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ビジネス現場で問われるスキル「パブリックスピーキング」の磨き方【元NHKアナウンサー松本和也】

2024.4.16
読了まで約 7

マーケターをはじめとした多くのビジネスパーソンにとって、会議や取引先との打ち合わせなど、人前でスピーチをすることは日常茶飯事です。そういった公的な場面で、聞き手に対して的確に情報を伝えるためには「パブリックスピーキング」のスキルを磨くことが重要です。

今回は、元NHKアナウンサーであり、自身の実体験を元に執筆した著書『心に届く話し方65のルール』や『元NHKアナウンサーが教える 話し方は3割』が好評を博している松本和也氏が登場します。松本氏が語る「パブリックスピーキングの上達方法」とは一体どんな内容なのでしょうか?

ひとくちに「話し方」といっても…

私がこれからお伝えするのは、「パブリックスピーキング」の方法です。演説?と思いましたか?はい、それもふくまれます。「パブリックスピーキング」とは、「プライベートスピーキング=仲間内のおしゃべり」の逆だと考えてください。例えば家族や友人、居酒屋での会話などがプライベートスピーキングです。特に気をつかわなくてもほぼ自由に言いたいことを言いあえる。そんな場面での話し方です。
パブリックスピーキングはその逆で、基本的に「気をつかいながら話す」場面の話し方です。会議などでのプレゼンテーション、会合でのスピーチ、商談など、基本的に「相手の時間をいただきながら」「情報伝達をする」場面と考えてください。要するに、ビジネスの現場で話す場面のほとんどが「パブリックスピーキング」になります。
その場合必要なのは当然、なるべく短い時間で端的に話すこと。よく聞かないとわからない話ではダメで、ふつうに聞いていても理解しやすい内容、構成になっていること。難なく聞き取れること。聞いていることが苦痛ではないこと。これらが最低要件ではないかと思います。

書店では「滑舌や声をよくして印象アップ」「立派なリーダーに見られるための話し方」など自分をよく見せるための話し方の本が人気のようです。そんな本を選ぶ人の気持ちもわかります。ただ、ビジネスの現場であなたの話を聞く側からすると、何より大切なのは「端的で理解しやすく、聞き取りやすく、聞いていて苦痛にならない」話し方ではないでしょうか。

ここからは、そんなパブリックスピーキングのポイントを、「音声表現」「話す内容」の2つにわけて、できる限り具体的に説明していきますね。

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「音声表現」のポイント~「ゆっくり」「はっきり」

最初にお伝えしたいのは、いったんは「滑舌」「発声」については忘れてください、ということです。それらは、舞台俳優やアナウンサー、芸人さん、歌手の方などには必要なスキルですが、ふだんの生活で情報を話して伝えるだけなら特に必要はありません。
ビジネスの現場で求められるのは「聞いている人が無理なく聴き取れるように」話すこと。それさえできれば十分です。「滑舌」「発声」の良い人がビジネスで評価されるのか。冷静に考えればそんなことはないことはわかると思いますが、気になる方は自分の声が必要以上に気になってしまうのかもしれません。

それでもご自身が滑舌や発声が悪いと思っていらっしゃる方には、「ゆっくり」「はっきり」話すようにすれば大丈夫ですよ、とお伝えしています。話が聴き取りづらいと言われる方の多くは、焦りや緊張で自分が思っている以上に早口になる傾向があります。その早口のスピードが、ご自身が話せるスピードの限界を超えたとき、聴き取りにくくなってしまっていることが多いのです。そこで、自主的に自分が話せる制限速度を低めに設定し、それを越えないように話すのです。

では、どれくらいのスピードがよいのでしょうか。むやみやたらに遅く話すと逆に伝わりにくくなるものです。一時期バラエティー番組に出演していた戦場カメラマンの方の話し方は、バラエティー的には面白いのですが、話し方の遅さが耳についてしまって情報伝達の妨げになってしまいます。

