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【インタビュー】東芝データが描くデータ活用の未来:レシートによる推し活から地域活性まで、その可能性を探る

2024.10.11
読了まで約 8

東芝グループのデータ戦略をリードする会社として設立された「東芝データ」。その名の通り、購買データを基軸としたさまざまなサービスを展開している。そして今、マーケターから熱い視線を集めているのが、グループ企業の東芝テックが開発・運営し、東芝データが運営を支援している電子レシートサービス「スマートレシート®」だ。

スマートレシート®は、買い物のレシート情報がユーザーのスマホに届くサービスで、家計簿アプリのように毎月の支出を自動集計し、いつでも支出情報をスマホでチェックできる仕組み。これにより紙のレシートが不要になるため、買い物客はもとより、店舗の業務効率化にも貢献し、そして何より環境にも優しい。集約したデータは、法人向けとして購買データの分析やレポートなども活用され、企業のマーケティングやプロモーション活動などにも役立てられている。さらに、各種のキャンペーンや、自治体のDX推進、ヘルスケア、そして「推し活」にも活用されているそうだ。

今回は東芝データのデータ・ビジネス推進部 部長の宮崎知弘氏に、スマートレシート®によるユニークな取り組み内容を詳しく伺った。

データのプロフェッショナル集団が目指すもの:東芝データの挑戦とは?

――まずは東芝データとはどのような会社なのか、そして東芝グループとの関係性についても教えてください。

宮崎 東芝データは、東芝グループのデータ戦略を担う会社として2020年2月に誕生しました。

設立当時の当社CEO、そして現東芝社長の島田は、「これから世の中はハードウェアからソフトウェア、そしてソフトウェアからデータへと大きくシフトしていく」と考えました。デジタル化が加速する現代において、「データプラットフォーム」がビジネスの成功を左右する重要な要素になると予想したのです。そして、データの収集、分析、活用を専門とするデータのプロフェッショナル集団として、東芝データを設立しました。

私たちが考えるデータビジネスとは、東芝が社会インフラとして提供するさまざまなプラットフォームから得られるデータを活用し、社会全体のサービスをより良くしていくことです。たとえば、鉄道車両、自動改札機、ETC、POSシステムなど、これらのインフラから日々生成される膨大なデータを収集し、分析することで、新たな価値を生み出します。そして、その価値を社会に還元することで、より効率的で質の高いサービスを提供することを目指しています。

その第一歩として、POSシステムメーカーである東芝テックが提供するPOSシステムから得られるデータに注目しました。このデータを活用し、どのように社会に貢献できるか、日々研究と開発を進めています。

――東芝テックといえば、国内はもとより、世界でもトップシェアを誇るPOSシステムの代名詞的メーカーですね。そのPOSシステムが生み出す購買データを扱えるのは大きなアドバンテージかもしれません。

宮崎 そうですね。ただ、当社としては先にも述べた通り、購買データに限らず、東芝グループが提供する幅広い社会インフラから生まれるさまざまなデータを扱い、それらを集約して価値ある形に変えて、社会に還元していくことをミッションとしています。

購買以外のデータ活用について、設立当初から考えているのは、ETCなどのゲートや乗降・通過データなど、「移動」に関するデータを他のデータと組み合わせて、新しい価値を生み出せるのではないかという発想です。

また、東芝グループでは人事関連のソリューションも提供しており、人事領域のデータ取得や分析も試みています。たとえば、履歴書や職務経歴書、ポートフォリオなどのデータと組み合わせ、求職者のスキルや経験をより深く理解し、より精度の高いマッチングが実現できます。

これらは一例ですが、さまざまな切り口からデータの利活用を進め、社会全体に新しい価値を提供することを目指しています。

写真:宮崎 知弘氏

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「データの囲い込み問題」を解決し、誰もがデータの利便性を享受できる社会へ

――東芝データの事業推進におけるビジョンを聞かせてください。

宮崎 東芝データは、データが自由に流通し、誰もがその恩恵を受けられる社会の実現を目指しています。

現在、多くの企業が、顧客の購買データなどを自社で囲い込み、自社のサービスにしか利用していません。これでは、データの価値が最大限に活かされず、社会全体の進歩が遅れてしまいます。

