エンタープライズ企業から新規契約を獲得することは、企業の成長戦略において重要な要素です。大規模な組織との取引は、売上高や従業員数の観点から、大きな収益をもたらす可能性が高くなります。さらに、一つの部署との契約を足がかりに、組織内の他の部門へとビジネスを拡大する機会も生まれます。
エンタープライズ企業へのアプローチは、一般的に「エンタープライズマーケティング」や「エンタープライズセールス」と呼ばれ、中小企業向けとは異なるアプローチ方法が効果的です。本記事では、エンタープライズ企業をターゲットとした最適なマーケティング戦略について詳しく解説します。
大企業との取引には独自の課題や機会が存在するため、それらに適した特別なマーケティング手法が求められます。例えば、意思決定プロセスが複雑で時間がかかることや、複数の利害関係者が関与することなどが挙げられます。これらの特性を理解し、適切に対応することが、エンタープライズマーケティングの成功につながります。
本記事では、エンタープライズ企業の定義や特徴、効果的なマーケティング戦略、そして具体的なアプローチ方法について、詳細に解説していきます。エンタープライズ市場での成功を目指す企業にとって、貴重な指針となる情報を提供します。
関連記事:マーケティングとは?基礎から重要ポイントまで初心者にも分かりやすく解説
人事・経営層のキーパーソンへのリーチが課題ですか?
BtoBリード獲得・マーケティングならProFutureにお任せ!
目次
エンタープライズ企業とは
エンタープライズとは、一般的に大規模な法人組織や、そうした組織向けに提供されるIT製品(ソフトウェアやサービス)を指す用語です。この言葉は、市場や顧客の規模を分類する際によく使用され、特に中堅・中小企業を表すSMB(Small and Medium Businessの略)と区別するために用いられます。エンタープライズ企業には、大企業をはじめ、官庁や地方公共団体など、比較的規模の大きな組織が含まれます。
ビジネスの観点から見ると、エンタープライズ企業は多くのメリットを持っています。SMBと比較すると、売上規模や従業員規模が大きいため、契約金額も大きくなる傾向があります。また、一度契約を獲得すれば解約されにくく、特にSaaSビジネスにおいては低いチャーンレート(顧客離脱率)が期待できます。
さらに、ある部署での成功事例を基に、他の部署への展開がしやすいという利点もあります。これにより、アップセル(既存顧客への追加販売)やクロスセル(関連商品の販売)の機会が大きく広がります。このような特徴から、多くの企業がエンタープライズ企業をターゲットとしたマーケティングやセールス活動に注力しています。
しかしながら、エンタープライズ企業へのアプローチは、SMBターゲットとは異なる特徴を理解し、適切な戦略や施策を立てる必要があります。大規模組織特有の意思決定プロセスや、複雑な組織構造を考慮したアプローチが求められるため、綿密な計画と実行が不可欠です。
<成功事例込みのアップセル・クロスセル関連記事>
- 売上アップの近道!営業・マーケター向けアップセル完全解説:当社BtoB広告営業の成功事例付き
- 複数成約を実現!売上アップの王道「クロスセル」をわかりやすく解説:業界別実践マニュアルと当社成功事例を紹介
マーケティング観点で見たエンタープライズ企業の特徴
マーケティングの観点から見ると、エンタープライズ企業には特筆すべき特徴が3つあります。これらの特徴を理解し、適切な戦略を立てることが、エンタープライズ企業へのアプローチを成功させる鍵となります。
1つ目の特徴は、ターゲット企業数が限られていることです。エンタープライズ企業の定義は明確ではありませんが、一般的に中堅企業よりも大規模な組織を指します。日本全体でみると、該当する企業は約11,000社程度で、全体の約0.3%にすぎません。さらに、自社のサービスや製品が対象とする企業は更に絞られるため、SMB(中小企業)市場と比較すると、ターゲットとなる企業数は極めて少なくなります。
