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マーケティング成功へのカギ:AIは上級パートナーとして使い倒せ

2024.3.19
読了まで約 7

先行き不透明で明確な「答え」が見えない中、「会議」を通して「答え」を出す技術をストーリー仕立てでわかりやすく解いた著書『マーケティングコーチ 横田伊佐男の特濃会議学』(以下、『特濃会議学』)を上梓した横田伊佐男氏。短時間で成果へと導くマーケティング講座は、これまでの受講者がのべ6万人を超える人気を博している。

そんな横田氏が、自身の経験を通して紡ぎ出したマーケティング理論とは? コトバ、会議、そしてAI。現代のマーケティングにおいて決して欠かすことのできないこの3つの要素を軸に、横田流マーケティング理論を語ってもらった。

「マーケティング」と「会議」がつながっている理由

画像:著者 横田伊佐男 マーケティングコーチ 横田伊佐男の特濃会議学

ーー最新著書『特濃会議学』は横田さんにとって3冊目の“会議本”になりますが、「会議」は「マーケティング」とどのように関連しているのでしょうか。

横田 マーケット(市場)には一人ひとりのお客さんがいます。そのお客さんの気持ちを動かし、購買活動してもらうには、売りたい商品やサービスの価値を言語化することが大変重要です。そういう意味で、お客さんの心を動かす言葉を紡ぎ出す「コピーライティング」はマーケティングにおいて欠かせません。

一方でお客さんの心を動かすコトバ作り、つまりコピーライティングは、なかなか一人では創造できないものです。いろいろな関係者と話をしながらアイデアを創出していく必要があります。なぜなら「売り手」と「買い手」のあいだには距離があるので、「相手はいまどういうことを望んでいるのだろう?」「うちの商品はそこに充てるためにはどんなことをしなければいけないんだろう?」と、議論をしなければならないからです。

顧客の心の中の「答え」を出すのが「マーケティング」であれば、その手段としての「会議」は、必要不可欠なものになります。特に、女性向け商材のコピーを作る際、必ず女性を会議に入れるべきです。男性脳で考えたコトバには「硬さ」があるので、それでは女性客にはピンと来てもらえません。一人のお客さんを想い、複数の目線で会議する。これがマーケティング戦略プロセスのあるべき姿です。

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「拡大」より「効率」を選んでしまう日本のマーケティング事情 

ーー今日の日本のマーケティングの現状をどのように捉えていますか。

横田 いま日本を代表するような大企業には、ある一定の傾向が見られます。それは、「売上」より「利益」重視の傾向です。たとえば昨年の売上高が15兆円のあるエネルギー会社は、今年の売上高の見込みが14兆円と7%減でも、営業利益は約150%増しで設定しています。縮小する市場規模を超える売上を達成することはなかなかできないので、このエネルギー会社のように「拡大」より「効率」をめざす方向に動いている企業は増えていますね。

一方で、中国のように拡大路線を進めている国もあります。たとえば中国の新車出荷台数の半分近くはEV(電気自動車)になっていて、EVで稼いだ利益で今度はベルギーやイギリスなどのヨーロッパやタイ、フィリピンなどの南アジアといった海外市場を狙ってさらに拡大していくイメージです。

また先月、韓国に行ったときに感じたのですが、街を走るクルマがものすごくカッコよくなっていたんです。韓国では、ヨーロッパで活躍する一流デザイナーを社長が自ら一本釣りしてきて、韓国人の発想にないようなデザインのクルマをどんどん作っていたりします。勢いのある企業は市場を拡大していくスピードも非常に速いです。

一方、日本のメーカーはなかなかそういうことをしません。特に大企業はレガシー(遺産、過去から引き継いだもの)が大きいゆえの「イノベーションのジレンマ」に苦しんでいます。中国や韓国に行ってみると、日本は内需の高さも相まって島国で守られている特性があり、現地ならではの「生情報」を入手するのが上手ではない。

「外国から見た日本」という視座で見ると、情報が閉鎖されて、その中でマーケティングを考えなければいけないという状況になっているのが、いまの日本企業のマーケティング課題のひとつだといえるでしょう。

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マーケティングスキルの新たな使われ方

横田 国内市場が大きいとはいえ、今後の日本は少子高齢化で人口が減少していき、価値観も多様化しつつあるため、日本市場だけで戦っていくのは大変です。鵜の目鷹の目で貪欲に市場獲得を狙っている諸外国の企業と戦っていくには、グローバル視点で情報を得ていくことが非常に重要になります。

あと、マーケティングスキルのトレンドとして、面白いことがあります。それは、マーケティングスキルが、人材採用(HR)において積極的に使われるようになったことです。減少する労働人口の中から良い人材を採っていく人材獲得のためのマーケティングですね。新入社員市場が縮小していく中で、入社3年以下の第二新卒の人をどのように採用していくかといったことに、そのスキルが使われていくニーズが高まっています。