私のお勧めは「自分で少しゆっくりかな」と思うくらいのスピードで話す方法です。1分で300文字のペースを勧める本もありますが、そのデータは1960年代、70年代のNHKアナウンサーがニュースを読んでいたときのペースが根拠になっています。YouTuberの話し方でもわかるように、昔に比べ早口の人が多くなっている今の基準にするには少し無理があるように思います。しかも話しやすいスピードは人によって差もあるでしょう。私が、余裕を持ってしっかりと話せる「自分として少しゆっくりと感じる」ペースをお勧めするのはそんな理由からです。

また、「はっきり」話そうとする意識も早口を避けることに役立ちます。「はっきり」というのは、滑舌よく、という意味ではなく、「一つ一つのことばをいい加減に話さない」ということです。例えば、「~と思います」と話そうと思っていても気持ちが焦って次の文章、文言を早く言いたいと思ってしまうと、「~とおもますそで、私は~(~と思います。それで私は~)」のようになっている人、見たことありませんか?

こんなこともありました。私はマーケティングについては素人同然なのですが、以前ある方の素人むけの講演を聴いていたら「そっと分析」ということばが何度も出てきて戸惑ったことがあります。「なんでこっそり分析しなくてはいけないのか」と思っていたのですが、スライドの文字を見てようやくそれが「SWOT分析」のことだとわかりました。もちろん私がそのことばを知らなかったのが良くないのですが、「スウォット」としっかり発音してくれていれば誤解は避けられたと思います。それは滑舌の問題ではなく、大事なことばを丁寧に発音して聞いている人にしっかり届けようという、話す側の配慮の問題ではないかと思うのです。
わかっていて当然、知っていて当たり前と思われる内容でも、知らない人がいるかも知れない場面では特に、「はっきり」発音する、「ゆっくり」話してあげることは、パブリックスピーキングをする上で最も大切なことだと思っています。

それでも焦って早口になってしまうという方には、その焦りの原因を取り除くしかありません。その方法は「準備と練習」を積み重ねること、それにつきます。
「うまくいかなかったらどうしよう」という焦りは、話す内容について何度も推敲し、原稿を書いて何度も原稿を口に出すことである程度おさえられます。あれだけやってダメならしかたない。そう開き直れるくらい準備と練習を重ねるのです。

「原稿まで書かなくてもいいんじゃないの?」と思った方もいるでしょう。確かに原稿を書かなくても話すこと自体はできます。しかし、あなたの話したことは聞き手にとってきちんとわかりやすいものだったのでしょうか。それはご自身の録音をしっかり聴き直して確認したことでしょうか?

関連リンク:SWOT分析とは?やり方や分析例を図とテンプレート付きで簡単に

上達の最大のカギ「録音とふりかえり」

ぜひ実行していただきたいことがあります。それは、「自分が話しているところを録音する」ことです。もちろん録画でもかまいません。注意していただきたいのは、そのあと。録音したデータはただ聴き直すだけでは不十分です。録音したものは「あのー、えーと」などのつなぎ言葉も含め、一字一句全て書き起こしてほしいのです。面倒くさいと思いますが、ぜひやってみてください。

この「一字一句書き起こし作業」をやってみると、自分の話がなぜ伝わらなかったのかが一目瞭然になります。まず気づくのは「ムダな言葉」が想像以上に多いこと。「あのー、えーと」などはご自身の想像の何倍もの頻度で話しているはずです。「私はですね、このようにですね、思っていましてですね~」など無意識で頻発している口癖はもちろん、ほかにも、「同じような説明を何度も繰り返していた」「重要なことばを言っていなかった」「論理展開に気づかない飛躍があった」「話している内に話が脱線し、自分でもわけがわからないことを言っていた」など、様々なことがきっと見つかるはずです。
なぜそんなことがわかるのか。実は新人アナウンサー時代の私がそうだったからなのです。

大学生時代に進学塾の講師のアルバイトをしていた私は、アナウンサー1年目から、覚えたことを時間内に話すことに結構な自信がありました。生中継の前の日には、リポート内容を箇条書きにしたメモを作り、それを暗記して翌日の本番に臨んでいました。その結果はどうだったか。きちんと時間内にリポートを終え、しかもほとんどつっかえることもなく話せました。周りの先輩からは「新人とは思えない」などと大いに褒められ、鼻高々だったのを覚えています。

