マーケットインとは、市場や顧客のニーズを出発点として商品やサービスを開発する方法を指します。競争が激しい現代市場において、売れる商品をつくるために欠かせない考え方であり、マーケティングや企画、経営戦略に携わるすべての人にとっての基礎知識です。
本記事では、マーケットインの概要や対義語となるプロダクトアウトとの違いを明確にしながら、それぞれのメリット・デメリットを整理してわかりやすく解説します。
関連インタビュー:【後編】「マーケットイン」で稼ぐトリニティが「プロダクトアウト」の製品開発を大切にする納得理由
目次
マーケットインとは?
マーケットイン(Market In)とは、顧客や市場のニーズを起点に商品やサービスを企画・開発する考え方です。
顧客の声に耳を傾け、その期待に応える形で価値を提供するという「顧客志向」の姿勢であり、現代のビジネスにおける基本姿勢とされています。
マーケットインとプロダクトアウトの違い
プロダクトアウトとは、会社の技術力や理念を出発点とし、「自分たちが良いと思うものを世に出す」アプローチです。これにより革新的な製品が生まれることもありますが、市場とのズレが生じるリスクも伴います。
以下は両者の主な違いです。
観点 | マーケットイン | プロダクトアウト |
発想の起点 | 顧客ニーズ | 自社技術・信念 |
開発プロセス | 顧客の声を分析して設計 | 自社の強みを活かして設計 |
向いている市場 | 競争が激しい・ニーズ多様 | 技術革新が鍵・未成熟市場 |
成功の鍵 | 顧客理解と仮説検証 | 独自性と実行力 |
▼なお、両者の詳細な比較や事例については、以下の別記事でさらに深掘りしています。
マーケットインとプロダクトアウトとは? 意味や違い、メリット・デメリットを解説
なぜ今、マーケットインが重要なのか?
ここでは、マーケットインの重要性が高まっている理由を深掘りします。
顧客主導の時代への変化
現代は顧客が自ら情報を集め、比較・判断する時代です。家電やBtoBの製品やサービスも、価格やレビュー、導入事例などを見たうえで、自分にとって最適な選択がなされます。
現代では、企業主導や企業の都合で作って売るプロダクトアウト型のやり方が場面によっては通用しにくくなっています。だからこそ、顧客ニーズを起点に設計するマーケットインの姿勢が重要なのです。
プロダクトアウトの限界とリスク
自社の技術や独自性を極めることは重要ですが、データに基づかない過信のまま進めると「誰の課題を解決するのか」という視点を失い、プロダクトアウトの罠に陥ってしまいます。
また、顧客の声を取り入れない体制を続けると、改善の機会を逃し、市場とのズレに気づけないリスクもあります。
だからこそ、独自性を活かしつつも、顧客視点で考えるマーケットインの思考が不可欠です。
カスタマージャーニーとの関係性
カスタマージャーニーとは、顧客が認知から購入・利用・再購入に至るまでの行動と心理を時系列で可視化するフレームです。
この流れを無視して商品を設計すると、意思決定に寄り添わない自己完結型のプロダクトになる傾向にあります。
購買の流れを線で捉え、「どこでつまずき、何を感じるか」を理解することが実効性のある施策につながるのです。
▼カスタマージャーニーについては、こちらの記事で基礎から詳しく解説しています。
カスタマージャーニーの基礎┃概念やマップの作り方、メリットまでわかりやすく解説
カスタマージャーニーマップテンプレート集
・【テンプレート無料配布】カスタマージャーニーマップをパワーポイント(PPTX)で作ろう
・採用マーケティング施策とタイミングがわかる!採用ジャーニーマップ新卒版・中途版(無料PPTXテンプレート)
マーケットインのメリット
マーケットインのメリットを解説します。
顧客ニーズに合致した商品・サービスを提供できる
マーケットインの最大のメリットは、顧客に選ばれる商品を開発できることです。顧客の課題解決を目的としているため、顧客は納得して選択してくれるでしょう。
