マーケティング分野において、「ニーズ」という言葉は非常に重要な概念です。多くのマーケティング担当者が日常的に使用していますが、その正確な意味や関連する概念との違いを明確に説明できる人は意外と少ないかもしれません。
効果的なマーケティング戦略を立案し、実行するためには、ニーズの本質を正確に理解することが不可欠です。そこで本記事では、ニーズの定義を詳しく解説するとともに、ニーズの種類について詳細に説明します。さらに、ニーズと混同されやすい「ウォンツ」や「シーズ」との違いについても、わかりやすく解説していきます。
これらの概念を正確に理解することで、顧客の真のニーズを把握し、より効果的なマーケティング活動を展開することができるようになるでしょう。ぜひ、本記事を通じてニーズに関する理解を深め、マーケティング戦略の立案や実行に役立ててください。
目次
ニーズとは
ニーズ(needs)とは、端的に言えば「欲求」です。
「マーケティングの神様」と称されるアメリカの経済学者フィリップ・コトラーは、ニーズについて「人が生活するうえで必要な充足感が満たされていない状態」を指す言葉と定義づけしています。この定義は、「欲求が生じている状態」と言い換えることができます。
一般的に、「顧客ニーズ」という言葉は「顧客が抱く欲求」を指します。ただし、顧客ニーズは顧客の全ての欲求を意味するわけではありません。ニーズの語源である「need」の主な意味が「必要」であることからも分かるように、顧客ニーズは「顧客にとって必要性が高い欲求」を指します。
例えば、「車で旅行をしてみたい」といった軽微な欲求は顧客ニーズとは呼べません。一方、「勤務先が公共交通機関を利用できない場所にあるため、車で通勤しなければならない」といった、顧客が強く解決を求める欲求が顧客ニーズに該当します。
顧客ニーズを正確に把握することは、効果的なマーケティング戦略を立案し実行するうえで非常に重要です。顧客のニーズを深く理解することで、より的確な商品やサービスの開発、効果的なプロモーション活動が可能となり、結果として顧客満足度の向上や売上の増加につながります。
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ニーズの種類
顧客のニーズは、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の2種類に大別されます。これらのニーズを適切に区別し、把握することは、効果的なマーケティング戦略を立案・実行する上で極めて重要です。的確な施策を展開するためには、両者の特徴や違いを十分に理解し、それぞれに適したアプローチを選択することが不可欠です。以下では、顕在ニーズと潜在ニーズについて、その定義や特徴、把握方法などを詳しく解説していきます。これらの知識を深めることで、より精緻な顧客理解と、それに基づいた戦略立案が可能になるでしょう。
顕在ニーズ
顕在ニーズとは、顧客自身が自覚しているニーズを指す言葉です。顧客が明確に認識し、言語化できる欲求や要望のことを意味します。
たとえば、「ウォーターサーバーが欲しい」と話す顧客がいたとします。この顧客にウォーターサーバーが欲しい理由を尋ねてみると、「いちいちお湯を沸かす手間を省きたい」「赤ちゃんにきれいで安全な水でミルクを作ってあげたい」など、さまざまな具体的な答えが返ってくるでしょう。
このように、顧客に少し質問するだけで容易に聞き出せるのが、顕在ニーズの特徴です。顧客自身が明確に認識している欲求であるため、直接的な質問や簡単な会話を通じて把握することができます。
なお、顕在ニーズは以下のように質問を重ねていくことで深掘りできます。会話を通じて、より具体的で詳細な顧客のニーズを明らかにすることが可能です。
店員:なぜ、ウォーターサーバーの購入をお考えなのですか?
顧客:毎日きれいな水を飲みたいと思ったので。
店員:きれいな水を飲みたいと思いはじめたきっかけはありますか?
顧客:最近体調が優れなくて、知人に相談したら水から変えてみればと言われたので。
店員:差し支えなければ、お体のどのような点が気になっているか教えていただけますか?