マーケティングには「リテンション(顧客維持)」という技術がありますが、これもHRの中で使われていますね。採用以上に、いま働いている社員の離職防止が課題視されています。これも、世界のマーケティングの状況と比べて、「拡大」より「効率」を求める日本の大きな特性ですね。

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日本のマーケティングに欠けている「鳥の目」と「虫の目」の視点

画像:横田伊佐男氏

ーーグローバルな視点を身につけるには、どのようなことを意識していけばよいでしょうか。

横田 マーケティングで欠かせないとされる視点に、「鳥の目」と「虫の目」の2つの視点があります。

「鳥の目」は大局的な視点で、高所から全体を見渡すことです。「鳥の目」を形成するためには、情報の収集力と分析力が欠かせません。情報収集力や体験に基づく分析力が、多くの日本企業のマーケティングには欠けています。

大局的視点で俯瞰し、お客さんがどのように動いているのか? また、競合国の動きは今日どうなっているのか? という情報を仕入れて「鳥の目」を養っていくことが課題です。

もうひとつの視点は、足元にある詳細をじっくりと見つめる「虫の目」です。お客さんを最初の接点から購入に至るまでの「顧客導線」を見ていくと、「虫の目」の視点が欠けていることが多いのです。

たとえば車椅子に乗った人の気持ちで街を歩いてみると、バリアフリーの有り難さが少なからず見えてくるでしょう。実際に乗ったことがなくても、その視点を持つことが大切です。この「虫の視点」が欠けていると、車椅子で移動する人が体験する「山あり谷あり崖あり」の現実が見えない。だからなかなか次に進めないという企業をよく見かけます。

「顧客導線」のベストは「短く真っ平らな道」ですが、まだまだ「長く曲がりくねったデコボコ道」がほとんどです。スマホひとつで買い物ができる時代ですが、お気に入りの商品を買おうとする。すると、そのアプリを離れ、違うアプリで二段階認証させられる。やっとの思いでログインしたのに、お目当ての商品を見失う。なんてことが、よくありませんか?

そういった「虫の目」で見た細かいUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)、CX(カスタマーエクスペリエンス)などが非常にデコボコしていることがまだまだ多いのです。

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コロナ禍以後の会議は果たして効率化されたのか?

画像:横田伊佐男氏

ーーマーケティングにおいて会議が重要なカギを握るということですが、コロナ禍前とコロナ禍後で会議のやり方で変わったことはありますか?

横田 技術は進歩しましたが、会議の根本は変わっていません。テレワークが浸透し、リアルの対面会議が減ってオンライン会議が増え、ツールも進化してかなり効率が良くなったはずなのに、変わらなかったのが会議の根本的なやり方です。根本が変わらないため、会議が減ったとか効率化されたということはあまり聞かないですね。

逆にダラダラ続くオンライン会議が多くなってしまったという声は聞きます。本当はオンラインでも対面でも「短く濃い会議」を目指すという原理原則は変わりません。でも現状は「短く濃い会議」が達成されているとは言い難いです。ツールの使い方が変わっても、相変わらず残っている「ダラダラ会議」は大きな課題ですね。

顔を映さない「ブラック会議」はやめた方がいい

横田 自著『特濃会議学』では、会議でやってはいけない「4つのダメ」について説明していて、その中のひとつに「耳と目を使え。口を使ってはダメ!」というNGポイントがあるのですが、オンライン会議では目が塞がれてしまっていることが結構多い。私はこれを「ブラック会議」と呼んでいます。せっかく対面に近い形で映像が使えるのに、顔を映さないで画面を真っ暗にすることがデフォルトになっていることが多くなっているのです。

画像:会議でやってはいけない4つのNGポイント

『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』より抜粋

「ブラック会議」は会議に出席する人の数が大規模であればあるほど比例して多くなる傾向があり、「ブラック会議が増えたことによって離職する人のサインを見逃すことが多かった」という声をよく聞きます。職場で顔を合わせていれば表情から気づく小さな信号をキャッチしづらくなっているんです。

オンライン会議で画面をオフにして上司が一方的にベラベラ喋って、最後に「質問はないか?」「何か問題はないか?」と聞くものの、「はい大丈夫です」「特にありません」と答えているような人が、実は「今月で退職します」となったりする。管理職が自分の部署の不穏な動きや空気を察知する機会が奪われてしまっていることが起きています。

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AIは、マーケティングの上級パートナー

ーー『特濃会議学』でも「AIとフレームワークでさらに濃く!」という章を設けられています。そこで、マーケティングにおける生成AIの役割や、上手な使い方があればお教えください。