また、営業やマーケティングでも提案の説得力が増し、成約率や営業効率の向上を促す好循環が生まれます。
無駄な開発やリニューアルを防げる
自社の都合だけで設計すると、実際には求められていない機能やスペックが増え、コストや市場とのズレを招きます。
マーケットインでは、顧客の声を初期から反映し、課題にもとづいた設計を行うため、過不足のない機能で無駄なリニューアルも減らせます。
ファン顧客を獲得しやすくなる
マーケットインは、顧客の声を製品に反映するため、顧客に「これは自分のための製品」と感じてもらい、ファン化を促します。
共感や愛着を持つ顧客は、継続利用や紹介でLTVを高めるだけでなく、SNSやレビューを通じて新たな顧客も引き寄せてくれます。
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▼顧客からの信頼・愛着から生まれる「ロイヤリティ」については、以下の記事で深掘り解説を行っています。
現代のマーケティングで重要ポイントとなる「ロイヤリティ」とは? 具体的な戦略・成功事例とともに解説
口コミや紹介が生まれやすい
顧客視点の商品は、「語りたくなる体験」を生み、自然な口コミや紹介、いわゆるUGC(ユーザー生成コンテンツ)につながります。
なぜなら、顧客は課題に真摯に向き合ってくれたという共感を得るためです。これは広告にはない信頼と共感に支えられた強力なマーケティング手法となります。
口コミが広がれば、製品マーケティングは自走を始め、ユーザーが自らブランドの発信者となっていきます。
▼UGCについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
UGCとは?今注目されている理由と具体的な手法を徹底解説
長期的な競争力につながる
マーケットインの本質的な価値は、売上ではなく長期的な競争力にあります。顧客視点を企業文化として定着させることで、市場の変化にも柔軟かつ迅速に対応できる体制が築かれます。
また、予測が難しい現代では、仮説検証と即時修正のサイクルが不可欠です。マーケットインを実践する企業は、顧客の声を基に素早く対応できる変化に強い風土を持ち、意思決定も顧客基点で行われます。結果的に、長期的な競争力へとつながるのです。
▼PDCAサイクルについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
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マーケットインのデメリット
ここでは、マーケットインのデメリットを見ていきましょう。
顧客の声に振り回されるリスク
マーケットインで陥りやすいのが、顧客の声をすべて鵜呑みにすることです。顧客の声はとても重要ですが、過剰に反映するとプロダクトの軸やコンセプトがぶれてしまいます。
重要なのは、要望の背後にある本質的な課題を見極めることです。すべてに応えるのではなく、一度仮説として捉え、検討・検証を経て判断するようにしましょう。
▼「コンセプト」についての考え方や必要性はこちらの記事で詳しく解説しています。
コンセプト(concept)の意味ってなに?なぜ必要なのか含め解説します
差別化が難しくなる可能性
マーケットインは顧客ニーズに応える有効な手法ですが、独自性がなくなるリスクがあります。他社も同じように顧客の声をもとに開発するため、機能や価格が似通い、差別化が難しくなるのです。
このジレンマを避けるには、顧客ニーズに応えつつ、自社らしいこだわりや強みを明確に保つことが重要です。
▼自社のこだわりや強みを効果的に押し出す「ブランディング」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
現代の企業にとって最重要となる「ブランディング」を徹底解説! おすすめの施策や成功事例なども紹介
イノベーションが生まれにくくなる
イノベーションとは、顧客の潜在的な課題や未来の体験を見すえたプロダクトアウト型の発想から生まれます。
