「自社のマーケティング施策は、本当に成果が出ているのだろうか?」
「競合他社はうまくいっているように見えるが、具体的に何が違うのかわからない…」
ビジネスにおける成長を目指す経営者やマーケターの皆さまであれば、一度はこのような課題に直面したことがあるのではないでしょうか。そんなときに役立つのが、パフォーマンス測定の基準値となる「ベンチマーク」です。ベンチマークを正しく設定し活用することで、自社の立ち位置を明確にし、具体的な目標設定や戦略改善が可能となります。
本記事では、ベンチマークの意味から実践的な設定手順、注意点までをわかりやすく解説します。この記事を読めば、ベンチマークの本質を理解し、明日からの業務改善やパフォーマンス向上に活かせるでしょう。
目次
ベンチマークとは
ビジネスやマーケティングの文脈で語られることが多い「ベンチマーク」ですが、まずは本来の意味と基本的な定義から理解を深めていきましょう。
言葉の起源を知ることで、より本質的な概念をつかむことができます。
ベンチマークとは何か
「ベンチマーク(Benchmark)」は、もともと測量の世界で使われていた専門用語です。
土地の標高などを測定する際、基準となる位置に設置された「水準点」を指していました。この「基準になる点」という概念が転じて、現在では金融やIT、教育、そしてビジネスなど、非常に幅広い分野で「比較・評価のための基準」という意味で用いられています。
ベンチマークの定義と基本
一般的に、ベンチマークは「目標達成度やパフォーマンスを評価するための比較基準」と定義されます。基準があることで、対象の優劣を客観的に判断できます。
ベンチマークの基本的な特徴は、測定可能性、比較可能性、達成可能性の3つです。
<ベンチマークの基本的な特徴>
● 測定可能性:数値化できる明確な指標であること
● 比較可能性:他の対象と客観的に比較できること
● 達成可能性:努力によって達成可能な現実的な水準であること
これらの特徴を満たすベンチマークを設定することで、パフォーマンス向上につなげることが可能です。
ビジネス/マーケティングにおけるベンチマーク
それでは、ビジネス、特にマーケティングの分野において、ベンチマークはどのように活用されるのでしょうか。
その意味と活用するメリット、具体的な活用シーンを見ていきましょう。
意味と使い方
ビジネスにおけるベンチマークとは、「競合他社や業界内で優れた事例を基準として、自社の製品やサービス、業務プロセスなどを測定・評価し、改善点を見つけ出すための指標」を意味します。
ここで、「ベンチマーク」と似た言葉である「ベンチマーキング」との違いを明確にしておきましょう。
<ベンチマークとベンチマーキング>
● ベンチマーク:比較対象となる「基準」や「指標」そのもの
● ベンチマーキング:ベンチマークを設定し、自社と比較・分析して、改善のための戦略を立てる一連のプロセスや活動
つまり、優れた他社事例を「ベンチマーク」として設定し、自社の現状を分析して改善を目指す活動全体が「ベンチマーキング」です。
具体的には、競合他社の売上成長率や市場シェア、顧客満足度などをベンチマークとして設定し、自社の現状との差異を把握します。これにより、自社の弱点を克服し、強みをさらに伸ばしていくための具体的な道筋を発見し、実践することがベンチマーキングです。
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活用するメリット
ベンチマークの活用により、企業はさまざまなメリットが得られます。
1つ目は、客観的な現状分析と課題発見ができることです。社内の視点だけでは、自社のパフォーマンスが本当に優れているのか、あるいは劣っているのかを客観的に評価することは容易ではありません。ベンチマークを用いることで、具体的な数値をもとに現状を客観的に評価できます。これにより、データに基づいた現状認識が可能です。
2つ目は、具体的で現実的な目標が設定可能なことです。「売上を上げる」「顧客満足度を高める」などの漠然とした目標ではなく、「業界トップのA社のコンバージョン率(CVR)3%をベンチマークとし、半年で2.5%を目指す」のような、具体的で現実的な目標を設定できます。課題が明確化することでチームのモチベーションがアップし、関係者への説明にも説得力を持たせることが可能です。
3つ目は、戦略改善と効率的なパフォーマンス向上です。ベンチマーク対象(優れた他社)の高いパフォーマンスの理由を分析することで、成功要因やノウハウを学べます。ゼロから成功への道筋を探るのではなく、他社事例を参考に戦略を改善できるため、無駄な試行錯誤を減らして効率的なパフォーマンス向上が可能です。
関連記事:マーケターなら知っておきたい「ベンチマーク」を設定するメリット・デメリットとは?
