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デジタルプラットフォームメディアのパワーとその寡占がまねく構造課題【デジタル広告の現状と課題 長澤秀行 連載第4回】

2024.7.18
読了まで約 15

今までの3回の連載でネット広告の現実的問題点を指摘してきた。その課題が社会問題として表面化したのが「SNSプラットフォーム上でのなりすまし詐欺広告」問題と言える。表層的には投資詐欺犯罪の一手法ではあるが、その犯罪が多くの市民が利活用するデジタルプラットフォーム上での情報を起点に発生した点、生成AI等先端のテクノロジーとデータターゲテイング等インターネットの最先端ツールとデジタルプラットフォームの仕組みを悪用できた点等、ネット広告の構造的要因が背景にあると筆者は考える。今回はこの機会にデジタルプラットフォームが社会や広告にもたらす影響力を考察していく。

インターネット広告の規制の動きとデジタルプラットフォーム

本課題は、現在進行形の社会課題なので先ずはこの問題解決への社会的対応について記していく。なりすますし広告問題は多くの被害者を生んでいるネット起因の犯罪事案であり、政府もその具体的対策に乗り出している。

筆者も何度か意見交換した、対策チームリーダーである自民党小林史明議員のDIGIDAY誌での発言を紹介する。政府の対応方針が決定した直後のその趣旨と具体的政策を語ったホットな発言なのでポイントを抜粋して記す。

『デジタル広告に関わる人たちが、この産業を良い構造にしようという取り組みは、もはや民主主義を良いものにすることと直結している」と、自由民主党の小林史明衆議院議員はDIGIDAY[日本版]に語った。

6月18日、政府はなりすましSNS広告詐欺などへの対策を含めた「国民を詐欺から守るための総合対策」を決定した。同対策にはSNS事業者に対する広告への事前審査の強化や詐欺広告の削除対応などに関する要請が盛り込まれている。対策決定の背景にあるのが、小林議員が自民党・同議案のワーキンググループの幹部としてとりまとめ、提出した提言だ。

――被害額450億円に及ぶ詐欺広告被害は看過できない事態だ。今回の提言をまとめた過程はどのようなものだったのか?

今回のような広告産業における問題は民間同士の取引であるため、基本的には民間の市場原理のなかでビジネスが行われるべきだと考えている。政府の介入は本来無い方がいい。ただ、SNS上の詐欺広告被害をみれば、年間450億円を超える被害額が算出されており、急増していることも明らかだった。

残念ながら「有名人なりすまし詐欺」や「ロマンス詐欺」が横行している状況を見ると、SNS広告の世界は現状健全だとはいえない。そう捉えると、やはり構造の健全化のためには政府の介入が必要だと考えた。

犯罪を意図した広告をそのまま掲載しているSNS事業者にも課題があると考えた。詐欺広告の場合は、SNSにおける広告の事前審査(掲載前に広告枠を運営する事業者が行う審査)が適切に行われていないと考えられた。SNS事業者の大きな収益源のひとつに広告収益がある。つまり、消費者に情報を届ける目的で出稿した多くの民間事業者がSNS事業者の収益に貢献することで、結果的に、意図せず犯罪行為までをも支えてしまっていることにもなりかねない。

―SNSの広告審査はブラックボックス。政府の働きかけで何が変わるのか?

日本の文化や消費者動向を踏まえたうえで、きめ細かく広告の事前審査を行えば詐欺広告被害を事前に防ぐことができるということだ。犯罪とつながる傾向にあるのは、クローズドチャットに誘引する広告だ。犯罪を事業者側で防ぐことは十分にできる。政府からの働きかけや対応の要請も必要だと考えている。

―実際に新たな規制による取り締まりは考えられるのか?

民間同士の広告取引に関する法に、2021年から施行されている経産省所管の「特定デジタルプラットフォームの透明性および公正性の向上に関する法律」がある。これはデジタルプラットフォームの透明性、公正性の向上を図ろうというものだ。しかしながら、広告審査に関する規制は明記されていない。先にあげたメタの例で言えば、広告審査体制のなかに、日本の文化や風土を理解できる人、あるいはそれを最適化できるような人員が配置されておらず、日本の有名人を使った詐欺広告が跋扈(ばっこ)していると考えられる。このような状況から見て、広告審査に対する規制は大きな抑止力に繋がるだろう。

―そうした規制はどのくらいで施行されるのか。目処は立っているのか?

