオープンに発信していくことが求められます。こうした情報を広報が戦略的に開示していくことで、顧客企業に対して「この会社は中長期的に安定してサービスを提供し、自社のパートナーであり続けてくれる」という強固な安心感を与えることができるようになります。
EXの向上が企業価値を高めるメカニズム
EX(従業員体験)の向上は、一見すると社内の人事課題のように思えるかもしれません。しかし、EXの向上は以下のような明確なメカニズムを通じて、BtoB企業の市場価値やマーケティング成果に直結します。
まず、EXが向上することで、従業員のエンゲージメントとモチベーションが高まります。これにより、プロダクトの開発品質やカスタマーサクセスの対応クオリティが飛躍的に向上します。「従業員が満たされているからこそ、顧客に対して質の高い価値提供ができる」という好循環が生まれるのです。
この好循環のプロセスを広報がストーリーとして言語化し、社外へ発信することで、企業のブランド価値は劇的に高まります。現場のエンドユーザーから「使いやすい」と評価されているツールが、実は「従業員のEXを徹底的に高めることで生み出されたプロダクト」であると認知されれば、決裁権を持つ経営層や役員クラスに対しても、全社導入を後押しする強力な納得感(大義名分)を提供できるようになります。EXの向上とその発信は、BtoBマーケティングにおける「商談化率の向上」や「LTV(顧客生涯価値)の最大化」を裏から支える、最も本質的なエンジンなのです。
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なぜEX向上の発信がBtoBマーケティングで効果的なのか
本章では、なぜEX向上の発信がBtoBマーケティング、特に商談化率や受注率の向上、LTV(顧客生涯価値)の最大化に直結するのかを解説します。
顧客企業が取引先の人的資本経営を重視する理由
近年、多くの企業がサステナビリティやESG投資への対応を迫られる中で、取引先(サプライチェーン)選定の基準にも変化が起きています。顧客企業がサービスを導入する際、「そのサービスを提供する企業が、自社の従業員を大切にし、健全な組織運営を行っているか」を厳しくチェックする動きが強まっています。
例えば、ITツールやSaaS、オフィス環境サービスなどを全社導入する場合、長期にわたるサポートやカスタマーサクセスとの伴走が前提となります。もし取引先が従業員を酷使し、離職率が高い企業であれば、導入後のサポート品質低下や、最悪の場合はサービス終了といった事業継続性のリスクを抱えることになります。人的資本経営への取り組み、すなわちEX向上を社外に発信することは、「自社は持続可能で、長期にわたり安定した高いサービス品質を提供し続けられるパートナーである」という強力な証明となり、経営層の意思決定を後押しします。
従業員の成長ストーリーが最強の信頼獲得コンテンツになる理由
リードは獲得できているものの、商談化率や受注率が低いという課題を抱えるBtoBマーケターは少なくありません。このボトルネックを解消するのが、従業員のリアルな「成長ストーリー」や「働く姿」を発信するコンテンツです。
BtoBの購買プロセスでは、意思決定者は「失敗したくない」という強い心理的障壁を持っています。機能一覧や導入事例といったスペック情報だけでは、その裏側にある「人の温度感」が伝わりません。自社の従業員がどのような環境で、どのような想いを持って働き、顧客の成功のためにスキルを磨いているのかというEXに紐づくストーリーは、競合他社が模倣できない唯一無二の信頼獲得コンテンツになります。プロダクトを支える「人」の顔と熱量が見えることで、顧客は「この人たちが作る、サポートしてくれるサービスなら任せられる」と確信し、商談化や受注への心理的ハードルが劇的に下がります。
採用広報とブランディングを同時に実現する一石二鳥の効果
EX向上の発信は、マーケティング活動(顧客向けブランディング)と、採用活動(求職者向けブランディング)の双方にシナジーをもたらします。
企業のマーケティング担当者が発信する「働きやすさ」や「挑戦できる環境」といったEXコンテンツは、求職者にとっては「この会社で働きたい」という志望動機を形成する採用広報として機能します。一方で、既存の顧客や見込み客にとっては、「従業員のエンゲージメントが高く、イノベーションが生まれやすい活気ある企業」というブランドイメージの醸成に繋がります。高いエンゲージメントを持つ従業員が顧客対応を行うことで、結果として顧客満足度が向上し、LTV(顧客生涯価値)の最大化やアップセル・クロスセルへと繋がる好循環が生まれます。人的資本経営と広報の連携は、組織の成長と事業の成長を同時に加速させる、極めて投資対効果(ROI)の高いマーケティング投資なのです。
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人的資本経営を体現するEXコンテンツの作り方
人的資本経営の重要性を理解しても、それをどのように広報コンテンツとして発信すべきか悩む担当者は少なくありません。特にBtoBマーケティングにおいては、単なる「社員紹介」や「福利厚生の自慢」に終始してしまうと、ターゲットである決裁者の心には響きません。ここでは、企業の信頼性を高め、全社導入やLTV向上を後押しするEX(従業員体験)コンテンツの具体的な作り方を4つのステップで解説します。
取引先やパートナー企業の共感を呼ぶメッセージの作り方