東芝データは、この「データの囲い込み」の問題を解決し、データが自由に流通できる社会を目指しています。個人情報保護は徹底しつつ、新たなサービスを生み出すために役立つデータは、社会の皆が共有できるような仕組みを作るのです。

たとえば、私があるECサイトで机を買おうとして「机」と検索すると「机」に関連する情報を次から次へとレコメンドしてきます。その後、机を他のECサイトやリアルなホームセンターなどで購入し、もう机に関する情報が必要なくなったとします。しかし、囲い込みによってデータが閉じられているので、いつまでたってもそのECサイト内では机をレコメンドし続けるという状況が続きます。これが「データを閉じ込めてしまう」ことによって起きる弊害であり、データのつながりがないことによる不利益の一例です。

情報があふれる現代では、データがバラバラに管理されていると、必要な情報は人々に届きにくく、社会課題の解決も遅れてしまいます。私たちは、個人情報を保護しながら、社会全体の役に立つデータは自由に使えるようなプラットフォームを構築することで、社会課題を解決したいと考えています。

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環境負荷の低減と消費行動の利便性向上を両立する「スマートレシート®」

――それでは貴社の具体的なサービス内容について教えてください。

宮崎 先ほどPOSデータに注目しているというお話をしましたが、私たちが提供する消費者の購買データの収集手段には2つあります。

1つ目は「スマートレシート®」という電子レシートアプリです。POSシステムに専用のソフトウェアを組み込み、ユーザーがスマートフォンアプリでレシート情報を取得する仕組みです。これにより個人のユーザーは紙のレシートを持ち歩いたり、あとで家計簿をつけたりする必要がなくなりますし、お店側のレシート管理も軽微になります。

2つ目は「レシートスキャン」というレシート読み取りアプリです。ユーザーがレシートをカメラで撮影し、その情報をもとに家計簿が作成できるサービスで、スマートレシート®に対応していない店舗での買い物でも、レシート情報を簡単にデータ化できる仕組みです。さらにスマートレシート®と連携することで、自分の購買データを効率的に管理できるようになります。

これらのサービスを提供することで、ユーザーは購買データを一元管理でき、さまざまなサービスとも連携できるようになります。たとえば健康管理アプリと連携して食生活の改善に役立てたり、レシピアプリと連携して新しい料理に挑戦したり、家事の時短やタイパ向上などもでき、快適で健康的なライフスタイルにもつなげられるでしょう。

――紙のレシートをデジタル化するということは、環境負荷の低減という意味でもかなりの効果がありそうですね。

宮崎 そうですね。日本のレシート事情は皆さんが想像する以上に深刻で、年間で消費されるレシート用紙は、A4コピー用紙約135億枚分に相当し、約5.4万トンもの重量になります。

また、レシートロールは全国で年間2.4億ロール販売されており、その長さを合わせると地球を378周できるほどの長さになります。これだけの量のレシートが毎年廃棄されている計算です。さらに、1ロールあたりの価格を平均400円とすると、年間の販売金額は960億円にもなり、莫大なコストがかかっています。

また、レシートは感熱紙でできているため、リサイクルが難しく、印刷後は焼却処分されるしかありません。これは環境への負荷が大きいだけでなく、企業にとっても印刷コストや処分費用、それにかかる人件費など、莫大な支出になります。

こうした状況を踏まえて、2014年から東芝テックにおいてスマートレシート®の導入を推進し、紙のレシート削減に取り組んできました。その結果、2023年度には約8,960km分の紙(スマートレシート®で発行された電子レシートの枚数約5,600万枚×紙レシート1枚の平均の長さ16cmで換算)を削減することに成功しました。

こういった取り組みを続けてパートナーを増やしていけば、さらに大きな環境負荷低減を実現できると考えています。

「スマートレシート®」により2023年度は約5,600万枚の紙レシートを削減 | 東芝データ株式会社

画像:全国の年間レシート消費量にまつわる3つの数字

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販促機能で売上アップ ー スマートレシート®が実現する消費活性効果

――スマートレシート®には、そのほかにどのような機能があるのでしょうか?