追加の法改正が必要だ。これから法改正の議論を始めていかねばならない。。「情報流通プラットフォーム対処法」(以下、情プラ法)という法律が国会で今年5月に可決され、施行に向け動いている。これは、SNS等プラットフォーム事業者に対し、そのサービス上の誹謗中傷への削除申出対応や削除基準の策定・公表を義務付ける法律で、誹謗中傷への対応の迅速化と運用状況の透明化を求めるものである。つまり、SNS事業者やサービス提供者への規制の土台はすでにできているということだ。情プラ法は、EUですでに施行されているDSA法(Digital Services Act、デジタルサービス法)を参考にしており、実行力を持たせるため、同法と比べてさらに厳しいルールとなっている

―SNSは自由な言論空間であるべきで、規制は不要という考えもある

インターネット空間であっても、違法な広告とわかっていながら、広告を掲載するならばそれは違法行為だといえる。サービスが完全に無料で運営されているのであればその理論はまかり通るかもしれない。ただし広告で収益を得ているのであれば話は違うのではないか。それは犯罪の幇助(ほうじょ)にあたりかねないし、そうしたサービスに広告料を払うのは、広告主にとっても果たして正しい行為なのだろうか?

―詐欺広告はもちろん、掲載面の質を問わない広告取引はデジタルマーケティング業界の課題だ。関係者に求められる取り組みは?

改めて言うが、デジタル広告の取引は民間のビジネス上のものだ。民間企業のなかで健全に運営されるものという前提がある。そのため、政治行政からなにかを強制するようなことはしたくない。ただ、前述した法改正や規制が進み、広告事業の透明性を高めるルールが明らかになったとき、広告主は、広告がインターネット上でどのようにユーザーに届けられるのか、改めて考えてほしい

現状の広告審査における透明性の欠如は、大きな課題だと認識している。運用型広告の仕組みを使う広告主は、ネットワークされている掲載先までしっかりと認識しているか。要は、ともに消費者に責任を持つ仕組みになっているか、業界全体で見直して欲しい。

このまま、現状への十分な理解を持たず、広告出稿を続けることは、自社のブランドを毀損するだけでなく、違法サイトを真っ当な広告主が買い支えることにも繋がってさえいるのだ。広告とは、企業が提供する商品やサービスの重要なコンテンツなのではないのか? 私は、そうしたコンテンツが消費者の購買行動を決める大きな要因になっていると認識している。

―この問題を解決に導く主導的立場になるのは誰か?

誰もがリーダーシップを発揮できるはずだ。すべてのステークホルダーが、インターネット空間を健全な場にするということに対し、重要な責任・役割を担っている

そもそもインターネットとは、個人に力を与えてくれるうえ、社会をフェアにしてくれるような素晴らしいテクノロジーなはずだ。それは、私が議員となる前に携帯電話事業会社で働いていたとき、強く感じたことでもある。この素晴らしいテクノロジーを国民のほとんどが使用しており、その恩恵を受けている。そして言わずもがな、多くのインターネット上のサービスは広告収入により、無料あるいは安価で利用者に提供することができる。

 デジタル広告に関わる人たちが、この産業を良い構造にしようという取り組みは、民主主義を良いものにすることと直結している。デジタル広告の関係者にはこうした認識を持ってもらえると、私は信じている

政策立案にあたり、参考にしている他国の法律・方針はあるか?

前述のEUのDSA法を非常に参考にしている。グローバルなプラットフォーマー、つまりビッグテックのユーザーは1国家の国民よりも多い。そう考えると、影響力は膨大だ。では、どう対処するべきか? 

デジタル広告における課題の根幹は、グローバルなプラットフォーマーによるデータの寡占で、彼らとの依存関係が生まれているということだ。もちろん、問題は広告だけではなく、さまざまな分野で起こっている。

 最後に、AIの進化における波及についてお聞きしたい。生成AIの導入で悪質コンテンツの生成など加速度的に犯罪が進んでいるが?

