近年、SaaS企業が急速に台頭し、上場企業の数も増加しています。その多くが実はホリゾンタルSaaSに分類されます。一方、バーティカルSaaSの日本での浸透は、アメリカと比較して約5年遅れていると言われています。
しかし、先行するアメリカと同様の道筋を辿るならば、ホリゾンタルSaaSの成熟とともに、バーティカルSaaSが今後多く登場していく可能性が高いと考えられます。本記事では、ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSについて詳しく解説します。
まず、SaaSの意味について確認しておきましょう。SaaSとはSoftware as a Serviceの略であり、「サービスとしてのソフトウェア」という意味です。従来、パッケージ製品として販売されていたソフトウェアをパソコンやスマートフォンなどの端末にダウンロードして利用していました。
クラウドSaaSの登場により、ソフトウェアがクラウド上で提供されることで、ユーザーは端末に依存せずに、必要な機能だけを必要な分だけ選択して利用できるようになりました。身近な例としては、Office365やGoogle Workspaceなどのグループウェアや、SlackやChatworkなどのビジネスチャットツールが挙げられます。
SaaSはさらに業界横断型か、業界特化型かのどちらかに分類され、業界横断型をホリゾンタルSaaS、業界特化型をバーティカルSaaSと呼びます。ホリゾンタル、バーティカルという表現はSaaSに限らず、メディアでも使用されています。
例えば、日経ビジネスやPRESIDENTなどのビジネスサイトは業界を問わない業界横断型のホリゾンタルメディアと言えます。一方で、人事専門ポータルサイトHRプロはHR業界特化メディアであり、バーティカルメディアに分類されます。
このように、SaaSビジネスにおいても、ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSの特徴を理解することで、それぞれの市場動向や成長可能性を把握することができます。今後、日本市場においても、バーティカルSaaSの台頭が予想されるため、両者の特徴や違いを押さえておくことが重要です。
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目次
ホリゾンタルSaaSとは?バーティカルSaaSとは?
近年、SaaS企業の台頭が目覚ましく、上場企業も増加しています。その多くが実はホリゾンタルSaaSに分類されます。
先行するアメリカと同様の道筋を辿るならば、ホリゾンタルSaaSの成熟に伴い、今後バーティカルSaaSが多く登場していく可能性が高いです。ここでは、ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSについて詳しく解説します。
まず、SaaSの意味について確認しておきましょう。SaaSとは「サービスとしてのソフトウェア」を意味し、クラウド上でソフトウェアを提供するモデルです。これにより、ユーザーは端末に依存せず、必要な機能を必要な分だけ選択して利用できるようになりました。
SaaSはさらに、業界横断型か業界特化型かに分類されます。業界横断型をホリゾンタルSaaS、業界特化型をバーティカルSaaSと呼びます。この分類は、SaaS企業のビジネスモデルやマーケティング戦略に大きな影響を与えます。
ホリゾンタルSaaSは、複数の業界で使用できる汎用的なソフトウェアソリューションを提供します。例えば、CRMツールや会計システム、コミュニケーションツールなどが該当します。一方、バーティカルSaaSは特定の業界に特化したソリューションを提供し、その業界特有のニーズや課題に対応します。
両者の違いは、ターゲット市場の広さや深さ、競合状況、そしてマーケティングアプローチにも表れます。ホリゾンタルSaaSは幅広い市場をターゲットにできる一方、競争も激しくなります。バーティカルSaaSは狭い市場をターゲットにしますが、その分野での専門性や顧客ロイヤリティを高めやすいという特徴があります。
今後のSaaS市場では、ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSがそれぞれの強みを活かしながら、補完し合う形で発展していくことが予想されます。企業はこの両者の特性を理解し、自社のビジネスモデルに適したアプローチを選択することが重要です。
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①ホリゾンタルSaaSとは?
ホリゾンタルは「水平」という意味で、ここでは業界に関係ないという解釈で用いられます。つまり、ホリゾンタルSaaSは業界を問わず特定の業務に使われるSaaSのことを指します。一般的にどんな業種の企業でも使える機能・サービスを提供しています。
バーティカルSaaSとは対照的に、ホリゾンタルSaaSは幅広い業界で活用できる汎用性の高いソリューションです。例えば、SalesforceやHubspotなどのCRMツール、freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計システム、Sansanの名刺管理ツールが挙げられます。これらのツールは、業界を問わず多くの企業で利用されています。
ホリゾンタルSaaSの特徴として、大規模な市場を対象としているため、成長の可能性が高いことが挙げられます。また、多くの企業にとって共通の課題を解決するソリューションを提供するため、需要が安定しやすいという利点があります。
一方で、ホリゾンタルSaaSは競合も多く、差別化が難しいという課題も抱えています。そのため、ユーザビリティの向上や機能の拡充、カスタマーサポートの充実など、継続的な改善が求められます。
ホリゾンタルSaaSを展開する企業は、幅広い業界のニーズを把握し、それに応える柔軟性が必要です。また、マーケティング戦略も業界横断的なアプローチが求められ、多様なチャネルを活用した効果的なプロモーションが重要となります。
関連記事:CRMとは何か?知っておきたいSFAとの違いやCRMツール導入の注意点まで徹底解説
②バーティカルSaaSとは?
