今、さまざまな企業や国がユニバーサルデザインを取り入れています。しかし、ユニバーサルデザインの概要や意味がよく分からない人も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、ユニバーサルデザインの概要やバリアフリーとの違い、ユニバーサルデザインの歴史を解説します。また、ユニバーサルデザインの7大原則に関しても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
ユニバーサルデザインは、年齢や性別、障がいの有無に関わらず、できるだけ多くの人が利用しやすいように設計された製品やサービス、環境のことを指します。この考え方は、社会のあらゆる場面で適用され、誰もが平等に参加できる inclusive な社会の実現を目指しています。
具体的な例として、公共施設のスロープや多目的トイレ、音声ガイド付きの家電製品、読みやすいフォントを使用した案内表示などが挙げられます。これらは、高齢者や障がい者だけでなく、子どもや妊婦、外国人など、様々な人々にとって使いやすく設計されています。
ユニバーサルデザインの重要性は、近年ますます高まっています。高齢化社会の進展や、多様性を尊重する社会的な意識の向上に伴い、あらゆる人々が快適に暮らせる環境づくりが求められているのです。
本記事では、ユニバーサルデザインの基本的な考え方から具体的な適用例まで、幅広く解説していきます。デザインや製品開発に携わる方はもちろん、より良い社会づくりに関心のある方にとっても、有益な情報となるでしょう。
目次
ユニバーサルデザインとは?
まずは、ユニバーサルデザインの概要から見ていきましょう。ユニバーサルデザインとは、すべての人が簡単に利用できるように設計された製品、環境、サービス、情報などのことです。
ユニバーサルデザインは、あらゆる能力や背景を持つ人々が、社会的な参加、自己表現、日常生活を最大限に享受できるようにするために開発されたという背景があります。ユニバーサルデザインは、バリアフリーデザインやアクセシビリティと密接に関連しているものの、より包括的に誰もが自立して利用できることを追求していることが特徴です。
このデザイン概念は、年齢、性別、身体能力、文化的背景などの違いに関わらず、できるだけ多くの人にとって使いやすく、理解しやすいものを作り出すことを目指しています。ユニバーサルデザインの適用範囲は広く、建築、製品設計、ウェブデザイン、教育、公共サービスなど、さまざまな分野で活用されています。
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ユニバーサルデザインとバリアフリーの違いとは?
ユニバーサルデザインとバリアフリーデザインは、一見似ているようで異なる概念です。バリアフリーデザインは、主に身体的な障がいを持つ人々に焦点を当て、特定の障壁を取り除くことを目的としています。例えば、車椅子利用者のための段差の解消や、視覚障がい者のための点字ブロックの設置などが挙げられます。
一方、ユニバーサルデザインは、障がいの有無にかかわらず、年齢、性別、文化的背景など、できるだけ多くの人々にとって便利で使いやすいデザインを追求しています。これは、特定のグループだけでなく、社会全体を対象とした包括的なアプローチです。
具体的な例を挙げると、バリアフリーデザインでは階段の代わりにスロープを設置するかもしれませんが、ユニバーサルデザインでは、階段とスロープの両方を設置し、さらにエレベーターも併設するといった対応が考えられます。これにより、車椅子利用者だけでなく、ベビーカーを押す人や高齢者、重い荷物を持つ人など、幅広い利用者のニーズに応えることができます。
つまり、バリアフリーデザインが特定の障壁を取り除くことに重点を置いているのに対し、ユニバーサルデザインはより広範な視点から、最初から誰もが使いやすい環境や製品を設計することを目指しています。この違いを理解することで、より包括的で効果的なデザインアプローチを選択することができるでしょう。
ユニバーサルデザインの歴史
実は、ユニバーサルデザインという概念が生まれたのは、20世紀にさかのぼります。しかし、ユニバーサルデザインがより広く認知されるようになったのはつい最近のことです。
1960年代に、アーキテクト(建築家)のロナルド・メイスが「ユニバーサルデザイン」の用語を初めて提唱しました。ロナルド・メイスは、障がい者向けの建築物を設計する際に、その建物を誰もが利用できるようにするための原則を確立しました。この原則が、後に「ユニバーサルデザインの7原則」として知られるようになります。
メイスの提唱以降、ユニバーサルデザインの考え方は建築分野を超えて、製品設計、都市計画、情報技術など、さまざまな分野に広がっていきました。この概念は、障がい者だけでなく、高齢者、子ども、妊婦、外国人など、多様な人々のニーズに応える設計手法として受け入れられていきました。
1990年代に入ると、ユニバーサルデザインの重要性が国際的に認識されるようになり、多くの国や企業がこの考え方を採用し始めました。特に、高齢化社会の進展や、障がい者の権利意識の高まりを背景に、ユニバーサルデザインの必要性が強く認識されるようになりました。
21世紀に入ってからは、テクノロジーの発展とともに、デジタル分野でもユニバーサルデザインの適用が進んでいます。ウェブサイトやモバイルアプリケーションなど、デジタルプラットフォームにおけるアクセシビリティの向上は、現代のユニバーサルデザインの重要な一面となっています。