SNS事業者とのコミュニケーションで感じたことは、とにかく彼らの方針が「テクノロジーで解決する」との一点張りであることだ。デジタル広告の課題の解決策として、なんでもテクノロジーを逃げ道にするのはナンセンスと言えるだろう。SNS 上のアカウントの凍結や今回焦点となっている広告審査のような重要な決定を、すべてAIに任せてよいのだろうか。テクノロジーの進化には可能性を信じてはいるが、すべてをテクノロジーで解決というのは乱暴に感じる。

いま改めて人間の仕事に、倫理性が問われている。そこに透明性があるのか? 効率だけを追求するのではなく、良質なコンテンツを正しく掲載し、消費者に届ける構造をいま一度考えるべきではないか。』

小林 史明/自由民主党衆議院議員(広島第6区)。自由民主党において、現在はデジタル社会推進本部事務総長、「テクノロジーの社会実装で、多様でフェアな社会を実現する」を政治信条とし、規制改革に注力している。

出典:「すべてのステークホルダーがインターネット空間を健全な場にする責任を担っている」:自民党衆議院議員 デジタル社会推進本部事務総長 小林史明 氏DIGIDAY[日本版]

以上が小林史明議員へのインタビューだが、ポイントはネット広告の課題への政府規制が明確に打ち出されている点だ。これは議員がEU等海外の規制法事例に言及しているように、グローバル規模でのいわゆるGAFA規制の潮流の中で規制法制定の動きが日本でも本格的議論が始まっている事の表れで、それをなりすまし広告事案が加速している現況だ。

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この規制検討の動きはフェイク情報対策ともからみ論議が関係各省庁での政策検討会で深化しているので具体的な議論は各省HPで確認頂きたい。ネットマーケティングが中核になりつつある日本のマーケティングシーンにおいて関係者は把握しておいたほうがよい動きであると思う。広告は比較的民間自主規制に任され消費者庁の消費者被害対策、薬事法等以外は法規制が少ないと感じていたが、デジタルプラットフォームのテクノロジー中心の管理統制の綻びや、寡占影響のあるエコシシステムに起因する不公平問題、クッキーレス化の流れの中でのデータ利用権利の問題など、特に既存の国内法でコントロールしきれない課題についての法的規制の必要論議が表面化している

公取や経産省プラットフォームモニタリング会議ではデジタルプラットフォームを巡る外部プレーヤーとのビジネス取引へのプラットフォームの寡占対応問題がBtoB問題として論議、指摘されAppleアプリ販売マーケットの独占問題、Yahoo!ニュースとパブリッシャーの記事料金収益率問題、Googleの検索広告領域でのYahoo!検索への圧力問題等が報道された。それに加えて、今回の広告審査問題、広告掲載サイト品質管理問題(MFAサイト含む)、プライバシーデータ活用広告問題等、ユーザーが関わるBtoC領域での課題に対する規制の在り方やその中身、規制する組織方法が議論されている

この部分はフェイク等虚偽情報の流通対策問題、ファクトチエックの在り方問題、ユーザーのリテラシー向上への啓蒙問題も含めて幅広く議論されている。表現の自由に関わる問題なので丁寧に議論されてきているが、広告問題は広告収益をプラットフォームが獲得している構造から冒頭の政府の対応方針も受け、より厳しく規制論議が進んでいる印象だ。今後はアド協(日本アドバタイザーズ協会/JAA)や、JAAA、JIAA等広告関係団体も巻き込んで民間自主規制との関係性や規制組織の在り方も含めて議論が進められると想定され、注視すべきだろう。

参考資料:
総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」中間取りまとめ資料抜粋
総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」ワーキンググループ中間取りまとめ資料抜粋
経済産業省「2024年度第1回 デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合」資料抜粋

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筆者は、デジタルプラットフォームの品質管理のいい加減さが生んだ今回の問題はプラットフォーマーの自らのサービス、商品への管理への投資を劣後コストとして判断して管理コスト投下を怠り、ユーザーに多大な被害を与えた自社収益最優先主義の経営モデルに軸足をおいた彼らの経営姿勢が生んだ「デジタルプラットフォーム公害」と判断している。その責任は重大だ。

