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LIDDELL(リデル)の福田晃一社長に戦略を聞いた。その後編をお届けする

【後編】リデルは企業と個人が共創できるマーケティング基盤を作り上げた

2024.2.9
読了まで約 5

企業のマーケティング活動や商品開発に、特定ジャンルへの影響力が強い、いわゆるインフルエンサーの力を活用する”パーソナル・ドリブン・マーケティング(個人の影響力が牽引するマーケティング)”を掲げたLIDDELL(リデル)。なぜ個人の力がマーケティングにおいて重要になると考えたのか。

後編では、リデルが作り上げた”企業と個人が共創する”ためのマーケティングプラットフォームについて、社長である福田晃一へのインタビューを交えて紹介していきたい。

前編:【前編】「インフルエンサーマーケティング」を牽引するリデルの周到な戦略

”共感”がヒット商品を生み出す

インフルエンサーを通じたマーケティングがヒット商品を生み出す。福田はその様子を2000年代の読モ・カリスマ店員の時代から目撃してきた。ブログを経てSNSへとプラットフォームの主役が交代しても、その基本部分は当時と変わっていないという。

福田はかつて「ヒト売れ」というキーワードを生み出した。モノ消費、コト消費との対比で、SNSなどを通じたヒト同士の共感が消費を促すことを表す言葉だ。言い換えるならば、影響力を発揮するヒトの力を企業が活用できる環境を整えることができれば、新しいマーケティングのツールとなり得る。

しかし、インフルエンサーの起用が始まった当初は、フォロワー数が多いSNSアカウントを持つ個人にギフティング(商品を無料で体験するため贈呈する手法)したり、間接的な報酬を与えたりすることで“自然発生的な宣伝をさせる”といった、極めて安易な手法が横行していた時期もあった。

現在はステマ防止法が施行され、ギフティングや間接的な報酬支払いを通じての推薦メッセージの発信には一定の制限が設けられるようになっているが、未だにステルスマーケティング(ステマ)に対する根強い嫌悪感は払拭できていない。

そんな中で、福田はいち早くステマ撲滅を掲げてリデルのサービスを整備してきた。ステマの横行は、インフルエンサーを通じたマーケティングパワーを大きく阻害するからだ。

「なぜ、インフルエンサーを通じてヒット商品が生まれるのか。それは”共感”があるから。では、なぜ共感を持つのかといえば、インフルエンサー自身が心の底から大好きだと感じているジャンルで、感じるままの思いを伝えようとするから信頼性がとても高いのです」。

インフルエンサーの大多数は普通の会社員や学生で、広告・宣伝の世界を全く知らない場合が多い。広告案件を持つ代理店からの提案を鵜呑みにしてしまい、安易に報酬をもらえる案件を受けることで、自らの価値を下げてしまうことも少なくなかった。

リデル創業時、最初に立ち上げたインフルエンサーを通じた広告・宣伝のプラットフォーム「SPIRIT」は、そうしたインフルエンサー起用にまつわる様々な問題を解決する工夫を施した。インフルエンサーの登録者数を2万人(当初、現在は3万5000人)に制限することで、登録インフルエンサーの質を維持しつつ、インフルエンサー向けの教育プログラムや情報発信のアドバイスなどのサービスを徹底して行なった。

当時、採用していた社員も、ほぼ全員が何らかのジャンルで商品購買への影響力を持つインフルエンサーだ。ステマをなぜ引き受けてはいけないのか。企業案件に接することで、インフルエンサー自身にどのような影響を与えるのか、自分自身の経験も生かしながら丁寧にアドバイスすることで、登録しているインフルエンサーたちとの信頼関係を獲得していった。

関連リンク:ステマ(ステルスマーケティング)とは?意味や規制、事例について簡単に解説

企業・個人双方のニーズを満たすシステムを開発

インフルエンサーの意識、質を高めることに加え、福田が取り組んだのはインフルエンサーを起用したマーケ施策に興味を持つ企業と共に、ビジネスとして信頼できるサービスの枠組みを作ることだ。