2つ目の特徴は、意思決定プロセスの複雑さです。エンタープライズ企業では、その規模の大きさゆえに、契約の意思決定に多くの人々が関与します。窓口となる担当者、最終決定を下す決裁者、実際にサービスを利用する部門など、様々なレイヤーの人々が意思決定プロセスに参加します。さらに、複数の部署をまたいで検討されることも珍しくありません。
3つ目の特徴は、契約までのリードタイムの長さです。多くの人が意思決定に関わるため、必然的に契約までの期間が長くなります。また、エンタープライズ企業は慎重な姿勢を取る傾向があり、十分な検討時間を要することも、リードタイムが長くなる要因の一つです。加えて、多くのエンタープライズ企業では、年度初めに年間予算が確定するため、次年度の予算取りを前年度中に行う必要があります。
これらの特徴を踏まえると、エンタープライズ企業向けのマーケティングでは、少数の重要なターゲット企業に対して、精度の高いアプローチを行うことが求められます。また、組織の各レイヤーや部署のニーズを理解し、それぞれに適した訴求ポイントを準備することが重要です。さらに、長期的な視点を持ち、予算策定のタイミングを逃さないよう、早期からの関係構築を心がける必要があります。
①ターゲット企業数が少ない
エンタープライズ企業として明確な定義はありませんが、中堅企業よりも大きな規模を対象とすると、その企業数は11,000社ほど該当し、日本全体ではおよそ0.3%になります。
さらに、サービスの対象となる企業は限られ、SMBと比較するとターゲットとなる企業数は少なくなります。数少ないターゲット企業に対して精度高くマーケティングやセールス活動を行い、契約までつなげていくことが非常に重要です。
このような状況下では、各ターゲット企業に対する深い理解と、きめ細かなアプローチが求められます。企業の特性や業界動向、さらには意思決定者の関心事などを十分に調査し、的確なメッセージを届けることが成功への鍵となります。
②意思決定に多くの人が関わる
エンタープライズ企業はその規模が大きいために、契約の意思決定に多くの人が携わります。窓口となる担当者や最終決定を行う決済者、サービスを実際に使う利用者とそれぞれレイヤーの異なり、また、複数の部署をまたいで検討されることもあります。
立場や部署が異なれば、解決したい課題や求めている機能は異なります。そのため、マーケティングやセールス活動においては、あらゆるレイヤーや部署がもつニーズに応えられるように訴求ポイントを整理し活かしていくことが必要となります。
例えば、経営層は全社的な視点から投資対効果を重視するかもしれません。一方、現場の担当者は日々の業務効率化や具体的な機能に注目するでしょう。また、IT部門はセキュリティや既存システムとの連携を重視する可能性があります。このように、各層の関心事を把握し、それぞれに適した提案を行うことが重要です。
③契約までのリードタイムが長い
上述の通りエンタープライズ企業では契約までに多くの人が意思決定に関わるため、契約までのリードタイムも長期になります。契約自体もSMBと比較すると慎重になりやすく、検討するために十分な時間をかけることも要因のひとつです。大規模な組織では、各部門や階層での承認プロセスが複雑であり、これも意思決定の長期化につながります。
また、年間の予算が年度はじめには確定している場合もあり、契約の前年度に予算取りを行うケースも多々あります。次年度の予算取りを行うタイミング(4月はじめであれば前年の秋頃)までにターゲット企業と接点をもち、関係構築をしておく必要があります。このため、エンタープライズ企業向けのマーケティングや営業活動では、長期的な視点で戦略を立てることが重要となります。
エンタープライズ企業向けマーケティング手法
エンタープライズ企業向けのマーケティングやセールス活動を展開する際、中核となるのがABM(Account Based Marketing)です。ABMは「アカウント・ベースド・マーケティング」と呼ばれ、特定の企業や団体を基盤としたマーケティング戦略です。