BtoBの取引において、顧客が最も懸念するのは「導入後のサポート体制」や「サービスの継続性」です。そのため、EXコンテンツを通じて届けるべきメッセージは、単なる社内イベントの様子ではなく、「従業員が自社サービスと顧客にどれだけ真摯に向き合える環境にあるか」という点です。
顧客視点に紐づいた「三方よし」のストーリー設計
メッセージを作る際は、「会社が従業員に投資する(EX向上)」→「従業員のパフォーマンスが上がる」→「顧客への提供価値が最大化する」という三方よしのサイクルを言語化することが重要です。自社の従業員がどのようなスキルアップ支援を受け、それが顧客の課題解決にどう還元されているのかを一貫したストーリーとして設計します。
【マーケターの視点】「システムの機能」ではなく「伴走する自社メンバーのEX」を語る
HRテック領域において、顧客である人事や経営層がシステム選定時に最も恐れているのは、「導入したものの社内に定着せず、投資対効果(ROI)が出ないこと」です。つまり彼らが本当に求めているのは、システムの機能そのもの以上に「自社の組織変革を絶対に成功させてくれる心強い伴走者(カスタマーサクセス)」に他なりません。
そこで、HRテック企業のマーケターはこの「三方よし」のストーリーを、具体的な競合差別化のメッセージへと落とし込む必要があります。
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「手厚いサポート」の裏付けを語る: 単に「専任担当がつきます」と謳うのではなく、「当社ではCSメンバーの専門性向上や心理的安全性(EX)にこれだけの投資をしています。だからこそ、離職率が極めて低く、御社の業界に精通した担当者が変わらぬ熱量で最後まで伴走し続けられるのです」というストーリーに変える。
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開発のEXをプロダクトの未来に繋げる: 「エンジニアが顧客の声に向き合い、挑戦できる環境(EX)があるからこそ、現場の細かな要望がどこよりも早く機能アップデートに反映されます」というストーリーを届ける。
表面的な機能の優位性は、すぐに模倣され、コモディティ化してしまいます。しかし、「それを支える自社メンバーのEXの高さ」という背景(Why)までを開示することで、メッセージに圧倒的なリアリティと信頼感が生まれます。顧客に「このベンダーの組織、この人たちになら自社の未来を託せる」と確信させること。それこそが、情報過多の時代に指名買いされるためのメッセージング戦略です。
関連記事:商品やサービスの「コモディティ化」ってどんな意味? 問題視される理由や原因・対策を解説
従業員のエンゲージメントを可視化する広報アプローチ
「我が社は従業員エンゲージメントが高い」と言葉で主張するだけでは、BtoBの決裁者を納得させることはできません。客観的なデータと、それを裏付ける具体的なエピソードを組み合わせて可視化する必要があります。
定量データと定性情報のハイブリッド発信
例えば、社内アンケートやeNPS(従業員推奨度)などの具体的な数値を公開しつつ、その数値の背景にある従業員のリアルな声をインタビュー形式で紹介するアプローチが効果的です。これにより、データに血が通い、読み手である顧客企業に「この会社は組織として健全であり、信頼できるパートナーだ」という強い安心感を与えることができます。
社内制度のアップデートと連動した情報発信のコツ
独自の研修制度、柔軟な働き方を支援するオフィス環境、評価制度の改定など、社内制度をアップデートしたタイミングは、絶好のコンテンツ発信の機会です。
制度導入の「背景」と「意図」をセットで開示する
単に「新しい制度を導入しました」という事実報告だけでは、社外の関心を引くことはできません。「どのような経営課題や現場の課題を解決するために、その制度を設計したのか」というプロセスを公開することがポイントです。意思決定の背景を開示することで、企業の経営姿勢やパーパス(存在意義)が取引先に深く伝わります。
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オウンドメディアやSNSを活用したEXの伝え方
作成したEXコンテンツは、届ける相手や文脈に合わせて適切なチャネルで発信する必要があります。BtoBマーケティングにおいては、オウンドメディアとビジネスSNSの組み合わせが最も高いシナジーを生み出します。
オウンドメディアでの深掘り記事とSNSでのリアルタイム拡散
オウンドメディアでは、従業員の成長ストーリーや制度の設計秘話を、図解や写真を交えてじっくりと深掘りした記事に仕上げます。一方で、X(旧Twitter)やLinkedInなどのSNSでは、「現場で働く社員のリアルな日常の気づき」や「社内勉強会の熱量」をタイムリーに発信します。SNSでの人間味のある発信がタッチポイントとなり、オウンドメディアの深い記事へとユーザーを誘導することで、企業のファン化を促進します。
【マーケターの視点】「製品の売り込み」から、組織づくりを牽引する「思想的リーダー」へ
通常、オウンドメディアやSNSを「製品の機能紹介」や「ホワイトペーパー(資料ダウンロード)への誘導」で使いがちです。しかし、競合が乱立し、類似の機能訴求で溢れかえる現在の市場においては、製品主体の発信はノイズとしてタイムラインを素通りされてしまいます。