犯罪の入口の、なりすまし詐欺広告掲載を許容し、犯罪者に個人データを自由に使わせて犯罪ターゲットの絞り込みに加担し広告収益を上げたプラットフォームも、出口の偽名クローズチャットで詐欺行為のクローズな閉じられた現場を提供したプラットフォームも同罪と思う。

グローバルプラットフォームの犯罪事案への秘匿性が強いことが、国際的犯罪と思われるデジタル広告詐欺等の摘発を難しくしている。

ネット広告の仕組みと運用の現状

ネット広告は様々な類型があり、その広告掲載に至る形も多用だ。まずその現状を紹介しよう。

いわゆる運用型ネット広告取引はアドテクノロジーとデータソリューションをフル活用して構築され、広告のサプライドの効率化、効果追求が最大化するように構成された広告取引システム市場であり、運用型と称されるように広告取引もかなり自動化、最適化されて取引効率も手間があまりかからない自動運用型広告取引だ。多くの広告主と広告メディアのニーズとシーズのオートマッチングがリアルタイムで可能な広告取引システムである。

多くの広告主、広告代理店、広告メディアが利用するのはデジタルプラットフォームが主宰運用する広告エコシステムだ(主にGoogle、LINEヤフー等広告仲介プラットフォームと呼ばれる。情報伝送プラットフォームとの兼業がほとんど)。

先ずその運用型広告システムの概況について説明する。

画像:インターネットメディアの利用

表1:インターネットメディアの利用
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世界平均ではインターネットメディアの利用は主にコンテンツメディア(OpenWeb)の利用とプラットフォーム提供サービス(WalledGarden)の利用に大別されるが、世界での利用時間の割合は前者が66%、後者は34%である。しかしデジタル広告費の売り上げ割合ではコンテンツメディアへの広告投資が40%、プラットフォーム提供サービスへの広告投資は60%であり、プラットフォーム経由での広告投資が先行している状態だ。

ユーザーのネット利用時間と広告費の割合が比例しないのはプラットフォームの広告エコシステムの優位性が広告主、広告会社等ネット広告の出し手から評価を得ているからであると共に、プラットフォームがそのWalled外のメディアの広告枠販売も請け負っているケースが多いからだ。つまりコンテンツメディアもこのプラットフォームの広告仲介システムに広告枠を提供しているのでコンテンツの利用時間と広告の取引方法の差分が出る。日本では特にこの傾向が顕著だ。

画像:日本はプラットフォームに偏るインターネット広告とオープンWEB

表2:日本はプラットフォームに偏るインターネット広告とオープンWEB
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日本国内の売上は検索広告を含むプラットフォーム提供サービス経由での広告割合が80%(米国では64%)、コンテンツメディア広告直接取引の割合は2%(米国では20%)とプラットフォーム提供サービスにシフトしている。

画像:デジタル広告市場の現状

表3:デジタル広告市場の現状
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広告の販売形式別利用では主に運用型広告と予約型広告に分類されるが、運用型広告モデルの利用が85%でほとんどを占める(検索連動広告を含む)。

画像:国内ネット広告市場の特徴

表4:国内ネット広告市場の特徴
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日本のネット広告市場の特徴として運用型広告モデルの割合が高く、その中でも広告掲載メディアを指定しないオープンマーケットプレイス方式(OMP)を利用するケースが極めて多く、掲載メディアを指定して広告掲載枠の買い付けを行うプライベートマーケットプレイス(PMP)を利用するケースが少ない点が特筆される。前回の連載で述べた「枠より人」を優先する広告傾向だ。

これにはネット広告に対して広告成果を即時的に求める「成果報酬型モデル」へのニーズが強く、コンバージョン率(クリック率やアクション率、購買率)をKPIとして広告効果を短期効果指標で判断して機動的な広告プランニングで「成果」を可視化し判断し獲得していくモデルに最適として活用されている背景がある。それに合致した広告商品、広告種類が選ばれる傾向が極めて強い。

運用型広告方式の活用の中でもよりきめ細かいターゲテイングが可能とされる検索連動型広告が伸長しているのも我が国のネット広告の特徴と言える。

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以下は、昨年度の経済産業省の広告主ヒアリング結果だ。

画像:「広告の質」に関連したヒアリング結果

表5:「広告の質」に関連したヒアリング結果
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以上の広告類型の利用特徴の背景には、これも前回の連載で述べたように、予約型広告から22年前にスタートしたネット広告取引がインターネット利用の拡大とネット広告市場の取引モデルの高度化=運用型広告取引市場の登場にあわせ、商材の販促、販売効果への即効性が注目されてきたことがある。