宮崎 スマートレシート®を使うと、レシートのデータ保存だけでなく、家電製品などに付属する保証書も一緒に管理できるのがポイントです。「保証書をなくして無償修理が受けられなかった」ということが防げます。また、家計簿としての機能もありますので、食費や日用品の支出状況を把握し、家計管理に役立てることができます。

そして、実は隠れた目玉なのですが、キャンペーンやクーポン、スタンプカードなどの「販促機能」も搭載しています。

たとえば、従来のレシートに印刷されたクーポンは、次の会計時までに財布やカバンに保管しておき、当日レジで手渡しする行程が必要でしたが、スマートレシート®であればアプリを立ち上げてクーポン画面を表示すればすぐにクーポンが使えるため便利です。

また、キャンペーンへの応募は、レシートを撮影して応募サイトに登録する、という手間がかかりましたが、スマートレシート®のキャンペーンでは、ユーザーがキャンペーンの対象となる条件を満たしている場合に自動で通知してくれるので、ユーザーはワンタップで簡単にキャンペーンへ応募することができます。

そして、スタンプカード機能では、スマートレシート®加盟店で店舗をまたいだスタンプラリーを実施したこともあり、地域振興に関するイベントやキャンペーンなどでもご活用いただいています。

これまで、沖縄県で9社64店舗が参加したクーポンによる集客・送客の実証実験や、北海道の十勝・旭川地方で行ったスタンプラリーによる回遊を誘発する実証実験の結果、クーポン利用率や買い回り率に向上が見られるなど、確かな消費活性効果が確認できました。

今後は各地で加盟店を増やすことで、より大規模かつ多くの地域でのキャンペーン展開が可能になると考えています。

――電子レシートの活用で消費活動が活性化するのは興味深いですね。

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レシート×推し活で、捨てられていたレシートが「もらってうれしい“推し”レシート」に

宮崎 さらにユニークな試みとして、スマートレシート®を用いた「推し活」キャンペーンなども実施しています。

――好きなアイドルやスポーツ選手、声優などを応援する、あの「推し活」ですか?

宮崎 その推し活です。買い物時に手にするレシートは、すぐに捨てられてしまうことが多い反面、「顧客に確実にリーチできるメディア」となり得る可能性も秘めています。「もらって速攻で捨てる」のではなく、「もらってうれしい」「もらって貯めたくなる」という、新たな価値を持つレシートとして、「推し活」という文化とレシートを結びつけるという試みです。

そこで、ラグビー1部リーグに所属する「東芝ブレイブルーパス東京」に協力してもらい、試合会場内の特設ブースにて、「思い出レシート」を発行する推し活応援キャンペーンを実施しました。

画像:2/24(土)来場者限定で選手のコメント入りの「思い出レシート」を贈呈

宮崎 具体的には、ブレイブルーパスの試合会場で、ファンの方々に「推し選手」のコメントが印字された特別なレシートをプレゼントする企画を実施しました。リーチ マイケル選手やリッチー・モウンガ選手をはじめ、中には複数の選手のレシートを取得するために何度も列に並び直すファンも現れるなど、予想以上の盛り上がりを見せました。

この企画を通して、レシートは単なる購入記録だけでなく、「いつ、どこで、誰と」という思い出を刻む特別なアイテムとなり得ることを実証できたと感じています。スマートレシート®のプラットフォームを活用して、今後もさまざまな「推し活」につながる新たな価値を生み出していきたいですね。

写真:スマートレシート®

地域社会の活性化、健康増進、スマートシティ推進の事例も多数

――「思い出レシート」以外の取り組みで興味深い事例はありますでしょうか?

宮崎 ほかの事例ですと、福島県会津若松市の生活アプリ「会津財布」との連携や、大分県の「沸く沸くDXおおいた」で実施した健康管理アプリとの連携については、ほかのメディアでも取り上げていただきました。

「会津財布」は会津地域で使える生活アプリで、デジタル地域通貨である「会津コイン」と連動しています。このアプリを使って買い物をすると、買い物データがスマートレシート®として電子化され、会津若松市の「都市OS」という自治体のITプラットフォームと連携されます。

この連携によって、市民や店舗経営者には地域内の消費動向に関する情報が提供され、地域活性化や健康増進の取り組みにもデータが活用されます。この取り組みでは、スマートシティの実現に向けた多様な施策の基盤となることが期待されています。

