マーケティング活動を行う上で、市場動向や競合他社の情報、最新の流行などのタイムリーな動きを把握することは重要なことです。しかし、手作業ですべてを行うとなれば、膨大な時間が必要となり、他のマーケティング活動の実施が困難な状況となります。そこでおすすめなのが、スクレイピングです。スクレイピングを活用すればさまざまなWebサイトから情報を抽出・収集し、マーケティング分析に活かすことができます。
今回は、スクレイピングとは何なのか、クローリングとの違い、使用するメリットや利用シーン、おすすめのスクレイピングツールについて解説します。
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目次
スクレイピングとは
まずは、スクレイピングとはどのようなものなのか、その概要について解説していきます。
スクレイピングはWebスクレイピングのこと
スクレイピングとは、削る・こする・かき集めるといった意味を持つ「scraping」に由来する用語です。IT分野では、Web上から必要な情報やデータを取得することから、Webスクレイピングと呼ばれます。
従来、Webサイト上のデータを集める作業は人力にて行われていました。しかし、スクレイピングを活用すれば、設定一つで必要なデータを機械的に効率よく集めることが可能です。さらにスクレイピングでは、収集データを人が扱いやすくするために抽出して加工してくれます。そのため、さまざまな分野にてスクレイピングは活用されるようになったのです。
スクレイピングは違法ではないのか
「他のWebサイトから勝手に情報を収集するのは違法なのでは?」と考える人もいるかもしれません。しかし、スクレイピングを実施することそのものには違法性はありません。
そもそも、インターネット上の情報はパスワード設定などされていない限りは誰もが自由に閲覧できるものです。スクレイピングはそれらをただ集めるだけの行為です。いわば、ネットサーフィンをツールに任せているようなものであり、実施することに法的な問題はありません。
しかし、収集した情報の取り扱いについては慎重になる必要があります。たとえば著作権で守られているようなデータを私的利用の範疇を超えて複製すれば著作権侵害に抵触する可能性もありますから、慎重な判断が必要です。
また、スクレイピングを過度に行うとサーバーに負荷をかけてしまい、対象サイトに迷惑をかけてしまうこともあるでしょう。こうしたリスクを避けるため、サイトによってはスクレイピングを禁止しているケースもあります。
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クローリングとの違い
スクレイピングと混同されやすいものに、クローラーがあります。ここでは、両者の違いについて解説していきます。
クローリングとは
クローリングとは、「crawl(這い回る)」という英単語が名前の由来であるクローラーというプログラムを使い、定期的にWebサイトを周回しながら新たに追加または更新されたコンテンツをチェックして収集するためのものです。
クローリングは、GoogleやBing、中国のBaiduなどの検索エンジンなどで最新情報をインデックスするために用いられます。
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目的や実行内容が違う
スクレイピングとクローリングの大きな違い、それは目的や実行内容です。
クローリングはWebサイトを巡回しながら各ページにある情報を機械的に収集して保存し、Webサイトのすべての情報を取得することが目的です。実行内容としては、Webサイトの巡回とすべての情報収集です。
一方、スクレイピングはWeb上にあるユーザーにとって必要な情報を絞り込み抽出することが目的に稼働させます。実行内容としては、Webサイト上にあるデータ構造の中から余分な情報は削り、必要な情報のみに絞って抽出することです。
たとえば、クローラーはWebサイトの階層を含めてすべて保存します。一方スクレイピングは、ユーザーが取得したいと考えている「電話番号」「住所」などの情報に絞り込み、収集できるわけです。
スクレイピングのメリット
スクレイピングはクローラーと目的や実行内容が違うことから、さまざまなメリットがあります。ここではスクレイピングの主なメリットを3つご紹介します。
最新情報を速く集められる
スクレイピングは最新情報をスピーディーに集められるというメリットがあります。
人力でWebサイトから情報収集をすると、どうしても時間がかかってしまいますし正確性にかける面もあります。また、データ取得後に新たなデータが更新されても、次の作業まで気づくことができません。
しかしスクレイピングであれば、最新のデータを、たとえ膨大な量であっても素早く収集できます。競合他社の傾向や、市場の動きなどもリアルタイムで追いかけることも可能なのです。
APIに依存しないデータ収集
Webサービスやソフトウェア、プログラムをつなぐインターフェースであるAPI(Application Programming Interface)に依存しないデータ収集を行えることも、スクレイピングのメリットといえるでしょう。
Webサイトによっては開発者向けにAPIを提供し、データの共有を促しているケースもあります。情報収集のためにAPIを使用することもあるほどです。