SMB(中小企業)向けのマーケティングでは、多数の潜在顧客に幅広くアプローチし、関心を示したリードをインサイドセールスが育成し、フィールドセールスが成約に結びつける手法が一般的です。この手法は「The Model」と呼ばれ、リード獲得、育成、契約の各段階を異なる部門が担当する分業制を特徴としています。
一方、ABMでは「The Model」の分業制とは異なり、全部門が一丸となってターゲット企業からの契約獲得に注力します。この approach は、エンタープライズ企業の複雑な意思決定プロセスと長期的な取引関係構築に適しています。
エンタープライズ企業向けのマーケティングを効果的に展開するには、主に2つの重要な取り組みがあります。1つ目はターゲット企業の綿密な選定、2つ目はBDR(Business Development Representative)チームの設立です。これらの取り組みにより、限られたリソースを最適に活用し、高い成約率を目指すことが可能となります。
ABMを基軸としたこのアプローチは、エンタープライズ企業の特性である少数の高価値顧客、複数の意思決定者の存在、長期的な契約プロセスに対応するために不可欠です。戦略的かつ集中的なマーケティング活動を通じて、エンタープライズ市場での成功を実現することができるのです。
関連記事:ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?基本的な概念から具体的な施策手法まで解説!
①ターゲット企業の選定
まずターゲットとなる企業を選定します。このとき自社の顧客リストを洗いだし、その集めた情報を整理し、分析して優先順位を付けます。また、顧客リストにない企業に関しては、外部の企業データベースを活用して、新たにターゲットとなる企業を探すと良いでしょう。
ターゲット企業の選定プロセスでは、以下の点に注意することが重要です。
- 業界分析: 自社製品やサービスが最も適している業界を特定し、その業界内の主要企業をリストアップします。
- 企業規模: 売上高や従業員数などの指標を用いて、自社のリソースと合致する規模の企業を選びます。
- 地理的条件: 営業活動の効率を考慮し、アプローチしやすい地域にある企業を優先します。
- 成長性: 将来的な取引拡大の可能性を見据え、成長率の高い企業を選定します。
- 技術適合性: 自社の製品やサービスが、ターゲット企業の既存のシステムや技術環境と適合するかを考慮します。
これらの要素を総合的に評価し、最も有望なターゲット企業を絞り込むことで、効果的なアプローチが可能となります。
関連記事
・【初心者でも簡単】ターゲット マーケティングの始め方|3ステップで進めるSTP分析を徹底解説
・外部の企業データベースを活用したターゲティング
②BDRの立ち上げ
ターゲット企業の選定と並行して重要なのがBDRの立ち上げです。BDRはBusiness Development Representativeの略で、「新規開拓型」のインサイドセールスを指します。主な役割は、ターゲット企業に対して手紙や電話などの直接的なアウトバウンド施策を用いて商談を獲得することです。
BDRの業務は単なるコールドコールにとどまりません。ターゲット企業のキーマンを特定し、各企業の組織図を作成したり、企業ごとのニーズや検討プロセスに合わせた最適なアプローチ方法を検討したりします。これにより、戦略的かつ効果的な新規開拓が可能となります。
さらに、BDRは長期的な関係構築も担います。初回のコンタクトから契約に至るまでの間、一貫してターゲット企業とのコミュニケーションを維持し、信頼関係を築いていきます。この過程で得られた情報は、マーケティングチームや営業チームと共有され、全社的な戦略立案に活用されます。
BDRの立ち上げには、適切な人材の採用と育成が不可欠です。コミュニケーション能力や分析力、戦略的思考力などを備えた人材を選定し、継続的なトレーニングを提供することで、効果的なBDRチームを構築することができます。
関連記事:インサイドセールスとは!機能やテレアポとの違いを解説します
エンタープライズ企業アプローチに有効なチャネル