具体的な活用シーン
ベンチマークは、マーケティング活動のさまざまな場面で活用できます。
<ベンチマークの活用シーン>
● SNS運用:競合他社の投稿頻度、エンゲージメント率、フォロワー数などを指標に設定し、自社の現状と比較
● Webサイト:競合サイトのUI/UX、ページ速度、CVRなどを分析し、自社サイトの改善点を抽出
ベンチマークの活用は、数字や事例を使って自社の改善領域を明らかにするうえで有効です。
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ベンチマークの設定方法
では、実際のベンチマークの設定はどのような手順で進めれば良いのでしょうか。
ここでは、成果につながるベンチマーク設定のプロセスを、6つのステップに分けて解説します。
改善領域の特定
ベンチマーク設定の第一歩は、改善が必要な領域の特定です。
売上向上やコスト削減、顧客満足度向上、業務効率化など、経営目標に直結するテーマを選びましょう。このとき役立つのが、KGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)です。例えば、KGIが「ECサイトの売上30%向上」であれば、その達成度を測るKPIとして「サイト訪問者数」「コンバージョン率(CVR)」「顧客単価」などが挙げられます。
このKPIの中から、特に経営へのインパクトが大きい領域を改善対象として絞り込みます。
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ベンチマーク対象の選定
次のステップは「何を基準とするか」というベンチマーク対象の選定です。
適切なベンチマーク対象の選定は、分析の精度と改善施策の効果を左右する重要なプロセスです。主な選定対象には以下のような種類があります。
<主な選定対象>
● 競合ベンチマーク:市場で直接競合する企業。自社の市場におけるポジションを把握するのに有効
● 機能ベンチマーク:業界にかかわらず、特定の機能が最高水準にある企業。革新的なアイデアを得るのに有効
● 内部ベンチマーク:自社のパフォーマンスが良かった時期、優良な事例のデータ。現実的な改善目標の立案に有効
重要なのは、自社の現状よりも優れた成果を上げている対象を選ぶことです。
データ収集
ベンチマーク対象を定めたら、比較分析に必要なデータを収集します。
データ収集の主な方法は以下のとおりです。
<データ収集の方法>
● 公開情報:競合他社のWebサイト、プレスリリース、IR情報などの一般に公開されている情報を収集
● 第三者機関のデータ:調査会社が提供するレポートや、業界団体が発表する統計データを収集
● 専門ツールの活用:競合企業のWebサイトやSNSアカウントなどから、分析ツールを活用してデータ収集
● 独自調査:顧客や業界関係者へのアンケートやインタビューにより収集
分析の精度を高めるため、データの収集時期や基準、条件などを揃えるように注意しましょう。
データ分析・ギャップの特定
収集したデータと自社のデータを比較し、その差である「ギャップ」を特定・分析します。
単に数値の大小を比べるだけでなく、「なぜその差が生まれているのか?」という背景にある要因を深く考察することが重要です。例えば、「競合A社はCVRが2倍高い」という事実(What)だけでなく、「なぜなら(Why)、A社は商品ページに動画を埋め込み、購入者のレビューを豊富に掲載しているからだ」というように、具体的な要因を突きとめます。
この「なぜ」の探求が、改善計画の質を大きく左右します。
改善計画の策定
ギャップと要因が明らかになったら、そのギャップを埋めるための具体的な改善計画を策定します。
計画には、「誰が」「何を」「いつまでに」「どのように」実施するのかを明確に盛り込みましょう。例えば、「商品ページのCVRを1.5%から2.0%に改善する」という目標に対し、「〇月〇日までに、△△部が、主要商品のページに商品説明動画と顧客レビューを追加して、ABテストで効果測定する」といった具体的な計画に落とし込みます。
改善計画では、ベンチマーク対象企業の成功事例を真似るだけでなく、自社の強みや企業文化にフィットしたアプローチをすることが、持続可能な改善のカギです。
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実行・モニタリング
策定した改善計画を着実に実行し、その進捗と成果を定期的にモニタリングします。
実行・モニタリングで重要になるのがPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)です。
計画(Plan)通りに実行(Do)し、結果を評価(Check)して、当初の計画とのズレや新たな課題を発見したら、改善(Action)を加えて次のサイクルにつなげます。市場や競合の状況は常に変化するため、一度立てた計画に固執せず、モニタリングの結果をもとに柔軟に軌道修正していくことが重要です。
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ベンチマーク設定の注意点
ベンチマーキングは効果的な手法ですが、誤った使い方は逆効果となる可能性があります。
ベンチマークを設定・活用する際に注意すべき2つのポイントを解説します。
適切な比較対象(競合他社や業界標準)を選定する
ベンチマーキングの成功は、比較対象の選定にかかっているといっても過言ではありません。
ありがちなのが、自社の状況を考慮せずに、ただ業界のトップ企業や知名度の高い企業をベンチマークにしてしまうケースです。例えば、創業間もないスタートアップが、潤沢な資金と人材を持つ巨大企業と同じマーケティング戦略を真似しようとしても、リソースが違いすぎて現実的ではないでしょう。
比較対象を選ぶ際は、事業規模やビジネスモデル、ターゲット顧客などが自社と近い企業を選ぶことが重要です。それによって、より現実的で実行可能な改善計画につながりやすくなります。
定期的な見直しが必要
一度設定したベンチマークが、将来もずっと有効であり続けるわけではありません。
市場環境や顧客のニーズ、テクノロジー、競合他社の戦略は、常に変化し続けています。特に、デジタル化が急速に進む現代のビジネス環境においては、ベンチマークの妥当性が短期間で変わる可能性もあります。
そのため、設定したベンチマークは、四半期や半期ごとなどに定期的に見直すことが重要です。定期的な見直しでは、ベンチマーク対象の継続的な妥当性や指標の適切性、目標水準の現実性を検証しましょう。重要な外部環境の変化が発生した場合には、定期見直しのタイミングを待たずに臨時で見直しを実施するといった柔軟な対応も必要です。
まとめ
ベンチマークは、自社の現在地を正確に把握し、進むべき道を示してくれる重要な指標です。ベンチマークを通じて、感覚や経験に頼ることなく、自社の強みと弱みを客観的に分析し、具体的で達成可能な目標を設定することが可能になります。
重要なのは、ベンチマーキングを単なる「模倣」で終わらせないことです。他社の優れた点を学びつつも、自社の状況や強みと掛け合わせ、独自の価値を高めていくことが真の競争力向上につながります。
本記事を参考に、ビジネスにベンチマークを取り入れ、継続的な成長とパフォーマンス向上に活用してみてください。