しかし、APIはすべてのサイトで提供されているわけではありません。提供者がいなければAPIによるデータの入手はできませんのでスクレイピングで行うしかなくなります。また、APIが提供されているサイトであっても欲しいデータを収集できない場合や、APIが突然有料になって収集コストがかかってしまうといったこともあり得ます。
このようなケースもあることから、さまざまなサイトからデータを収集するのであればAPIに依存しないスクレイピングの方が、メリットがあるといえるでしょう。
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幅広い業務の効率化につながる
幅広く業務効率化を実現できることも、スクレイピングならではのメリットです。
従来、インターネット上での情報収集は人力で行われていました。人間が行うため、情報収集量には限りがありますし時間もかかります。さらに、人為的なミスが発生することも課題でした。
しかし、スクレイピングを利用すれば、自動的かつスピーディーにさまざまなサイトから欲しい情報を抽出して収集可能です。機械的に行いますので、ミスが発生することもありません。また、情報収集担当者は人力作業から開放され、他のコア業務に集中できるようになります。
こうした理由で、スクレイピングの活用は幅広い意味で業務効率化の助けとなるわけです。
スクレイピングの利用シーン
スクレイピングを活用することで、具体体にはどのようなことができるのか気になっている方も多いことでしょう。ここでは、スクレイピングの利用シーンをいくつかご紹介します。
マーケティング全般
スクレイピングはマーケティング全般に活用できるツールです。
たとえば、競合他社から情報を取得し、自社の商品やサービスとの違いや競争に勝ち抜くために何が必要かといった分析に活用できます。さらに、価格情報を収集してマーケティング戦略立案の材料にすることや、市場調査をして最新トレンドの把握や分析、製品リサーチなども実施することが可能です。
また、自社商品・サービスの口コミをスクレイピングしてテキストマイニングツールで必要な情報のみを抽出すれば、ポジティブな反応の数やユーザーの認知度、評価されているポイントなど深い部分まで掘り下げてデータ分析できます。
人力では膨大な時間がかかってしまうようなマーケティングのための情報収集も、スクレイピングなら短時間かつ正確に行えます。そのため、マーケティングの効率アップや最適化をスピーディーに図れることでしょう。
WebサイトでのSEO対策
スクレイピングを行えば、自社WebサイトのSEO対策も行えます。
たとえば、自社サイトの検索順位は何位なのか、競合他社はどの位置にいるのかなどを自動で取得できます。自社サイトとライバルサイトの位置を把握することは、SEO対策を行う上で基本となるものです。
さらにスクレイピングによりRSSからタイトルなどの情報を抽出して収集すれば、自社の業務と関連していてなおかつ順位の高いサイトが使用しているキーワードや情報の傾向なども知ることができます。収集したデータを分析し、自社サイトに落とし込めば、サイト順位をあげて検索順位上での露出を高めやすくなるでしょう。
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スクレイピングはどうやるのか
非常に利便性の高いスクレイピングですが、どのように実践すれば良いのでしょうか。スクレイピングのやり方は大きく分けて「プログラミング言語での実行」と「ツールの利用」があります。それぞれ解説していきます。
Pythonなどプログラミング言語で実行
プログラミングができるならば、スクレイピングをプログラミング言語で実行するのもおすすめです。スクレイピングで使用されるプログラミング言語は、Python、Ruby、JavaScript、PHP、VBAなどが多いとされています。その中でも、スクレイピング用のライブラリが豊富で、シンプルかつよみやすい文法により学習しやすいとされるPythonはスクレイピングに最適な言語の一つです。
スクレイピングライブラリとして一般的に用いられているものには、Beautiful Soup、Selenium、Requests、などがあります。これらのライブラリを活用すれば、効率的に必要なデータを短時間で抽出することができるでしょう。自分好みにカスタマイズできる点もプログラミングによる実行のメリットです。
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スクレイピングツールの利用
もちろん、スクレイピングはプログラミング言語が使いこなせなくても利用可能です。
スクレイピングツールは無料・有料さまざまなものがあり、その数も増えてきています。スクレイピングでやりたいこととかけられるコストを比較しながら、バランスの良いもの選ぶのがおすすめです。自社の業務に適していなければ、いくら高性能でもコスパが良いわけではありません。まず、ニーズを洗い出し、最適なスクレイピングツールを選びましょう。
スクレイピングツールの例
スクレイピングツールにはさまざまなものがありますが、そのほとんどは簡単な設定・操作で利用できます。クラウド型であればサーバー構築しなくてもアカウントの発行だけで利用できるのでお手軽です。また、ツールごとに特徴や搭載されている機能が異なります。しっかり吟味しましょう。ここでは、スクレイピングツールをいくつかご紹介していきます。
