現在、業界を問わず多くの企業が直面しているのがコモディティ化です。製品やサービスが市場に広く普及し、どれも似通って見えるようになると、ユーザーは価格や利便性といった表面的な要素だけを基準に判断するようになります。その結果、熾烈な価格競争に巻き込まれ、利益率の低下という構造的な課題に直面することになります。
本記事では、そもそもコモディティ化とは何かという基本的な概要から、その背景にある要因、実際の事例分析、そしてこの状況に陥らないための対策までをわかりやすく解説していきます。
目次
「コモディティ」の意味
そもそも「コモディティ(Commodity)」とはどういった意味なのでしょうか。
日常語としても使われることがある一方で、ビジネスや投資の文脈では異なるニュアンスを持つため、まずはその定義を整理することから始めましょう。
コモディティ(Commodity)とは
コモディティとはもともと、「日用品」や「必需品」「ありふれた商品」といった意味を持つ英単語です。
たとえば、スーパーで販売されている食塩やティッシュペーパーは、機能や成分に大きな違いがない限り、価格や量といった分かりやすい要素だけで比較されがちです。
このように、一定水準を満たしていれば、その他の価値は消費者の購買判断にほとんど影響しない状態がコモディティ化のイメージです。
ビジネス用語におけるコモディティ
ビジネスの世界で、製品やサービスの機能やデザイン、品質、ブランドといった差別化要因が弱まり、他社と代替可能な状態になることを「コモディティ化」と呼びます。
スマートフォン市場はその代表例で、かつてはiPhoneやGalaxyなどブランドごとに明確な特徴がありましたが、現在は多くのメーカーが高性能機を提供しており、性能やデザインの差は縮小。価格やキャンペーンで選ばれる傾向が強まっています。
こうした環境では、製品の機能以上に、顧客体験やブランドの世界観といった“意味づけ”が選ばれる理由を左右するようになっています。
投資用語におけるコモディティ
なお、投資の分野で使われるコモディティは、金や銀などの貴金属、原油や天然ガスといったエネルギー資源、小麦や大豆などの農産物を指し、商品先物取引の対象となる実物資産を意味します。
これらは金融商品としての側面が強く、ビジネスにおけるコモディティ化とは直接の関係はありません。
あらゆる産業で重要課題となっている「コモディティ化」
なぜコモディティ化が問題視されているのでしょうか。
その転機となったのが、2003年にIT戦略家ニコラス・カー氏が発表した論文『IT Doesn’t Matter』です。
かつて競争優位の源だったITも、普及と標準化により差別化の要素ではなくなり、インフラと化したとカー氏は警告しました。
この指摘は、SaaSやクラウドが当たり前になった現在では現実のものとなっています。
ただし、コモディティ化そのものが悪いわけではありません。
テレビや冷蔵庫などが普及したように、市場が成熟すれば、消費者は手頃な価格で製品を得られるようになります。
ジャンルによっては市場全体が拡大し、安定した需要が生まれるメリットもあります。
とはいえ、企業にとっては深刻な課題です。
差別化が難しくなる中で価格競争が激化し、利益率が低下。とくに中小企業は体力的に不利で、「なぜ選ばれるのか」を明確に示せなければ、持続的な成長は望めません。
近年のさまざまな「コモディティ化」の事例
ここでは、近年起きているコモディティ化の代表的な事例を見ていきましょう。
コンビニ店頭販売の自社コーヒー
かつては専門店で飲むのが一般的だった淹れたてのコーヒーも、今ではコンビニ各社が手頃な価格で提供しています。
最初に参入した企業は話題を集めましたが、現在はどこでも同程度の品質が得られるため、消費者の関心は「近さ」や「利便性」へと移りました。
結果として、特別感やブランドの違いは薄れ、機能と価格による競争に変わっています。
牛丼チェーン店
吉野家、松屋、すき家といった牛丼チェーンのメニューは、価格・味・提供スピードにおいて均質化が進んでいます。
各社とも定番商品を軸にしており、限定メニューやサービスで差別化を図るものの、最終的には「安くて早い」の一点に集中。
価格勝負になりやすく、利益率を保つことが困難な業界構造となっています。
スマートフォン
AppleやSamsungをはじめ、スマートフォン業界では機能差が年々縮小し、端末の性能だけでは選ばれにくくなっています。