エンタープライズ企業へのアプローチが可能な体制が整ったら、次のステップとしてマーケティング施策を展開していきます。エンタープライズ企業へのアプローチに特に有効とされるチャネルをいくつか紹介します。これらのチャネルは、エンタープライズ企業の特性を考慮し、効果的にターゲット企業の意思決定者にリーチすることができます。各チャネルの特徴を理解し、自社の製品やサービス、ターゲット企業の状況に応じて適切に選択することが重要です。また、複数のチャネルを組み合わせることで、相乗効果を生み出すことも可能です。以下では、代表的なチャネルとその活用方法について詳しく解説していきます。
①CXOレター&テレアポ
CXOレターは企業のCEOやCOOなどCXOの役職者に宛てて手紙を送付する施策です。ターゲット企業のキーマンに直接リーチすることが可能であり、手紙を送った後にフォローの電話をセットにすることでアポイント獲得率が上がります。
エンタープライズ企業では特に有効と言われています。CXOには専属の秘書がついており、届いた手紙を秘書がキーマンの手元に届け、またCXOの指示があれば、アポイントの日程調整を代わりに行うため、アポイントが確実に取れやすいことが挙げられます。
この手法は、ターゲット企業の意思決定者に直接アプローチできる点が大きな強みです。手紙という形式は、メールやSNSと比べて開封率が高く、印象に残りやすいという利点があります。また、手紙の内容を工夫することで、企業の課題や悩みに対する具体的な解決策を提案することができ、より効果的なアプローチが可能となります。
関連記事
・大手企業のキーマンと接点が取れるCXOレターとは?
・マーケティングにおけるDMの役割とは? その効果と実施のためのポイント
②展示会
エンタープライズ企業のCXOの役職者や、各部署の責任者にアプローチしやすいのが展示会です。BtoBの展示会はテーマ別で行われるため、該当のテーマに関連する役職者や責任者が集まりやすくあります。大規模な業界イベントでは、複数の企業の意思決定者が一堂に会することも多く、効率的なネットワーキングの機会となります。
また、接点を持つだけではなく、その場でサービスのデモや説明を行えるため、短期間で契約までたどり着くことも期待できます。展示会では、製品やサービスの実際の使用感を体験できるハンズオンデモンストレーションを提供することで、潜在顧客の興味を引き出し、商談の可能性を高めることができます。
さらに、展示会では競合他社の動向や最新の業界トレンドを把握することも可能です。これらの情報は、自社の製品開発やマーケティング戦略の改善に活用できる貴重な洞察となります。展示会後のフォローアップも重要で、名刺交換した相手には迅速に連絡を取り、継続的な関係構築を図ることが成約率の向上につながります。
関連記事:はじめての展示会出展のための企画立案
まとめ
- エンタープライズ企業は大企業や官公庁、地方自治体など、比較的規模の大きな組織を指します。ビジネス面で多くのメリットがありますが、マーケティングやセールスアプローチには独自の特徴があり、SMB向けとは異なる戦略が必要です。
- エンタープライズ企業の主な特徴として、ターゲット企業数が限られていること、意思決定プロセスに多くの関係者が介在すること、そして契約までのリードタイムが長期化する傾向があることが挙げられます。
- エンタープライズ向けマーケティングの中核となるのがABM(Account Based Marketing)です。ABMを効果的に実施するには、ターゲット企業の綿密な選定とBDR(Business Development Representative)チームの構築が重要です。
- エンタープライズ企業へのアプローチに特に有効なチャネルとしては、CXOレターとテレアポの組み合わせ、そして業界展示会への出展が挙げられます。これらの手法を通じて、意思決定者との直接的な接点を効率的に作ることができます。
- 成功するエンタープライズマーケティングには、長期的な視点と戦略的なアプローチが不可欠です。ターゲット企業の特性を十分に理解し、各企業のニーズに合わせたカスタマイズされた提案を行うことが、契約獲得への近道となります。

