ビジネス戦略を立案する上で、「コーホート分析」は非常に有効な分析手法の一つです。この分析を用いることで、特定のユーザー集団(コーホート)の行動パターンや、どのような要因で購買に至るのかといった傾向を深く理解することができます。その結果、より効果的かつ精度の高いプロモーション施策の立案が可能となり、ビジネスの成長を促進します。
本記事では、この「コーホート分析」が、具体的にマーケティング戦略においてどのように活用できるのかを、分かりやすく解説していきます。特に、ユーザーの離脱率の低下や、リピート購入の促進、さらには顧客生涯価値(LTV)の向上といった、現代のマーケティングにおいて重要視される指標の改善に繋がる活用法に焦点を当てます。コーホート分析の基礎から応用までを理解し、あなたのビジネスに役立てていきましょう。
コーホートって何?
そもそも「コーホート」という言葉は、ビジネスやマーケティングの文脈で耳にする機会が少ないかもしれません。そこで、コーホート分析の基礎となる「コーホート」とは何かを、分かりやすく解説します。
● コーホートは「集団」という意味である
「コーホート」という言葉は、もともと古代ローマの歩兵隊の単位を指していました。当時の歩兵隊は数百人単位の集団で構成されており、その集団を「コーホート」と呼んでいたのです。この「集団」という意味合いが転じて、ある共通の条件を満たした集団(コーホート)を抽出し、その行動や特性を分析する手法を「コーホート分析」と呼ぶようになりました。
● 統計学におけるコーホートの捉え方
統計学の世界では、コーホートは「ある一定の期間に共通の経験や出来事を経験した人々の集団」を指します。例えば、「1947年から1949年に生まれた人々」を指す「団塊の世代」は、まさにコーホートの一例です。このように、「●●世代」といった分類は、コーホート分析で用いられる考え方と共通しています。
人は、生まれた時代や年齢によって、価値観や行動様式が変化します。これらの行動の違いは、主に以下の3つの要因によって説明されると考えられています。
- 時代効果(Period Effect): 社会全体の出来事や技術革新など、特定の期間に共通して影響を与える要因。
- 年齢効果(Age Effect): 加齢に伴って生じる、個人の身体的・心理的な変化による要因。
- コーホート効果(Cohort Effect): 特定のコーホートが共有する、生まれ育った時代背景や経験に起因する要因。
例えば、2020年にマスクの売上が急増した現象は、新型コロナウイルスの流行という「時代効果」によるものです。また、内閣府の消費動向調査によると、乗用車の普及率は30~59歳層で約80%なのに対し、60歳以上では60%台に低下します。これは、高齢による運転への不安や免許返納などが影響する「年齢効果」と考えられます。さらに、29歳以下の乗用車普及率が57%と低いのは、学生で自動車が不要な「年齢効果」に加え、車への価値観の変化や「車=無駄遣い」という考え方を持つ世代が成人になったことによる「コーホート効果」も働いている可能性があります。
このように、コーホート分析の視点を取り入れて消費者を分類し、それぞれの要因を理解することで、より的確な消費傾向の把握が可能になります。
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コーホート分析をマーケティング戦略の立案に応用する方法
コーホート分析は、マーケティング戦略の立案において非常に有効な手法です。特定の期間や条件で区切られた顧客集団(コーホート)の行動パターンを追跡することで、ユーザーの定着率、離脱率、購買頻度などを詳細に把握することができます。これにより、広告のターゲティング精度を高めたり、訴求内容を最適化したりすることが可能となり、結果としてマーケティングROIの向上に貢献します。特に、WebマーケティングやECサイト運営においては、その効果を実感しやすい分野と言えるでしょう。
Webマーケティングにおけるコーホート分析の応用
WebサイトやECサイトでは、アクセス解析ツールを用いることで、ユーザーの行動データを容易に収集・分析できます。例えば、Google Analyticsのようなツールを使えば、以下のような分析が可能です。
- 新規訪問者の定着率分析: 特定の月にサイトを訪れたユーザーが、その後どれくらいの頻度で再訪するか、またはコンバージョンに至るかを追跡します。これにより、初回訪問時の体験がユーザーの定着にどの程度影響しているかを評価できます。
- 初回購入者のリピート率分析: 特定の月に初めて商品を購入した顧客が、その後どれくらいリピート購入しているかを分析します。この分析から、初回購入後のフォローアップ施策(メールマーケティング、クーポン配布など)の効果を検証し、顧客エンゲージメントを高めるための改善策を検討できます。