しかし、褒められていたのは1年目までの話。その後は同じことをしているのに先輩アナウンサーから「おまえのリポートはしっかり伝わってこない」といわれるようになりました。原因は、話す内容、話す文章などの細部のツメが甘かったことでした。先輩に言われ、自分の話したことを字おこししてみました。そこで気づいたのが、先ほどお話しした、「同じことを何度か話す」などムダなことばや雑な表現が自分の想像以上にたくさんふくまれているということだったのです。1年目からずっと、自分の生中継はVTRで振り返り、その都度反省もしていたはずでした。それでも一字一句書き起こすまでは自分の話していることが不十分なことに気づかなかったのです。

「話す内容」は「メモ」ではなく必ず「原稿」を書く

それ以来、私は自分が話すことは必ず原稿に書いてみるようにしました。書いてみると、自分の話す内容をいったん引いた目で見直すことができます。論理の飛躍や説明不足の部分、まどろっこしい部分も見つけやすくなります。また、その原稿を口に出してみれば、文章ではふつうに読めても、話すとものすごく話しにくかったり、もたついた感じがしたりするところが見つかります。

このようにいったん原稿に書き、何度も口に出しながら修正を加える方法を続けていると、結果的に何度もリハーサルをしていることになり、メモだけ書いていきなり本番に臨むよりも話す練習を多くしていることにもなる。最初は面倒でも、結果的には聞き手に伝わりやすい表現を細部まで詰めることができる。まさに良いことずくめであることに気づいたのです。

原稿を書くもうひとつのメリットは、「あのー、えーと」などのムダなつなぎ言葉を減らせることです。
「あのー、えーと」と言ってしまう状況を思い出してみてください。おそらくことばを探しているとき、言いたいことを組み立てているときではないでしょうか。箇条書きのメモで話そうとすると、言いたい内容の要約は書いてあっても、それを話すためにはその場で文章を組み立てなくてはいけません。そのような状態で「あのー、えーと」が出てしまうのはしかたがありませんし、文を組み立てている間に話が脱線したり、わかりにくい表現になってしまったりすることも当然ですよね。

ふだんの会話ならそれでも良いのですが、人様の時間をわざわざいただいて話しているパブリックスピーキングでは、あまり望ましいことではないのではないでしょうか。最低限、自分の伝えたいことは、わかりやすい表現で伝えられるように準備しておきたいものです。

「原稿を書くと棒読みになってしまう」という方に

話す前に原稿を書きましょう。そういうと、「原稿があると棒読みになってしまうんですよね」「自分らしく話したいので、あえてメモにしているんです」とおっしゃる方もいます。
実は新人アナウンサーだった頃の私もそうでした。そんな私に先輩はこう言いました。「おまえらしい話し方なんて聞いている人にとっては関係ない。ムダのない情報をムダのない表現で言ってくれる方が視聴者の皆さんは嬉しいんじゃないのか?」と。返す言葉がありませんでした。極端な話、棒読みであっても話している内容がしっかり伝われば十分。自分らしい話し方なんて、聞いている人にとってはどうでもいい。なんて自分中心の考え方をしていたんだろう。本当に恥ずかしい思いをしました。

棒読みが嫌なら、棒読みにならないように何度も口に出して話す練習をする。何度も口に出していると、ここはどうしても話しにくいというところが出てきます。そこを話しやすいように一つ一つ修正していけばよいのです。

「そんなの面倒くさい。もっと簡単な方法はないの?」そうおっしゃりたい気持ちもわかります。残念ながら一部の天才以外は、私のように地道にやっていくしかないと思います。

でも、棒読みにならない原稿を書くためのキーワードならありますよ。「短文最強」というものです。短い文章なら、声に出して話しやすく、聞いているほうもわかりやすい。これは感覚的にわかると思います。
では、どれくらいの長さの文が良いのか。アナウンサー時代に言われていたのは、「一文は読んで5秒以内が理想」ということでした。この5秒というのは、ひと息で話せる時間のおおよその目安です。もちろん訓練をつんだ人なら10秒以上ひと息で話せるでしょう。しかし、緊張している場合は息があまりもたないのがふつうなので、5秒を目安にしていました。文字数で言うと25字から30字くらいです。つまり、1文を25文字から30文字以内にすれば、ひと息ですっと読める。すっと読める文章は棒読みになることは少ないものです。

