インターネットの普及により、商品・サービスを選ぶための情報収集は店舗などのリアルから検索エンジンやSNSなどオンラインへシフトしました。2011年にGoogleが新たな顧客の意思決定モデルとして、ZMOTを提唱しました。
ZMOTは「Zero Moment of Truth」の略称で、「顧客は店舗に足を運ぶ前に、ネット上の情報で既に購入する商品を決定している」というマーケティング理論です。この概念は、デジタル時代における消費者行動の変化を捉えたものであり、企業のマーケティング戦略に大きな影響を与えています。
ZMOTモデルでは、消費者が商品やサービスに関する情報をオンラインで積極的に探索し、購買決定を行うプロセスに焦点を当てています。これは従来の購買プロセスモデルとは異なり、インターネットやスマートフォンの普及によって可能になった新しい消費者行動を反映しています。
今回は、このZMOTについて、具体的なマーケティング施策とあわせて詳しく紹介します。ZMOTの理解は、現代のデジタルマーケティングにおいて非常に重要であり、効果的な顧客獲得戦略の立案に役立ちます。
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目次
ZMOTとは?
ZMOTは、Zero Moment of Truthの略でズィーモットと呼びます。このZMOTという概念は、2011年にGoogleが提唱した新たな顧客の意思決定モデルです。
そもそもMoment of Truth(以下、MOT)は直訳すると「真実の瞬間」です。顧客が商品を通じて企業と接するわずかな時間を指します。MOTはヨーロッパのスカンジナビア航空の当時のCEOヤン・カールソン氏が会社の再建を目的に顧客サービスを見直した際に提唱しました。
旅客が飛行機に乗る際の乗務員と接する約15秒で、競合他社と異なるブランド体験を提供できれば、明確な差別化が可能とカールソン氏は考えました。顧客と接するその一瞬を企業やブランドにとって最も重要な瞬間と定義されたのが始まりです。
Googleが提唱したZMOTは、顧客が商品を購入する際には事前にインターネットで調べており、店舗に足を運ぶ前に購入するものをすでに決定しているという概念です。テレビCMや雑誌広告等なんらかの刺激(Stimulus)を受け、顧客はインターネットで検索をします。
このインターネットで検索を行う、店舗で商品に触れる前の「ゼロ」地点を最も重要としています。そのため、企業は顧客が店舗を訪問する前の段階で、商品に関する情報をいかに顧客へ届けられるかということが求められるようになりました。
ZMOTの概念は、デジタルマーケティングの重要性を強調し、オンライン上での顧客とのコミュニケーションや情報提供の戦略立案に大きな影響を与えています。企業は、ZMOTを意識したマーケティング戦略を展開することで、顧客の購買意思決定プロセスにおいて競争優位性を獲得することができます。
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FMOTとSMOT
インターネットが普及する前には、FMOTとSMOTという概念が主流でした。FMOTやSMOTは2004年にP&Gが提唱した顧客の意思決定モデルで、店舗と家と2回の顧客接点があるのが特徴です。これらの概念は、ZMOTが登場する以前の購買行動を理解する上で重要な役割を果たしています。
FMOTは、First Moment of Truthの略でエフモットと呼びます。具体的には、顧客が店舗の棚の前に立った瞬間に商品の購入を決める瞬間を指します。P&Gの調査によるとその瞬間は3~7秒というわずかな時間です。この短い時間で顧客の心を掴むことが、従来のマーケティングにおいて非常に重要視されていました。
一方、SMOTは、Second Moment of Truthの略でエスモットと呼びます。これは、購入した商品を家で使用し、その商品を再び購入するかどうかを決める瞬間を指します。P&Gは店舗で商品の購入を決める瞬間と、家で商品を使用してリピートを決める瞬間の顧客接点が重要と定義しました。
ZMOTが提唱される前は、このFMOTとSMOTの2つの接点に焦点を当てたマーケティング戦略が主流でした。しかし、インターネットの普及により、顧客の購買行動が大きく変化し、ZMOTという新たな概念が生まれることとなりました。ZMOTの登場により、企業は従来のFMOTとSMOTに加えて、オンライン上での顧客接点にも注力する必要が出てきたのです。