- 特定キャンペーンの効果測定: あるキャンペーン期間中に獲得した新規顧客が、キャンペーン終了後も継続的にサイトを利用しているか、あるいは商品を購入し続けているかを分析します。これにより、キャンペーンの短期的な成果だけでなく、長期的な顧客獲得への貢献度を評価することが可能になります。
- チャネル別コーホート分析: 広告、SNS、オーガニック検索など、異なる流入チャネルから獲得したユーザーコーホートごとに、その定着率やLTV(顧客生涯価値)を比較分析します。これにより、どのチャネルが質の高い顧客をもたらしているかを特定し、広告予算の最適化やコンテンツマーケティング戦略の立案に役立てることができます。
このように、ユーザーを特定の期間や属性でグループ化し、その後の行動を追跡することで、データに基づいた効果的なプロモーション施策を立案できます。例えば、特定の時間帯に購入が多いコーホートが存在する場合、その時間帯に合わせた広告配信を行うことで、コンバージョン率の向上が期待できます。また、購入後一定期間経過した顧客に対して、関連商品のレコメンドや購入を促すメールを送信することも、リピーター獲得につながる有効な施策です。
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時代効果と年齢効果を考慮したマーケティング戦略
コーホート分析は、顧客理解を深める上で、時代効果や年齢効果といったマクロな視点も取り入れることができます。例えば、BtoB業界においては、近年の働き方改革やリモートワークの普及といった「時代効果」を強く意識する必要があります。こうした時代の変化は、企業が求めるソリューションにも影響を与えます。具体的には、業務効率化やペーパーレス化に貢献するSaaS(Software as a Service)型のサービス、例えば電子契約システムやオンライン会議プラットフォーム、リモートワークに対応した勤怠管理システムなどは、コロナ禍を経て爆発的に普及しました。これらのサービスは、以前から存在していたものの、社会全体のニーズが変化したことで、一躍注目の的となったのです。
このような市場トレンドや消費者の行動変容を捉え、それに応じた商品・サービス開発や、メリットを明確に訴求するマーケティングコミュニケーションを行うことが、ヒット商品を生み出す鍵となります。コーホート分析を通じて、特定の世代がどのような価値観やニーズを持っているのかを理解し、それらに響くメッセージやプロダクトを提供していくことが、持続的なビジネス成長に不可欠です。
分析結果に合わせて商品開発や訴求内容を考えよう
もちろん、少し前からこれらのサービスはありましたが、新型コロナウイルスの流行という時代効果にともない、一躍注目の的となったのです。このように、コーホート分析によって明らかになった特定のユーザー行動や購買パターンを理解することで、私たちはより的確なマーケティング戦略を立案できます。特に、BtoB市場における時代効果の波を捉え、リモートワークの普及を背景とした「効率化」ニーズに応える「電子契約」システムやオンライン会議プラットフォーム、従業員勤怠管理システムなどが爆発的に普及した事例は、この分析手法の有効性を示しています。
このように、時代の流れに合わせた商品やサービスを開発し、ユーザーが置かれている状況や価値観に寄り添ったメリットを訴求することで、ヒット商品を生み出すことも可能です。例えば、特定の年齢層で特定の商品への関心が高いことがコーホート分析で判明した場合、その層に響くようなデザインや機能を追加した新商品を開発したり、広告メッセージでその層が抱える課題解決を前面に押し出すといったアプローチが考えられます。WebサイトやECサイトであれば、Google Analyticsのようなアクセス解析ツールを活用することで、ユーザーの行動が可視化され、分析が容易になります。これらのツールを駆使し、コーホートごとの特徴を深く理解することで、より効果的な商品開発や、ターゲットに最適化された訴求内容の考案に繋がるでしょう。
まとめ
コーホート分析は、特定の期間や条件で共通する集団(コーホート)の行動パターンを追跡・分析する統計学的な手法です。もともとは古代ローマの歩兵隊を指す言葉でしたが、現代ではマーケティング分野において、顧客の行動変容や顧客定着率を理解するために不可欠なツールとなっています。
この分析を通じて、ユーザーがいつ、どのようにサービスを利用し、どのような属性を持っているのかを把握することで、マーケティング戦略の精度を飛躍的に向上させることが可能です。特にECサイトやWebサービスでは、アクセス解析ツールを活用することで、ユーザーの購買行動やリピート率を具体的に可視化し、広告配信のタイミングや訴求内容の最適化、さらには新商品・サービス開発のヒントを得ることができます。
コーホート分析を理解し実践することで、時代の変化やユーザーのライフステージに合わせた、より効果的でパーソナライズされたマーケティング施策を展開し、ビジネスの成長を加速させることができるでしょう。