すでに顧客が自覚する課題を参考にするマーケットイン思考では、革新的な製品の創出が困難です。
▼イノベーションについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
イノベーションとは?意味や種類、事例を簡単に
短期的ニーズに偏りがちになる
マーケットインは「今この瞬間の顧客ニーズ」に迅速に応える点で有効ですが、その反面、中長期的な視点や本質的な提供価値とのバランスを欠くと、短期志向に陥るリスクがあります。
社内の合意形成・判断に時間がかかる
マーケットインの実行では、部門間の認識のズレや情報共有の難しさが障壁となります。特に大企業では、部門間のKPIや価値観が異なり、顧客の声をどう扱うかで足並みが乱れやすくなるでしょう。
また、定性・定量データを文脈ごとに正しく伝える仕組みがなければ、現場の声も経営判断に活かされず、実行力が失われるリスクがあります。
▼「定性・定量」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
マーケティングリサーチの「定量調査」と「定性調査」の違いを解説
マーケットインを実現する5つのステップ
ここでは、マーケットインを実現する5つのステップを見ていきましょう。
STEP1: 顧客ニーズ・市場調査
マーケットインの基本は、深い顧客理解です。すでに取引関係にある既存の顧客だけでなく、離反顧客や休眠顧客、まだ顧客ではない潜在顧客も含めた市場全体の声を、定量と定性の両面から丁寧に把握しましょう。
定量調査で傾向を掴み、定性調査で背景や本音を探る。この両方のアプローチによって、数値では見えない課題や期待が明らかになります。
STEP2:セグメンテーションとターゲティング
顧客の声を収集・整理した後は、ターゲットを明確化します。
まず市場をニーズや業種、規模などで細分化(セグメンテーション)し、価値を届けられるターゲット層を見極めます。このとき重要なのは、「なぜ選ばれるか」「なぜ選ばれないか」を明確にすることです。
全方位に対応するよりも、特定の層に深く刺さる設計が共感と信頼を生みます。さらに、ターゲットごとに具体的なペルソナを描くことで、機能設計やメッセージも一貫性を持たせられます。
▼ニーズごとに顧客層を分けて考える「セグメンテーション」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
セグメンテーションの把握が多角的なマーケティングを構築する
「ペルソナ」のテンプレート集
・【無料】売れる商品・サービス作りに欠かせない「ペルソナ・テンプレート」で顧客理解を深めよう
・採用マーケティング担当者必見!「採用ペルソナ」の作り方×無料パワーポイントテンプレート
・ペルソナ設定・作成ができる無料パワポテンプレート(BtoBマーケティング用)
STEP3: 顧客課題に基づいた企画・設計
顧客の声をもとに構想を具体化する際は、表面的な要望ではなく、その背後にある本質的な課題を見極めなければいけません。
たとえば「操作が難しい」の裏には、時間効率やミスへの不安といった心理が隠れている場合があります。
また、設計の軸は機能そのものではなく、それによって顧客にもたらされる成果や変化に価値を置きましょう。
STEP4:テストマーケティングで仮説検証
どれだけ入念に設計しても、予想通りの反応を得られないケースの方が多いです。
そのため、企画段階の仮説は定量・定性の両面からテストで検証する必要があります。
営業現場での試験提案や広告のA/Bテストなど、小規模かつスピーディな検証を実施しましょう。
価格反応や導入障壁など、明確な検証目的を持つことでデータの解釈も精度が増します。
▼テストマーケティングについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
テストマーケティングとは?行う目的や方法を解説!