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ZMOTに基づいたマーケティング
ZMOTに基づいたマーケティングは、顧客が店舗に足を運ぶ前のオンライン上での情報収集段階に焦点を当てます。この段階で効果的なマーケティング施策を展開することが、企業の競争力を高める鍵となります。ZMOTの概念に沿ったマーケティングでは、顧客がインターネット上で商品やサービスについて調査する際に、自社の情報を効果的に提供することが重要です。
特に注目すべきは、SEO(検索エンジン最適化)とSNSでの情報発信です。SEOを活用することで、顧客が関連キーワードで検索した際に自社のウェブサイトが上位に表示されるようになり、ZMOTの段階で顧客にリーチしやすくなります。また、SNSを通じた情報発信は、顧客との直接的なコミュニケーションを可能にし、ブランドの認知度向上や信頼性の構築に貢献します。
ZMOTマーケティングでは、顧客の行動パターンを理解し、オンライン上での情報探索行動に合わせたコンテンツ戦略を立てることが重要です。例えば、商品レビューや使用方法の動画、専門家のアドバイスなど、顧客が求める情報を適切なタイミングで提供することで、購買意思決定プロセスに影響を与えることができます。
さらに、ZMOTの段階でのマーケティング効果を最大化するためには、顧客のデジタルジャーニーを詳細に分析し、各接点でのエンゲージメントを高める工夫が必要です。これには、ウェブサイトの使いやすさの向上、モバイル対応の強化、パーソナライズされたコンテンツの提供などが含まれます。
ZMOTに基づいたマーケティングを成功させるためには、継続的なデータ分析と戦略の最適化が不可欠です。顧客の行動パターンや市場トレンドの変化に柔軟に対応し、常に最新のデジタルマーケティング手法を取り入れることで、ZMOT段階での競争優位性を維持することができます。
①ZMOT段階のマーケティングの重要性
店舗に来る前のZMOT段階で、顧客に対しいかに商品の情報を提供できるかが重要です。Googleが行った調査によると、以下の3つの興味深いデータが明らかになりました。これらのデータは、ZMOTの概念がいかに現代の消費者行動に即しているかを示しています。
- 80%以上が事前にインターネットで調べる段階で購入を決めたと回答
- アメリカ人の70%が製品の購入前にインターネット上でレビューをチェック
- 消費者の79%が買い物をするときにスマートフォンを利用
これらの統計は、ZMOT段階でのマーケティングの重要性を明確に示しています。消費者の大多数が、実際に店舗に足を運ぶ前にオンラインで情報収集を行い、購入の意思決定を行っているのです。
ZMOT段階で特に有効なマーケティング施策は、SEO(検索エンジン最適化)とSNSでの情報発信です。これらの施策を通じて、企業は潜在顧客に対して自社製品やサービスに関する有益な情報を提供し、購買意欲を高めることができます。
ZMOTの概念を理解し、それに基づいたマーケティング戦略を立てることで、企業は競合他社に先んじて顧客の心を掴むことができます。オンライン上での存在感を高め、信頼性のある情報を提供することが、現代のデジタルマーケティングにおいて不可欠となっているのです。
②SEO(検索エンジン最適化)
来店前にインターネットによる情報収集は、検索エンジンがよく利用されています。検索エンジン上で見込み顧客にどれだけアプローチできるかによって、ZMOT段階で競合に優位になれるか変わってきます。SEO対策は、ZMOTにおいて非常に重要な要素となります。
会社名や商品名といった指名キーワードで検索して上位表示されるようSEOを行うことはもちろん、商品カテゴリやその関連する一般キーワードに対し、ノウハウ系のコンテンツで認知を獲得することも有効です。ZMOTの観点から、顧客が購入前に検索する可能性が高いキーワードを想定し、それらに対応したコンテンツを用意することが重要です。
さらに、ZMOTに基づいたSEO戦略では、顧客の疑問や悩みに答える情報を提供することが効果的です。例えば、商品の使用方法や利点、他製品との比較情報などを充実させることで、顧客の意思決定を後押しすることができます。このように、ZMOTを意識したSEO対策を行うことで、顧客の購買行動に大きな影響を与えることが可能となります。