総務省の調査によれば、日本国内のスマートフォン普及率は9割を超え、市場は飽和状態にあります。
その結果、買い替え需要も鈍化し、多くの機種が似たようなスペック・価格帯に集中。今では消費者の関心はブランドや技術ではなく、割引やキャンペーンの有無に移りつつあります。
24時間営業のトレーニングジム施設
フィットネス業界でも、24時間営業・無人運営のジムが急増したことで、提供されるサービスが標準化しつつあります。
マシンの種類や営業時間に差がなくなり、立地や価格が主な選定基準です。
食品・生活必需品
Amazonや楽天などのECサイトでは、海外からの低価格商品が多数流通し、国産品との明確な差別化が難しくなっています。
とくに日用品は、品質よりもレビュー数や価格が購買に影響しやすく、競争の軸は物流やポイント還元といった周辺価値に移行しています。
消費者は購入場所と価格を重視する傾向が強まり、製品の機能やブランドの価値が見えにくくなっているのが現状です。
IT製品全般
クラウドストレージや会議ツール、チャットアプリなどのIT製品も、コモディティ化が進んでいます。
無料プランや類似機能が増えたことで、「どれを使っても大差ない」と判断しやすくなり、導入の決め手は価格や既存システムとの互換性に移っています。
こうした中で、使いやすさや導入支援といった体験価値で差別化を図るSaaSベンダーが増加しています。
現代で大きな注目を集めている「AI技術を用いた〇〇」もいつかはコモディティ化するかも?
現在はAIというだけで新規性や差別化につながることも少なくありません。
しかし将来的には、技術的な優位性が薄れ、「どのAIを使っても大差ない」と見なされる可能性が高いでしょう。
そのとき企業に求められるのは、AIをどう活用し、サービス全体の体験にどう統合するかという設計思想です。
コモディティ化が起こる原因
ここでは、企業側の要因と消費者側の要因に分けて、コモディティ化が起こる具体的な理由をひもといていきます。
企業側の原因
まず、企業の行動がコモディティ化を招く構造を見ていきましょう。
高付加価値を持つ製品を開発するには多額の研究開発費やマーケティング投資が必要ですが、その価値に見合う価格を消費者が支払うとは限りません。
そのため、差別化を図っても結局は価格競争に巻き込まれやすく、企業は無難な設計に流れがちです。こうした平均思考が製品を均質化させ、市場から個性を奪っていきます。
さらに、IT製品や家電では共通部品の使用が進み、たとえばスマートフォンのカメラモジュールやCPUのように、同じ部品が複数の企業に供給されているため、仕様や性能に大きな違いが出にくくなっています。
加えて、売れ筋トレンドに依存した開発が広がり、「他社が導入した機能を自社も採用する」といった横並びの発想が常態化すれば、製品はさらに似通い、独自性を感じにくい市場が形成されていくのです。
消費者側の原因
一方で、消費者の購買行動の変化もコモディティ化を加速させています。
インターネットの普及により、レビューサイトや比較サイト、SNSの口コミなどから商品を簡単に比較できるようになり、性能や機能よりも価格や評価を基準に選ぶ傾向が一般化しました。
この比較文化の浸透により、多くの消費者が「最もコストパフォーマンスの高いもの」を求める姿勢を強めています。
さらに、日常的に多くの製品や新技術に触れることで、革新性への関心も薄れつつあります。
たとえば、かつて注目されたテレビの4K・8Kといった高画質化も、今では目新しさを感じにくくなっており、新しい価値の訴求が難しくなっています。
加えて、経済的不安や節約志向を背景に、必要最低限で十分とする価格重視の価値観が広がり、消費者は高付加価値よりも、低価格・低リスクを優先する傾向を強めています。
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コモディティ化の影響で起こるデメリット
ここでは、コモディティ化で起きる主なデメリットについて掘り下げていきます。
品質や機能の面で商品を特化できなくなる
市場に同質の商品があふれる中では、企業が開発に費やした労力やコストに見合う成果を得ることが難しくなります。
仮に膨大な資源を投じて革新的な技術を導入しても、それが消費者に受け入れられなければ購買にはつながらず、成果は限定的にとどまるでしょう。