それと同時に、運用型広告取引という広告商材の宣伝目的に合わせたマスメディアではできない細かい広告出稿設定、フレキシブルな広告料金設定が可能なデジタルプラットフォーマーが運営する「広告仲介プラットフォーム」の存在がネット広告の利用を急増させた。その利用拡大の「推進エンジン」は手間暇が省ける自動化取引と、広告を載せるだけでは掲載料はほとんどかからず、クリックされて初めて広告料が発生するという極めて広告の出し手サイドに有利な広告料金体系(それを可能にする多種多様なサイトも含む広告仲介プラットフォームの大量広告在庫)にある。

そこに、Eコマース市場の急速な発展とそこでマネタイズを狙うあまたの新興事業群のネットマーケットへの参入だ。ネット広告市場への参加はマス広告に比べれば障壁は低い。この部分が日本のネット広告費の倍倍ゲーム的拡大を大きくプッシュしてくれたと思う。

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新広告取引市場の高い需要性はあるが、そのネット広告の急速な成長の陰で新広告市場の様々な構造的なひずみも存在し、昨今の事案はこのひずみが顕在化した現象と言えるだろう。

その要因は技術の問題、エコシステムの問題、市場ニーズの問題等複雑だ。日米のネット広告は活用法や広告主層に大きな違いがあると言われている。

画像:日米のネット広告の違い

表6:日米のネット広告の違い
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画像:マスメディアモデルとデジタルメディアモデルの比較

表7: マスメディアモデルとデジタルメディアモデルの比較
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上記の表は、マスメディアモデルとデジタルメディアモデルを広告とコンテンツの品質管理側面から比較したものだ。マスメディアモデルではコンテンツメディア内でのしっかりしたコンテンツ、広告管理体制、外部の第3者検証機関の充実等メディア広告の歴史が積み上げてきたコンテンツ、広告の信頼性担保の仕組みが構造的に組み込まれている。その点、デジタルメディアモデルはプラットフォームメディアがコンテンツ流通、広告配信の中心にあるが、その広告配信管理、コンテンツ流通管理体制がプラットフォーム収益への「コスト」として認識される傾向は否めず、収益性最優先のグローバルプラットフォームモデルでは、取り扱うコンテンツ・広告の品質管理に充分投資できる体制があるのか疑問は残る。

このようなデジタルプラットフォームが内包する自己収益確保最優先の経営構造が今回の「なりすまし広告詐欺」事案を引き起こし、プラットフォームの社会信頼性が問われる事態を引き起こしたといっても過言ではないだろう。

問題はプラットフォームがユーザーを巻き込んだメディア事業であり、社会性をユーザーやメディア、広告主を含むステークホルダーから求められている点だ。

マスメディアは報道機関としての社会性に配慮しながら存在している。
また、第3者検証機関もネット広告の誕生から20年を経て、アド協の小出常務理事、JIAAの植村常務理事の身を挺した努力で、JAA、JIAA、JAAAを母体にしてネット広告の広告品質の第3者検証、認証機関として「JICDAQ」が発足したばかりだ。今後、その鼎の軽重が問われるネット広告の信頼性確立に貢献が求められる環境にあり、強く期待したい。

マスメディアも第3者検証機関の充実とコンテンツメディアでの内部品質管理統制の徹底を受けて成長してきた。それゆえ前章で述べたようにユーザーの信頼度はデジタルメディアの2倍以上高い。プラットフォームはユーザーから見ればメディアだ。品質管理のコストをユーザー保護の視点で充分にかけなければメディアとしての信頼性はえられない。これはメディア企業の経営意識の根底の課題であると思う。

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もう一つ見逃せない、両メディアモデルの差は様々なコンテンツや広告の利用データ等がプラットフォームに吸い寄せられる構造が形成されている点だ。デジタルメディアにおいては「データはお金を生む卵」と言われている。この収集力、蓄積力の差もマスメディアが広告売上でデジタルメディアに凌駕された要因である。データとテクノロジーが成長の両輪と言える、デジタルメディア広告モデル拡大の道筋をアド協提供の資料で確認しよう。

