自社のガバナンスを強化したいけれど、何から始めればいいかわからないとお困りではありませんか。ガバナンス強化は内部統制をしっかりと取ることにもつながるため、企業価値向上が可能です。価値向上のためにも、ガバナンスの重要性と強化方法を押さえることが重要であることを知っておきましょう。
この記事ではガバナンスとは何か、なぜ企業にとって重要なのかをわかりやすく解説します。ガバナンス強化の成功例と強化方法も紹介しますから、効率よく企業価値を高めたい方はぜひ参考にしてください。
目次
ガバナンスの基本
ガバナンスという言葉をよく耳にするけれど、内容がよくわからないとお困りの方も多いでしょう。ここではガバナンスとは何か、なぜ企業にとって重要なのかを解説します。
ガバナンスとは
企業が安全な環境で経営を実現するために必要な管理体制をガバナンスといいます。英語ではGovernanceと表記され、統制・管理・統治などの意味を持ちます。企業で使われる際はコーポレートガバナンスと呼ばれるため、ビジネスで使う際はコーポレートを付けましょう。
企業が資本生産性を高め、価値を向上させていくには健全な経営が不可欠です。しかし、企業が主体となって経営の判断・運営を行うと、何かしらのリスクが生じる恐れがあります。
健全で透明性の高い経営を継続するためには、外部取締役や社外監査役による統治、株主の権利保護と情報開示が必要です。企業内だけでなく、外部取締役や株主による管理体制を整える取り組みであるコーポレートガバナンスは、企業経営に必要な要素といえるでしょう。
ガバナンスの重要性
ガバナンスは企業が健全な経営を行うために必要な取り組みであり、デジタル時代である現代において、その重要性はより高まっています。特に、業務にAIを取り入れている企業ではIT戦略と業務戦略をあわせ、ITガバナンスを実施しています。
業務を効率化するAIの導入・デジタルツール導入によるリスク管理・IT戦略におけるコンプライアンスの確保などを行うことで、売上や企業価値向上を図ることは可能です。
ITガバナンスの取り組みにはさまざまなメリットがあるものの、デジタルツールに頼りすぎない点には注意が必要です。利便性を重視するあまり、デジタルツールに投資しすぎるとコストが増大したり、いざツールが使えない場合にリスクが高まったりする恐れがあります。
企業に適したITガバナンスを図ることで、取り組みにおけるメリットを得られます。通常の業務戦略に必要なITツールを導入し、コスト削減・リスク回避しながら売上を向上させるためにも、ITガバナンスが重要と考えましょう。
ガバナンスの関連用語
ガバナンスにはいくつかの関連用語があります。本来の意味と混同しないよう、それぞれの意味を理解することが大切です。ここで2つの関連用語を紹介するので、ガバナンスとの違いを把握しておきましょう。
ガバナンス強化
ガバナンス強化とは、不正や不祥事を防ぐために、現在の管理体制を見直すことです。企業における不正は他企業への賄賂や独占禁止法に違反する行為、不祥事にはパワハラや情報漏洩などがあります。
内部統制が取れていない企業では、自社の売上を伸ばすために他社に賄賂を渡したり、社員に不要な残業を強いる、無理なノルマを課すといったパワハラが横行することもあります。不正や不祥事が明るみに出ると企業価値が一気に落ちるため、法に触れない、正しい経営を行っていくための仕組みを作らなければなりません。
ガバナンス強化によって企業が法に問われるリスクや、自社の重要な機密の漏洩を防げるため、現在のガバナンスでは不安が残るという方は強化することがおすすめです。
コーポレートガバナンス・コード
コーポレートガバナンス・コードとは、企業経営力を高めていくために、金融庁と東京証券取引所が共同で策定したガイドラインです。企業の資本生産性を高め、グローバル競争に勝てる強い経営力を身に着けることを目標に策定されました。
コーポレートガバナンス・コードは5つの原則から構成されています。
● 株主の権利と平等性の確保
● 共通の目標を持つ顧客や取引先などとの協力
● 情報開示と企業の透明性の確保
● 取締役会などの責務
● 株主との対話
5つの原則を、必ずしもすべて実施する必要はありません。実施しない原則について株主に理由を説明し、理解を得ることで自社のガイドラインから外すことが可能です。東京証券取引所では一部企業のコーポレートガバナンス・コードが公開されているので、他企業のガイドラインを参考にするのもひとつの方法でしょう。
ガバナンスと他の用語の違い
ガバナンスの意味を理解すると、コンプライアンスや内部統制と何が違うの?と疑問が出てくることもあるでしょう。ここでは、ほかの3つの用語との違いを解説します。
コンプライアンスとの違い
ガバナンスとコンプライアンスとの違いは、法令を守ることに特化しているかどうかです。それぞれの意味を見比べてみましょう。
