デザイナーはクオリティの高いバナーをトレース(模写)して、デザインの引き出しを増やしています。マーケターにとっても、企業の優れているマーケティング戦略をトレースすることで、マーケターが求められる思考力を強化することができます。
マーケティングトレースは、実際の企業の成功事例を分析し、その戦略を自分なりに再現することで、マーケティングスキルを効果的に向上させる手法です。この方法を通じて、マーケターは理論だけでなく、実践的なマーケティング戦略の立案能力を磨くことができます。
今回はマーケスキルの強化に有効なマーケティングトレースについて紹介します。マーケティングトレースを実践することで、市場分析、顧客理解、競合分析などの重要なマーケティングスキルを総合的に向上させることができます。
参考サイト:マーケティングトレース/マーケターの筋トレ|黒澤 友貴|note
参考書籍:マーケティング思考力トレーニング
目次
マーケターに求められる能力とスキル
マーケターが求められる能力・スキルは非常に幅広く、下記のような多様な能力・スキルを複合的に身につけなければなりません。
・分析力、思考力、判断力、IT技術
・コミュニケーション能力
・発想力
・マネジメント能力
・俯瞰してみる力
・マーケティングトレースの実践力
マーケティング戦略や戦術を立案する上で、市場を細分化しニーズを抽出するセグメンテーションや、市場からターゲットを決定するターゲティング、セグメントの中で自社の立ち位置を決めるポジショニングを行う必要があります。これらに必要なスキルは分析力・思考力であり、強化するにはマーケティングトレースが有効です。
また、デジタル時代においては、データ分析やオンラインマーケティングの知識も不可欠となっています。顧客行動の変化やテクノロジーの進化に合わせて、常に新しい知識やスキルを習得し続けることが求められます。
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マーケティングトレースとは
マーケティングトレースとは、企業の優れたマーケティング戦略をイメージしながらトレース(模写)するトレーニングのことです。企業の製品・サービスをマーケティングのフレームワークに落とし込み分析を行い、マーケティング戦略を言語化・図式化します。
WEBデザイナーがデザインスキルの向上を目的にWEBサイトやバナーのトレース(模写)を行うように、マーケターが分析力・思考力を向上させるために製品・サービスのマーケティング戦略をトレースし、アウトプットします。
マーケティングトレースは、実際の企業のマーケティング活動を深く観察し、その背後にある戦略や思考プロセスを理解することで、マーケターとしての洞察力と創造性を養う効果的な手法です。この練習を通じて、マーケターは市場動向の把握、顧客ニーズの理解、競合分析など、マーケティングの核心的なスキルを磨くことができます。
マーケティングトレースでは、マーケターが鍛える思考を「一気通貫思考」と「三方良し思考」の2つに分類しています。これらの思考法を身につけることで、マーケターは総合的な視点から戦略を立案し、多様なステークホルダーの利益を考慮したマーケティング活動を展開することが可能になります。
①一気通貫思考
具体的には「戦略・戦術・実行を一気通貫で考え成果につなげる力」です。例えば、WEB担当者がこのような思考を持ち合わせたときには、1つ1つのマーケティング施策と上流の戦略・戦術を連動させ議論を生んだり、現場で取得したマーケティングデータを上流の戦略へフィードバックするなど、企業全体のマーケティング戦略・戦術が最適化されていきます。マーケティングトレースを通じてこの一気通貫思考を養うことで、より効果的なマーケティング活動を展開できるようになります。また、この思考は長期的な視点でのマーケティング戦略立案にも役立ち、企業の持続的な成長に貢献します。
②三方良し思考
売り手に良し、買い手に良し、世間に良しと近江商人の経営哲学として知られる「三方良し」の言葉通り、「市場・組織・顧客の三方良しの状態を実現する力」を指します。マーケティングトレースを通じて、この三方良し思考を養うことで、持続可能なビジネスモデルの構築や、社会的責任を果たしながら企業価値を高めるマーケティング戦略の立案が可能となります。この考え方は、現代のマーケティングにおいても重要な視点であり、顧客満足度の向上だけでなく、社会貢献や環境への配慮も含めた包括的なアプローチを可能にします。
マーケティングトレースのステップ
マーケティングトレースを実践するには、適切な手順を踏むことが重要です。まずは、トレース対象となる企業を選定することから始めます。企業選定の基準として、以下の3つのポイントを考慮するとよいでしょう。
・収益性の高い企業である
・ユニークなマーケティング戦略を展開している
・自身が興味・関心を持つ製品やサービスを提供している
企業を選定したら、6つのステップを踏んでマーケティングトレースに取り組みます。これらのステップを通じて、対象企業のマーケティング戦略を深く理解し、自身のマーケティングスキルを向上させることができます。マーケティングトレースは、理論と実践を結びつける効果的な学習方法といえるでしょう。
各ステップの詳細は以下の通りです。これらのステップを順を追って実行することで、体系的なマーケティングトレースが可能となります。
①概要をつかむ