横田 マーケティングはよく「釣り人」と「魚」にたとえられます。陸にいる釣り人が水中にいる魚を探すために魚群探知機を使ったり、どの時期にどんな魚がいるのか、どんな魚がどんな餌を食べるのかをヒアリングやリサーチをしたりするなど、あらゆることをしながら釣竿を通して魚と対話してアタリをつけていくことが近似していますよね。

私自身、生成AIはまさに「釣り人」が「魚」を釣るための練習、つまり「壁打ち」ができるツールとして、マーケティングに役立てています。

具体的にコピーを作るときなどは、訴求したいことをChatGPTに打ち込み、「100字以内で3つ出してください」とプロンプト(指示文)を入れ、ChatGPTと対話をすることで、いくつかの候補を出してもらいます。そこから「これは違うから代案を出して、これはあり」といったやり取りを繰り返しながら精度を上げていきます。生成AIは壁打ちのやり方次第で、人間より優秀な案をごく短時間で提出してくれるものです。

語彙が増えて言葉のセンスが磨かれ、何度も話しているうちに回答が絞り込まれていく。何度もしつこく指示しても怒らずにおとなしく処理してくれるのも、生成AIの良いところですね(笑)。

言葉というものは、思い入れが大きければ大きいほど冗長になりがちです。それは言葉のやり取りを土台にする会議でも同じです。「良質な議題が良い会議を生む」という考えのもと、研修などで「良質な議題とは何か?」というテーマを教えることがあるのですが、議題を作ることは、論点を絞り込んで洗い出すことを意味します。

たとえば会議の議題も生成AIに指示をして、いくつか出してもらうことによって、非常にいい議題を提案してもらえるようになります。だから,AIは「マーケティングの上級パートナー」として利用しない手はないですよ。

会議で早く結論を出すためには、あれも言いたいこれも言いたいという思いだけが溢れていてもいけない。メッセージを絞っていくことが効率化につながっていくのに、その方法を知る人が非常に少ない。そんな言葉の創出と選択ができている現場が非常に少ないという思いから、『特濃会議学』では生成AIについても扱わなければという思いに至りました。

画像:ヨコタ式コピーライティング AIプロンプト 最強16の型

『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』より抜粋

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マーケティングは「お客さんと商品の距離を近づけること」

ーーマーケティングとは一言で言うと何になるのでしょうか?

横田 私の中でのマーケティングの定義は、「お客さんと商品の距離を近づけること」です。マーケティングのためのツールは多種多様で、日々進歩していますが、昔から変わらないのは、お客さんがいて、商品があって、この両者の間が離れている。だから近づける必要がある。そのためにマーケティングという技術が求められる、ということです。

ですから、まずは「お客さんが誰なのか」「商品の何を訴求していくのか」「どうやって近づけていくのか」という3つを突き詰めていくことが、今後どの時代になっても変わらないマーケティングの基本です。

ーー『特濃会議学』でマーケターの方に特に伝えたいことは何でしょうか。

横田 「制約」の中でいかにベストなパフォーマンスを発揮できるか、ということを知ってもらえたらうれしいですね。マーケットは予算がこれしか使えないとか、サービスリリースまではこれくらいのスケジュールしかないとか、使えるチームスタッフは何人だとか、必ず制約があるものです。その制約の中でベストパフォーマンスをするようなマネジメント、ファシリテーションを使いこなして、成果を出していただきたいなと思います。明日から、いや今日からの会議の質を高めることが、小さな一歩ですね。

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プロフィール

横田 伊佐男

横田 伊佐男(よこた いさお)

CRMダイレクト株式会社代表取締役。プロフェッショナル・マーケティングコーチ。横浜国立大学客員講師、早稲田大学オープンカレッジ講師、日経ビジネス課長塾講師。横浜国立大学大学院博士課程前期経営学(MBA)修了及び同大学院統合的海洋管理学修了。 外資系金融機関を経て、2008年に独立。人が動く戦略は「紙1枚」にまとまっているという法則を発見し、マーケティングのオリジナル教育メソッドを体系化。主な著書に『マーケティングコーチ横田伊佐男の特濃会議学』『ムダゼロ会議術』(共に日経BP社)、『最強のコピーライティングバイブル』(ダイヤモンド社) 、『一流の人はなぜ、A3ノートを使うのか?』(学研パブリッシング)など多数。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

執筆者

成田 幸久(なりた ゆきひさ)

コンテンツディレクター(コンテンツマーケティング戦略支援)

AMEX会員誌、「ワイアード」日本版、JAL機内誌の副編集長、「ギズモード・ジャパン」創刊ディレクター、セブン–イレブンとヤフーの共同事業メディア「月刊4B」編集長などを歴任。株式会社インフォバーン、ナイル株式会社などを経て、現在はフリーのコンテンツディレクターとして、オウンドメディアのアドバイザリー支援やコンテンツマーケティング戦略などを手がけている。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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