● ガバナンス:法を守り、健全に経営してくための管理体制を整える取り組み
● コンプライアンス:法や規則を守りながら企業経営をしていく取り組み
どちらも法を遵守する点は共通していますが、コンプライアンスは法や規則を守って経営していくための取り組みです。つまり、コンプライアンスを徹底することでガバナンスの維持や強化につながります。健全な企業経営には、どちらも欠かせないと考えておきましょう。
リスクマネジメントとの違い
ガバナンスとリスクマネジメントとの違いは、リスク管理に特化しているかどうかです。それぞれの意味を見てみましょう。
● ガバナンス:法を守り、リスクを回避しながら健全に経営していくための管理体制を整える取り組み
● リスクマネジメント:想定される経営上のリスクを事前に把握・回避するための取り組み
前述したように、企業経営においてはさまざまなリスクがあります。他企業への賄賂や独占禁止法違反などの不正、パワハラやセクハラといった不祥事に加え、デジタル時代ならではの情報漏洩もリスクのひとつです。
経営上、想定されるリスクを想定して防止するための取り組みをリスクマネジメントといいます。リスクマネジメントを行うことで、ガバナンスの要素のひとつであるリスク回避を実現することが可能です。なお、個別のリスクの回避策を検討・立案・実施・改善することはリスクヘッジと言います。
内部統制との違い
ガバナンスと内部統制との違いは、対内的なものか、対外的なものかです。それぞれの意味を見てみましょう。
● ガバナンス:企業が健全な経営を実施するために、外部取締役による統治や株主への情報開示、ステークホルダーとの協働を行う取り組み
● 内部統制:企業が健全な経営を実施するために、全従業員が守るべきルール
ガバナンスは従業員や経営陣ではなく、外部の人による管理体制を整える取り組みです。その一方で、内部統制はリスクを回避しながら企業価値を高めるためのルールですから、対内的な取り組みといえます。
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ガバナンス強化の重要性
「現時点でもすでに管理体制を整えてはいるけれど、さらなる強化は必要?」とお悩みというケースも多いでしょう。ガバナンス強化によって得られるメリットは大変大きいため、この機会に体制を見直すことをおすすめします。ここでは、ガバナンス強化の重要性を解説します。
企業価値を高める
ガバナンス強化によって管理体制を徹底して整えれば、企業価値の向上を見込むことが可能です。企業の内部統制が取れていない、または経営陣が不公平な判断を行う企業は、経営上のリスクが多く、外部からの信用も失いかねません。
資本を投下してくれる株主からの信頼も失ってしまうため、株価の下落や資金調達ができないなどの大きな問題が発生するリスクが考えられるでしょう。しかし、ガバナンスの強化で企業内における不正・不祥事への対策を徹底したり、管理体制を厳重にしたりすることでリスク低下が可能です。さらに、株主からの評価まで高めることにもつながります。
外部からの信用を勝ち取ることは、企業価値を高めることにもつながります。内部統制実施と同時に、株主からの信用を失わないよう努めることも重要です。
社会的信用を向上させる
強化した内容を外部に公表することで、企業の透明性が確保できます。ガバナンスや管理体制を公表していない企業は、不透明で信用しにくい印象を受けます。
ガバナンス強化内容の公表だけでなく、コーポレートガバナンス・コードを適用していれば社会的な信用を勝ち取れるため、新規取引先からの評価向上や、求人時の優良人材獲得など、そのほかのメリットも得られるでしょう。
ガバナンス欠如による問題
管理体制を整えていない、または不十分である場合、いくつかの問題が発生する恐れがあります。ここで考えられるリスクを解説するので、管理体制が整っていないと感じている場合は参考にしてください。
不祥事の発生リスク
内部統制が取れていない企業は、不祥事の発生リスクが高まります。外部による管理体制が整っていなければ、経営陣による会社の私物化・パワハラやセクハラの横行・情報漏洩などを防ぎにくくなるためです。
何らかの不祥事が発生すれば、ニュースやSNSで取り上げられる恐れもあります。悪い情報は瞬く間に拡散されるため、株主だけでなく、一般の消費者からの信用も失いかねません。企業に対するネガティブな評判により、企業の評価が下がるリスクはレピュテーションリスクと呼ばれます。株主からの信用喪失は株の大量売却による株価下落や、一般消費者からは敬遠される可能性が高まり、売上の大幅減少もあり得るでしょう。経営陣の責任を問われ、最悪の場合は倒産の可能性もあるため、内部統制と外部による管理体制を整えることが大切です。
関連記事:レピュテーションリスクとは?意味や原因、事例を分かりやすく解説
市場競争力の低下
