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エイチームにおけるCX・DXへの取り組みとその道のり|エイチーム連載第5回

2024.4.8
読了まで約 7

株式会社エイチームのマーケティング戦略を担う社員が登場し、自社の強みや、独自のマーケティングについて語ってもらう本連載。最終回となる5回目は、CX(顧客体験)推進を主導する担当者が、エイチームで実施しているCX・DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の戦略や手法、事例などを解説する。

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エイチームライフデザインの立ち上げと、CX専任チーム立ち上げの経緯

株式会社エイチームライフデザインは2022年2月1日の組織統合及び事業再編により発足しました。それ以前は、エイチームのライフスタイルサポート事業の各サービス(引越し侍・ハナユメ・ナビクル…etc)を、各子会社にてサービス運営を行なっていましたが、これらの事業運営を一つの会社に統合した形となります。

これまでのライフスタイルサポート事業の各サービスでは、ユーザーは単発で当該サービスを利用することが主でしたが、事業運営を統合することで、一人のユーザーに対してサービスを横断でサポートする体制に移行しました。

これにより、日常生活に密着した様々なシーンにおいて継続的にユーザーの皆さまに付加価値を提供するとともに、弊社のビジネスとしては、継続顧客の積み上げによるストック収益比率の拡大にながり、そして一人当たりの収益性が高まるため、高利益体質の事業運営を行うことができます。

こうしたビジネスの遂行のために、サービス横断での顧客体験(CX)を形成し、サービス利用者の方々に「引き続き弊社のサービスを利用したい」と感じていただくことが必須です。この顧客体験(CX)を生み出すためにCX専任チームが発足しました。

顧客体験(CX)形成に必要な「統合基盤」の構築

CX専任チームが最初に着手したことは「統合基盤」の構築です。サービスを横断した顧客体験を形成するためには、顧客データの統合が必要です。顧客データが統合されていない状態で接客を行なった場合、せっかく横断してサービス利用してくれたお客様に対して断片的な応対を行うことになり、結果的に良い体験を生み出すことはできないでしょう。

一つ具体的な事例を挙げます。例えば結婚式場の比較サイトを利用中のお客様がどの式場で挙式を行うかを検討すると同時に、新居にお住まいのための引越しの検討を行われており、同じく弊社が運営する引越し業者の比較サイトを利用したとします。その際に、それぞれのサービス担当者間で情報が正しく連携・共有されており「先日は弊社式場比較サイトのご利用ありがとうございます!」と声をかけてもらえたらやはり嬉しいものです。

逆にそれぞれのサービスで個人情報が取得され、本人確認もサービス毎、情報連携もされておらず同じ弊社のサービスを利用したにもかかわらずあたかも新規ユーザーのような扱いをされたらどうでしょう?「同じ会社が運営しているサービスなのだから、ちゃんと情報を連携してよ!」という不満を感じる方も多いのではないでしょうか。

しかし、これまで各子会社にてそれぞれ運営していたサービスは、各職能の業務フロー利用・利用しているシステム・データ蓄積方法など個別に設計・構築されており、運用方法もバラバラの状態でした。まずはここを統合しないことには、顧客体験を生み出すために必要な行動がサービス毎に個別に最適化されてしまい、非効率になることは明白であったため、顧客体験価値を生み出すための初手として「統合基盤の構築」に着手した形となります。

また、統合基盤を構築することの効果としてDX効果も生まれます。統合すべき対象には当然「データ」も含まれるため、これまでサービス毎に個別管理されていたデータが統合されることでデータの利活用が進み、さらにはその先にあるデジタルトランスフォーメーションの実現が可能となります。

統合基盤構築に必要不可欠な「取引先」情報の統合

弊社のビジネスモデルは基本的に全てBtoBtoCのビジネスモデルです。弊社のサービスにて申し込みが行われた後、取引先に送客を行います。そして送客の後、取引先にて接客・クロージングを行なっていただく流れとなります。

画像:BtoBtoCのビジネスモデル

<BtoBtoCのビジネスモデル>

結婚式場の比較サービス「ハナユメ」を例に取ります。「ハナユメ」から情報登録を行うと、まずは弊社スタッフにてご希望のヒアリングを行い、お客様のご希望に最もマッチした式場のご紹介を行います。Web会議やお電話にてヒアリングするケースもあれば、各地に用意しているハナユメウェディングデスクにお越しいただいて、式場の動画や写真を見ていただきながらご案内も行なっています。ご案内後は弊社取引先である式場を見学いただき、挙式を実施する式場と直接ご契約いただく流れになります。