画像:デジタル広告出稿で認識すべきこと1

表8: デジタル広告出稿で認識すべきこと1
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画像:デジタル広告出稿で認識すべきこと2

表9: デジタル広告出稿で認識すべきこと2
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画像:デジタル広告出稿で認識すべきこと3

表10: デジタル広告出稿で認識すべきこと3
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画像:デジタル広告出稿で認識すべきこと4

表11: デジタル広告出稿で認識すべきこと4
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画像:デジタル広告出稿で認識すべきこと5

表12: デジタル広告出稿で認識すべきこと5
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この変遷図の詳しい説明は割愛するが、ネット広告の取引とその発展拡大が、アドテクノロジーとデータソリューション、それをリアルタイムでこなすデジタルプラットフォームのエコシステムのパワーに依拠してきたかが読み取れる。

各図の右上に「問題発生の背景」という黒字のクレジットが記されている。「なんの問題発生の背景か」を是非、考えていただきたい。

筆者は現在、有力コンテンツメディア32社の連合組織であるクオリティメディアコンソーシアムの事務局長として、信頼できるプライムコンテンツメディアのPMPアドネットワーク事業を推進する立場にいるが、デジタルプラットフォームを中心とした広告掲載メディアを問わないオープンマーケットプレイス主流の運用型広告市場ではなかなか強いポジションが取れず苦戦をしている。

しかし信頼できるコンテンツメディア群はアナログでもデジタルでも社会の信頼できる情報流を支え、また、広告主のブランドを高品質に受容性をもって浸透させ得るメディア群だ。その情報価値付け、広告価値付けがきっちりとなされないと、インターネット情報流がユーザー生活の中心になる時代において、コンテンツメディアはそのクオリティを維持できなくなる。

それは、小林議員が述べたように民主主義社会の情報流通にリスクを与える要因になる。ある意味、広告はそれを支える意義も強く有する。企業のマーケティング活動の主軸であると共に、健全なジャーナリズムを支えていく事も一つの社会的使命であると考え、50年間近くメディアアドマンとして努めてきた。

当然、社会的使命とあわせて、広告メディアとしての経済的使命を果たし、その広告メディアとしての価値を如何に創造し、出し手を説得できるかが前提だ。その部分は次回の連載記事でじっくりと語りたい。

DPF=デジタルプラットフォーム仲介エコシステムの現状の課題

今回は現在のネット広告のプラットフォーム仲介市場利用が主軸の状況に鑑み、DPF=デジタルプラットフォーム仲介エコシステムの現状の課題点を述べる。

画像:現状のネット広告モデルの課題

表13: 現状のネット広告モデルの課題
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このように、現状のネット広告モデルが継続するとプラットフォームが扱う広告に出稿が集中し続ける=プラットフォームの広告収益が最大化し続けて、コンテンツメディアは広告モデルでは成立しなくなる

また、課金モデルでも情報利用が無料の広告モデルになれたユーザーは課金に移行しずらく、一部のメディアを除き、その収益だけではメディア維持ができないというのが、グローバルでのコンテンツメディアの経営環境だ。かつデジタルプラットフォームに広告配信を依存してもその広告収益分配率は極めて低く、更にコンテンツの質を広告価値としないため、広告単価もきわめて低い現状がある。

この状況を、コンテンツメディアの対プラットフォームの「デジタル小作人化」(NHK番組より)とも自嘲気味にコンテンツメディアマンは嘆くが、自嘲していて生き残れる状況ではもはやない

さらにコンテンツ価値を評価できない仕組みが「なりすまし詐欺広告」を構造的に生んだ背景下にある今の運用型広告のエコシステムでは情報社会の価値軸をアテンションに振り切った歪んだものに変質させると思う。それを広告の新技術によるハロー効果で発展とみなす考え方もあるが、それは質の高い社会言論空間の形成に向き合っていない「ネットメディアビジネスマネタイズ妄信論=PV,クリック至上主義」に筆者からは見える。

生成AIはその現象を加速させるのか、科学化させるのかは、わからないが使う側のマインドセットにかかっていると考える。ビジネスマネタイズに傾けば生成AI活用は、倫理なきPV獲得のツールになるリスクも大きく存在するだろう。