このように、ユニバーサルデザインは時代とともに進化し、今日では社会のあらゆる側面に影響を与える重要な概念となっています。
ユニバーサルデザインの種類
ユニバーサルデザインは、私たちの日常生活のさまざまな場面で活用されています。その適用範囲は非常に広く、多岐にわたる分野で見られます。主要なユニバーサルデザインの種類としては、情報に関するものとモノに関するものが挙げられます。これらは、それぞれ異なる特徴を持ちながらも、共通して「誰もが使いやすい」という理念を追求しています。情報におけるユニバーサルデザインは、コミュニケーションや情報アクセスの向上を目指し、モノにおけるユニバーサルデザインは、製品やデバイスの使いやすさを追求しています。以下では、これらの種類について詳しく見ていきましょう。
情報におけるユニバーサルデザイン
情報におけるユニバーサルデザインは、コミュニケーションや情報アクセスを向上させるためのデザインです。たとえば、テキストやWebサイト、Webアプリケーション、グラフィックスなど、情報を伝えるあらゆるメディアに適用されています。
テキストのフォントやサイズ、Webサイトのナビゲーション、情報の視覚的な表現方法など、Webに関連するサービスを提供している事業者が配慮して設計されていることが特徴です。これらの要素は、視覚障害者や高齢者、色覚異常の方々にも配慮し、誰もが容易に情報にアクセスできるよう工夫されています。
また、音声読み上げ機能や字幕、手話通訳の提供なども、情報におけるユニバーサルデザインの一環として重要な役割を果たしています。これらの取り組みにより、聴覚障害者や言語の異なる外国人なども、円滑に情報を得ることができるようになっています。
モノにおけるユニバーサルデザイン
モノにおけるユニバーサルデザインは、製品やデバイスの設計に関連するデザインです。たとえば、車椅子やキッチン用具、電子機器、交通機関などが代表的なモノにおけるユニバーサルデザインと言えます。これらは、異なる身体的な能力を持つ人々が同じ製品を使えるようにするために、ユーザーの多様性に対応する設計となっていることが特徴です。
具体的には、握りやすい形状のハンドルや、大きな文字表示の家電製品、高さ調節可能な机やテーブル、左右どちらの手でも使いやすいはさみなどが挙げられます。これらの製品は、年齢や身体能力に関わらず、多くの人々が快適に使用できるよう工夫されています。
また、公共空間におけるモノのユニバーサルデザインも重要です。例えば、駅のエレベーターや多目的トイレ、低床バスなどは、車椅子利用者だけでなく、高齢者や子連れの人々にとっても利便性が高いデザインとなっています。このように、モノにおけるユニバーサルデザインは、社会全体のアクセシビリティ向上に貢献しています。
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ユニバーサルデザインはなぜ必要?
ユニバーサルデザインの必要性は、現代社会の多様なニーズと課題に対応するために高まっています。この設計理念は、あらゆる人々が平等に、そして快適に生活できる環境を創出することを目指しています。
ユニバーサルデザインが必要とされる背景には、社会構造の変化や技術の進歩、そして人権意識の向上などが挙げられます。特に、高齢化社会の進展、グローバル化に伴う多様性の増大、そして障がい者の社会参加の促進といった要因が、ユニバーサルデザインの重要性を一層高めています。
これらの社会的変化に対応し、誰もが使いやすい製品やサービス、環境を提供することは、企業や組織にとっても重要な課題となっています。ユニバーサルデザインを採用することで、より幅広い顧客層にアプローチできるだけでなく、社会的責任を果たすことにもつながります。
さらに、ユニバーサルデザインは、innovation(イノベーション)の源泉としても注目されています。多様なユーザーのニーズに応えようとする過程で、新たな技術や発想が生まれることがあり、それが製品やサービスの質的向上につながる可能性があります。
以上のように、ユニバーサルデザインは、社会の包摂性を高め、すべての人々の生活の質を向上させるために不可欠な概念となっています。
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少子高齢化社会だから
日本を含めて多くの国で少子高齢化が進行しており、高齢者の比率が増加している傾向にあります。特に高齢者は身体的な制約を抱えやすく、ユニバーサルデザインは高齢者の生活をサポートし、そして自立を促進する役割を担っています。ユニバーサルデザインを使用した高齢者にとって使いやすいサービスは、高齢者の社会的な参加を促したり、高齢者を抱える家庭の生活の質を向上させたりするメリットがあります。
また、少子高齢化社会では、労働人口の減少も課題となっています。ユニバーサルデザインの導入により、高齢者や障がいを持つ人々の就労機会が拡大し、社会全体の生産性向上にも寄与する可能性があります。さらに、若い世代にとっても、将来的な自身の加齢を見据えた環境整備として、ユニバーサルデザインの重要性が高まっています。
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グローバル化が進んでいるから