③SNSでの情報発信
近年で急速に普及しているTwitter、Facebook、Instagram、LINEなどのSNS上での情報もZMOT段階においては非常に重要です。検索エンジンで得る情報よりも、SNS上でフォローしている友人や有名人から得る情報を顧客は信じやすい傾向にあります。ZMOTの観点から、SNSでの情報発信は顧客の購買意思決定に大きな影響を与えます。
また、SNS上で発信している情報を収集・分析することによって、顕在ニーズのみならず、ブランドイメージやトレンドなども把握でき、ZMOT段階でよりリーチするための有効な施策を打つことが可能になります。特に、インフルエンサーマーケティングやハッシュタグキャンペーンなどのSNS特有の手法を活用することで、ZMOTにおける情報提供の効果を最大化できます。
さらに、SNSの特性を活かした双方向のコミュニケーションを通じて、顧客との関係性を構築し、ブランドロイヤリティを高めることも可能です。これにより、ZMOTにおける顧客の情報探索行動をより効果的に支援し、購買意思決定プロセスに好影響を与えることができます。
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StimulusとZMOTが共存するSNS
ZMOTを意識したマーケティング活動は、いかにインターネット検索の際に顧客に向けて自社の商品に関する情報と届けるかが重要です。SNSの台頭によって、Stimulus(なんらかの刺激)とZMOTが共存するケースが出てきました。
例えば、SNS上でフォローしている有名人や友人などの投稿を見て刺激を受け、そのままSNSでその商品について検索を行うケースです。SNS内で顧客の意思決定が完結するようになり、SNS内でのマーケティング活動がより重要となっています。
そこで注目されているのがUGCです。UGCはUser Generated Contentの略であり、直訳するユーザーによって作られたコンテンツです。SNSに限らず、レビューサイトの投稿など、ユーザー主体で発信されたコンテンツすべてを指します。
SNS上に投稿された口コミや商品画像が、他の顧客にとって何らかの刺激となり、購入の意思決定に影響を与える可能性が高まります。商品に対して好意的なUGCが増えるほど、ZMOTを踏まえたマーケティング施策も上手く行きやすくなります。
そのため、自社発信のコンテンツだけではなく、顧客発信のコンテンツも重視することが求められています。ZMOTの観点から、企業はSNS上での顧客とのエンゲージメントを高め、ポジティブなUGCを促進する戦略を立てることが重要です。
さらに、ZMOTの概念を活用し、SNS上での情報発信やインフルエンサーマーケティングを通じて、顧客の購買意思決定プロセスに効果的に介入することが可能となります。これにより、ブランドの認知度向上や商品の魅力的な特徴の伝達を効率的に行うことができます。
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まとめ
- ZMOTは2011年にGoogleが提唱した概念で、顧客が店舗に足を運ぶ前にインターネットで情報を収集し、購入する商品をすでに決定しているという顧客の意思決定モデルです。
- インターネット普及前は、P&Gが2004年に提唱したFMOTとSMOTという概念が主流でした。これらは店舗と家の2回の顧客接点を重視するモデルです。
- ZMOT段階で効果的なマーケティング施策には、SEO(検索エンジン最適化)とSNSでの情報発信があります。これらはZMOT理論に基づいた重要な戦略です。
- 最近では、SNS上でStimulusとZMOTが共存するケースが増えています。口コミや商品画像が他の顧客の購入意思決定に影響を与えるため、UGC(User Generated Content)の重要性が高まっています。
- ZMOT理論を理解し、適切なマーケティング戦略を立てることで、競合他社に対して優位性を獲得できる可能性が高まります。
- インターネットやSNSの発展に伴い、顧客の購買行動は常に変化しています。そのため、ZMOTの概念を踏まえつつ、最新のトレンドや技術にも注目し、柔軟な対応が求められます。