バーティカルは「垂直」という意味で、SaaSにおいては業界に特化した形態を指します。具体的に、バーティカルSaaSは特定の業界に特化し、その業界・業種の企業にとって使いやすい機能・サービスを提供しています。バーティカルSaaSは、業界固有の課題や要求に対応するため、ニッチな市場で高い競争力を持つことができます。
例えば、建設業界に特化した施工管理アプリANDPADは、建設現場の特殊な要件に対応したバーティカルSaaSです。また、医療業界に特化した電子カルテ管理ツールのCLINICSカルテも、医療機関特有のニーズに応えるバーティカルSaaSの一例です。
バーティカルSaaSの特徴として、以下の点が挙げられます。
- 業界特化型: 特定の業界や業種に焦点を当てたソリューションを提供します。
- カスタマイズ性: 業界固有の要求に合わせて柔軟にカスタマイズできます。
- 専門知識: 対象業界に関する深い理解と専門知識を活かしたサービス設計が可能です。
- 競争優位性: ニッチ市場で高い競争力を持つことができます。
- 顧客ロイヤルティ: 業界特有のニーズに応えることで、顧客満足度と継続利用率が高くなりやすいです。
バーティカルSaaSは、特定業界の課題解決に特化しているため、その業界内での普及率が高くなる傾向があります。また、業界固有の規制やコンプライアンスにも対応しやすいという利点があります。
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ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSのマーケティング観点における違い
業界横断型のホリゾンタルSaaSと業界特化型のバーティカルSaaSでは、業界・業種に対するターゲティングや、提供機能・サービスの汎用性が異なるため、マーケティングにおいてもその特性は大きく変わってきます。バーティカルSaaSは特定の業界に特化した製品やサービスを提供するため、その業界特有のニーズや課題に焦点を当てたマーケティング戦略が求められます。
ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSをマーケティング観点から見た時の主な違いは、以下の3つが挙げられます。
- マーケットサイズ
- プレイヤー数と競合
- マーケティング施策
これらの違いは、それぞれのSaaSモデルの特性に起因しています。バーティカルSaaSは、特定の業界に特化することで、その業界のニッチな需要を満たすことができます。一方、ホリゾンタルSaaSは、幅広い業界に適用可能な汎用的なソリューションを提供します。
バーティカルSaaSのマーケティングでは、業界特有の専門用語や業務フローを理解し、それらを効果的に活用することが重要です。また、業界内のインフルエンサーやキーパーソンとの関係構築も、マーケティング戦略の成功に大きく影響します。
ホリゾンタルSaaSのマーケティングでは、より広範囲なターゲット層に向けて、汎用的な価値提案を行う必要があります。多様な業界のニーズを満たすことができる柔軟性と拡張性を強調することが重要です。
両者のマーケティング戦略の違いを理解し、適切なアプローチを選択することで、効果的なSaaSマーケティングを実現することができます。次のセクションでは、これらの違いについてより詳細に解説していきます。
①マーケットサイズ
まずはマーケットサイズの違いがあります。ホリゾンタルSaaSは業界横断型と言葉の通り、すべての業界がターゲットとなるため、市場サイズはバーティカルSaaSより大きくなります。ホリゾンタルSaaSの代表例であるSalesforceやHubspot、Slackのようにグローバル展開できれば、そのマーケットサイズはさらに巨大なものになります。これらのSaaS企業は、幅広い業種に対応できる汎用性の高いサービスを提供しているため、多くの企業に採用される可能性が高くなります。
一方で、バーティカルSaaSは業界特化型のためマーケットはその業界に依存し、おのずとホリゾンタルSaaSの市場サイズより小さくなります。しかし、ターゲット業界に業界ならではの慣習や複雑な制約がある場合、その業界に最適な機能・サービスを提供できれば、マーケットを占有し収益を大きく上げられる可能性があります。例えば、建設業界向けのバーティカルSaaSであれば、現場管理や安全管理など、業界特有のニーズに応えることで、そのマーケット内での強固な地位を築くことができるでしょう。
このように、ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSでは、ターゲットとするマーケットの規模や特性が大きく異なります。そのため、SaaS企業はそれぞれの特性を理解し、適切な戦略を立てることが重要です。
②プレイヤー数と競合