次に、グローバル化が進んでいることもユニバーサルデザインが必要な理由です。現代はますますグローバル化が進んでおり、異なる文化や言語、コミュニケーション方法、その他多様な背景を持つ人々が同じ環境で共存しています。
そこでユニバーサルデザインは、異なる文化や多様性に対応できるというメリットがあります。例えば、言語や文化の違いを超えて理解しやすいピクトグラムの使用や、多言語対応のインターフェースなどが挙げられます。これらの工夫により、様々な国籍や文化背景を持つ人々が、同じ製品やサービスを快適に利用できるようになります。
また、海外市場への参入を狙っている企業は、ユニバーサルデザインを使ったサービスであることが国際的な競争力を持つ条件とも言えるでしょう。グローバル展開を目指す企業にとって、ユニバーサルデザインの採用は、より幅広い顧客層にアピールし、市場シェアを拡大する上で重要な戦略となっています。
障がい者の権利を保証するため
障がい者の権利を保証するためにも、ユニバーサルデザインは非常に重要です。国際連合の障がい者権利条約(CRPD)など、多くの国際的な法的文書にて、障がい者の平等な権利が強調されています。
ユニバーサルデザインは、障がい者にとって差別や社会的な排除を減少させることに役立ち、平等な参加の機会を提供する手段としても使われているのです。
もちろん、上記はバリアフリーとの考え方にも近いですが、ユニバーサルデザインは障がい者を含めて平等に過ごすことが目的とされているため、ユニバーサルデザインがあることでより障がい者が平等に社会に進出できているといえるでしょう。このアプローチは、障がい者だけでなく、高齢者や一時的な身体の不自由を抱える人々など、幅広い層に恩恵をもたらします。結果として、社会全体のインクルージョンと多様性の促進につながり、誰もが自由に活動できる環境づくりに貢献しています。
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ユニバーサルデザインの7大原則
ここまで、ユニバーサルデザインの概要や必要な理由を解説してきました。ここからは、ユニバーサルデザインの7大原則を紹介します。
● 誰でも公平に使える
● 自由度が高い
● 使い方が簡単
● 欲しい情報をすぐに理解できる
● ミスや危険に繋がらない
● 身体への負担が少ない
● 使いやすい大きさ・空間
それぞれ順番に見ていきましょう。
1. 誰でも公平に使える
ユニバーサルデザインの最初の原則は、すべての人が公平に利用できるように設計することです。誰もが公平に使えるという原則に従うことで、年齢や身体的な能力、文化的背景、言語の違いに関係なく、誰もがサービスや製品を同様に利用できるのです。
たとえば、高低差のないアクセス、ユーザーフレンドリーなインターフェース、多言語対応のWebサイトなどが1つ目の原則に該当するでしょう。
2. 自由度が高い
次に、自由度が高いこともユニバーサルデザインの原則です。自由度が高い状態はどのようなものであるかというと、ユーザーに選択肢や柔軟性を提供することが挙げられます。
たとえば、フォントサイズを設定できたり、デフォルトの設定をカスタマイズできたりすることが自由度の高いユニバーサルデザインです。サービスを提供する事業者は、ユーザーが自分の好みや必要に合わせて調整できる機能やオプションを提供するようにしましょう。
3. 使い方が簡単
3つ目は、使い方が簡単であることです。ユーザーが製品やサービスを簡単に理解し、利用できるようにするために非常に重要な原則です。シンプルで分かりやすい直感的なインターフェースや、操作手順を簡単にすることで、ユーザーのストレスや混乱を軽減できるメリットがあります。
4. 欲しい情報をすぐに理解できる
4つ目は、ユーザーが欲しい情報をすぐに理解できることです。提供する情報が明確で、ユーザーが必要な情報を迅速に把握できるようにすることが大切です。たとえば、誰が見ても分かりやすい視覚的なデザインや、シンプルで明瞭なコミュニケーションが重要になります。
5. ミスや危険に繋がらない
5つ目は、ミスや危険に繋がらないことです。ユーザーが誤った操作を行ったり、事故に巻き込まれたりするリスクを最小限に抑えるための原則になります。たとえば、転倒を防ぐ手すりや警告サインの設置が代表例であり、さまざまな店舗やサービスで導入されていると言えるでしょう。
6. 身体への負担が少ない
6つ目は、身体への負担が少ないことです。体力的な負担を最小限に抑えられるようにするための原則であり、車椅子ユーザーに対する段差の解消や、長時間の使用でも疲れにくいデザインなどが6つ目の原則に該当します。
7. 使いやすい大きさ・空間の確保
最後は、使いやすい大きさや空間の確保です。特に、狭いスペースや混雑した環境では、利用者にストレスや不便をもたらす可能性が高まります。身体に障がいを抱える人であっても健常者であっても、誰もが過ごしやすい大きさや空間を確保することが重要です。
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まとめ
本記事では、ユニバーサルデザインについて解説をしてきました。ユニバーサルデザインは、誰もが過ごしやすく、平等に社会生活を送れるようにするための重要な要素です。
ユニバーサルデザインの原則は、情報、製品、環境、サービスなどあらゆる側面に活用されています。少子高齢化やグローバル化が進む現代でより良いサービスを提供するためにも、ユニバーサルデザインを取り入れたサービスへとブラッシュアップしてみてはいかがでしょうか。