顧客:お通じがあまり良くなくて、何とかならないかと悩んでいます。
多くの顧客から顕在ニーズを聞き取れば、顧客の共感を呼ぶ訴求力の高いマーケティングができるようになります。顧客が自覚している欲求に直接アプローチできるため、効果的な商品開発やプロモーション戦略の立案に役立ちます。
しかし、顧客一人ひとりと対話を重ね、顕在ニーズをつぶさに聞き取っていくことは、時間と労力の観点から現実的ではないでしょう。そのため、より効率的に多くの顧客の顕在ニーズを把握するための方法が求められています。
アンケート
アンケートを実施すれば、多くの顧客の顕在ニーズを容易に把握できます。特に、インターネットを通じてアンケートを実施すれば、直接会うことが叶わない顧客の声も拾うことができるため、おすすめです。
なお、アンケート調査サービスやクラウドソーシングサイトなどを活用すれば、集計の手間も最小限に抑えられます。また、性別や年齢、居住地域などの属性ごとに顧客の顕在ニーズを把握できる点も、特筆に値するでしょう。
アンケートの設計時には、回答者の負担を考慮しつつ、的確な質問項目を設定することが重要です。選択式と記述式を適切に組み合わせることで、より詳細な顕在ニーズを捉えることができます。さらに、定期的にアンケートを実施することで、時間の経過による顧客ニーズの変化も把握することが可能となります。
ソーシャルリスニング
ソーシャルリスニングとは、顧客がTwitterやInstagramなどのSNS上で発信している情報を収集し、分析する調査手法です。企業が直接質問してもなかなか聞き出すことができない顧客の本音を知ることができるということで、今注目を集めています。
ソーシャルリスニングを行えば、顕在ニーズのみならず、ブランドイメージやトレンドなども把握できます。ソーシャルリスニングツールを活用すれば、より効率的に顧客の顕在ニーズを集められるでしょう。また、リアルタイムで顧客の声を拾えるため、急速に変化する市場動向にも素早く対応することが可能となります。さらに、競合他社の評判や製品に対する反応も同時に分析できるため、自社の戦略立案に活用することができます。
潜在ニーズ
潜在ニーズとは、顧客自身が自覚できていないニーズや、うまく言い表せないニーズを指す言葉です。
例えば、家づくりの際に「多くの衣類を収納できるよう、ウォークインクローゼットが欲しい」と話す顧客がいたとします。この顧客の顕在ニーズは「多くの衣類を収納したい」ということになります。しかし、言葉には出さずとも、実際には「衣類のみならず、大切なコレクションや金庫なども置きたい」「クローゼット内で一通りの身支度をしたい」「整理整頓を容易にしたい」など、さまざまな潜在ニーズを抱えている可能性があります。
このような顧客に対し、「多くの衣類を収納したい」という顕在ニーズを叶えるためにただ広いだけのウォークインクローゼットを提供しても、顧客の満足度を高めることはできません。この顧客の満足度を高めるためには、コレクションや金庫を置けるスペース、姿見や化粧台、豊富で使い勝手の良い収納棚など、潜在ニーズを満たす機能を備えたウォークインクローゼットをつくる必要があります。
潜在ニーズの把握無くして顧客のニーズを満たすことは、不可能と言って良いでしょう。そのため、潜在ニーズは真のニーズとも呼ばれます。顧客が気づいていない、あるいは言語化できていないニーズを見出し、それに応える製品やサービスを提供することが、ビジネスの成功につながる重要な要素となります。
インタビュー
インタビューを実施すれば、顧客から潜在ニーズを聞き出せます。ただし、漫然と質問を重ねるだけでは顕在ニーズしか把握できないため、質問方法を工夫したり、質問内容をしっかりと練ったりしておく必要があります。
潜在ニーズを明らかにするためにインタビューを実施する際には、商品・サービスがもたらすメリットは何かを属性・機能・情緒・価値観と段階を追って繰り返し尋ねるラダリング法などを用いることがおすすめです。また、オープンエンドな質問を活用し、顧客の本音を引き出すことも効果的です。さらに、非言語コミュニケーションにも注意を払い、顧客の表情や仕草からも情報を読み取るよう心がけましょう。
顧客分析
顧客の属性や過去の行動など、さまざまな情報をもとに顧客分析を行えば、顧客の潜在ニーズを洗い出すことができます。潜在ニーズの発見に有効とされている顧客分析の主な手法としては、以下の5つが挙げられます。
行動観察 | 複数のユーザーの行動をリアルタイムで観察して分析する。 |
行動ログ分析 | ユーザーのWeb上の行動履歴データを分析する。 |
RFM分析 | Recency(最近の購入日)・Frequency(利用頻度)・Monetary(購入金額)の3つを指標とし、顧客をランク付けする。 |
CTB分析 | Categry(カテゴリー)・Taste(テイスト)・Brand(ブランド)の3つを指標とし、購買予測を行う。 |
セグメンテーション分析 | 市場や顧客をこまかくグループ分けし、グループごとに分析を行う。 |
これらの手法を適切に組み合わせることで、より深い顧客理解が可能となり、効果的なマーケティング戦略の立案につながります。また、データの収集方法や分析ツールの選定も重要な要素となるため、自社の状況に合わせて最適な方法を選択することが大切です。