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先に述べた様にグローバル規模のこのデジタルプラットフォーマーの情報流通、広告配信の寡占による自国コンテンツメディア群の疲弊やフェイク虚偽情報の流通排除ができない状況をEUなり各国ベースで独占禁止の立場から規制していこうという動きが顕在化しているが、プラットフォーマー企業のおひざ元の米国でも「表現の自由」を盾にした反規制論とコンテンツメディア群の疲弊を擁護する論が生成AIのコンテンツ著作権侵害問題等とクロスして対立している状況だ。

AI活用の規制法が同時に論議される環境はその複雑さを示す。コンテンツメディア産業サイドから見たデジタルプラットフォームの広告取引寡占の問題点がどこにあるかをまとめた(日本新聞協会意見参考)。

画像:コンテンツメディア産業の課題

表14: コンテンツメディア産業の課題
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コンテンツメディア産業の課題―DPFの広告取引上の寡占の課題

DPFの影響力やビジネスの寡占化によりいくつかの課題が存在する。

(1)広告配信取引(アドネットワーク)、広告取引所(マーケットプレイス)の実質的な寡占状態)による課題

1.DPFが形成するデジタル広告配信ネットワークの拡大と並行して、その広告取引所としての透明性や支配性が問題視されている。単価の問題においては広告販売低単価(メディアが個別販売する単価に比べ)による相対的なメディア価値の下落が長らく危惧されている。画像:メディア広告の収益配分

表13: メディア広告の収益配分
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2. DPF上で取引された広告費における掲載媒体への広告費用の分配率が不明瞭である点も同様に問題視されている。いずれもDPFが広告以外の部分も含めサービスの垂直統合提供していることによりサプライチェーンの透明性が不足している状況。

3.このモデルそのものは広告主にとっては「より安く効果の高い広告を一元管理されたPF上で運用が可能」という利便性があり、広告市場として強く、媒体社サイドも泣く泣く受け入れている現状がある。

4.ブラックボックス化されたDPFの中間マージンや媒体社への広告収益配分率や広告単価決定メカニズムの低価格決定傾向などによりコンテンツの生産コストに対価収入が合わない逆ざや状態にあり、ジャーナリズムコンテンツ等プレミアムコンテンツの質の低下を誘導しかねない状況である。

(2)DPFの活用可能データの実質的独占とコンテンツメディアへのデータ流入阻害による寡占状態による課題

1.コンテンツ流入、広告売買において実質的にDPFが入り口として多くのトラフィックを受けているため膨大なデータが蓄積されている。各メディアの1stパーティーデータは勿論存在するものの、DPFが獲得しているデータとは量的・質的に差がある。各メディアはDPFに比べてデータ活用においても弱い立場に置かれている。

2.またサードパーティクッキーの廃止方針と改正個人情報保護法の施行には、媒体社は大きな影響を想定している。一方で、繰り返しになるがDPFはデータ獲得のチャンスが比べものにならないレベルで多く、併せてファーストパーティークッキーも大量に保持しているため、クッキー廃止の影響を受けないどころか、却ってプラットフォーマーへの広告依存・流入依存を高める動きとなっている。

以上がコンテンツメディアサイドからの深刻な問題意識の整理だ。

各プレーヤーの相互関係性と課題、その改善に求められる対応は以下の通り。

画像:コンテンツメディアとデジタルプラットフォームの関係性

表14: コンテンツメディアとデジタルプラットフォームの関係性
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画像:コンテンツメディアとデジタルプラットフォームに求められる対応

表15: コンテンツメディアとデジタルプラットフォームに求められる対応
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求められる対応は以上だが、なかなか具体化しないまま「デジタル小作人状況」はコンテンツメディア群において生存限界まで拡大している。

ここに、クオリティメディアコンソーシアム30社からヒアリングした生のコンテンツメディア広告現場の声を、数値も含めまとめよう。

画像:コンテンツメディアの収益の現状

表16: コンテンツメディアの収益の現状
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画像:コンテンツメディアのトラフィック貢献と広告収益配分

表17: コンテンツメディアのトラフィック貢献と広告収益配分
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画像:コンテンツメディア側のプラットフォームとの関係への意見