このためリデルでは当初から、顧客とインフルエンサーの間に入る中間業者になるのではなく、企業側、インフルエンサー側、双方が納得感を持ってプロジェクトを進められるよう、ウェブ上のアプリケーションで両者が直接、コミュニケーションできるようにシステムが構築されている。

画像:LIDDELL(リデル)福田晃一社長
3万5000人を超えるインフルエンサーたちが活躍する「SPIRIT」などマーケティングのエコシステム構築に力を注いでいる

企業は広告・宣伝の案件を提供されたウェブ上のツールで案件管理を行い、募集人員や募集内容などの詳細を掲示。インフルエンサー向けアプリ「SPIRIT」では、そうした企業側の案件の中から、自らが興味を持てるブランドやプロジェクトを選ぶことができる。

実際に案件がマッチングすると「SPIRIT」上でマーケ施策のスケジュールが詳細に表示されるようになり、インスタグラム、TikTok、YouTube、Xなどの複数のSNSを通じた投稿をAPIを通じて管理する、という仕組みだ。

社員が監視、管理するのではなく、システムとしてインフルエンサーの行動をサポートできる上、投稿管理やその後の反応なども自動的に集計することが可能になる。企業側はマーケ施策の経過・あるいは結果のレポートをオンラインで調査できる。

さらに上がった成果、反応に応じ、マーケティング施策に参加したメンバーとスムーズに連携が取れる場を設け、改めて次回のプランニングをする際の参考にするといったことも可能だ。

福田は「個人起用のマーケティング施策では、企業側が起用したインフルエンサーの投稿管理などを俯瞰しにくく、評価測定も曖昧でした。そこで、インフルエンサーに使いやすい投稿管理ツールでパフォーマンスを発揮しやすい環境を提供し、その上で案件の投稿管理をしてもらいます。一方で企業側には、ウェブでレポーティング機能、起用したインフルエンサーとのコミュニティ管理を提供することで施策の結果を数値で評価し、さらに施策後のヒアリングなどもできるようにしました。私たちはこのサービスツールを提供するだけではなく、担当者の相談に乗ることで”次回はさらに良い結果を”という具合に、顧客と並走しながらPDCAサイクルを回していきます。こうした企業顧客とも、インフルエンサーとも、寄り添い伴走しながら互いに改善を目指すことによって信頼関係を築いてきました」と話す。

企業向けレポーティングシステムの中では、独自に開発した「共感指数」というものが定義されている。この指数はインフルエンサーの持つ属性を投稿内容や結果から、”影響の範囲”、”承認されやすさ”、”発見されやすさ”、”参考にされやすさ”、”印象の深さ”の5つを数値化。フォロワー数といったありきたりな数値ではなく、個人個人の特徴を把握できるようにすることで、的確なインフルエンサーを起用する目安を提供している。

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「個人の時代」から「集団の時代」へ

このようにリデルは”共感”という、人の感情、感性に寄り添ったテーマを扱いつつも、システムとして分かりやすく企業側が扱えるようツールセットを用意し、参加するインフルエンサーに対しては”個人の想い”に寄り添ったサービスを提供することで、企業と個人の間を取り持ってきた。

「個人の時代」の始まりからインフルエンサー事業を進めてきた福田だが、「始まりがあれば終わりがある」と次の潮流を見据える。「個人の時代」が終わって、「集団の時代」になっていくのだという。

「個人で全てを行うのは、実は苦しい。波があるし、沈むこともある」と福田。それを打破するのが、集団(ファンコミュニティ)の力の活用だ。

例えば、野球好きが集まるグループであれば、そこに集まった個人同士で情報交換をして、自律的にコミュニケーションが活性化していく。「大リーグに関心を持っている人たち」「ジャイアンツが好きな人たち」という具合に細分化もされて、それぞれにコミュニティリーダーが生まれる。集団だから1人がしばらく活動を休んだとしても、誰かがフォローに入り、常に一定度の活気を維持できる。「個人の時代であることは変わらないが、”集団の中の個人の役割”が重要になっていく。私はこれをパーソナルからインディビジュアルへ、と表現しています」。