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Octoparse
「Octoparse」はクラウド型のスクレイピングツールです。ノーコードで使える手軽さが売りで、設定もマウス操作メインで誰でも簡単にスクレイピングを行えます。
「Octoparse」の大きな特徴は食べログや楽天、X(旧Twitter)などに対応しているテンプレートを利用できる点です。用意されたテンプレートを選択し、必要なパラメータさえ入力すれば、すぐにスクレイピングできます。クラウド型なので24時間スクレイピングできる点も魅力です。
日本語サービスも提供しているため、初めてのスクレイピングツールとしておすすめできるツールです。
ParseHub
「ParseHub」は、無料でも使えるユーザーインターフェースに優れた使いやすさ重視のスクレイピングツールです。クリック操作にて必要なデータを簡単に抽出できる手軽さが魅力で人気があります。
収集したデータはエクセルなどに出力できます。
Import.io
「Import.io」は、クラウド型のスクレイピングツールです。情報を収集したいWebサイトのURLを入力すれば、必要なデータをしっかり収集できます。また、クリック操作にて、ページ内の情報やデータフィールドを選択して取得することもできます。
CrawlMonster
「CrawlMonster」は、シンプルなインターフェースで、Webサイトのコンテンツはもちろん、ソースコードなどさまざまなデータ分析を行えるスクレイピングツールです。基本的なスクレイピング以外にも、問題のあるページの発見など、さまざまなサービスを利用できるのが特徴です。無料で使えますので、試しにスクレイピングツールを利用してみたいという方にもおすすめです。
ScrapeStorm
「ScrapeStorm」は元グーグルのテクノロジーチームが手掛ける人工知能搭載のスクレイピングツールです。ワンクリックだけで、99%のWebスクレイピングを行えるため、手軽に利用できることでしょう。データ処理機能や重複排除機能もあるため、スクレイピングしながらデータをクリーニングできます。また、スケジュール機能も搭載され、定期的にデータを収集したいといったケースにも向いています。
スクレイピングの注意点
スクレイピングは、自動で必要な情報だけを抽出して取得できるため、非常に利便性の高いものです。しかし、導入する際には以下のようないくつかの注意点もあります。
著作権など法的なリスクを避ける
スクレイピングはWebサイトからさまざまな情報を収集できます。Web上に公開されているものであるため、私的利用の範疇であれば特に問題はありません。しかし、公開されている情報であるとはいえ、その大半は著作権が認められているものです。著作権を無視した利用や複製・販売などを行うことは絶対にしてはいけません。
ただし、著作権があるデータであっても、私的利用によるコピーやデータ分析のためのコピーは例外的に許可されていますのでご安心ください。
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利用規約でNGでないか確認する
Webサイトによっては、スクレイピングによるデータ収集を禁じているケースもあります。そのため、スクレイピングする前に、利用規約などでNGになっていないかを必ず確認しましょう。
これに反してスクレイピングを実行してしまうと、法的な問題につながる恐れがありますのでお気をつけください。
サーバーへの負荷を考慮する
スクレイピングを行う際には、対象サーバーへの負荷を考慮しましょう。
たとえば、高頻度でスクレイピングプログラムを実行すると、対象Webサイトのサーバーの動作が重くなってしまうことがあります。閲覧がスムーズにできなくなるだけでなく、Webサイトそのものがダウンしてしまうこともなくはありません。もし「サーバーダウンは意図的であった」と判断されてしまえば、自分にそのような意図がなかったとしても、「偽計業務妨害罪」や「電子機器使用詐欺罪」といった罪に問われるかもしれません。
こうしたトラブルを回避するためにも、リクエストの間隔をあける、同時に大量のスクレイピングをしない、時間帯をずらすといった工夫をしてみてください。
APIでの取得ができないか確認する
スクレイピングだけではなく、APIの利用も検討してみましょう。
スクレイピングはこれまで解説してきたように、誤った使い方をするとユーザーにリスクが降り掛かってしまう可能性があります。リスクを回避したいとお考えなら、APIを併用するのがおすすめです。
WebサイトによってはAPIを公開していることもあります。もし情報収集予定のサイトでAPIを取得できるのであれば、そちらを優先するのも1つの方法です。
まとめ
今回は、スクレイピングについて解説しました。
スクレイピングは、自動で機械的にWebサイトから情報を抽出・取得できるものです。クローラーと違ってユーザーが求める情報のみに絞って取得できることから、より効率よく情報収集が実施できるのが特徴です。
こうした特徴から、マーケティングへの活用や自社サイトのSEO対策まで幅広く活用できます。
プログラミングができなくても使えるスクレイピングは数多くありますので、ぜひ試してみてください。