表18: コンテンツメディア側のプラットフォームとの関係への意見
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以上、クオリティメディアコンソーシアム加盟のプレミアムなコンテンツメディア群からも事業継続への危機感を受け取った。行政サイドも以下の評価はしている。

画像:デジタル市場競争会議での評価

表19: デジタル市場競争会議での評価
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コンテンツ情報流通、ネット広告取引仲介領域におけるDPFの寡占状況において、DPFの自主規制機能が管理、機能されていない状態でSNSを含め流通する情報(広告情報含め)の質の評価に関して、その反社会的物件の管理、排除義務もなく治外法権的状態である事が実態だ。

また、広告単価も価値軸が広告メディアの質的評価軸もなく短期効率効果一辺倒の一方向的広告価値選択枝しかない。このようにコンテンツメディア、掲載広告の質の価値付けに根本的な瑕疵を抱えるプラットフォームの広告仲介市場において、その状態での市場原理にゆだねていけば、このメディア情報流通環境ではコンテンツメディアとデジタル広告はユーザーの信頼と安全性と広告主ブランドの担保ができず、広告を受け入れるユーザーの受容性の確保もできない。

コンテンツの質、広告の質も担保できない、それは広告主の投資も無駄になる事と合わせ、フェイク情報(広告含め)を発信する勢力に実質的に資金提供し、フェイク発信を拡大させる一助になっている反社会的行動側面も忌避できないのも実情だ。

今後生成AIの悪用によるフェイク情報、フェイク広告の激増も予想される。その対策は「表現の自由」などの課題はあるものの、収益事業である広告領域は法的規制も視野にいれざるを得ない状況で、改善対応が急務だ。広告と社会の関係性への熟慮が関係者に必要だと思う。

画像:問われる現況のネット広告への対策

表20: 問われる現況のネット広告への対策
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ネット広告の国内での立ち上がりから見届けてきた者としてネット広告費が日本の広告費の半分に迫る現況において構造的見直しが必要と確信している。

画像:デジタル広告の課題解決への提言

表21: 総務省検討会WG中間取りまとめ7.16版
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このようなデジタルメディアを取り巻く環境の中で総務省、経産省を中心にデジタル情報流通空間の健全化への在り方をめぐって具体的な深い検討が現在進行形で行われている。今後のデジタル広告規制の方向を示しますので是非ともご確認いただきたい。

デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会(第25回)配付資料 ※ワーキンググループ(第32回)合同開催
総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会(第24回)配付資料 ※ワーキンググループ(第30回)合同開催」
総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会 ワーキンググループ(第31回)配付資料」
経済産業省「2024年度第1回 デジタルプラットフォームの透明性・公正性に関するモニタリング会合」

【デジタル広告の現状と課題 筆者連載】
1.日本アドバイザーズ協会緊急提言の意味する事 なりすまし広告問題について
2.底割れをしてしまったデジタル広告への不信と広告質、広告メディア質の課題
3.デジタル広告はユーザーにどれくらい嫌われているのか。その課題
4.デジタルプラットフォームメディアのパワーとその寡占がまねく問題。なりすまし
広告問題等の背景にある構造課題(本記事)
5・生成AIが台頭する現代における広告・コンテンツ環境においてデジタル広告の再生のための処方箋とは? 「クオリティメディア宣言」の意味

執筆者

長澤 秀行

長澤 秀行(ながさわ ひでゆき)

クオリティメディアコンソーシアム 事務局長
株式会社BI.Garage 特命顧問
1977年(株)電通入社、新聞局デジタル企画部長を経て、2004年 インタラクティブコミュニケーション局長、2006年 (株)サイバー・コミュニケーションズ 代表取締役社長 、2013年(株)電通 デジタルビジネス局局長、2014年一般社団法人日本インタラクティブ広告協会常務理事を歴任。
2017年より(株)デジタルガレージの顧問に就任し2020年には同社グループのBI.GARAGEの取締役に就任。
現在は同社にて日本国内の30媒体社からなるコンテンツメディアコンソーシアムの事務局長としてコンテンツメディアの価値を活かしたデジタル広告事業を推進。
著作 「メディアの苦悩28人の証言」 (光文社新書)。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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