実はここまで書いてきた原稿も、なるべく1文がその文字数になるようにしてきました。試しに声に出して読んでみてください。多分話しやすいと思いますよ。

準備と練習はスケジュール作りから

パワーポイントなどの資料を作るのにいっぱいいっぱい。そのままぶっつけ本番の状態でプレゼンテーションに臨む。私がコンサルティングさせていただいたお客様の中にもそんな方はよく見られます。お忙しいのはよくわかります。それでも、スケジュールの立て方が良くないのではないかと思うことは多々あります。
きちんと相手に伝わるように話そうと思えば、原稿を書いたほうが良いのはおわかりいただけたかと思います。原稿を書く時間、推敲する時間、話す練習をする時間は、慣れない内は最低1日くらいを確保しておいたほうが良いと思います。

本当は、スライドなどの資料を制作する前に、まず話すための原稿を書き、それにあわせたスライドを作る方がお勧めです。スライドを先に作ると、結果的に話さないことまでスライドに盛り込んでしまい、情報過多なスライドができる恐れがあるからです。またアニメーションなどの効果も、話す原稿がないとちょうどいいタイミングで使えません。

私のお勧めは、まず原稿制作。原稿が8割以上できたところで、スライド制作開始。スライドがおおよそ完成したら、スライドに合わせて話す練習。練習しながら、原稿、スライドを微調整。完成したら、最低1回は本番通りにリハーサル。これくらいできれば、少なくとも不安な本番を迎えることはありません。早口になることも、「えーと」などのことばも大きく減らせます。ぜひこんなスケジュールを立てることから始めて見てください。

パブリックスピーキングには、本当にたくさんのTipsがあり、全てをお伝えすることはできませんでしたが、最も大切な部分はお伝えできたと思っています。

もし、もっとテクニックを知りたいという方がいらっしゃいましたら、本やUdemyの講座などもありますので、そちらをご覧ください。とはいえ、一番効果があるのは直接お目にかかって、実際に原稿や音声表現を一つ一つ修正していくことです。そんな機会があることを楽しみにしております。

プロフィール

松本 和也

松本 和也(まつもと かずや)

パブリックスピーキング・コンサルタント。株式会社マツモトメソッド代表取締役。元NHKアナウンサー。
兵庫県神戸市生まれ。1991年、NHKにアナウンサーとして入局。奈良・福井の各放送局を経て、1999年、東京アナウンス室に。
主な担当番組は、
「ひるどき日本列島」司会(2001~2002)
「英語でしゃべらナイト」司会(2001~2007)
「NHK紅白歌合戦」総合司会(2007,2008)
「NHKのど自慢」司会(2010~2011)
「ダーウィンが来た!生きもの新伝説」ナレーション(2006~2012)
「シドニーパラリンピック開・閉会式」実況など。
2016年6月退職。同年7月から「株式会社マツモトメソッド」代表取締役。

ビジネスで必要な「理解しやすく」「説得力のある」伝え方を徹底的に磨く指導が特徴。話し方はもちろん、原稿・スライドの構成までトータルでサポート。パブリックスピーキング、メディアトレーニングなどのマンツーマン指導を行っている。また一般向けに講演・研修・ワークショップなども実施。オンライン学習プラットフォーム「Udemy」で公開中の「聞き手が腹オチするパブリックスピーキング実践講座」は人気を博し、ベストセラーとなっている。

■著書
『心に届く話し方65のルール』 ダイヤモンド社 2017年
『元NHKアナウンサーが教える 話し方は3割』 BOW BOOKS 2021年

■オンライン講座
Udemy:伝えることに悩む全ての方に:NHK紅白歌合戦・元総合司会が教える「聞き手が腹オチするパブリックスピーキング」実践講座
■自社URL
株式会社マツモトメソッド

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

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