このようにお客様と取引先をマッチングするBtoBtoCのサービスを長く行ってきた中で、弊社はサービス理念である「三方よし」の要素がとても重要だと捉えています。お客様・取引先・弊社の三方が満足することで、ビジネスは初めて成立するという考え方です。つまり、サービスの利用に対して温度感の高い顧客(=優良顧客)を送客することで取引先に満足してもらうことも重要な要素です。その結果、弊社のサービスを利用したお客様は総合的に良い体験を得られると考えています。

これらを実現するために我々は、取引先の情報も統合基盤に加えるべきだと判断しました。各サービスでお取引のある取引先がどのような顧客を送客して欲しいのか、どんなサービスを提供しているのか。そして、取引先と商談を行う営業チームの活動状況やそこから得られる情報も統合し、お客様にご紹介する際に活用することで、総合的な顧客体験価値を生み出すことが可能となると考えています。

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「統合基盤」構築の手法

これまでに述べたとおり、統合基盤の構築にて実現したいことは、業務フロー・システム・データの統合です。これらを実現するための手法として着目したのが、世界的トップシェアを誇る顧客管理(CRMプラットフォーム「Salesforce」の導入でした。

統合基盤構築を開始した当初、特に業務フローの統一を行うにあたってその最適解を持っていませんでした。そこで、世界的にトップシェアを誇るSalesforceを導入し、提唱された業務フロー(=既に完成したベストプラクティス)に乗ることで、素早く導入ができると考えたのです。

また、データ基盤を構築するにあたり、多くのノーコードツールが画面構成を軸に設計されているのに対し、Salesforceはデータを軸に仕組みを構築できる設計方針を取っていたことも採用の理由です。画面構成を軸にデータ設計を行うと蓄積されるデータは煩雑になりやすいです。特に長くサービスを運用していくとシステムや画面の増改築が繰り返され、後付けのデータが徐々に増え、より煩雑で活用しづらいデータが蓄積されてしまう結果になります。その点、データを軸に仕組みを構築することで、データの整合性が保たれその後の活用が捗ります。

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顧客体験(CX)形成に向けて立ちはだかった壁

しかし、統合基盤の構築を着々と進めていく中で大きな壁が立ちはだかります。それは、それは、弊社が保有するサービスラインナップが少ないことにより、ユーザーは単発的な利用にとどまってしまい、長期的な顧客設定を作り出せず、LTVの最大化が難しいという点です。

ひとつ、分かりやすい事例を挙げます。弊社サービスにお墓や霊園の比較サイトがあります。お墓探しや墓じまい、葬儀、終活を検討されている方向けのサイトでゆりかごから墓場までをトータルでサポートすることを目的に立ち上がったサービスとなります。今のデジタル世代が徐々に年齢を重ねていく中で価値を発揮していくサービスです。

ただ、同じ弊社サービスである結婚式場比較サイトを利用したユーザーが、お墓・霊園の比較サイトを使うのは果たして何年後でしょうか?日本人の平均結婚年齢は男性が31.0歳、女性が29.4歳(※1)。平均寿命は男性が81.56歳、女性が87.71歳(※1)と言われており、その期間は凡そ50年〜60年ほどとなります。この期間を補う体験価値を生み出すのは相当な期間と実績が必要になるでしょう。

(※1)コラム1 平均値と最頻値考察~「平均初婚年齢」と「初婚年齢の最頻値」の間には3歳から4歳の差~ | 内閣府男女共同参画局より。令和2年集計データ

上記は非常に極端な事例ですが、現在弊社が保有している他サービスからして、時間軸の距離の遠さが課題になるのです。

また、当社は取引先にご紹介した時点で料金をいただくビジネスモデルを採用しているため、サブスクリプションのような継続的な料金体系のサービスが存在しない点も課題でした。どれだけ一生涯のライフイベントごとに良質な顧客体験を生み出しても、そのメリットを弊社の利益として享受するには頻度が少なく、また時間もかかります。そして、この課題を解決するためにはサービスのラインナップを増やすことが重要ですが、一朝一夕で実現できるものでもないため、今の時点で顧客体験を作り出すメリットは薄れてしまったのです。

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将来の顧客体験(CX)を形成するための現在地 〜社内DXの推進〜

前項の課題を解決するために、最も効果的な対策はサービスラインナップを増やすことですが、新規サービスの立ち上げにはリスクも伴いますし、事業が軌道に乗るまでには一定の時間が必要です。

そこで我々は、将来の顧客体験(CX)を生み出すための統合基盤作りと統合基盤を“有効活用”するための社内DXに注力しています。幸いにも、Salesforceの導入とそこで登録されたデータは徐々に蓄積されていましたし、これらのデータを活用する動きを進めることは容易でした。また、DXにより事業に対して直接的なメリットを生み出すことも可能だと考えました。そして、このアプローチは元々CX専任チームを立ち上げた当初から想定していたものであったため、大きな軌道変更を行うことなくなく活動を継続させることができたのです。