このような状況は、技術やアイデアを起点に製品をつくる「プロダクトアウト型」の開発が、現在の市場で通用しにくくなっていることを示しています。
結果として、企業は消費者ニーズを優先する「マーケットイン型」の方法にシフトし、差別化よりも無難さを重視する傾向が強まります。
その結果、製品の革新性や独自性が失われ、市場全体の活力低下を招く可能性も否定できません。
▼マーケットイン型、プロダクトアウト型についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
マーケットインとプロダクトアウトとは? 意味や違い、メリット・デメリットを解説
単純な価格競争に巻き込まれてしまう
コモディティ化によって最も顕著に表れるのが、価格競争の激化です。
差別化が消費者に伝わらなければ、企業は最安値での勝負に頼らざるを得なくなり、それは収益性の低下を招きます。
価格を下げた分、広告や人件費、サポート体制に十分な投資ができず、結果としてサービス品質の低下にもつながります。
さらに、問題は国内競合だけにとどまりません。
製造コストが圧倒的に安い海外企業が参入すれば、日本企業は価格面で一層不利になり、これまで築いてきたブランド力や販路が一気に崩れる可能性もあります。
価格競争が常態化すると、「高くても価値がある」という企業姿勢が受け入れられにくくなり、長期的なブランド構築も難しくなるという悪循環に陥るでしょう。
コモディティ化を工夫やアイデア・企業努力で脱却できた事例
ここでは、実際にコモディティ化の危機から脱却し、顧客の支持を再獲得した企業の事例を紹介します。
Appleの事例:プロダクトの統合と世界観の構築
スマートフォン市場はコモディティ化の象徴的な存在ですが、その中でAppleは例外的なポジションを確立しています。
同社は高性能な製品を提供するだけでなく、ハードウェアとソフトウェアを統合した体験価値に重点を置いているのです。
iPhone、Mac、Apple Watch、AirPodsといった製品がシームレスに連携する設計により、「Apple製品を使うこと」が一つのライフスタイルとして認識され、価格以外の要素でユーザーの支持を集めています。
製品の性能以上に、「Appleであること」が選ばれる理由になっている好例といえるでしょう。
スターバックスの事例:コーヒーではなく“第三の場所”
コンビニやカフェチェーンによって、コーヒー自体のコモディティ化が進んだ時代、スターバックスが注力したのは「空間」と「体験」でした。
同社は「自宅でも職場でもない、居心地の良い第三の場所=サードプレイス」をつくりあげることに価値を置いています。
店内のデザイン、音楽、接客、そして顧客参加型のキャンペーンなど、消費体験全体がブランド価値を形づくる構成要素となっています。
このように、商品そのものではなく文脈で選ばれるブランドへと進化したことで、コモディティ化からの脱却に成功しました。
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ユニクロの事例:機能性+デザインの新定番
アパレル業界も価格競争が激しいコモディティ化市場ですが、ユニクロは「高機能×シンプルデザイン」という新しい価値の打ち出しに成功しました。
ヒートテックやエアリズムといった機能性インナーは、価格は手頃でありながら、テクノロジーによって快適さを追求した独自商品として広く支持されています。
また、世界的デザイナーとのコラボレーションや、ブランドムービーを活用したマーケティングにより、価格以外の文脈で選ばれる仕組みを構築しました。
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ダイソンの事例:テクノロジーで日用品に革命を
掃除機やドライヤーといった家電製品も、かつては価格と基本性能だけで選ばれがちな市場でした。
そのなかでダイソンは、「吸引力が変わらない」という一点に特化したテクノロジーブランドとしての地位を確立しました。
「革新性」「所有する喜び」を重視した製品設計と、独自のPR戦略が、選ばれる理由を価格から技術と体験へと転換させました。
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湖池屋の事例:ブランドの再定義による再成長