そこで重要になるのが、ファンコミュニティを生み出す、DAO (自律分散型組織)に基づくコミュニティサービスだ。「COMMUDA(コミューダ)」と名付けられたシステムは、ブロックチェーン技術を応用したトークンを元にした自律的なコミュニティを形成し、必要ならば報酬としてNFTを発行するなどファンコミュニティを形成するための統合プラットフォームになっている。

さらに2023年11月には、OpenAIのGPTをカスタム学習させることで、インフルエンサーをはじめとしたブランドコミュニティでの議論や意見を取り込んだカスタムAIを生み出すサービス「KAL(カル)」も開発した。

このKALをCOMMUDAに組み合わせることで、自社ブランドのファンコミュニティに関する様々な情報をまとめることが可能になる。ファンコミュニティの発話や、アクションログを学習した集合知を対話形式で簡単に引き出すことができる。

ただし、KALはインフルエンサーマーケティングだけにとどまるものではない。KALはSlack、Microsoft Teams、Chatwork、LINEと連動し、その中で交わされる会話をオンデマンドで学習していくことで成長させることができる。実際、慶應義塾大学ではKALを用い、全研究者の情報や論文、研究室のWebページなどから情報収集を行い、研究の魅力を伝える研究概要を自動生成する仕組みをKALで開発しているという。

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”見えない”を”見える”化

福田のスタート地点は、影響力を持つ個人のパワーを活用することだった。組織に組み込むことが難しく、無理に組織化してしまうと本来の良さである共感力を奪ってしまう。個人で働く人たちの個性を生かしながら、企業がその個性を活かせる仕組みを構築し、さらにはそこで生まれた知見をAIとする。

福田はこうした取り組みの中で属性の異なるコミュニティAIが持つ知見を組み合わせ、新たなプランを生成するコミュニティAIを複数用いたコラボレーションをサービスとして考えているという。

例えば、スポーツファンのコミュニティから生まれたカスタムAIと、ファッションに造詣が深いコミュニティのAIを組み合わせ、新たな価値観のパフォーマンスウェアを開発するなどの取り組みだ。

これらリデルの取り組みは、俯瞰してみると教科書通りのマーケティングである。従来は企業が閉じられた組織の中で取り組んでいたものを、個人が参加して共創するオープンな仕組みに変えて行こうとしているのがリデルなのである。

福田は「私たちの想いは創業以来、変わっていません。人それぞれが持っている個性、影響力を生かしていきたい。そのために企業担当者と伴走しながら成果が出せるよう提案を続け、インフルエンサーの皆さんが自由に活動できるための環境を整えていきます」と締めくくった。(敬称略)

関連リンク:AI(人工知能)とは?意味や定義をわかりやすく解説

プロフィール

福田 晃一

福田 晃一(ふくだ こういち)

1979年⾼知県⽣まれ。2000年から読者モデルを中⼼としたファン・コミュニティマーケティングの先駆者。芸能とマーケティングのハイブリッド企業であるツインプラネットの創業者として、数々の⼈気タレントやアーティストを輩出。多彩な戦略で「ヒト売れ」なる消費トレンドを築き2014年、SNS・インフルエンサーマーケティングの草分けとなるLIDDEL(リデル)を設⽴。「買う理由は雰囲気が9割」(2017)や「影響⼒を数値化 ヒットを⽣み出す共感マーケティングのすすめ」(2018)などの著書がある。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

編集者

山田 俊浩(やまだ としひろ)

東洋経済新報社 編集局次長

2020年10月から現職。2014年5月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。就任時には月間3000万PVだった東洋経済オンラインを月間2億PVを超える大手新聞社に匹敵する大型ニュースサイトへと引き上げた。2019年1月から2020年9月までは週刊東洋経済編集長。著書に『稀代の勝負師 孫正義の将来』(東洋経済新報社)がある。また不定期でAbemaTV の『ABEMA Prime』(アベプラ)にコメンテーターとして出演中。趣味はオーボエ演奏で都民交響楽団に所属。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

執筆者

本田 雅一(ほんだ まさかず)

ITジャーナリスト

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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