DXとIT化の決定的な違いは、デジタル技術を活用して業務プロセスの改革や製品・サービスの変革を行うかどうかです。単に業務効率化や改善による工数削減効果を狙うだけであれば単にIT化(デジタライゼーション)に止まりますが、業務フローの刷新等の大きな改革を伴って初めてDX(デジタルトランストランスフォーメーション)と言えます。

画像:IT化とDXの違い

<IT化とDXの違い>

その点、SFAとして優れているSalesforceの存在とそこから蓄積された各種データの活用、Salesforceが提唱するベストプラクティスに乗ることで生まれた、営業チームに対しての業務改革は進んでおり、成功事例もいくつか生まれています。

関連リンク:DX化とは?DX(デジタルトランスフォーメーション)の意味やIT化との違いを解説

具体的なDX成功事例

では、営業活動に関するDXの具体的な成功事例をご紹介します。

まずは、営業オペレーションの共通化です。これまでサービスごと個別で行われていた営業活動は、共通のルールや指標が存在せず、最適化されていませんでした。

営業活動を行う中で、弊社サービスにご満足いただいている取引先と、競合他社と比較し、弊社サービスに対して改善要望をもつ取引先など関係性の深さの違いが存在します。この「取引先との関係性(エンゲージメント)」の情報を全サービスでSalesforce上に集約・可視化を行いました。そして営業メンバーはこの情報をもとにアクションを行う業務フローに変更し、取引先に対して適切にアプローチを行うこと、つまりは効率的で顧客満足につながる営業活動が行えるようになったのです。

また、この指標を全マネージャーが見ることにより、迅速な意思決定につなげることにも成功しています。さらには指標をメンバーも確認できるようにすることで活動基準が明確になり、マネージャレスな組織構築につなげることも意識しています。

また、この試みは人材の流動性を高める効果もあります。弊社には多くのサービスが存在しており、それぞれ担当する営業メンバーが存在しますし、時には人員の配置転換も行われます。情報の粒度が揃い、オペレーションが共通化されていないと、配置転換を行った際に取引先の情報や業界知識・業務フローを一からインプットする必要があります。時に取引先の方に改めて教えていただく、という事態も発生してしまいます。情報が共有され、業務フローが統一されていれば、インプットに要する工数は単純に半分に削減できます。これは1社で複数のサービスを運営している弊社のような企業では大きなメリットとなります。

これらの効果は統合基盤を構築したことによって生まれた効果であり、さらには統合基盤を活用して業務プロセスの改革を行ったことによる効果だと実感しています。

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今後の展望

これまでに述べたとおり、我々のCXに対しての試みはまだまだ道半ばです。ただ、DXでの価値は生まれつつあります。今後はここで得た知見やノウハウ、成功事例・成功体験を活かすべく、更なる未来につなげていくために、営業チーム以外にもこれら事例の横展開を進めていくこと、そのための統合基盤の構築と拡充を行うことで、その先にある顧客体験(CX)を生み出すことに繋げていきたいと考えています。

そしてそのアプローチは、2022年2月にエイチームライフデザインが発足時に掲げた、お客様に弊社のサービスを横断で利用していただくこと、ストック収益比率の拡大、一人当たり利益の高い事業運営を行うことに帰着することになると信じています。

執筆者

岸 敬介(きし けいすけ)

株式会社エイチームライフデザイン CX推進室 室長

SIerでの開発や社内SEを経験後、2016年に株式会社引越し侍(現エイチームライフデザイン)にエンジニアとして中途入社。入社後はサービス開発やカスタマー部門のCRMシステムの開発部門長を経験。2022年エイチームライフデザイン発足後、カスタマー部門の部長職、エンジニア部門の部職職にて組織マネージメントを実施。2024年2月よりCX推進室 室長を拝命。

※プロフィールに記載された所属、肩書き等の情報は、取材・執筆・公開時点のものです

監修者

古宮 大志

古宮 大志

ProFuture株式会社 取締役 マーケティングソリューション部 部長
大手インターネット関連サービス/大手鉄鋼メーカーの営業・マーケティング職を経て、ProFuture株式会社にジョイン。これまでの経験で蓄積したノウハウを活かし、クライアントのオウンドメディアの構築・運用支援やマーケティング戦略、新規事業の立案や戦略を担当。Webマーケティングはもちろん、SEOやデジタル技術の知見など、あらゆる分野に精通し、日々情報のアップデートに邁進している。

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