ポテトチップス業界も典型的なコモディティ市場ですが、湖池屋は独自の味開発、高価格帯の商品展開、SNSを通じたファンづくりなどによって、新しいブランドイメージを築いています。
たとえばKOIKEYAプライドポテトは、本当においしいポテトチップスを本気でつくるというコンセプトのもと、クラフト感と地域性、ストーリー性を重視したブランディングを実施。
これにより、価格ではなく「こだわり」で選ばれる商品としての地位を獲得しました。
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コモディティ化への対策を考える際のポイント
ここでは、コモディティ化からの脱却を図るために重要となる4つの視点について解説します。
独自性:差別化戦略の再設計
まず重要なのは、自社ならではの価値を明確にすることです。
性能や機能といったスペックでの差別化が難しい今こそ、ユーザーの感情やライフスタイルに寄り添った価値設計が必要になります。
「速い」「安い」「高機能」といった特徴を並べるのではなく、「特定の課題に特化している」「ある価値観に共感している」といった物語性を持たせ、比較される存在から唯一の選択肢へと転換できます。
そのためには、商品開発だけでなく、企業の思想や世界観を一貫して伝えるブランディングの強化が欠かせません。
▼差別化戦略や競争戦略については以下の記事でも深掘り解説を行っています。
差別化戦略とは?メリット・デメリットと企業の成功事例をご紹介
第3回 バリュー・チェーンの視点から見る、マーケティング・マネジメントの実際 花王・廣澤連載
ターゲット:誰のための価値かを明確にする
差別化の基盤となるのが、ターゲットの再設定です。
市場全体に訴求するのではなく、本当に価値を届けたい顧客層を絞り込むことが、コモディティ化を回避する近道となります。
たとえば、万人向けとされる商品は、裏を返せば誰にも深く刺さらない可能性があります。
これに対し、○○業界の中小企業向けや忙しい子育て世代の女性に特化といったように、明確なニーズを持つ層に焦点を当てれば、選ばれる理由がはっきりし、競合との差も際立ちます。
ターゲットを明確にすることは、商品の設計や訴求内容、営業手法の見直しにもつながり、戦略全体を再構築する起点となります。
顧客体験:体験全体を価値ととらえる
製品やサービスそのものでは差別化が難しくなった今、決定的な違いを生むのは体験価値です。
購入前の情報提供、購入時のスムーズな手続き、購入後のサポートまで、顧客が接するすべての場面がブランド体験となります。
特に現代は、SNSや口コミによって体験が可視化されやすく、各接点に感動や安心を組み込む設計が欠かせません。
さらに、配送の速さや返品のしやすさ、チャット対応のスムーズさといった時間的コストの削減も差別化の鍵となります。
営業戦略:価格以外の文脈を与える
最後に重要なのが、ストーリーによる文脈の構築です。
製品やサービスを機能の集合体ではなく、「なぜ存在するのか」「どんな課題を解決するのか」「その背景にどんな想いがあるのか」といった文脈を伝えることで、消費者は共感を基に選択するようになります。
このアプローチでは、広告に加えてコンテンツマーケティングの役割が欠かせません。
商品説明にとどまらず、コラムや導入事例、動画、セミナーなどを通じてユーザーの課題に寄り添い、信頼関係を築くようにしましょう。
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現代の企業にとって最重要となる「ブランディング」を徹底解説! おすすめの施策や成功事例なども紹介
コンテンツマーケティングとは?基本的な概念から実践までを解説します
まとめ:自社商品・サービスのコモディティ化を回避することが現代ビジネスのカギ
価格だけで比較され、選ばれる理由を失うことが、コモディティ化の本質であり、企業にとっての深刻なリスクです。
しかし同時に、それは本質的な価値を問い直す機会でもあります。
機能や価格といった表面的な要素ではなく、誰のために、どんな課題を、どんな思いで解決するのかといった根本に立ち返ることで、製品やサービスは再び選ばれる理由を獲得できます。
このとき重要となるのが、文脈を伝える力、すなわちコンテンツマーケティングの役割です。
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