大分県では、県のDX推進事業の一環として、健康増進に役立つ商品や運動コンテンツなどをAIから推奨する提案型健康増進プログラムの実証実験を行いました。このプログラムは、スマートレシート®を通して人々の購買傾向を分析し、個々人に対して最適な健康アドバイスを提供する試みです。これにより、大分県民の健康増進や健康寿命の延伸に向けた取り組みに貢献しました。

これらの事例以外にも、私たちはさまざまな機関と連携して、スマートレシート®の活用範囲を広げています。たとえば、環境省や経済産業省といった国の機関にも積極的に提案を行い、環境問題や経済活性化といった分野での貢献を目指しています。

この秋には、「レシカルキャンペーン 2024 秋」と題した、エコやエシカル消費、地域活性化をテーマにしたキャンペーンを全国63社と合同で開催します。

電子レシートサービス「スマートレシート®」、63社と 「レシカルキャンペーン 2024 秋」を開催 | 東芝データ株式会社

宮崎 スマートレシート®は、単なるレシート管理ツールにとどまらず、地域活性化や、地域の方々の健康増進、さらにはスマートシティの実現など、幅広い分野で活用される可能性を秘めています。私たちは、今後もさまざまなパートナーと連携し、スマートレシート®の可能性を最大限に引き出していきたいと考えています。

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マーケティングに新たな可能性をもたらすスマートレシート®

――先ほどの推し活の話に戻ってしまうのですが、「レシートは顧客へ確実にリーチできるメディアである」という言葉が印象的でした。レシートはお店と顧客の最後のコミュニケーションの場であると考えると、マーケティングとの親和性はとても高そうですね。

宮崎 そうですね。データだけではなかなか分かりにくいことも、分析を進めることで、今まで見えてこなかったものが見えるようになります。

たとえば、大盛りの商品を買った人は、その他の商品で必ずしも大盛りを選ぶわけではなく、埋合わせとして低脂肪や低糖質の商品を買ったりもします。こういった個人の購買動機は、これまで経験と勘に基づいて判断されてきましたが、レシートデータの蓄積と分析によって、消費者の具体的な指向性や行動が可視化できるようになりました。

その結果、より効果的なマーケティングが可能になり、スマートレシート®のような電子レシートプラットフォームを活用すれば、もっと精度の高いパーソナライズされたマーケティングも実現できるでしょう。

データが閉じられていると、いつまでたっても全体的な傾向は見えてきません。しかし、私たちのスマートレシート®やそれを支えるデータ利活用プラットフォームを活用すれば、人々の購買傾向や行動パターン、さらには健康状態まで、さまざまなことが見えてきます。そこから新たなビジネスや市場を生み出すヒントが見つかるかもしれません。

それだけに、私たちはあらゆる分野のマーケターの方々にスマートレシート®をマーケティングツールとしてご活用いただきたいと考えています。そうすることで社会全体や人々の生活をより豊かにできるのではないかと期待しています。

写真:宮崎 知弘氏

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プロフィール

宮崎 知弘

宮崎 知弘(みやざき ともひろ)

東芝データ株式会社 データ・ビジネス推進部 部長

2003年に東芝ITソリューション株式会社(現:東芝デジタルソリューションズ株式会社)に入社し、流通小売業向けソリューションの販売を長年従事。2019年より東芝のサイバーフィジカルシステム戦略部で、東芝データの設立準備から携わり、事業開発、マーケティング、アライアンス推進を担当。「スマートレシート®」事業には2019年から本格的に参加。利用者拡大に向けたマーケティングを行いつつ、そこから得られる購買データの利活用をパートナーとともに推進。

執筆者

市川 昭彦(いちかわ あきひこ)

1990年代から2000年代初頭にシステムエンジニアとして経験を積み、2001年よりIT・テクニカル系ライターとして活動開始。主にIT系媒体での製品紹介や業界動向記事の執筆・編集を担当。
近年は、MarkeTRUNKにおけるマーケティング領域のキーパーソンインタビューのほか、企業HPや採用ページなどのWEBサイト制作、新卒およびキャリア採用媒体での採用記事執筆、スタートアップ企業のトップやテックリード人材のインタビュー、企業における知財活用事例執筆などを実施。大手企業を中心としたCSRやIR報告書などのステークホルダー向け情報開示資料の制作、会社案内パンフレット、営業ツール制作なども手掛ける。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

編集者

『MarkeTRUNK』編集部(マーケトランクへんしゅうぶ)

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