ガバナンスが欠如している企業は、不適切な企業運営や公正な判断がしにくくなるため、市場競争力が低下する恐れもあります。全国には数多くの企業があり、同業他社も複数存在するでしょう。同業他社に打ち勝つには、内部統制を図り、
公正な運営・判断ができる組織を形成することが重要です。
ガバナンスが効いていないと、事業でさまざまな問題が発生したり、経営陣が誤った判断を下して売上が減少したりする可能性もあります。
ガバナンスが効果を発揮していれば業務上のトラブルを回避し、一般消費者からの信用を得ることで利益の向上を見込めます。利益が向上すれば、一部を市場競争力向上への施策に投じることが可能です。事業のスムーズな運営・市場競争力の向上を図るためにも、ガバナンスの強化を検討しましょう。
ガバナンスを強化するには
ガバナンスを強化することが大切だとわかったけれど、何をすればいいかわからないとお悩みの方も多いでしょう。ここでは、ガバナンス強化のためにできる3つのことを紹介します。
社内規範の整理
まずは現時点での社内規範を整理してみましょう。社内規範とは、業務マニュアルや就業規則、組織構造などです。内容が不明瞭、または定めていない部分があると、従業員は何に従って働けばいいかわからなくなります。内部統制が取れず、不正や不祥事が起きやすくなるため、すべての項目が明確に定められているかを確認しましょう。
社内規範を整えれば全社員がルールに則って働けるため、不正や不祥事を防止できます。内部統制が取れていることを社外にもアピールできるため、企業の透明性も確保することが可能です。
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第三者の導入
社内規範を整理する際に、外部による管理体制も見直しましょう。これまで自社内でのみ監視・運営を行っていた企業は、第三者を導入することが重要です。外部による監視の目が入ることで、社員や経営陣が不正を行いにくくなるためです。
第三者を導入する際は、専門の人材を雇用しましょう。経営陣が適切な判断や運営をしているかどうかだけでなく、社内ルールに不備がないかもあわせてチェックしてくれます。社内の人間では気付きにくいポイントも、専門家が指摘してくれます。
教育・訓練の実施
社内規範策定後、第三者にチェックしてもらったのちに、全社員への周知を行いましょう。これまでの就業規則や業務マニュアルなどに変更がある場合は、教育・訓練実施がおすすめです。社員への周知後、部署別に講習会を開いて、社内規範を再度教育しましょう。
現時点での業務フローに問題がある場合は、社内での業務手続きを電子化するシステムの導入も検討してください。
たとえば、プロジェクトの立案から企画書を作成し、作成した企画書を他部署に行って承認を得る場合、社員に手間がかかります。しかし、企画書の作成から承認を得るまでを電子化すれば、クラウド上で業務フローが完結します。社員の手間を減らすことで生産性を高められるので、必要な場合は導入しましょう。
ガバナンス実践の成功事例
日本には、ガバナンスの実践によって成功を収めた事例がいくつもあります。ここでは、大手企業が実践し、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーを受賞した成功事例を紹介します。コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤーとは、成長戦略のひとつとして、日本企業の稼ぐ力を推進するためにコーポレートガバナンスを用いて、中長期的に健全な成長を遂げている企業を政府が後押しする取り組みです。
セイコーエプソン株式会社
セイコーエプソン株式会社は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指し、コーポレートガバナンスに取り組んでいます。具体的な取り組み内容は以下の通りです。
● 取締役10名のうち6名が独立社外取締役
● ガバナンス実現に向けた工夫をしている
● 社外取締役が中長期戦略の内容を閲覧できる
取締役の過半数が社外の人間であること、ガバナンス実現に向けてさまざまな工夫をしていることが評価され、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2023でWinner Companyを受賞しています。
ガバナンスを効かせるために工夫をしていることに加え、外部の人間が取締役に就任することで企業の透明性が確保されました。企業価値・社会的信用のどちらも高めている成功事例です。
参照:「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2023」の「Winner Company(入賞)」を受賞(セイコーエプソン株式会社)
味の素株式会社