ニューロリサーチ
ニューロリサーチとは、脳波をはじめとする神経活動反応をリアルタイムで計測し、顧客の無意識下にある潜在ニーズを明らかにする調査手法です。この手法は、従来の調査方法では捉えにくい顧客の本音や感情を科学的に分析することができます。視線の動きを追うアイトラッキングやアンケートなどの他の調査手法と組み合わせることで、より一層精度の高い潜在ニーズの把握が可能となります。ニューロリサーチは、商品開発やマーケティング戦略の立案において、顧客の深層心理を理解するための有力なツールとして注目されています。
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ニーズとウォンツの違い
ニーズとウォンツは、マーケティングにおいて重要な概念ですが、しばしば混同されることがあります。これらを正確に理解し、区別することは効果的なマーケティング戦略を立てる上で不可欠です。
フィリップ・コトラーによると、ウォンツは「ニーズを満たす特定の物が欲しいと感じる欲望」と定義されています。つまり、ニーズが根本的な欲求や必要性を表すのに対し、ウォンツはその欲求を満たすための具体的な手段や対象を指します。
例えば、「家の中で運動をしたい」というのがニーズであり、「トランポリンが欲しい」というのがウォンツです。この関係性を理解すると、ニーズとウォンツは目的と手段の関係にあると言えます。
ニーズとウォンツを適切に区別することは、顧客のニーズを正確に把握し、適切な提案を行う上で極めて重要です。例えば、「肌の調子を整えたい」というニーズに対し、「スキンケアグッズを揃えたい」というウォンツがある顧客の場合、ウォンツだけに注目してしまうと、顧客の本質的なニーズを見逃してしまう可能性があります。
このような誤りを避けるためには、以下の点に注意する必要があります。
・顧客の言葉の背景にある本当のニーズを探る
・ニーズとウォンツを明確に区別する
・ニーズに基づいて幅広い解決策を提案する
ニーズとウォンツを正確に識別する能力を磨くことで、顧客満足度の高い提案が可能になり、結果としてビジネスの成功につながります。また、この区別を理解することで、新たな商品やサービスの開発のヒントを得ることもできるでしょう。
マーケターは常に顧客のニーズとウォンツの両方に注目し、バランスの取れたアプローチを心がけることが重要です。これにより、顧客の真のニーズを満たしつつ、具体的なウォンツに応える商品やサービスを提供することが可能となります。
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ニーズとシーズの違い
「シーズ」は、ニーズと対比されることが多い概念です。
シーズとは、企業が持っている技術やアイデア、強みなどを指す言葉です。企業の研究開発によって生み出された新しい技術や、長年の経験から培われたノウハウなども、シーズに含まれます。
ニーズ志向と言えば、顧客のニーズを満たすことを目的に商品・サービスをつくることを意味します。競合が多いために価格競争にさらされる恐れがあるものの、需要がある商品・サービスを提供するために利益が見込めます。また、顧客の声を直接反映できるため、市場に受け入れられやすいという利点もあります。
他方、シーズ志向と言えば、企業の技術やアイデアを活かして商品・サービスをつくることを意味します。顧客の琴線に触れられなければ売上につながらないものの、オリジナリティの高い商品・サービスを提供するために市場を独占できる可能性が高まります。さらに、革新的な技術やアイデアを基に、これまでにない新しい市場を創造できる可能性もあります。
ニーズは「顧客視点」、シーズは「企業視点」と考えると、わかりやすいでしょう。顧客が何を求めているかに着目するのがニーズ志向、企業が何を提供できるかに着目するのがシーズ志向です。
なお、マーケティングでは、ニーズとシーズを両立することが理想とされています。顧客のニーズを的確に捉えつつ、企業の持つ独自の技術やアイデアを活かすことで、競争力の高い商品・サービスを生み出すことができるからです。このバランスを取ることが、成功するマーケティング戦略の鍵となります。
まとめ
ニーズとは、顧客が抱える具体的な問題や欲求を指します。マーケティングにおいて重要な概念であり、顕在ニーズと潜在ニーズの2種類に分類されます。顕在ニーズは顧客自身が自覚している欲求であり、潜在ニーズは顧客が気づいていない、または言葉にできていない欲求を表します。
効果的なマーケティング戦略を立てるためには、これらのニーズを正確に把握し、適切に対応することが不可欠です。アンケートやインタビュー、顧客分析などの手法を用いて、顧客のニーズを深く理解することが求められます。
また、ニーズと混同されやすい概念として、ウォンツとシーズがあります。ウォンツはニーズを満たすための具体的な手段や商品を指し、シーズは企業が持つ技術やアイデアを表します。これらの違いを理解し、適切に活用することで、より効果的なマーケティング活動が可能となります。
最終的には、顧客のニーズを満たしつつ、企業のシーズを活かした商品やサービスの開発が理想的です。顧客視点と企業視点のバランスを取りながら、市場で競争優位性を築くことが、成功するマーケティングの鍵となるでしょう。