5. リリース後のフィードバック活用
実際の利用を通じて初めて見える課題や期待があるため、リリース後のフィードバック活用が重要です。
アンケートやサポート対応に加え、利用ログやNPS、SNSの声などを定量・定性の両面から分析し、課題の真因を見極めましょう。
集めた情報は全社で共有し、改善へつなげる仕組みが必要です。
また、ユーザー座談会やベータテストを通じて顧客を巻き込むことで、信頼やLTV向上にもつながります。
マーケットインの導入に役立つフレームワーク
ここでは、マーケットインに役立つフレームワークをご紹介します。
STP分析
STP分析とは、「市場の細分化(Segmentation)」「対象の選定(Targeting)」「価値の明確化(Positioning)」を行うフレームワークです。
マーケットインを実践するうえで、「誰に」「何を」「どう届けるか」を明確に設計し、自社の強みが活きる顧客層に集中することで、競合との差別化や施策の一貫性を実現します。
▼STP分析については以下の記事で深掘り解説を行っています。
STP分析のすべて┃メリット、やり方、活用事例、注意点まで解説
3C分析
3C分析は「顧客」「競合」「自社」の3視点から戦略を設計するフレームワークで、マーケットインとの相性が良いフレームワークです。
顧客ニーズ、競合との差、自社の強みを整理し、自社が選ばれる理由=独自優位性を論理的に導き出せます。
この3つが重なる領域が競争優位の源であり、企画や事業判断の基盤になるのです。
▼3C分析については以下の記事で深掘り解説を行っています。
3C分析とは?やり方や手順、テンプレートも紹介
カスタマージャーニーマップ
カスタマージャーニーマップは、顧客の行動や感情を時系列で整理し、購入から継続利用までの流れを可視化するツールです。
マーケットインを実践するうえで、顧客を「点」ではなく「線」で理解するために不可欠です。
BtoBでは、各フェーズにおける関与者や障壁が複雑になるため、情報や支援の最適なタイミングを把握するのに有効です。
また、部門間での顧客理解を統一し、施策設計の共通基盤として活用できます。
▼カスタマージャーニーについては、こちらの記事で基礎から詳しく解説しています。
カスタマージャーニーの基礎┃概念やマップの作り方、メリットまでわかりやすく解説
マーケットイン導入時の注意点
マーケットイン導入時の注意点をご紹介します。
顧客の声=本質的ニーズとは限らない
顧客の声を真に受けるのではなく、「なぜそう言ったのか」という背景や文脈を読み解くことが重要です。なぜなら、顧客自身も本当に欲しいものがわかっていないケースが多々あるためです。
表面的な要望ではなく、本質的な課題に基づく仮説を立てて検証することが、マーケットイン成功の鍵となります。
ニーズを鵜呑みにせず仮説検証する
顧客の声は参考情報であり、必ずしも正解ではありません。要望の背景や意図を検証せずに機能を追加しても、使われないことがあります。
重要なのは、仮説を立ててユーザーテストやA/Bテストで検証し、発言と実際の行動のズレを見極めることです。
短期的満足と長期的価値のバランス
顧客の声に応えることは重要ですが、短期的な要望に過剰に反応すると、長期的な価値やブランドが損なわれるリスクがあります。
「今の声」と「未来のビジョン」を両軸で捉え、バランスの取れた判断がマーケットインを戦略として成立させます。
マーケットインと相性の良い企業文化とは?
マーケットインと相性の良い企業文化をご紹介します。
心理的安全性のある職場
マーケットインの根幹を担うのは、心理的安全性のある職場です。安心して現場の声や仮説を出せる環境がなければ、顧客の課題は組織に届きません。否定されずに話せる文化があってこそ、大きな価値へとつながります。
▼心理的安全性についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
チームのパフォーマンスを高める上で重要な心理的安全性(Psychological Safety)を解説
現場発信を重視する文化
マーケットインを根づかせるには、現場の声が意思決定に反映される文化が欠かせません。
営業やサポートは顧客課題の最前線におり、その気づきを活かせなければ施策はズレます。
発言が歓迎され、実際に活かされる環境こそが、顧客中心の改善サイクルを生み出します。
▼以下記事では、マーケティングにおける顧客へのコミュニケーションのズレを「現場目線の重視」で解消した好例を詳しくご覧いただけます。
第5回 BtoBマーケティングとは「組織デザイン」である【LINEヤフー宮村壮 連載】
共創型のプロセスを推進できる環境
マーケットインを一歩進めるには、顧客をパートナーと認識する姿勢が大事です。
声をただ受け取るのではなく、開発や改善に顧客を巻き込み、ともに価値を育てることで、共感性の高い体験が生まれます。
▼「共創」という考え方が重要となっている背景、考え方などについてはこちらの記事をぜひご覧ください。
VUCA時代とは?ビジネスで広がる共創の概念。なぜ必要とされているのか?
マーケットインで市場に選ばれる企業へ
マーケットインとは、顧客ニーズを起点に価値を設計する企業姿勢であり、単なるマーケティング手法ではなく、全社で取り組む競争力の源です。
仮説・検証を重ねるサイクルを継続することが、選ばれる企業への近道になります。
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