HRテックベンダーが目指すべきは、これらのチャネルを通じて「自社こそが、どこよりも人を大切にし、組織づくりの最先端を走る実践者である」というソートリーダーシップ(思想的牽引力)を確立することです。
そのために、オウンドメディアとSNSの役割を以下のように再定義します。
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SNS(X・LinkedIn等)での「プロフェッショナルな個人」の発信: 企業公式アカウントによる一方的な告知ではなく、マーケター自身や、CS、開発責任者が「一人の組織づくりのプロ」として、自社のEX向上に向けた日々の試行錯誤やリアルな気づきを発信します。顧客である人事や経営層は、同じ悩みを抱え挑戦している「中の人」のリアルな言葉に強く共感し、惹きつけられます。
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オウンドメディアでの「実証ドキュメンタリー」のストック: SNSで興味を持ったユーザーを誘導する先は、ありきたりな製品マニュアルではなく、「自社のEXをどう設計し、どう事業成長(経済価値)に繋げたか」を緻密に紐解いたケーススタディです。これは他社の導入事例ではなく、「自社を実験台にした最高の実証事例」の提示となります。
「ツールを売り込んでくるベンダー」から、「SNSやメディアでいつも本質的な組織論を発信している、信頼できる相談相手」へ。
オウンドメディアとSNSをEX発信の舞台として掛け合わせることで、広告費に依存しない、経営層やCHRO(最高人事責任者)といった良質なリードが自然と集まるマーケティング基盤が完成します。
関連記事:ソートリーダーシップとは?実践プロセスとBtoB企業事例を徹底解説
人的資本経営と広報を成功に導く注意点
この章では、人的資本経営を軸にした広報活動を進める上で、BtoBマーケターが絶対に避けるべき2つの大きな落とし穴と、それを防ぐための具体的な注意点について解説していきます。せっかく獲得したリードを確実に商談・受注へとつなげ、LTV(顧客生涯価値)を最大化するためにも、信頼性を担保するリスク管理の手法を学んでいきましょう。
実態と乖離した誇大広告にならないためのリスク管理
人的資本経営やEX(従業員体験)の向上をアピールする際、最も注意しなければならないのが、実態が伴っていない「人的資本ウォッシュ」と呼ばれる状態に陥ることです。特に、リードは獲得できているものの商談化率や受注率の低さに悩んでいる企業の場合、発信しているメッセージと実際の組織体制やプロダクト開発の裏側との間にギャップがあることが、商談化の障壁となっているケースが少なくありません。
全社導入を検討するような大企業の決裁者は、単に「従業員が生き生きと働いている」というイメージ広告だけでは動きません。開示するデータやストーリーに一貫性があり、実際の社内制度や従業員のエンゲージメントが裏付けられているかを厳しく見極めています。実態と乖離した誇大広告は、商談時の不信感を生むだけでなく、導入後の早期解約(チャーン)を招き、結果としてLTVを著しく低下させる要因になります。
このリスクを防ぐためには、広報部門やマーケティング部門だけでコンテンツを完結させず、人事部門や経営陣と密に連携し、客観的なデータをベースにした情報発信を徹底することが不可欠です。例えば、経済産業省が推進する人的資本経営の指針に則り、自社の「人材育成方針」や「社内環境整備方針」と連動した、嘘偽りのない等身大のEXコンテンツを制作・発信していくことが、最終的な商談化率や受注率の向上へとつながるのです。
社内の共感を得られない独りよがりの発信を防ぐ方法
もう一つの落とし穴は、社外への見栄えばかりを意識した、従業員の共感を得られない「独りよがりの広報発信」になってしまうことです。SaaSやITツール、オフィス環境サービスなどを提供するBtoB企業において、最強のコンテンツとなるのは「従業員が実際にそのサービスや制度を活用して成長しているストーリー」です。しかし、これが現場の実感とかけ離れた美談として仕立て上げられてしまうと、インナーブランディング(社内への浸透)は失敗に終わります。
社内の従業員が「自分たちの働く環境は、広報が発信しているほど良くはない」と冷ややかな視線を送るようになると、社外への発信力も著しく低下します。逆に、従業員自身が自社のEX向上を実感し、自発的にSNSやオウンドメディアで発信したくなるような好循環を作ることができれば、これ以上ない強力なBtoBブランディングとなります。
独りよがりの発信を防ぐためには、コンテンツ制作のプロセスに現場の声を積極的に取り入れる仕組みを構築しましょう。社内アンケートによるエンゲージメントの可視化や、制度アップデートの背景にある課題と改善プロセスをオープンに伝えることで、社内外の双方が共感できるストーリーが生まれます。こうした「内側から湧き出るリアルな熱量」こそが、全社導入を狙う取引先企業の意思決定を後押しする最大のフックとなるでしょう。
まとめ
この記事では、人的資本経営と広報の新たな関係性から、EX(従業員体験)の向上がBtoBマーケティングにおいて最強のコンテンツとなる理由、そして具体的な発信方法や注意点について詳しく解説してきました。人的資本の開示は、取引先からの信頼を高め、企業の持続的な成長を示す強力な武器となります。実態に伴った誠実な広報活動を実践し、社内外の共感を生む企業価値の向上を目指していきましょう。