マーケットサイズの規模に比例して、そのマーケットでのプレイヤー数と競合企業数も変化します。バーティカルSaaSはマーケットサイズが大きいため、プレイヤー数が増加し、競合企業数も多くなる傾向があります。すでにSaaSベンダーのトップに位置する企業は、潤沢な資金力を活かしてM&Aを積極的に行い、ベンチャー企業やスタートアップを傘下に収めることでマーケットシェアを拡大しています。このような状況下では、新規参入企業がシェアを獲得していくことは困難を極めます。
一方、マーケットサイズが限定的なバーティカルSaaSは、業界特化型であるがゆえにプレイヤー数も競合企業数も比較的少数です。特に日本市場においては、バーティカルSaaSのプレイヤーが少ないため、早期にマーケット参入を果たせば、シェア獲得の可能性が高まります。しかしながら、プレイヤー数が少ないという事実は、その業界特有のルールや制約を満たしつつ課題を解決できる機能・サービスが十分に開発されていないことを示唆しています。
そのため、バーティカルSaaSの開発には、対象業界についての深い知見やノウハウが不可欠となります。この要件が、バーティカルSaaS市場への参入障壁を高くする要因となっています。結果として、バーティカルSaaS市場は、業界に精通した企業や、強固な業界ネットワークを持つ企業にとって、より有利な競争環境を提供する可能性があります。
③マーケティング施策
マーケットサイズやプレイヤー数・競合企業数の違いによって、採用すべきマーケティング施策も異なります。
ホリゾンタルSaaSの場合、業界に依存しないため、幅広いマーケティング施策を展開できます。広範囲にリード獲得の網を張り、ターゲットリードを選定・育成し、成約へと導きます。ターゲットが広範囲になるため、リード獲得自体の難易度は比較的低いものの、マーケティングコストは増大する傾向にあります。
例えば、ホリゾンタルSaaSのマーケティング施策としては、以下のようなものが考えられます。
- 多様な業界向けのコンテンツマーケティング
- 幅広いキーワードを対象としたSEO対策
- 業界横断的な展示会やイベントへの出展
- ソーシャルメディアを活用した広範囲なターゲティング広告
一方、バーティカルSaaSは特定の業界に特化したマーケティング施策を実行します。ターゲットとなる業界に絞ってピンポイントで施策を展開するため、チャネルがある程度限定され、効率的なリード獲得が可能です。ただし、ターゲットが限定されるため大量のリード獲得は難しく、費用対効果の高いマーケティング施策を見出すことが求められます。
バーティカルSaaSのマーケティング施策の例としては、
- 特定業界向けの専門的なコンテンツ制作
- 業界特有のキーワードを狙ったSEO戦略
- 業界専門の展示会やカンファレンスへの参加
- 業界インフルエンサーとのコラボレーション
- 業界特化型のメディアやコミュニティでの広告展開
このように、バーティカルSaaSは業界に特化することで、より深い専門知識や業界固有の課題解決能力をアピールできる点が強みとなります。一方で、ホリゾンタルSaaSは幅広い顧客層にアプローチできる利点があります。両者のアプローチの違いを理解し、自社のSaaSの特性に合わせた効果的なマーケティング戦略を立案することが重要です。
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まとめ
バーティカルSaaSは、特定業界に特化したソリューションを提供するSaaSの一形態です。以下にホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSの主な特徴と違いをまとめます。
- ホリゾンタルSaaSは業界を問わず幅広く利用される汎用的なSaaSで、バーティカルSaaSは特定業界のニーズに特化したSaaSです。
- マーケットサイズの観点では、ホリゾンタルSaaSは全業界をターゲットにできるため、バーティカルSaaSより大きな市場を狙えます。
- プレイヤー数と競合に関して、ホリゾンタルSaaSは参入企業が多く競争が激しい傾向にあります。一方、バーティカルSaaSは業界特化型のため、競合は比較的少ないですが、参入障壁が高くなりやすいです。
- マーケティング施策において、ホリゾンタルSaaSは幅広いアプローチが可能ですが、バーティカルSaaSは業界に特化した効率的な施策が求められます。
- バーティカルSaaSは、業界特有の課題を深く理解し、最適なソリューションを提供することで、高い顧客満足度と継続的な利用を実現できる可能性があります。
- 日本市場では、バーティカルSaaSの普及はまだ途上段階にあり、今後さらなる成長が期待されています。
- バーティカルSaaSの開発には、対象業界の深い知見とノウハウが不可欠であり、これが参入障壁となる一方で、競争優位性にもなり得ます。
バーティカルSaaSは、特定業界のニーズに応える特化型ソリューションとして、今後さらなる進化と普及が見込まれる重要なSaaS分野といえるでしょう。