味の素株式会社は、自社が抱える課題解決に向けたコーポレートガバナンスを策定しています。具体的な取り組み内容は以下の通りです。
● 取締役会や経営会議に外部識者を迎えている
● 法定3委員会の導入
● 取締役会議長・各委員長は独立社外取締役で運営
味の素株式会社は、自社の経営基本方針であるASV経営を強化しています。その教科内容のひとつが、コーポレートガバナンスの策定です。コーポレートガバナンスは多大な評価を受け、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2023でWinner Companyを受賞しています。
参照:味の素㈱、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2023「Winner Company」を受賞(味の素株式会社)
株式会社日立製作所
株式会社日立製作所は、健全で透明性の高い経営を実現するために、コーポレートガバナンスを重要課題のひとつと捉えています。具体的な取り組み内容は以下の通りです。
● 取締役会の外部メンバーは国籍・ジェンダー・スキルなどの多様性に富む
● 執行と監督の分離を支える取締役会のレベルの向上
● 同社の上場子会社への徹底した取り組み
日立製作所が取り組むコーポレートガバナンスのレベルは非常に高いとされ、コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2022でGrand Prize Companyを受賞しました。内部統制や第三者による監視、ステークホルダーとの対話など、企業価値を高めるための取り組みを実践しています。
参照:「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー®2022」で、 日立が「Grand Prize Company (大賞)」を受賞(株式会社日立製作所)
最新のガバナンス関連情報
日本では、企業が稼ぐ力を高めるためにさまざまな議論が行われています。経済産業省が立ち上げた『「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会』」では、日本企業の価値を高めるために会社法の改正などが話し合われているため、今後の動向に注目です。
ここでは、稼ぐ力を高めるために行われている会社法改正への動き、今後の展望を紹介します。
2025年注目の会社法改正関連動き
2024年に発足した『「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会』では、日本企業の価値を高めるための話し合いが行われています。それに伴い、会社法の改正や方向性も検討され始めました。検討されているのは以下の点です。
● 企業社員や子会社の役員へ株式を無償配布
● 株式を対価としたM&A
● 社債権者集会のバーチャル化
● 経営者のリスクテイクの後押し
● 実質株主の情報開示
● 株主総会のバーチャル化
● 株主提案権の改正
● 書面決議要件の緩和
上記の点は現行の会社法で定められていますが、企業価値を高めることにストップをかけている、経営者が大胆な成長戦略を実行できないといった問題点があります。また、対面での開催が基本とされている会議をバーチャル化することで、企業や株主、社債権者の負担を減らすころが可能です。
2025年5月時点では検討の段階ですが、今後上記の項目が見直され、会社法を大幅に改正する可能性もあるでしょう。改正に伴ってコーポレートガバナンスも改善していかなければならないので、会社法改正の動向を逐一確認することが大切です。
今後の展望
現在は、日本企業を取り巻く外部環境が変わり、グローバル競争も激化しています。日本企業の価値を高め、国内だけでなく、世界の企業と渡り合うためには、企業の稼ぐ力を高めていかなければなりません。
先ほど紹介した会社法改正にあたって議論されているポイントが変われば、経営者は大胆な成長戦略に踏み切れます。会社経営において重要な存在である株主との対話の実質化・効率化を図ることで、社会的価値・企業価値もどんどん高まっていくでしょう。
まとめ
ガバナンスとは、不正や不祥事を防ぎ、企業が健全に経営していくために必要な管理体制です。企業で使う場合は対内的なものを内部統制、対外的なものをコーポレートガバナンスといいます。
ガバナンスがない、または欠如している企業は不正や不祥事が起きやすく、社会的価値も低くなります。反対に、ガバナンスの効いている企業は企業価値を高め、株主やステークホルダーなどの外部からも信頼されるため、稼ぐ力を高めていけるでしょう。
コーポレートガバナンスを策定する際は、経営陣だけでなく、外部の専門家からも意見をもらうことが重要です。抜けのない完璧な管理体制を整えることで企業価値が高まり、市場競争で優位に立てるのです。