マーケティングトレースの初めの段階として、対象企業の事業や製品・サービスの概要を書き出します。この過程で、企業の基本的な情報や市場での位置づけを把握することが重要です。具体的には、企業の沿革、主要な製品やサービスのラインナップ、顧客層、競合他社との差別化ポイントなどを整理します。また、企業の経営理念やビジョン、ミッションなども確認し、マーケティング戦略との整合性を見極めます。このステップを丁寧に行うことで、後続の分析をより効果的に進めることができ、マーケティングトレースの質を高めることにつながります。
②フレームワーク分析
事業内容や製品・サービス内容を基本的なマーケティングフレームに落とし込み、マクロ・ミクロの視点から分析しています。マーケティングトレースの重要な要素として、市場環境を分析するマーケティングフレームワークを活用することが挙げられます。効果的な分析を行うために、以下の4つのフレームワークを活用するとよいでしょう。これらのフレームワークを使いこなすことで、より深い洞察を得ることができ、マーケティング戦略の立案に役立ちます。
PEST分析
Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の4つの視点から外部環境を分析して、製品・サービスの最適化や、危機管理に用いるマーケティングトレースの手法です。この分析を通じて、企業は市場動向を包括的に把握し、より効果的なマーケティング戦略を立案することができます。例えば、新たな規制や技術革新が自社の製品・サービスにどのような影響を与えるかを予測し、事前に対策を講じることが可能となります。
PEST分析パワポテンプレート×6パターン【HRサービス企業の分析事例付き】
このテンプレートは、マーケティングに関する企画や提案資料の作成に携わる皆さまのために作成しました。 市場や競合環境を分析し、自社の事業戦略を立てる上で欠かせない「PEST分析」。 …
3C分析
Customer(市場・顧客)、Company(自社)、Competitor(他社)の3つの観点から企業の市場における立ち位置や、強み・弱みを客観的に把握します。この分析手法は、マーケティングトレースにおいて重要な役割を果たします。3C分析を通じて、企業は自社の製品やサービスが市場でどのように位置づけられているかを理解し、競合他社との差別化ポイントを明確にすることができます。さらに、顧客ニーズを深く理解することで、より効果的なマーケティング戦略の立案につながります。
SWOT分析
内的要因(企業の強み・弱み)、外的要因(機会や脅威)を同時に分析して戦略を立てるマーケティングトレースの重要なツールです。SWOTは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の頭文字を取ったものです。このフレームワークを使用することで、企業の現状を客観的に把握し、効果的なマーケティング戦略を策定することができます。SWOT分析は、他のフレームワークと組み合わせることで、より包括的な市場分析が可能となります。
4C分析
Customer Value(顧客価値)、Cost(顧客の負担コスト)、Convenience(顧客の利便性)、Communication(顧客との対話)の視点で、提供する製品・サービスに顧客がどのような価値を感じるのか、手に入れるまでにどれくらいの費用や時間がかかるのかなど、3C分析よりも顧客視点の深い分析を行います。マーケティングトレースにおいて4C分析を活用することで、顧客のニーズや行動をより詳細に理解し、効果的なマーケティング戦略の立案につなげることができます。
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③より詳細に分析する
市場環境をマクロ・ミクロの視点で分析した後は、企業の実際のマーケティング施策やコミュニケーション戦略の分析を行っていきます。この段階では、マーケティングトレースの対象企業がどのような具体的な施策を展開しているかを詳細に調査し、その効果や意図を考察することが重要です。例えば、広告キャンペーンの内容、ソーシャルメディアの活用方法、顧客との対話の仕方などを細かく分析します。
マーケティング戦略の分析に活用するマーケティングフレームは下記の2つです。これらのフレームワークを用いることで、企業のマーケティング戦略をより体系的に理解し、その強みや特徴を明確に把握することができます。
STP分析
Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の3つの要素を分析し、顧客の分類、ターゲット設定、販売方式の分析を行います。マーケティングトレースにおいて、STP分析は非常に重要なフレームワークです。セグメンテーションでは市場を細分化し、ターゲティングでは最も魅力的な市場セグメントを選択します。そしてポジショニングでは、選択したターゲット市場において、自社の製品やサービスをどのように差別化し、顧客の心に位置づけるかを決定します。これらの要素を効果的に分析することで、企業の戦略的なマーケティング計画の基盤を形成することができます。
4P分析
Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)の4つの視点で、どのような製品を、どのような価格で、どの流通経路で、どのように販促していくかということを、企業側視点から分析を行う。マーケティングトレースを行う際、4P分析を用いることで、対象企業の製品・サービスの特徴や価格戦略、流通チャネル、プロモーション活動などを体系的に理解することができる。これにより、企業のマーケティングミックスの全体像を把握し、効果的な戦略立案に役立てることができる。
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④他部署のマーケティング戦略との連動性
BtoBの製品・サービスにおいては、マーケティング部門だけでは事業全体の成長を達成することは困難です。セールス部門、カスタマーサクセス部門など、他部署との緊密な連携が不可欠です。効果的なマーケティングトレースを行うには、対象企業のマーケティング戦略が他の部署とどのように連動しているのか、どのように一貫性を維持しているのかを詳細に分析する必要があります。例えば、マーケティング部門が生成したリードをセールス部門がどのように活用しているか、あるいはカスタマーサクセス部門からのフィードバックがどのようにマーケティング戦略に反映されているかなどを検討することが重要です。こうした部門間の連携を分析することで、より包括的で実効性の高いマーケティング戦略の理解につながります。
VRIO分析
Value(経済価値)、Rareness(希少性)、Imitability(模倣困難性)、Organization(組織)の4つの視点で、経営資源の競争優位性を分析するマーケティングトレースの手法です。VRIOフレームワークを用いることで、企業の持つ経営資源や能力が持続的な競争優位につながるかどうかを体系的に評価できます。この分析を通じて、他部署との連動性や組織全体の強みを明確化し、より効果的なマーケティング戦略の立案に役立てることができます。
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⑤分析結果からの学びを言語化し、成功要因を整理
①~④で分析した結果から得られた学びを言語化します。その学びから企業のマーケティング戦略における成功要因を整理していきます。この過程で、マーケティングトレースの効果を最大限に引き出すために、自社の事業や製品・サービスと比較しながら考察することが重要です。例えば、分析対象企業の成功要因が自社にも適用可能かどうか、または自社特有の強みを活かしてさらに発展させられる部分はないかなど、具体的に検討します。こうした深い考察を通じて、マーケティングスキルの向上と実践的な戦略立案能力の強化につながります。
⑥仮説力を磨く
学びを言語化し成功要因を整理した後に、自分をその企業のマーケティング担当として今後のマーケティング戦略を組み立てていき、仮説力を磨きます。マーケティングトレースを通じて得た知見を活用し、市場動向や顧客ニーズを予測しながら、効果的なマーケティング施策を立案する能力を向上させることができます。例えば、新製品のポジショニングや、キャンペーンの企画、販促チャネルの選定など、具体的なシナリオを想定しながら仮説を立てることで、実践的なマーケティングスキルを磨くことができるでしょう。
マーケティングトレースでフレームワーク活用向上
マーケティングトレースでは多くのフレームワークを使います。マーケティングのフレームワークは調べた情報をそのまま当て込むだけでは、机上の空論となる戦略しか出てこず、自己満足に終わってしまいます。
状況に応じて適切なフレームワークを選択し、そのフレームワークを使って適切な戦略を導き出し、そして、そのフレームワークを組織内で共有し、戦略を実行に結び付けていくことが重要です。
マーケティングトレースはマーケティング戦略の引き出しを増やすだけではなく、適切なマーケティング戦略を作り出すために必要なフレームワークの活用向上にも繋がります。
さらに、マーケティングトレースを通じて、様々な業界や企業のマーケティング戦略を分析することで、フレームワークの応用力も養うことができます。例えば、SWOT分析や4P分析などの基本的なフレームワークを異なる業界や製品に適用する際、どのような点に注意すべきか、どのような要素を重視すべきかといった、実践的な知識を身につけることができます。
このように、マーケティングトレースは単なる模倣ではなく、フレームワークの深い理解と柔軟な活用能力を育成する効果的な手法であり、マーケターのスキル向上に大きく貢献します。
まとめ
マーケティング戦略や戦術を立案するのに必要なスキルは分析力・思考力であり、強化するにはマーケティングトレースが有効
マーケティングトレースとは企業の製品・サービスをマーケティングのフレームワークに落とし込み分析を行い、マーケティング戦略を言語化・図式化する
トレースの対象企業は、儲かっている企業である、マーケティング戦略がユニーク、自分が興味関心のある製品・サービスの観点で選択する
マーケティングトレースはマーケティング戦略の引き出しを増やすだけではなく、適切なマーケティング戦略を作り出すために必要なフレームワークの活用向上にも繋がる
マーケティングトレースを通じて、PEST分析、3C分析、SWOT分析、4C分析、STP分析、4P分析などの様々なフレームワークを実践的に活用する機会が得られる
継続的にマーケティングトレースを行うことで、市場動向の把握力や競合分析力が向上し、より効果的なマーケティング戦略の立案が可能になる